フリーズブルームの球根
「申し訳ありません、どの程度の力で
「き、気にしないでくれ」
「アダマンタイトがへこむくらいでいいかな? と思いまして……」
色を除けば、とても大きいかぼちゃに見えるだろう。
「もぐ。この根も燃料になるのですもぐ?」
フラワーアーチャーの根には
そのため良質の
「いや、この根は……」
このフリーズブルームの球根、ゲームと同じ利用法なら……植物系の魔力を注ぎ
俺は手をかざし、ゆっくりと緑色の魔力を注ぎ込む。
「おー! 大地の魔力を感じるです!」
球根からゆっくりと白く細い根が空中へ
その根から、じんわりと冷気が出てきた。みんなの視線が細い根に注がれる。
「興味深い。まだ動くんだね」
「ああ、しかし特定の魔力でないとダメだが」
確か植物か冷気の魔力でないと、こうはならなかったはずだ。
「非常に厳しい条件ですね……」
「
実際にはフリーズブルームを見て思い出したんだが。
ゲームの中では、他にアイテムを使うことでも条件は満たせるんだがな。
しかしそうしたアイテムがこの世界にはない。
「もぐ、冷気が形になってきましたもぐ!」
俺の魔力が球根を伝わり、空中に氷の
小さな実と枝である。ステラが彫刻を手に取った。
「これは……ヒールベリーの枝と実ですか?」
「ああ、少し不格好だが……。球根の使い道はこれなんだ」
「きれいですー!」
「よくできてるもぐ!」
球根に魔力を注ぎ込むと、イメージを反映した形の氷が生まれる。
ちょっとした遊びみたいなものだが、氷の彫刻は実に美しい仕上がりになる。
「なるほど、球根の中で魔力を
ナナがふむふむと球根を
「ものすごいアイテム、というわけではないがな」
「もしかして、永久に氷が作れるのですか?」
ステラが氷のヒールベリーの枝を
「いや、それは無理だな」
「まさか、わたしのパワーのせいで……?」
「かなり形はアレになっちゃってるね」
「もぐ……」
「です……」
球根はべっこりとへこんでいる。
「うぅ、もう少し手加減をしておけば……」
「そ、そうじゃないんだ。球根自体もいずれ魔力を失い、ただの根になる」
俺は
「それなりに彫刻は作れるが、決して永久に使えるわけじゃないんだ……」
「そ、そうでしたか……」
「うーん、残念だね。研究材料として、
「まぁ、それでもちょっとの間は氷を出せるからな」
製氷の魔法具もあるが、氷を生み出すのはかなりの魔石を消費する。
必然的に氷は高価なのだ。
「
「ふぇ、また
名前からして、氷にまつわる魔法具かな?
まぁ、魔法具作りはナナのライフワークだしな、うん。
しかしそれとは別の
「
「よくエルト様が
「そうだ、植物についての魔力はイメージが大切だ」
どうしても火や風、岩といった単純なモノとは異なる。
美しい外見を再現するにはイメージ力が必要なのだ。
「よし、もう一度やってみるか……」
と、俺は再び球根に魔力を注ぎ込もうとして──。
バキィ! 球根に大きなひび割れが入った。
「あっ」
俺が声を上げると同時に、球根は真っ二つに割れてしまった。
「……割れた」
「はぅぁ……! や、やっぱりダメでしたか」
「ま、まぁ……元々、長持ちはしないモノだからな」
やはりそれほどの
「でもコレ自体は、僕の研究に使えるかも」
「ああ、そうだな。持ち帰ろう」
「うーん、でもまだ大地の魔力を感じるです」
ララトマが一歩、前に出てきた。
「もぐ。エルト様の魔力じゃないもぐ?」
「もっと、
俺たちは少しだけ後ろに下がった。
ララトマが球根の割れ目をがさごそとしている。
ナナは気になるのか、頭を左右に
「えーと、この場合は……っとです」
ララトマが
そのままララトマは笛を口に当て、演奏を始めた。
静かで──しんとした曲だ。まだ冷気
同時に球根から魔力を感じる。この魔力には覚えがあった。
「これでよし、です!」
ララトマが球根に手を
その手のひらには、
一度、フラワージェネラルの時に俺も手に入れたからわかる。
黄色い魔力の
食べることで新しい魔法やスキルを
「それは……まさかグロウストーンですか?」
「球根から魔力を取り出して……? そんなことができるんだ……」
ステラとナナが
「もぐ! たまーに鉱山から出る、あのグロウストーンもぐ?」
「ですね。ちょっと前に見たのと同じです」
ステラもフラワージェネラルのことを覚えていたようだ。
あの時はウッドに食べてもらった。
結果として、シードバレットという種を打ち出すスキルが発現したわけだ。
まぁ、今のところの使い道としては……ニャフ族や野ボールの遊び道具だが。
「ふー、うまくいきましたです!」
ララトマはぽてぽてと俺に向かって歩いてくると、グロウストーンを
直接手に
「……いいのか、もらっても?」
聞きたいことはたくさんあったが……それは後でいいか。
「ぼくたちには、必要ないのです!」
ララトマがにぱっと
「わかった、ありがたくもらおう」
「いえいえー、です!」
俺はグロウストーンを胸のポケットにしまい、周りを見渡す。
広間の魔力はかなり減少し、落ち着いてきた。
「とりあえず危険もなくなった。一度、村に
すでに広間の気温もそれなりに上がっている。
「まだ
「でも、ここから
ステラが耳をぴくぴくさせながら、広場全体を見回す。
そう、道はここで
大河の水だけは壁の奥に流れ込んでいるのだが……。
しかし河が浅すぎて、その
「とりあえず魔物もいないし、再調査だな」
「そうですね、帰りましょうか」
「賛成もぐー!」
「帰り支度ですー!」
「ぴよー!」(はーい!)
