第十二話 少しだけ充実しているかもしれない俺のリアル
イレギュラーエンカウントとの死闘から二日が経った。
まずはあの戦いでの戦利品について軽く語ろう。
ハーメルンの笛吹き男は、最後に赤い魔石と縦笛という二つのドロップアイテムを残していった。
赤い魔石は、イレギュラーエンカウントだけが落とす特別なものらしく懸賞金込みで百万円もの大金で売れた。これでもイレギュラーエンカウントの魔石としては最安値で、ランクが一個上がるごとに買取金額が十倍に跳ね上がっていくというのだから、金銭感覚が狂いそうだ。
まあこれについてはイレギュラーエンカウントを倒せば絶対に手に入るものなので、今は置いておく。問題は、もう一つの戦利品の方だった。
イレギュラーエンカウントは、極まれに自分に由来した魔道具を残していく。
シンデレラのガラスの靴、浦島太郎の玉手箱、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家……。
それは自らを倒した者を認めた証とも言われており、その効力は控えめに言って、破格。
この縦笛……【ハーメルンの笛】も、ギルドで鑑定してもらったところ、イレギュラーエンカウントの名に恥じぬ性能を秘めていた。
その能力は、空間転移。ダンジョン内に限るが一度行った階層への転移を可能にするというものであった。
空間転移の魔道具は大半が一度きりの使い捨て、その上深い階層でなければドロップしないとあって、プロの冒険者たちに非常に高値で取引されている。
その空間転移がいくらでも使い放題な魔道具など国内でも数例しか発見されていない。
それこそ、殺してでも奪い取る、となってもなんらおかしくない代物だった。
ただし、これがイレギュラーエンカウントからのドロップでなければ、だが。
イレギュラーエンカウントからのドロップは、それを倒したものでしか使うことができない。
この事実が、俺の首を皮一枚でつないでくれた。
もしこれが誰にでも使える代物だったら、俺は即手放していただろう。
今はまだFランク迷宮しか攻略していないため実感が薄いが、これからも冒険者を続けていくならその恩恵を思い知ることになるに違いない。なぜなら、高ランク迷宮は数十階という階層で構築されているのだから。
なお、ハーメルンの笛を見せびらかして要らん恨みを買いたくなかった俺は、この笛をカード化してもらうことにした。
ギルドでは、物品のカード化というサービスを行っており、有料ではあるが個人では持ち運びできないような大量の物資も一枚のカードに収めてくれる。
一度カード化した物は何度でも出し入れすることができ、また持ち主以外が取り出すこともできない。
これを利用して迷宮の遠征物資の運搬にも活用される他、貴重品の保管にも用いられていた。
俺はこのカード化を利用してどうしても目立つハーメルンの笛を隠そうと考えたのだ。
誤算だったのは、その費用できっかり百万円掛かってしまったこと。
ハーメルンの笛吹き男の魔石が百万円で売れ、その笛のカード化がこれまた百万円。……何者かの意思を感じたのは俺の気のせいだろうか。
また、イレギュラーエンカウントを討伐したことで、俺の冒険者ライセンスには実績がつくことになった。
一度でもイレギュラーエンカウントの討伐に成功したものには、ギルドからイレギュラーエンカウント発生と思わしき迷宮の調査及び討伐の依頼が来るようになる。
討伐依頼では、実際にイレギュラーエンカウントが発生しておらずとも、その迷宮の難易度に応じた報酬が結構な額で貰える上に、倒した際の賞金に関しても若干割り増しになる。
好き好んであんな化け物とまた戦いたいとは思わないが、ライセンスの裏側に記された討伐実績に関しては、一種の勲章のようで少しだけ誇らしかった。
こうして俺は、登録からわずか一週間でイレギュラーエンカウントの討伐という新人冒険者として割と華々しいスタートを切ったのだった。
