お祭りの風景


 いよいよ冬至祭の日がやってきた。

 ザンザスの街並みははなやかで陽気なふんに包まれている。

 街の通りはどこも観光客でごった返していた。さらには音楽も鳴りひびいている。

 たい、笛、シンバル……通りにはカラフルな布がかざられていた。

 出店も観光客に向けて特産品を呼ばわっている。

 コカトリスグッズの店では、コカトリスの着ぐるみが可愛かわいらしい動きで観光客を集めている。

 店に並んでいるのはコカトリスのぬいぐるみ、コップ、タオル──ぴよぼう

「さぁ、よってらっしゃい! 限定コカトリスグッズだよ! らしいぴよ帽子はいかがかな?」

 また他の店ではえいゆうステラのグッズをはんばいしていた。

「英雄ステラの名言マント、取りそろえているよ! 売り切れ前に買っておいで!」

 それ以外には飲食もじゆうじつしている。

 中心になっているのは、ヒールベリーの村から仕入れた様々な農作物だ。

「他では食べられない、しんせんな野菜や果物はいかがかなー?」

 そのまま切っただけの野菜や果物、それにジュースや焼き物。

 こうばしいにおいが通りを歩く人々をゆうわくする。

 これほどのごそうは国中をわたしてもめったにない。

ぼうけんしやギルドの見学はこっちでござる~」

 えいも着ぐるみの中に入り、観光客にアナウンスしていた。

 かたの力をいて、ぽよぽよとコカトリスらしく……。

 紫影の前に現れたのはレイアとナナであった。

がんっているじゃないか」

「着ぐるみは順調なようだね」

 ちなみに今のレイアの頭の上にはぴよ帽子がない。

 代わりに古風な黒の冒険者服に身を包んでいた。

「今日は正装でござるな」

「色々とあいさつがありますからね。ふぅ、頭の上が落ち着かない……」

 レイアが少し口をとがらせる。

「着ぐるみを着れば?」

「中々、なつとくできるモノができなくて……」

「この着ぐるみで十分な気がするでござるが……」

「それは観光用だからね」

「ヴァンパイアの着ぐるみはそんなにちがうのでござるか?」

 紫影の疑問に、ナナが胸を張って答える。

たいすい、耐火、たいしようげき、耐りよくは当然だよ。温度調整もばっちりだし」

「実にうらやましい……」

 レイアが本当にものしそうな顔をしていた。

「手が空いたら、作ってもいいよ」

「本当ですか!?