コカトリスたちも羽をぱたぱたさせる。
「あれ? ぴよちゃんが二体、向こうにいますね……」
ステラが来た道を覗き込む。
そこには目をぺかーとさせながら、地面をごそごそしているコカトリスがいた。
二十メートルほど
「本当だ。ん? あの位置でさっきも何かしてなかったか?」
「ええ……地面をがさごそしていたような」
ステラが球根を軽々と持ち上げ、俺たちは離れていた地下コカトリスのもとへ向かった。
「ぴっぴよー」(もうちょいちょいー)
「ぴよっぴよー」(ていていていー)
二体の地下コカトリスは
そこから小さいが魔力を感じる。
「むむっ……地面から魔力が
「
「もぐー! 私も参加するもぐー!」
他のコカトリスも加わり、イスカミナがシャベルを
俺も参加しようかと思ったが、あっという間に氷が削れていく。
「おお、これは──木組みか」
「前に広場で修復したものにそっくりですね」
氷の下から現れたのは、ちょっと前に地下広場で見つけた木組みだ。
素材は……同じくルビー・マホガニーだな。
手に取ってじっくりと見てみるが、前の木材と同じような感じだ。
「でもボロボロというか……破片というか」
「相当長い間、ここに氷
状態は前に見つけたものより悪いな。
俺たちが話している間にも、コカトリスとイスカミナはどんどん掘り進めていく。
「もぐ! まだたくさん出てくるもぐー!」
「ぴっぴよー!」(えいえいえいー!)
言葉通り、ざっくざくと木組みの破片が出てきた。
「こちらのほうが、状態は良さそうですね」
下のほうから掘り出した木組みはそれなりに元の形が残っている。
「しかしこの木組みがゴンドラだとしたら、どこに
前に修復したゴンドラは地上との往復用だった。
この木組みも同じだとしたら、行く先があるはずだ。
「でも上には……僕の見える
ナナが思い切り天を
「そうですね、氷を
ざくざくざく……ごつごつ。
なんだ
「もっぐ! 石組みも出てきたもぐー!」
てってれー。イスカミナが魔力を帯びた石を発見する。
ふむ、これも先日のゴンドラと同じものに見えるな。
ナナが石材を手に取り、状態を確かめる。
「状態は良さそうですね、そんなに手間を取らずに直せそうです」
「この分だと、全部ここに
「一
もし直せなくとも壊れた
そのほうがキリが良さそうだ。
「ふむ……ついでだから、直してから帰ろうか」
マルちゃんとお散歩
その
ディアたちはお昼ご飯を食べていた。
「ぴよー。サラダおいしいぴよー!」
「わっふわっふ。このキャベツがおいしいんだぞ」
ディアと子犬姿のマルコシアスがウッドお手製のサラダを食べている。
「ウゴウゴ、おかわりはまだあるよ」
「ぴよ! この……きいろいつぶがもっとたべたいぴよ!」
ディアがトウモロコシの
「たぶん、これははじめてぴよね。おいしーぴよ!」
「これはトウモロコシなんだぞ」
「トウモロコシぴよね! おぼえたぴよよ!」
ウッドが冷蔵庫からトウモロコシの粒入りボールを持ってきた。
スプーンで少量の粒をすくい、ディアのお皿に
「ウゴ、これくらい?」
じーっとディアが、ウッドがよそうトウモロコシの粒を見つめる。
「もうちょいぴよ……!」
「ウゴ、これくらい?」
ちょいちょいとウッドが小さじで粒を足す。
「ぴよ……すこしへらしてほしいぴよ。じつはおなかがはりさけそうぴよよ」
「わふ。じゃあ我が減らすんだぞ」
すすっとマルコシアスがスプーンで粒をちょっと取る。
「ありがとぴよ! ばっちりぴよ!」
「ウゴ……。むりはしないでね」
「ぴよ! だいじょーぶぴよ!」
もしゃもしゃ。ディアはお代わりのトウモロコシを食べ切った。
「ぴよー……おなかいっぱいぴよ」
「わふー。我もなんだぞ」
「ウゴ、おひるねする?」
「ぴよー……いいぴよねー……」
でろーんとディアとマルコシアスがテーブルに
「わふぅ……いいんだぞー……」
さわさわ。ディアがそばのマルコシアスのお
「わふー」
「ぴよ……。なめらか、つやつやぴよね」
「
しかしディアはマルコシアスのお腹を
「……なんだかちょっと、つまめそうぴよね」
ディアは羽でむにむにっとマルコシアスのお腹をつまむ。
マルコシアスがうとうとしながら、
「わふ……。我が主が気が付いてしまったんだぞ、世界の
「ウゴ、たべすぎ? うんどうぶそく?」
「そうとも言うんだぞ」
「ぴよ。つまり、どういうことぴよ?」
「ウゴ、このままだと……どんどんふえる、かも」
「おにくがぴよ?」
マルコシアスがそっと目をそらす。
「そういう説もあるんだぞ」
「ぴよ……」
ディアがマルコシアスのお腹をじーっと見つめる。
今までの食事量、お肉の増える量、ふわっとした知識……。
様々なことを総合して、ディアは結論を出した。
「しんじゃうぴよね……」
「そ、そこまではいかないんだぞ」
マルコシアスがごくりと
「このままだと……にねんごくらいに、やばぴよね……」
「ウゴ、ぐたいてき……」
ちょっと不安になってきたマルコシアスが首を曲げて、自分のお腹を覗き込む。
