Epilogue


 夜の海岸線を、港を目指して二人で歩く。暗くなった海に、瞬き始めた星明りが、ささやかな夜想曲を添えていた。

 気絶したパトリツィアは、一応軽く手当だけして置いてきた。約束をにする形になるが、流石さすがに国外まで付き合えというのはちやだろう。

「別に、彼女なら付いて来てくれたとは思うわよ。本当にいいの? 両手に花だったのを置き去りにして」

「さり気なく自分を花に数えるな。子どものお守は一人で充分だ」

「また減らず口」

 唇をとがらせるクロニカは、けれど、どこから浮かれたように口角が上がっていた。

「なんだよ、そのにやけ面、アホみたいだぞ」

 たずねると同時、思いっきりすねを蹴られた。

うれしかったの。あの時、あなたが騎士団と〈王〉を倒すって、本気で言ってくれたから」

「今更だが……ホントにどうやったら倒せるのか、見当もつかねえけどな」

「でも、最後まで付き合ってくれるんでしょう?」

 うなずくと、小さな指先が、こうこうともる港湾のあかりを指して微笑した。

「ありがとう、ライナス」

 俺と少女は、これから海を渡る。騎士団の追手は、きっとその先にもやって来るだろう。

〈王〉を倒す。そして、クロニカを解放する。

 その手段も、公算も、今の俺には、何一つとして見当すらついていない。

 そしてまだ見ぬ外国が、ここより優しい世界である保証はどこにもない。

 けれど少女と一緒なら、きっと大丈夫だと根拠なく思うぐらいはできた。

 だから今は、それでいい。それだけで、いい。

「ねえ、いつか雪も見てみたいの。海の向こうには、降ると思う?」

「さあな。けど今は──」

 ふと立ち止まり、帽子を押さえて、頭上の夜空を見上げる。

 つられて、視線を上にしたクロニカの手をそっと握り、俺は言った。

「星が、きれいだな」

「……そうね」