一方、学校での俺自身は、というと……。
朝。教室の扉を開けると、一瞬だけ視線が集まったのを感じた。しかしそれも本当に一瞬のことで、すぐに視線は散っていく。
「おはよう」
挨拶に対する返事も特になく、目が合った四、五人だけが挨拶を返してくれる。
そんな、いつも通りの光景に思わず苦笑した。
冒険者になって死ぬような思いをしたというのに、結局はコレか。
だが、不思議と落胆はあまりない。
それは、所詮こんなものだという諦観の思いからなのか、あるいはまだまだチャンスはあるからなのか……自分でもよくわからなかった。
自分の席へと向かっていると、南山たちがバカ騒ぎしている声が耳に入ってきた。
リア充集団が陣取っているクラスの中心部の席には、南山と小野、それを取り巻く一軍半たちの姿がある。
四之宮さんと牛倉さんは……まだ登校していないようだ。高橋は、野球部の朝練に出ているのだろう。強豪校の一年エースとしてプレッシャーに耐え、相応の努力をしている高橋には、素直に頭が下がる思いだ。
以前は、高橋のような活躍をしている人間を見ても「才能があって羨ましいな」としか思わなかったのだが、最近はその見方が少しずつ変わってきたように思う。
そして南山たちはというと、どうやら昨日潜ってきた迷宮の話をしているようだった。
「え~、小野もう迷宮を二個も踏破したのか? はや~!」
「まだ冒険者になって二週間も経ってないんでしょ? すご~い!」
「いやいや、僕なんて大して活躍してへんねん。ほとんど南山くんの手伝いみたいなもんや。なあ?」
「ハハハ、そんなことねぇって。小野のおかげですげぇ迷宮が楽になったよ」
昨日も迷宮へと潜り、二つ目の迷宮を踏破したという小野と南山に対し感嘆の声を上げる取り巻きたち。
それに謙遜して南山を持ち上げる小野と、そんな小野を褒める南山。
一見するといつも通り和気藹々とした雰囲気の彼らだが、この日は俺の目には少し違って見えた。
取り巻きたちの歓声は、どこか軽く、寒々しい。まるでSNSで機械的に「いいね!」を押す時のように義務的なモノを感じる。
小野を褒める南山の言葉も、一見彼を誉めるようで実は微かに見下している。それに対する小野も、どこか笑みが硬いように見えた。
空虚な誉め言葉だけが飛び交う、歯車のズレた空間。
冒険者になる前は、あんなにキラキラして見えていたのに、今日の俺の目にはどこか色あせて見えた。
それを不思議に思いつつ、自分の席へと向かうと、何やら東西コンビが雑誌を見ながら口論をしていた。
「……おはよう。朝から何騒いでるんだ?」
「おお、マロ! おはよう。これだよ、これ」
そう言って東田が見せてきたのは、雑誌の特集であった。ページの見出しには、デカデカと「人気女の子モンスタートップ100!」と書かれている。
上位には、サキュバスやエルフといった見目麗しい女の子モンスターたちの名が連なり、彼女たちが肌も露わな格好で写っている写真が載せられていた。
……朝からなんつー雑誌を見てやがるんだ、コイツらは。周りの女子たちから引いた目で見られるわけだよ。
「で、一体何を揉めてるわけ?」
「いやぁ、俺が『やっぱエルフで清楚なお姉さんが一番だよな~。二位なんて納得いかない』って言ったらさ、西田の奴が『ロリサキュバス一択に決まってんだろ常考。現にランキング一位なのがそれを証明している。ハイ論破』なんて言いやがるからさぁ。……今時常考も論破も死語だろって」
「シュタイン〇ゲートの再放送を見たらまた古いネットスラングが使いたくなった。反省はしていない。……まあそれはおいといて。無乳ロリからロリ巨乳までありとあらゆる年齢、体型に、マスターの好みに合わせて変身できるサキュバスが最適解ってのは昔から言われてんだよなぁ」