確かにちょっとたぷみは増していた。
今の運動量は足りていないのかもしれない……認めたくはなかったが。
「いいあんがあるぴよ、マルちゃん」
ディアがずいっと身を乗り出した。
「れっつ──おさんぽ、ぴよ!」
◇
晴れ晴れとした空の下をディア、マルコシアス、ウッドは歩いていた。
「ぴよ……マルちゃん?」
「ちょ、ちょっと待つんだぞ……」
三人の中でマルコシアスの歩みだけが少し
ぽにぽにと歩くディアよりも遅れている。
「ウゴ、これはうんどうぶそく……」
「がーんだぞ!」
元々、マルコシアスの身体能力は高くない。
そのうえ子犬姿になってから
「ぴよ。これはうんどーがひつようぴよね……」
さすがのマルコシアスも、自身の体力低下を認めざるを得なかった。
手を打たないと、さすがにマズい。
「母上ブートキャンプは
「ウゴ、なにそれ?」
「たぷみが一気に解消する、魔法のエクササイズなんだぞ」
マルコシアスがぶるっと身体を
「広場に行って、自主的に運動するんだぞ……!」
ぽにぽにぽに……。三人は村の北へと歩いていく。
道行く人はそれほど多くない。
「ぴよ。きょうはひとがすくないぴよね」
「ウゴ、へいじつだからね」
「でもなんにんかいるぴよ」
しかし散歩で通り過ぎる人だけで、広場に
「わふ。食後の運動の人なんだぞ」
村の広場には様々な看板がある。
『貸し切り
『野ボールをするときは、周囲をよく
『
ディアが広間でぴっぴよと動こうとしていると──向こうからナールがやってきた。
数人のニャフ族も
「にゃー、こんにちはですにゃー」
「ぴよよ、こんにちはぴよ!」
「ウゴ、こんにちは!」
「こんにちはなんだぞ。わふ、いい
マルコシアスがくむくむと匂いを
ナールたちは手に持ったコップを少し掲げた。
「わかりますにゃ? 冒険者ギルドのちょっといいお茶ですにゃ」
そう言って、ナールはコップ入りのお茶を一口飲む。
「うーん、
「ウゴ、おひるきゅうけい?」
「そうですにゃ。ここで一休みしてから、またお仕事に戻りますにゃ」
「「「にゃにゃーん」」」
ナールたちは広場のテーブル付きベンチに
ほどよい風と午後の日差しが、ナールたちの
完全なお昼寝モードであった。
「ぴよ、おやすみぴよよー」
「「おやすみにゃー……」」
ナールたちの
「じゃあ、マルちゃん。れっつ、うんどーぴよっ」
「わふー。気合い入れるんだぞ!」
気合いを入れるディアとマルコシアス。
そんな二人を見て、ウッドは少し不思議に思った。
「ウゴ、にんげんのすがたにはかわらないの? そっちのほうが、うごきやすいような」
「二足歩行は負けフラグなんだぞ」
きりっ。マルコシアスは断言した。
「ウゴ、いいきった……」
「ぴよ! よくわからないけど、イイぴよね!」
「だぞだぞー!」
ぴっぴよ、だぞだぞ。ディアとマルコシアスはぐるぐると歩き回る。
「ぴよよ! いいかんじぴよね!」
「わっふふー」
ウッドはニャフ族の近くに、よいしょっと座った。
「ウゴ、げんきいっぱい」
「ですにゃー。でも
ぐるぐるぐる。ディアとマルコシアスは動き回っている。
「ウゴ、マルちゃんがうんどうぶそくで……」
さすがにお腹の肉がたぷり始めているとは言わないウッドであった。
「にゃ……切実ですにゃー」
ナールはふにふにと
デスクワーク主体なナールにも、運動不足は切実な問題であった。
「わふぅ。目が回ってきたんだぞ」
「ぴよ! やすむぴよ!」
「わふふ。この方法の限界を感じるんだぞ。作戦
マルコシアスがウッドの足元に近寄る。
「兄上、お願いがあるんだぞ!」
「ウゴウゴ、なに?」
「綿をあの辺に発射してほしいんだぞ。追いかけるんだぞ」
「いいアイデアぴよね!」
「ウゴ、わかったー!」
ウッドが
「ウゴゴー!」
ウッドの腕からポン! と小さな綿のボールが放たれた。
曲線を
「わっふ──!」
綿のボール目指して、マルコシアスがダッシュした。
「ぴよー! マルちゃん、はやぴよ!」
「とーう、キャッチだぞ!」
マルコシアスはボールをキャッチするためにぴょーんと飛んだ。
「わふっふー!」
しかし高さが全然足りなかった。
ぽにっとマルコシアスが着地し、その頭上をボールが飛び
ボールはそのまま、マルコシアスの近くに落下した。
「ウゴ……高さが……」
「に、にゃ……ちょっとした差にゃ」
空を飛ぶボールを見て、ニャフ族の尻尾が揺れる。
しかしまだ昼寝欲のほうが強い。ボールを追いかけるまでにはならなかった。
一方、マルコシアスの目は点になっていた。
「我、飛べてないんだぞ……?」
「マルちゃーん……! だいじょうぶぴよよ!」
ディアがぽにぽにと綿のボールまでダッシュしていく。
そして羽で綿のボールを固めた。
「四本
「ぴよ! これをキャッチぴよよ!」
ディアはボールをふわっと軽く投げる。
マルコシアスの頭上よりちょっと高い程度の、
「わ、わふぅ! 次は
ぴょい! マルコシアスはその場で前脚を伸ばしながらジャンプする。
「ぐっどぴよ!」
ぽふっ!
