友達も垢抜けた派手目の娘が多く、うちのクラスのギャル系女子のトップでもあった。
普段はまとめてリア充グループと言われる高橋らだが、彼らの多くは他に友人グループを持っておりそのトップを務めている。例えば高橋は野球部系グループを、牛倉さんは吹奏楽部の大人しめの女の子グループをそれぞれ持っている。
親友で幼馴染らしい四之宮さんと牛倉さんだが、女子としてのグループは完全に別なのだ。
そんなギャル系派閥のトップである四之宮さんに、俺のような陰キャ系モブは若干の苦手意識を感じていた。
理由はいろいろと上げられるが、あえて一言で言うなら「童貞だから」と言ったところか。
俺が蛇に睨まれた蛙のように身を硬直させていると、四之宮さんは微笑みを浮かべ隣のベッドを指さした。
その笑みは思いのほかあどけないもので、俺は不覚にも一瞬見惚れてしまった。
「体調悪いんでしょ、休みなよ」
「あ、うん。ありがとう」
おずおずと隣のベッドへと入り、体を横にする。
それからしばし無言の時間が流れた。俺は隣に天敵であるギャルがいることで寝付くことができず、かといって何かを話しかけるわけでもなく、悶々とした時間を過ごしていた。
「………………」
コッチコッチと時計の音だけが妙に部屋に響く。
なんか……情けねぇな。ふと思った。
四之宮さんみたいな可愛い娘ともビビらずに話せるよう冒険者を目指したというのに、今もこうして意味もなく苦手意識を持っている。
結局、俺は根っからのモブってことなのだろうか……。冒険者なんて肩書を得たってリア充になんて到底──。
「……ねぇ」
「ひゃい!?」
無言でスマホを弄っていたはずの四之宮さんに急に話しかけられ、物思いにふけっていた俺は思わず変な声を出してしまった。
それに彼女はプッと噴き出して。
「なにそれ、ウケる。えーと、名前たしかマロだっけ? 変わった名前だよね」
「あ、いや、それはアダ名。本名、北川歌麿だから」
アタフタとしながらなんとか答える。
「あ、そうなんだ。でも本名も変わってんね。つか、きたがわうたまろってどっかで聞いたことあるかも」
「……一応クラスメイトだしね、一回は聞いたことあるでしょ。まあ四之宮さんが言ってるのは江戸時代の絵師の
「あー、それだそれだ。もしかしてそれが名前の由来?」
「良く言われるけど、違う。母親が
「アハハハ、それウケる!」
会話を続けるうち、俺は徐々に自分の肩の力が抜けていくのを感じた。
ケラケラと笑う四之宮さんには、いつもクラスで感じる『違う生き物』を見る感じが無く、すごく話しやすかった。
「でもマロって言いやすくていいね。ウチもマロって呼んでいい?」
「え、う、うん」
「ありがと。でさ、マロっちってもしかしてバイトでもしてんの?」
「え?」
思わぬ質問に一瞬呆気にとられた。
「あー、一応」
「やっぱり! ウチがよく行くスーパーでよく見かけた気がするからさ。なんか見覚えあるなーと思って」
「へ、へぇ、そうだったんだ」
マジかよ、全然知らなかった。バイト中は仕事でいっぱいいっぱいで周りなんて全然目に入ってなかったからな。
「なんか汗だくになって働いてるから声もかけ辛くてさ。いつも大変そうだなーって思ってたんだよね。週どれくらい働いてんの? 行くといつも見るけど」
「あー、スーパーは週五日かな。土日は、他のバイトもしてるから」
「ヤバ! 毎日じゃん。そりゃ眩暈もするよ。そんなに働いてなんか欲しいものあるの?」
「それは……」
最初は、東野たちと同じように誤魔化そうかとも思った。だが、四之宮さんのキラキラとした瞳を見た時、俺の口を出てきたのは全く違う言葉だった。
「ちょっと目標があってさ。その投資のためかな」
「……目標?」
「ああ」
俺は寝返りをうつとぼんやりと天井を見つめた。
……これまでの人生で、俺がクラスの中心に立ったことなんて一度もなかった。小学校も、中学校も、クラスの人気者たちがワイワイと騒ぐのを教室の端の方で眺めて生きてきた。
それに不満を思ったことは、実は……ほとんどない。人には持って生まれた性質があり、自分は人々の中心に立つ人物じゃあないと子供のころから悟っていたからだ。
だから南山がリア充グループの仲間入りをしたのを見た時は、本当に衝撃を受けた。
アイツは間違いなくモブキャラだった。顔も良くない、勉強も振るわない、運動神経もない、話だってそんな面白いわけじゃないし、性格も実は悪い。
それが冒険者になった途端リア充グループの仲間入りをした。
正直、すごいと思った。
それを見て東野たちは南山に嫌悪感と怒りを覚えたようだったが、俺は逆に尊敬を覚えた。
怒りはもちろん感じたが、一方で持って生まれたモブキャラという性を打ち破ったアイツに、敬意を抱いたのだ。
それで、気づかされた。
モブキャラであったことに不満はない。だが、リア充に対する憧れはあったのだと。
だから、挑戦してみることにした。
自分が変われるかどうかを、人生で初めて限界まで頑張ってみて、試してみようと思ったのだ。
その試みはまだ途中だ。
そんなことを考えていると、瞼がどんどん重くなっていった。
なんとか堪えようとするが、どうにも耐えられそうにない。先ほどからフッフッと意識が点滅している。
四之宮さんがなにかを言っていたが、俺はそれに反応することもできず深い眠りへと落ちていった。
────なんかそういうのってカッコイイね。
夢の中で四之宮さんがそう言ってくれたような、そんな気がした。