「そうは言っても、サキュバスはみんな肉食系じゃん。俺は清楚で、でも俺にだけはちょっとエッチなことも許してくれる優しいお姉さんが好みなわけよ。それに何より、エルフ耳って良くない?」
「エルフ耳の良さは認める。ロリエルフ自体は俺も大好物だ。だが、ロリビッチに迫られるというシチュエーションに勝るものはないわけで。……そんで? マロはどれを選ぶよ?」
「ん~? そうだなぁ……」
西田の問いに、俺はランキングをざっと眺めた。ずらりと並ぶ女の子モンスターの中に、座敷童の名はない。
そのことに内心苦笑しつつ、答えた。
「俺は、座敷童かな」
俺の答えに意外そうな顔をする二人。
「座敷童? そんなんランキングに載ってたっけ? ……載ってなくね?」
「てっきりマロはハトホルとかを選ぶと思ってたけどなぁ。マロの大好きな爆乳牛娘だし。……でもまあ、マロもようやくロリの良さがわかってきたというわけか!」
同好の士を見つけた! と目を輝かせる西田に、手を振って否定する。
「そんなんじゃねぇって。なんかホラ……ツキを運んできてくれそうだろ?」
「え~、幸運の女神なら他にもフォルトゥーナとか吉祥天とかいるじゃん」
東田の指摘に、俺は確かにと頷きつつ。
「まあでも今の俺には座敷童くらいがちょうど良いかなって」
「ふぅん?」
と東田は不思議そうに首を傾け、言った。
「なんか……マロ少し変わった?」
東田の言葉に、西田も頷く。
「確かに。なんか地に足がついたというか、ちょっと大人っぽくなった気がする」
「そうか?」
二人の言葉に、顎を撫でてみるが自分ではよくわからなかった。
朝鏡を見た時は特にいつもと変わりなかったが……。
「いや、顔の話じゃねぇよ。態度とか雰囲気の話」
「マロの顔はいつも通りTHE普通だから安心しろ」
「コ、コイツら……」
俺が拳をプルプルさせていると、東野がじろりと俺を睨んだ。
「マロ、お前まさか……」
「な、なんだよ?」
「前言ってたバイト先の女の子と良い感じになってきたんじゃねぇだろうな?」
何っ!? と目を見開く西田。
「ま、まままま、まさか……彼女が……?」
そんな二人に、俺はフッとドヤ顔で笑った。
「ま、そんなところかな」
嘘は言っていない。前に言っていたバイト先の子とは蓮華たちのことだし、一気に距離が縮まったのは本当だからだ。
が、俺がそう言った瞬間、二人は安堵したように背もたれに身を預けた。
「な~んだ、俺たちの勘違いか」
「杞憂だったな。まあマロにそう簡単に彼女できるわけねーか」
な、なぜバレたし……。
「だってマロなら本当に彼女できたら絶対俺らにはひた隠すだろうしな」
「そうそう、本当は何にもない時ほど見栄を張る。マロってそういう奴」
「ぐう……」
さすがに……俺という人間をよく理解してやがる。
とその時。
「あ、四之宮さんたちだ」
西田が扉の方を見て言った。
そちらを見ると、四之宮さんと牛倉さんが並んで登校してくるところだった。
俺の時とは違い、クラス中の人たちが率先して挨拶をしている。
それは義務的なものではなく、クラスメイトたちは笑みを浮かべ、自然とそうなっているのがわかった。
俺たちの傍を四之宮さんたちが通る。
「おはよう四之宮さん、牛倉さん」「おはよー」「お、おはよう」
「うん、おはよー」「おはよう」
俺たちの挨拶にも、四之宮さんたちはちゃんと挨拶を返してくれた。
牛倉さんに至っては、笑顔つきだ。
こういう分け隔て無いところも、彼女たちの人気の理由の一つだ。相手によって態度を変える南山辺りとは、そこが違う。
これで今日も一日元気が出る、とほっこりしていると、通り過ぎかけた四之宮さんが不意に足を止めた。
なんだろう? と思っていると、彼女は俺の耳元に顔を寄せ。
「ね、ちょっとは目標とやらに近づいてきたの?」
そう、囁いてきた。
「え!? あ、ああ……うん。割と順調、かな」
「そ……」
四之宮さんは小さく微笑み、去っていく。
それを見た牛倉さんは不思議そうに首を傾げつつ、彼女の後をついていった。