今度はきちんと、ボールをキャッチできたマルコシアス。
だがバランスを
「ぴよ! マルちゃん!?」
「わっふー……捕ったんだぞ!」
マルコシアスが
「ぴよ……! よかったぴよね!」
マルコシアスの着地は失敗だったが、ボールを捕れたことのほうが
「だぞ! これで兄上のボールも捕れるんだぞ!」
立ち上がりながら、マルコシアスは右前脚をウッドへと振る。
どうやら綿のボールを今度はウッドへ投げるつもりらしい。
その
てててーっとディアがマルコシアスのもとに駆け寄る。
「ぴよ! それはまだちょっとはやぴよよ!」
「わふ、ダメなんだぞ!?」
「まだ、マルちゃんのからだはあったまってないぴよ……!」
ディアがマルコシアスの顔を羽で
「かあさまも、ボールなしでよくバットをふってるぴよ」
「わっふ。たしかに……だぞ!」
「そうぴよ! まだまだならしがひつよーぴよ!」
このやり取りを見ていたニャフ族の尻尾がさらに揺れた。
ディアはそう言うと、ウッドに羽を振る。
「ぴよ! わたをもうひとつ、おねがいぴよ!」
「ウゴ、いくよー!」
ウッドがディアの近くに綿を
ぽん、ぽぽん! 二個の小さな綿のボールがディアの足元へと落下した。
「ぴよ! ありがとぴよ!」
てってーっとディアは綿のボールを両方の羽で拾い上げる。
「さぁ、いくぴよ! じゅんびはいいぴよ!?」
「わふー! いつでも来いなんだぞー!」
ディアはひょいとボールを軽く投げた。
マルコシアスはそれをぴょんぴょんジャンプしてキャッチする。
「ぴよ! もういっかいぴよ!」
「わっふふー!」
ディアが再びボールを投げ、マルコシアスがキャッチする。
その様子を見ていたニャフ族の尻尾が、ついにぷるぷる震え出した。
「にゃ──ん! もう
「「にゃあああ!!」」
ナールと周りのニャフ族が
「にゃ、あちしたちにも……ボールをくださいにゃ!」
どうやらニャフ族の本能に逆らえなかったらしい。
しかしニャフ族にせがまれ、綿を撃ち出すのはいつものことである。
「ウゴウゴ、もちろんいいよ!」
ウッドは頷くと、腕を広場へと向けた。
ぽぽぽーん! 連続して綿のボールを撃ち出すウッド。
「「ありがとにゃああああっ!」」
ニャフ族がボールへと向かって、
「ウゴ、どういたしまして!」
そんなウッドの頭の中に、とある言葉が
「……ウゴ?」
スキル【シードバレット】がレベルアップした。
シードバレットはLv2になった。
ウッドが首を
「どうかしたんだぞ?」
「ぴよよー?」
二人とも身体に綿がつきまくっている。
気にはしていないみたいだが。
「ウゴ、なんだかレベルがあがったみたい……!」
「わふー! おめでとなんだぞ!」
「ぴよー! おめでとぴよー!」
「ウゴウゴ、ありがとう!」
ウッドが喜んでいると、ディアとマルコシアスが顔を密着させた。
こそこそと
「ところで……レベルってなにぴよ? まえに、マルちゃんもいってたぴよ」
「わふ。せーちょーの
「ぴよ! マルちゃんがこのすがたになったみたいにぴよ!?」
ディアが羽でマルコシアスの頭を撫で回す。
「わふふー。気持ちいいんだぞー」
「ぴよ! ということは……ぴよ!」
ディアがウッドを見上げる。
「おにいちゃんも、ちいさくなるぴよ!? ふわもっこになっちゃうぴよ!?」
「……ウゴゴ」
ウッドは軽く
「ウゴ……まぁ、いつかはなるかも」
少し、ウッドの
ゴンドラの先
地下の広場での作業は順調に進んだ。やはり一度修復した経験があるからな。
そして掘り進めるうちに、ゴンドラが向かう方向もわかった。
「……今度は地下に行くゴンドラか」
俺の前には、修復間近の木片と石のゴンドラが置かれている。
「ええ、下方向ですね……」
どうやら、穴に
ぴったりとハマっていたので気付かなかった。
いや、地下コカトリスが掘り出そうとしなければ、ずっとわからなかっただろう。
「もぐ。
ちなみに地下コカトリスは興味深そうにゴンドラの周囲を見て回っている。
目をぺかーとさせ、うろうろきょろきょろ……。
しかしそれ以上、羽は出してこない。ララトマも地下コカトリスの付き
技術関係は……ドリアードにはやや不向きだ。
高速でゴンドラを修復したナナが頷く。
「ゴンドラの構造は、前の広場と同じですね。もう直ります」
「ただ下がどうなっているか……それが問題だな」
「行き来できる高さ的には、前と同じくらいでしょうか」
穴の下から大樹の家を発動して戻ってくればいいだけだ。
「
「同感だ。大気中の魔力も村に比べると
魔力の
さすがに、このまま地下まで行くのは危険だな。
「ふむ……試しに数回、ゴンドラを動かして今日は終わりにするか」
「わかりました……!」
「じゃあ、僕が動かしますよ」
直したナナにやってもらうのが一番いいか。
というより、動かしたくてうずうずしているみたいだ。研究者
「ああ、任せた」
「はーい。ガチャっとね」
ナナがレバーを引くとゴンドラが動き始めた。
微量の魔力が流れ、木のこすれる音が聞こえる。
「ぴよー」(うごいたー)
「ぴっぴよー?」(何かあるかなー?)
