……いけない。レオンと仲良くなるつもりだったのに、なぜか言い争いに……。

でも、レオンのクラスメートの男の子は、わたしたちがどう見えたのか、「やっぱり仲良しだ」と言って微笑んでいた。

そうだ。

わたしがレオンのもとに来たのは、フィルとセレナさんのことを話し合うためだった。

ただ、ここじゃ、レオンの言うとおり、目立ちすぎてしまう。

わたしはレオンを廊下に連れ出し、レオンも素直に従った。

窓から夕日の射す廊下で、わたしとレオンは向き合う。

はあ、とレオンはため息をついた。

「あまり目立つようなことをしないでください」

「目立つようなことって……わたしがしたのは、レオンの教室に来ただけじゃない?」

「それが目立っていたんじゃないですか。お嬢様は王太子殿下の婚約者なんですから。使用人の男のもとに何度も足を運んだりしたら、噂になるじゃないですか」

「噂って、どんな?」

わたしが何も考えずに尋ねると、レオンはぎょっとした顔をして、そして顔を赤らめた。

あ……しまった。

そういうことか。

「つまりですね……お嬢様が俺と浮気しているとかそういう噂ですよ」

レオンは律儀に、口に出して説明してくれた。耳まで真っ赤だ。

そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。

わたしはくすっと笑った。

「べつに、わたしはそんな噂を流されても平気だけど」

「平気じゃないでしょう。仮にも公爵令嬢としての体面が……」

「レオンは嫌?」

わたしはからかうように尋ねてみる。

レオンのことだから、「お嬢様みたいないい加減な人と噂になるなんて嫌ですね!」ぐらいの嫌みを言うに違いないと思う。

けれど、レオンは意外にも、そんなことは言わなかった。

代わりに、うつむいて視線をそらし、それからぼそっと言う。

「べつに嫌ではないです」

「へえ、ホントに?」

「何をにやにやしているんですか?」

レオンに青い目で睨まれるけど、思わずにやにやしてしまう。

思ったより、わたし、レオンに嫌われていないのかも。以前はもっとレオンは生意気で、わたしに楯突いていたけど、最近はそういうこともない。

レオンはむうっと頬を膨らませる。

「べつに俺はお嬢様のことが嫌いなわけじゃありません。それに……」

「それに?」

「フィル様のために必死で頑張るお嬢様は……ちょっといいなって思いますし」

あれ?

予想外に、直球で褒められてわたしは戸惑った。レオンをからかうつもりが……わたしが赤面してしまう。

ええと……。

わたしはなんて答えればいいか迷い……。

結局、話題を変えて逃げることにした。レオンもそれに乗った。

「あのね、フィルのことなんだけど」

「はい」

「セレナさんなら、わたしたちが焚き付ければすぐにでも、フィルの友達になってくれそうだけど……」

手っ取り早く、フィルの孤立問題を解決するなら、わたしたちが積極的に動くのが一番だ。

そう思って提案したのだけれど、レオンは首を横に振った。

「それはダメです、お嬢様」

「どうして? ちょっとグイグイ行き過ぎたかもしれないけど……セレナさんにわたし嫌われちゃったかな?」

おそるおそるレオンに尋ねてみる。

わたしが気づかないところで、そんなことになっていたら、それは困る。前回の人生だって、周囲の状況に気が付かないまま、わたしは破滅していったわけで、そういうことがあってもおかしくない。

でも、レオンはそういうわけではないと言ってくれた。

「あまりお嬢様が手を出しすぎないほうが良いと思うのは、もっと別の理由です」

「別の理由?」

「これはお嬢様の問題ではなくて、フィル様の問題ですから」

レオンは真摯しんしな目でわたしを見つめていた。

わたしははっとした。

そうだ……。

フィルのために頑張らなきゃ! と思うあまり、忘れていたけど、これはもともとフィルが解決すべき問題なんだ。

「ここで、お嬢様がすべてをおぜん立てして、フィル様とセレナさんが仲良くなったとして……それに意味があるんでしょうか?」

「そうね。レオンの言うとおりだと思う」

わたしはうなずいた。セレナさんの気持ちはわかった。セレナさんに、素直にフィルと仲良くなってもらえるようにも促した。

あとはフィル自身の力で……セレナさんと仲良くなってこそ、意味がある。

「わたしが……いつまでもフィルのそばにいられるとは限らないんだものね」

「フィル様は……未来のリアレス公爵ですから」

「公爵にふさわしい人に……レオンの主人にふさわしい人になってもらわないといけないものね。ううん、フィルならきっとなれる」

「はい」

わたしは……ずっとフィルのそばにはいられないかもしれない。

でも、レオンはリアレス公爵家を主家とする男爵家の跡取りだ。

これからもフィルを支えてくれるだろう。

レオンはわたしの言葉に優しく微笑んでくれた。

わたしもレオンに微笑み返す。

「レオンって……わたしが思ってたよりずっと大人ね」

わたしが感心して言うと、レオンがくすっと笑う。

「それはもちろん、お嬢様よりはずっと大人ですよ」

「また、そうやって生意気を言う……」

そういうことを言わなければ可愛いんだけれど。だいたい中身はわたしのほうが遥かに年上なのに。

でも、今はレオンのことを許してあげよう。

「ちょっとレオンのこと見直しちゃった」

「そ、そうですか?」

「ええ」

わたしが言うと、レオンはちょっと気恥ずかしそうにした。

さて、フィルに、セレナさんのことをそれとなく教えてあげよう。

そして、フィル自身が行動して、セレナさんと仲良くなってもらうんだ。

わたしは、仲間のレオンと一緒にフィルの教室へと向かった。