俺がぽかんとしていると……。
「おい、マロ! 今のはなんだよ!?」
「なに!? 今の意味深はやり取りは!」
「い、いや俺も何が何だか……」
詰め寄ってくる東西コンビをあしらいながら、四之宮さんたちの方に視線を向ける。
四之宮さんたちの加わったカーストトップグループは、先ほどとは打って変わって取り巻きたちも楽しそうで、輝いて見えた。
「おら、吐け!」
「抜け駆けなんて許さねーぞ、おら!」
「だからなんもねーって!」
そんな風に、身内だけで盛り上がりながら学校での時間は過ぎていった。
そして放課後。自宅から四駅ほど離れたFランク迷宮、その最下層にて。
俺は、迷宮主が召喚した複数のモンスターたちと交戦していた。
敵は、アルミラージという兎型のモンスター。体つきは、通常の兎よりも一回り大きい程度だが、その額には六十センチもの巨大な赤黒い角が生えていた。
角にさえ目を瞑れば、ピーターラビットのような愛らしい兎さんなのだが、その鋭い角による突進は木々に風穴を開けるほどの威力があり、コイツらが歴とした猛獣であることを物語っていた。
主の眷属召喚の力により、次から次へと現れるアルミラージの群れは、すでに十を超えている。
十体ものアルミラージによる絶え間ない波状攻撃に対し、グーラー……イライザは、見事に鉄壁の守りを見せていた。
飛び掛るアルミラージを剛腕でたたき伏せ、死角からの奇襲を左腕を犠牲に防ぐ。そのまま腕に突き刺さった敵に食らいつくと、その傷を癒しつつ、用済みとなったソレを飛び掛ってきたアルミラージへとぶつけて攻撃を妨害。攻撃、防御、回復、妨害と流れるように行動を行う。
その臨機応変な対応は、俺の事前にインプットした命令だけではできないもので、彼女に自分で判断するだけの自我が育ちつつあることを意味していた。
……ハーメルンの笛吹き男との死闘をきっかけに、彼女の心は急速に育ちつつあった。
未だ行動の基盤は俺が与えた無数の命令を元としているものの、与えた命令だけでは対処しきれない場合に自分で行動を微調整することが可能となっている。
自分の意見を主張する、といったことはまだできないようだったが、いつか彼女も好きなお菓子を要求してきたりする日が来るのかもしれない。
それが楽しみであった。
そんな風に感慨深くイライザの奮闘を後ろから見ていた俺であったが、倒すよりも早く増え続けるアルミラージの群れに対し、ついに彼女の守りを抜けて俺へと攻撃をしてくるモノが現れ始めた。
俺もスタンロッドを片手に、催涙スプレーを巻いてアルミラージに対処するも、Fランクモンスター相手とはいえ、やはりただの人間の身で立ち向かうのには限界があった。
「……ッ!」
催涙スプレーから免れ、スタンロッドを躱したアルミラージの一匹が、一瞬の隙をつき鋭い角を突き立てんと飛び掛ってくる。
俺が少しでもカードたちへのダメージのフィードバックを減らそうと、足元に置いてあったリュックサックを盾にした──その時。
「グルルッ!」
疾風のごとく駆けつけてきた淡緑色の影が、アルミラージへと喰らい付いた。
「ユウキ!」
その正体を悟った俺は、喜びと共に彼女の名を呼んだ。
無尽蔵に眷属を呼び続ける迷宮の主……それを索敵に行っていたクーシーのユウキが、戻ってきたのだ。
「遅くなって申し訳ありません、マスター。主を発見しました!」
「でかした! まずはイライザといっしょにアルミラージたちを倒してくれ!」
「はい!」
ユウキがアルミラージの群れへと突撃する。
こちらへのガードをせずに済み攻撃に専念できるようになったイライザと合わせて二倍以上となった殲滅力で次々と敵を倒していく。
瞬く間に敵の群れを片付けたユウキがこちらへと振り返る。
その威風堂々とした姿には、かつての臆病だったクーシーの姿はない。
【種族】クーシー(ユウキ)
【戦闘力】160(10UP!)