ふむ、ゴンドラの音も動き方も変わらないな。前の地下広場と同じゴンドラだ。
ということは、同じ人間がいくつもゴンドラを作ったわけか。
ごうんごうん……。
そのままゴンドラが下に降りていき、少しして地下からちょっとした
「問題なく一番下に
「ええ、あの広場のゴンドラと同じです……!」
「もぐ。音からすると下はかなり固そうな地面もぐ」
「ゴンドラから降りられそう、ということだな」
ステラはかなり集中している。
そのまま少し待ってみるが……特に変化は起きないな。
「そろそろ戻しますよ。ガチャっとね」
「そうだな、引き上げてみてくれ」
ナナが再びレバーを
ごうんごうん……。
戻ってくるのもそれなりに時間がかかる。
でもしっかりとゴンドラは上下に動いているようだ。
「んん? 待ってください……!」
ステラがすちゃっとバットを構える。
「ゴンドラに何かが乗っています!」
「なっ……!? 止めてくれ!」
「これは途中で止められないですよ!」
ナナがレバーをガチャガチャ操作するが、ゴンドラは止まらない。
そのままゴンドラは動き続け──俺たちのところにまで戻ってくる。
「……ん?」
そのゴンドラに乗っていたのは、よく知っている人物だった。
「はぁ、良かった……! やはり村に通じていたみたいですね!」
頭にぴよ
ステラが震えながら、レイアを見つめていた。
「まさか……レイア、その下はザンザスの!?」
「ええ、ステラ様! そのまさか、ダンジョンの第三層です!」
◇
それから少し大変だった。ステラが大喜びでレイアに駆け寄ったのだ。
「大発見です……!」
「はい、ついに横道が見つかりました!」
「ああ、しかも第三層……!」
ステラのこんな姿を見るのは……ディアが生まれたとき以来かもしれない。
そのくらいの喜びようだった。
「まぁ、喜びもするか……」
なにせ千年もの間、ザンザスのダンジョンは最深部まで到達できていない。
しかもショートカットもない、
「もぐ! 歴史的発見もぐ!」
「僕も本や論文で読んだけど……本当に横道があったんだね」
ナナもふふりと喜んでいた。彼女の研究にとっても、これは有用な発見だろう。
ちょっとしてレイアとステラも落ち着き、話ができるようになった。
「ところで、なんでこんなところに……?」
レイアの話をまとめると──。
彼女とその一行はザンザスのダンジョンにやってきた。
目的はとある
そしてその奥まで来たところ……いきなりゴンドラが降りてきたという。
かなりの幸運だな。レイアが胸を張っていた。
「実に
「それでいきなり乗り込んだのか……?」
「ちょっと不用心な気もしますが」
さすがのステラも苦言を
俺はよくわからないゴンドラが上から来ても、乗ったりしないぞ。
……うん、きっと。
「上からぴよちゃんの気配がしまして、やむを得ず……」
「ぴよー」(ぺかー)
「それは仕方ありません」
「秒で手のひらを返したね」
「くるっくるもぐ」
ナナとイスカミナがジト目になっている。
「うぅ、わたしでも同じことをしますので……」
「ま、まぁ……ちょっと不思議に思っただけだ。責める気は全くない」
冒険者としては、ステラとレイアのほうが
俺も冒険者ギルドのマスターだが、まだ日が浅い。
ベテラン冒険者の判断を尊重しよう。
「しかしザンザスのダンジョンと繫がっていたとはな……」
「その点につきましては──あっ、ちょっと下のメンバーに話をしなければ!」
「そうだな、下の人たちは上の
あまりここでレイアを
後々、話す機会はたくさんある。
「ちなみに……ちょうど手に持っているので確認なのですが」
レイアがステラに話しかける。
「なんでしょう?」
「この
レイアが
すらっとした剣身に揺らめくような
「ミスリルにアダマンタイトを混ぜた名剣です。ステラ様が使っていたという……」
「見覚えさえ、ありません」
「そうですか……」
レイアは予期していたように、剣を鞘へ戻した。
「諸説ありましたが、やはりステラ様の剣ではありませんでしたか」
「それにしてはいい剣だったけどね」
着ぐるみのナナがやや早口になっている。
「どうやらザンザスの
「もぐ。一気に
「表に出たらまずそうな話だな……」
「まぁ、ステラ様の由来にしておけば、丸く収まってしまうので……」
「わたしの名前が……!」
「この腕当てもステラ様が使っていた、という伝説の防具です」
レイアが右腕をちょっと上に掲げる。
そっちは純ミスリル製か。非常に高価な
「それも知りませんけれど……」
「はい、これは五代前のギルドマスターが土地転がしで買いました」
しれっと言い放つレイア。
「ステラ様の腕当てが発見された、ということで議会の予算も下りてます」
ステラが耳をついにふさいだ。
「わたしは無関係ですっ」
「ふふふ……色々とありまして」
意味深な笑みを浮かべ、レイアはゴンドラに乗り込んだ。
「機能の確認、
「俺も何も聞かなかったからな」
「聞いてないもぐ」
レイアがいい笑顔でぐっとサムズアップした。
こういうところはやはり、相当したたかだな。
「んしょ、それじゃ、ガチャっとねー」
ナナがレバーを押すと、ゴンドラは再び降り始めた。
ごうんごうん……。
「しかし驚いたな。地下通路を進めば、もしかしてと思ったが」
可能性がなくはない、そのレベルの話だった。
「ええ、いつかは……あまり期待しすぎないようにはしていましたが」
今、ステラはナナがポケットから取り出した紙とペンで書き物をしている。
「レイアが来たのは、第三層の奥『霜ダケの群生地』……入り口からの
ステラは熱心にあれこれとメモに書き込んでいる。
『霜ダケの群生地』はその名の通り、寒冷地で育つ霜ダケがたくさん生えている。
もちろんかなり寒いらしく、防寒は
「やはりこの霜ダケの群生地は村寄りですね」
「ふむ……ここだけ特別なのか?」
「ええ、ザンザス側の入り口から直線距離で一番離れています」
ザンザスのダンジョンにおいて、上下の階層移動はらせん状になっている。
なので中心部はよく
しかし各階層の
「もぐ。霜ダケは高山にもたまに生えてますもぐ。良質の接着剤になりますもぐ」
「なるほど、それを採りに来たのか……」
「高級ぴよちゃんぬいぐるみの補修に使いますね」
「着ぐるみの毛を直すのにも使いますよ」
ふもっとナナが羽を掲げる。レイアが
「はぁ……でも本当にザンザスのダンジョンに繫がっているんですね。夢みたいです」
ステラが
「これでザンザスのダンジョンにも行きやすくなるな」
とはいえ、第三層には植物やキノコの魔物が出現する。
野放図に人を
しかし進展には違いないだろう。
「よし、レイアと安全を確認したら──今度こそ村に帰ろう」
◇
それから軽くレイアと打ち合わせをして、俺たちは村に戻ることにした。
レイアもザンザスで仕事があるということで、そのままダンジョンから帰るそうだ。
ゴンドラにはロープ(ナナのポケットから出てきた)をかけ、軽く
ここまで来る人間はいないので、こんなものでいいか。
壊れても行き来する手段はいくらでも用意できるしな。
そうして村に戻ってきたときは、すでに夕方になっていた。
「今日はお
割れた球根はナナがよっせと
これから研究するらしい。重そうだが、意外とパワフルな着ぐるみだな……。
「もぐ!