「色々と資料も見せてもらったし」

 ナナが羽をふにっとすると、レイアが羽をにぎった。

「ありがとうございます……!」

 どうやら着ぐるみ作りが決まったらしい。

「むっ、そろそろがこちらに来るでござる」

 三人が通りのおくに視線を向ける。せいだいな音楽と共に山車が運ばれてきた。

 先頭はちようきよだいでもふっとしたぴよ像だ。

 街の住人も観光客も大声でかんせいを上げる。

「ぴよだー!」

「すっごーい!」

「毎年、これが楽しみでねぇ!」

 ふもふも……整備されたぴよ山車が太陽の光を浴び、かがやきながら行進する。

 後ろからはザンザスの他の団体の山車が続く。

「うーん、いいですねぇ……」

 レイアはかんがい深そうにぴよの山車をながめていた。

「本当にごうだね……」

 ナナも思わずかんたんした。

 山車自体は中央倉庫で見ていたが、実際に街を練り歩くとまるで印象が違う。

 練り歩いている実物は素晴らしいの一言だ。

「ヒールベリーの村には行けてないでござるが、向こうも盛大なのでござろう?」

「ああ、もちろん。山車をおしたら、交代でこっちに来るだろう」

「モネットも見ていけるゆうがあればよかったのにね」

「来年は──だいじようじゃないですか?」

「だね……そうなると願っているよ」

 山車を引っ張ってくるのは着ぐるみぴよ隊である。

 もちろん、山車の周囲では他の市民や馬が動かしているのだが。

「祭りは数日続きます。頑張るぞー!」

「「おーっ!」」

 三人がこぶしを空へとばす。

 ぴよ像のつぶらなひとみが、お祭りさわぎの街を見つめていた。

 ヒールベリーの村でもお祭りが始まった。

 いや、もう数日前から観光客がたくさん来ていたのだが。

 村の入り口前の特設の小屋には、今も数十台の馬車が並んでいた。

「たくさんきてるぴよー」

「わふ。活気にあふれてるんだぞ」

「ああ、村にたくさんの人が来ているからな」

 おれはディアと子犬姿のマルコシアスをかかえながら、村を回っていた。

「にゃー! 宿の予約はこちらですにゃ! ご飯はあちらですにゃー!」

「にゃーん、看板やチラシもご参照してくださいにゃん!」

 村の入り口ではナールとブラウンがいそがしそうに観光客を取りさばいている。

 おかげで特に大きな混乱は起きていない。

「ウゴウゴー! 村で特別な食べ物はここだよー!」

 ウッドも楽しそうにアイスドラゴンのきばを作っている。

 氷を生み出しては、かき氷機を回していた。

 ララトマたちと冒険者者たちがそれにトッピングをしていく。

「はい、メロンのトッピングですー!」

「どうもありがとう! いやぁ、めずらしい食べ物だねぇ」

 初老のふうの観光客がニコニコしながらアイスドラゴンの牙が入ったカップを受け取る。

 少し寒いが、アイスドラゴンの牙は飛ぶように売れていた。

 やはり目新しさがウケているらしい。

 となりのコーナーではふわふわしんおおなべに入れられている。

「へい、こっちはお待ちですぜ!」

「うわー、真っ赤だー!」

「いい匂いだね~!」

 子ども連れの家族が、ふわふわ真紅がった皿を見つめている。

 列の後ろに鍋を引っ提げている人もいるな。持ち帰りだろうか。

 どこもはんじようしているようで、本当によかった。

「じゅるぴよ……」

「人が食べているのを見ると、食べたくなるんだぞ」

「落ち着いたらおやつで食べようか」

 なでなで。今日もディアとマルコシアスのはだざわりは気持ち良い。

 村に少し入ると出店が並んでいる。

『とってもあまい焼きいも』の看板をかかげているのは、アナリアとイスカミナの店だ。

 高等学院でも二人がやった出店らしい。こちらにも観光客が並んでいた。

「もっぐー、焼き上がりはもう少しお待ちくださいもっぐ!」

「はーい、ごめんなさいねー!」

 かなり忙しそうだが、同時に楽しそうだな。

 さらに奥へ行くと、特設のつちコーナーがある。

 ここも観光客……ローテーションでつかれをやしにきた村人が入っていた。

「お水が必要な人は言ってくださいねー」

 テテトカがじょうろを持ちながら、ぽてぽてと土風呂の間を歩いていた。

 勇気ある観光客の頭に、水をかけるつもりなのだ。

「で、でも無理はしなくて大丈夫ですわ!」

 後ろにいるのはジェシカだ。土風呂に欠かせない水の補給係──らしい。

「大切な仕事なんだぞ」

「おみずは……きっとひつようぴよね」

「まぁ、そうだな……」

 多くは語るまい。

 こわいもの見たさの観光客に、テテトカはちゆうちよなく水をかけるだろう。

 なお、ジェシカは山車といつしよに交代で向こうに行くらしい。

 着ぐるみ部隊にエントリーしたのだとか。

 村の広場では、超巨大な花飾りと氷のちようこくの山車が用意されていた。

 輝かんばかりのせんれつな花の数々。うっとりするほどほうじゆんかおり。

 中央にはき通るれいなニャフ族とコカトリスの氷の像が並んでいた。

 ウッド会心のけつさくアイススタチューだ。

 そして台車の上には、村人が作った花飾りの数々も載せられている。

 シックな黒とむらさき、ちょっと変わったかめのような花飾り……。

 村人一人一人の花飾りだ。それが像をぜつみように引き立てているのだ。

 もちろん、台車そのものもせいこうな彫刻がほどこされたいつぴんである。

 眺める観光客も目を見開き、熱心に周囲を回って見ていた。

「ぴっぴよー」(るんるんー)

「ぴよよー!」(運動するぞー!)

 山車の前にはコカトリスとアルミラージが並んでいる。

「きゅいー」(ふんふんー)

「きゅっきゅー!」(頑張るぞー!)

 この二大パワーによって、山車を動かすのだ。

「よしよし、と。固定は大丈夫ですね……!」

「ええ、問題ありません!」

 ステラとカイがなわや固定器具の最終チェックを行っていた。

 もちろんステラは時折もふるのも忘れない。

「ぴよ! どうぴよ!?

かんぺきですね……! もう動かせますよ!」

 ステラがぱたぱたと走り寄ってくる。心の底から楽しそうな顔をしているな。

「はぁ……本当に素晴らしい花飾りですね」

 ステラが俺の隣に来た。少しだけステラのほおが赤くなっている。

 ステラ案のコカトリスやニャフ族もめちゃくちゃ目立っていた。

 アルミラージにまたがったカイが手をる。

「それじゃ、動かしますよー!」

 カイが合図するとコカトリスとアルミラージがゆっくり進む。

 それによって、山車がちょっとずつ動き出す。

 太陽の光を浴びて氷の彫刻と花飾りが一層、輝きを増す。

 らめく花飾りからたまにはらりと花びらと葉が落ちる。

 それさえもな芸術であった。

「ぴよぴよ」(軽い軽いー)

「きゅっきゅー」(ごたえが、ない……!?

 ふむ、コカトリスは軽々しく運んでいるな……。

 だが重く感じるよりはいいだろう、うん。

「ぴよ! うごいたぴよー!」

「わふ、しっかり動いてるんだぞ!」

「はぁ、良かったです!」

 テスト走行はしていたが、本番はまた別だからな。しかし問題はないようだ。

 花飾りの山車が進むたび、華やかな雰囲気がさらに広がっていく。

「……エルト様」

「うん?」

 隣のステラが少しだけ俺に近寄った。

 そのまま、こてんと俺の肩に頭を寄せる。

 言葉はいらなかった。

 店に精を出すウッドも、山車が動くのを見て俺たちに手を振っている。

「……幸せです」

「俺もだ」

 心の底からそう思う。

 ねつきよう的な歓声に包まれながら、けんらん豪華な花飾りの山車がゆっくりと進んでいった。