【先天技能】
・妖精の番犬
・集団行動
【後天技能】
・忠誠:仕えるべき主を見出した証。忠誠心に応じてステータスの向上。
・小さな勇者:詳細不明。
・本能の覚醒:野生の本能を解放する。理性と引き換えに身体能力を向上させ、同時に精神異常への耐性を下げる。
ハーメルン戦を経て、彼女は従順スキルを忠誠スキルに、臆病を小さな勇者へと昇華させ、新たに本能の覚醒というスキルを手に入れた。
これにより、臆病で戦うこともできなかった子犬から、忠誠と勇敢さを兼ね揃えた立派な猟犬へと彼女は変わった。
ただ、彼女が得た新しいスキルのうち、小さな勇者に関してはいまいちよくわからなかった。
どうも、一部の特殊なスキルを無効化したり、自分や仲間のスキルの効果を向上させたりする効果があるらしいのだが、効果が発動したりしなかったりと不安定で、よくわからないというのが正直なところのようだ。
ある日突然消え失せていた……なんて報告も有り、謎と浪漫に満ちたスキルとしてその筋では有名なスキルらしい。
ハーメルンの笛の特殊効果を無効化したのも、おそらくこのスキルによるものだろう。
奴の反応からしても、このスキルにはまだまだ秘密がありそうだと俺は睨んでいた。
「ユウキ、主はどうだった?」
「はい、マスター。主は角を持った
Eランクモンスターで角を持った栗鼠となると……ラタトクスか。北欧神話の世界樹ユグドラシルに住むとされる栗鼠で、フレースヴェルグとニーズヘッグのメッセンジャーとなり、二匹の不仲を煽り立てているという性悪リスだ。
戦闘力はさほど高くはないが、状態異常系のスキルを持ち、自身の群れの若干の強化をしてくる厭らしいモンスターではある。すでに数十匹のアルミラージたちが召喚されているというのも厄介なところだった。
となると……。
「よし、ご苦労だったユウキ。戻ってくれ」
「ご健闘を」
ユウキから主の場所を聞き出してからカードに戻し、我がパーティーの切り札を呼び出す。
「来い──蓮華!」
カードが光を放つ……が。
「あれ……?」
キョロキョロと周囲を見渡す。
確かに召喚したはずなのに座敷童……蓮華の姿が現れない。
もしかして、壊れた? と思って慌ててカードを確認したその時。
「わっ!!!!!」
「うおおおお!?」
突然目の前に逆さまで現れた蓮華に、俺はみっともなく尻餅をついてしまった。
「キャハハハハハ!」
そんな俺を見て笑う蓮華……もといクソガキ。
コ、コイツ……最近はハーメルン戦でちょっとは協力的になったと思ったら。
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら手を差し出してきた蓮華の手を取って立ち上がり、軽く睨む。
「反抗期は終わったんじゃなかったのか?」
「ヘッ、そんなこと言った覚えはねーなぁ。それに今日に関してはお菓子を渡さなかったお前の方が悪いんだぜ?」
なんのことだ? と首を傾げると、蓮華はにやりとニヤリと笑い。
「トリック・オア・トリート! いたずらされたくなきゃ、お菓子をよこしな!」
ああ、なるほど……。
俺は苦笑した。確かに、今日に限ってはコイツが正しい。
だが……。
「だが今はダメだ。主がどんどん眷属を召喚しやがるからな。おやつは主を倒してからだ」
「しょうがねぇなぁ。……その分奮発しろよ?」
「ああ」
あっさりと了承した蓮華に微笑みつつ俺は頷いた。
本当に……コイツも変わったもんだ。
出会ったばかりのコイツならば「アタシには関係ねーな」と断っていたことだろう。
だが、今はごく自然に戦闘に協力してくれている。
……もっとも、他の冒険者から見れば、それはカードとして当たり前のことなのだろう。
だが、俺たちにとっては大きな進歩だった。
その変化は、彼女のステータスにも表れている。
【種族】座敷童(蓮華)
【戦闘力】270(20UP!)
【先天技能】
・禍福は糾える縄の如し
・かくれんぼ
・初等回復魔法
【後天技能】
・零落せし存在
・閉じられた心→自由奔放(CHANGE!):何にも囚われないありのままの心。自由行動へのプラス補正、精神異常への耐性、一部の拘束スキルの無効化。
・初等攻撃魔法
人間に対する不信感により閉じられていた心は開かれ、彼女は生来の自由奔放な心を取り戻した。もはや、彼女の中にマスターへの隔意はない。
……いささか、自由奔放過ぎるのは困りものだったが。
戦闘には協力的になってはくれたが、その悪戯好きな性格はそのままだった。
ただ、それが不思議と不愉快ではないのは、俺も彼女たち同様変わったということなのだろう。
「さ、行くぞ! 走れ、ウタマロ号!」
「コ、コイツ……」
蓮華が意気揚々と宣言し、ふわりと俺の肩に跨る。
マスターを足代わりにするとは……こんな不敬なカードはコイツくらいだろう。
そう呆れるが、羽のように軽いのと、首筋に感じる温かで柔らかな感触が思いのほかよかったので、大目に見てやることにした。
「途中で落っこちんなよ、クソガキ」
「ヘッ、そんなヘマするかよ」
軽口を叩きあう俺たちを、イライザが心なしか柔らかな表情で見守る中、俺は軽快に走り出した。
俺のスクールカーストに変化はない。いまだ、モブのままだ。それでも……。
俺のリアルは今、少しだけ充実している──のかもしれない。