「僕も色々とまとめないと。お疲れ様でしたー」
「ありがとうございました……!」
イスカミナとナナは家へと帰っていった。
あとはララトマとコカトリスたちだ。
「では、ぼくもお家に帰りますー」
コカトリスはお
「ぴっぴよー!」(いい運動だったー!)
「ぴよ? ぴよよ?」(どう? たぷみ、減った?)
「ぴよ……ぴよ!」(うーん……変化なし!)
「ぴよ、ぴよよ……!」(たぷを減らすは、一日にしてならず……!)
「なんだか決意を秘めた目をしているが……」
「ぴよちゃんも冒険者魂に目覚めたのかもしれません」
そこにララトマが
「ぴよちゃんはたぷを減らしたいみたいです!」
「……ダイエットか?」
「人生において、それなりに大切なことではありますが……」
冒険者魂と適正体重。残念だがコカトリスはまだ体重のほうが大切らしい。
「地下コカトリスにもよろしく伝えてくれ」
「はいですー! ぴよちゃんも楽しかったみたいです!」
「ぴっぴよー」(久しぶりに雪を見たー)
「ぴよぴよー」(ほどよい冷風、気持ち良かったよー)
そんな感じでコカトリスたちとララトマも
「ふぅ、今回も助かった。ステラもお疲れ様」
「いえ、ほぼ
「これくらいなら問題ない」
魔法は連発したが、どの魔法も大して魔力は消費しない。
この辺の燃費が良いのも、植物魔法の
「また新しい発見ができましたね……」
「ああ、
今回も多種多様な人材がいたからこそ、成果が出た。
「とりあえず家に帰って、ウッドにグロウストーンを渡さなきゃな」
俺は胸のポケットをぽんぽん軽く
これはウッドに食べてもらうのが一番だからな。
俺やステラでは、おそらく何の効果も得られない。
「冒険者ギルドはそろそろ夜勤の時間だな」
「少し顔を見せて、それから家に帰りますか?」
「そうだな、今日のことを軽くでも報告しておこう」
ナールかアナリアに伝えておけばいいだろう。
ステラと冒険者ギルドに向かって歩いていくと、途中でナールたちと出くわした。
どうやら日勤のナールはもう帰る時間だったようだ。
「にゃ! おかえりなさいですにゃ!」
「ああ、今帰った。問題はなかったか?」
「大丈夫ですにゃ!」
「こちらは色々とあったんだが──」
俺はかいつまんで地下の話をした。
詳しい話は明日でもいいが、ゴンドラの件は知らせておくべきだし。
「にゃー! そ、それは本当ですにゃ!?」
話を聞くと、ナールはひっくり返りそうになって驚いている。
「ええ、本当ですよ……!」
周りのニャフ族も同じ反応だな。
「やばにゃ……大発見にゃ!」
「にゃーん、まさか本当に実在するにゃんて!」
興奮して口々に言い合っている。
ザンザスのダンジョンへの横道が発見されたのは、やはり歴史的なことなんだな……。
まぁ、地下コカトリスが見つけてくれたんだが……。
そろそろ暗くなってきたし、立ち話を続けるのもアレだな。
「
「はっ!? そうですにゃ、お疲れのところを申し訳ありませんにゃ!」
ナールたちは一礼し、ハイテンションに去っていった。
帰宅
「どうやらナールも喜んでくれたみたいですね」
「ああ、スキップしながらだったな」
「ぴよちゃん祭りと一緒に、楽しみが増えました」
ステラがにこりと微笑む。
「そうだな……。いまいちどれくらい
ぽろりと口走ってしまった。
「ふふ、大丈夫です。なんとなく、そのようにお見受けしてました」
「そうか……」
「無理もありません。でもザンザスにとって、あのダンジョンは特別なんです」
それからステラは歩きながら、軽く歌い始めた。
森を越えれば、
私は歩くよ、
門を通れば、遥かな草原
私は走るよ、輝く鳥も駆け回る
ステラの歌は、
「ザンザスに移住する人の歌か?」
「ええ、わたしの
「ステラの師匠? 初めて聞いた」
俺は軽く驚いた。
ステラを題材にした本や劇は多数あるが、師匠の話はどこにもなかった気がする。
「彼女はわたしにそう呼ばれたくはないようでした」
「そうなのか?」
「実際に教えを受けたのは一週間、わたしはそれで師匠より強くなってしまいましたので」
「お、おう……」
「今のエルト様のほうが、師匠よりも強いです。彼女は教えることに特化していましたから」
ふむ、指導者向きの人だったということか。
それでも一週間で
「師匠は旅が好きでした。
「面白そうな人物だな」
「そうですね、師匠に会う前からぴよちゃんは好きでしたが……ザンザスに完全なぴよちゃんの楽園があると教えてくれたのは、師匠でしたし」
一週間の指導より、むしろそっちの情報のほうが
そこでステラがふわっと
「
不器用な、ステラなりの友好の示し方だと俺は思った。
「ありがとう、また聞かせてくれ」
「……歌は不得意です」
そうして家に戻ると、ディアとマルコシアス、ウッドはリビングにいた。
ディアとマルコシアスは浅い
歌付きで。
「きれーきれーになーるぴよー」
「きれーきれーにしてもらうんだっぞー」
「ウッゴウゴ、おかえりー!」
ウッドはタオルを用意して、水が飛び跳ねないようにしている。
あとはバケツから桶に水を足していた。
「おかえりーぴーよよー」
「おかえりーなんだっぞー」
ディアとマルコシアスは手を止めず、歌いながら洗っている。
「ただいま、一体どうしたんだ……?」
「ただいまです……! どこか
「ぴーよよー。ひろばでぴょんぴょんしてきたーぴよー」
「ダッシュもーしてたんだっぞー」
「ふむ……なるほど、しっかり外で運動してきたんだな」
適度な運動は必要だからな。
「そーぴよー。わたがたっくさんついたぴーよー」
「きれーきれーにしたいんだっぞー」
桶の周りに
「ここ、耳の裏にちょっとありますよ」
ステラがマルコシアスのそばに
「どこー? どこなんだーぞー?」
マルコシアスがぺたぺたと小さな耳を触る。かわいい。
「ここです、ここ」
ステラがひょいとマルコシアスの右耳裏から、小さな綿の破片をつまむ。
「やったぴよー! きれーきれーぴよねー」
「きれーきれーなーんだぞー」
どうやら歌いながら洗うのにハマっているらしい。
「ぴよ! かあさまもいっしょーぴよ!」
「だぞ! 歌うんだぞー」
「えっ、ええ!?」
突然のリクエストに
俺はちょっと微笑みながら、ディアの背中側に屈む。
ここにも小さな綿くずがついていたのだ。
それをひょいとつまんで、俺もディアのふわもっこな身体を洗い始める。
「きれーきれー……こんな感じか?」
「ぴーよぴよ! そーぴよー!」
「ばっちりなんだっぞー!」
「ウッゴウゴー!」
ステラもちょっとうつむきながら、しっかり歌い始める。
「うぅ、きれーきれー、ふわもっこー」
「ぴよ! いいぴよねー! きれーきれーふわもっこーぴよ!」
ディアは輝くような毛並みになっていた。
「ぴよ……! ぴっかぴかぴよ!」
「つやつやなんだぞー!」
それから片付けを終え、夜ご飯も食べ終わった。
今日の冒険もかいつまんで子どもたちには話しておいた。
まぁ、まだピンとは来ていないようだが。
あとはウッドのスキルの件も聞いた。
「シードバレットか、おめでとう……!」
「凄いですね……!」
「ウゴ、まだよくわからないけど。どういたしまして!」
どうやらウッドも検証はしていないみたいだな。
しかしそれもまた明日でいいか。急ぐ必要はない。
「ぴよー……」
「わふー……」
ディアは俺の
お腹もいっぱいになり、うとうとモードに入っているな。
「そうだ、忘れないうちに……!」
俺は胸のポケットに入れていたグロウストーンを取り出した。
魔力の凝縮された、黄色のグロウストーンだ。
「ウゴ、それ……まえにたべたやつ!」
「ああ、新しいグロウストーンを手に入れたんだ」
「わふー。新しい力をゲットなんだぞー?」
「ええ、運が良ければ……新しい力が目覚めます」
「ぴよー。おにいちゃんから、もっとわたがでるぴよ……?」
「その可能性もあるな」
このグロウストーンとウッドの
しかし何を得られるかは未知数だ。
新しい魔法やスキルかもしれないし、
マイナスはあり得ないので、その点は安心だが。
「ウゴ、たのしみ!」
俺はウッドにグロウストーンを手渡す。
二回目なので、それほど心配することはない。
「
手に取ったグロウストーンをくるっと回し、口元へと運ぶ。
「ウゴ、じゃあ……いっくよー!」
ウッドは勢い良く、グロウストーンを飲み込んだ。
「ウゴ……ごっくん!」
「……どうだ?」
前回は
「ウゴ……?」
ウッドが首を傾げている。
「ウゴ、とりあえずつかってみる」
ウッドが俺たちから少し距離を取り、腕をかざした。
「そうだな、使ってみてくれれば大体わかるし」
「ウゴ、それじゃ……ウゴー!」
ウッドから青い魔力が
「青色、風か水系統ですか……!」
「ぴよ! ひかってるぴよー!」
「わふー! きれーだぞ!」
「これは……フリーズブルームの球根だからか?」
あれも冷気を放つ魔物だった。
ウッドの放った魔力が空中にとどまり、
同時にちょっとした冷気がリビングを漂い始める。
「さっきの氷の彫刻に似ていますね」
「ああ、そっくりだな……!」
ウッドは顔をしかめながら魔力を放っていた。
「ウゴ、けっこーむずかしい……」
「がんばるぴよ、おにーちゃん!」
「大事なのはイメージなんだぞ!」
冷気が徐々に空中で固まっていく。
「ウゴウゴ……! こ、こうかな?」
少しして魔力の放出が止まると、空中に氷の彫刻ができていた。
ウッドの手のひらくらいの大きさだな。
ちょこんと飛び出た耳とふもっとした
一目見てわかる、素晴らしい出来栄えの氷の彫刻だ。
「おっ、ニャフ族だな!」
「ウゴウゴ! わかる?」
「ええ、はっきりわかりますよ……!」
「ぴよ! きょう、いっしょにあそんだぴよ!」
「だぞ! そっくりなんだぞー!」
ディアとマルコシアスもすっかり目が覚めたようだ。
「ウゴウゴ、うれしい……!」
「本当に上手だぞ、ウッド」
俺はウッドの身体を撫でる。
「ウゴ、いつもあそんでるから……できてよかった」
「うんうん……」
なんだろう、少し
村での生活を通じて、ウッドにもしっかりとしたイメージ力が備わっている。
それが嬉しいからだな。
「しかし驚きましたね……。本当にあの球根と同じような力です」
俺は頭の奥底から、ゲームの知識を引っ張り出す。
レアだが知っているスキルだな。
「これはアイススタチュー、というスキルだ」
「ウゴ! とうさま、それだ!」

アイススタチューはその名の通り、氷の
戦闘にも使えるが、どちらかというと……クラフト系のスキルだな。
これを極めたプレイヤーの中には、ゲーム内で
「聞いたことがないスキルですね……」
「ステラでもそうなのか? まぁ、レアなスキルではあるが」
ステラも興味深そうにニャフ族の彫刻を見つめている。
「魔力は大丈夫そうですか?」
「ウゴ、ぜんぜんもんだいないよ!」
「色々と可能性がありそうなスキルですね」
「彫刻だけでなく、氷を生むスキルだからな」
この世界では氷はまだまだ高価だ。特にこのザンザス地方ではその
例えば飲食をするのでも、常温より冷やした物はまずない。
真冬でも雪が降ることはなく、氷点下も
飲み物に氷を入れることもないし、
「わたしのアイスドラゴンの
「ぴよ! あのあまーいやつぴよ?」
「シャキシャキの氷のやつなんだぞ!」
アイスドラゴンの牙──だいぶ前にステラに作ってもらったエルフ料理だな。
つまり、かき氷だ。
料理としては難しくなく、売れそうではあったが……やはり氷がネックだった。
単価的にとんでもない値段になってしまう。
「常に提供するのは難しいかもだが……冬至祭の時には、いいかもだ」
冬場だが、物珍しさで
「ウッド、
「ウゴウゴ、やってみたい!」
ウッドの目が燃えていた。やる気があるのは非常にいいことだ。
「それじゃあ、任せよう。アイスドラゴンの牙の特別
「ウゴウゴ、がんばるー!」
「ふふっ、良かったですね」
「ぴよ! きっといいのができるぴよー!」
「わっふー。楽しみなんだぞー!」
思わぬ
あとはダンジョンへの地下通路と冬至祭の出し物か。
決めることはたくさんあるが、どんな形になるか……楽しみだな。
出し物
翌日、冒険者ギルドの会議室にて。
会議の参加者はナール、アナリア、ステラ、俺だ。
昨日は本当に色々な出来事があった。
様々なことを報告して共有するだけで、半日かかったな。
「にゃー。それにしても驚きの成果ですにゃ……」
「大発見ですね……。私も時間があったら、ぜひ見に行きたいです」
ナールはザンザスとの縁が深いし、アナリアはザンザス育ちだ。
今回の発見を喜んでくれている。
「第三層に直通なら、あんな素材やこんな素材をもっとポーションに……!」
「アナリアはぶれないにゃ」
「キノコがたくさんあるんだったか? 確かに素材は豊富そうだな」
ステラも指折り数えながら頷いている。
「第三層は希少な植物、
「第二層は高い身体能力がないと、行き来できないのにゃ」
第二層はアスレチック空間だったな。
荷物が
それが素材採取のネックになっているらしい。
「それが第三層まで直通なら、効率は
「実に素晴らしいですね……!」
とはいえ、今日明日の話ではないが。
色々と検証は必要だろうな。
「しかしそうすると、あの地下を高速で行き来する手段が
「はいですにゃ。すでに手は打ってありますにゃ……!」
「おお、本当か?」
「前の地下空間の調査から、必要になるのではないかと思ってましたにゃ」
ナールがごそごそとバッグから紙を取り出す。
そこには馬と細長い
「馬と車輪付きの小舟を合わせた、
「へぇ、北方で使われているものですね?」
アナリアがふむふむと頷く。
「その通りにゃ。北では冬だと小川が凍ったり、地面が
「そうだな、地下大河を利用できれば効率的だ……」
「単純な馬車だと問題があるかもですね」
ステラも同意見らしい。
「どのみち、馬車は増量しなければと思っていたところだ。やってみよう」
「ありがとうございますにゃー!」
効率的な輸送網は大切だからな。
前世の記憶を思い出すと、それがよくわかる。
豊かさとは安全かつ確実、効率的な輸送がもたらすものなのだ。
「さて、次は……冬至祭の出し物か」
「いくつか案は届いていますね」
「よし、見てみよう」
三枚のぴらっとした紙に、
ちなみにこのアイデア
さらに全体の絵は必須ではなく、一部でも良いとハードルを下げていた。
そのほうが書きやすく、集まると思ったわけだが……。
「ふむ、そんなに集まらなかったな……」
アナリアが紙を開きながら答える。
「募集というのは素晴らしい試みですが、ザンザスでも例がありませんからね」
難しいものだ。この世界では、広くアイデアを募集するという考えがあまりない。
劇や詩の
「えーと、一枚目は……ザンザスにゆかりの像。モチーフはステラ」
「わたしをモチーフにするのは、
「即断にゃ……」
「まぁ、人を題材にするのはやめよう……うん」
募集の
ザンザス育ちが多数を
この最初の案はいくつかの角度から、しっかりと山車を描いていた。
「しかしこの台座と山車本体のデザインはいいな」
この案を描いたのは、ずいぶんとデザイン力のある人間だな。
ある程度、ちゃんとした設計の教育を受けたと感じる。
本当は勇ましく立つステラも良いが、本人の
「とりあえず、どんどん見ていこうか」
次の紙をぴらっと取り出す。
「…………」
俺は一瞬、固まってしまった。
黒のインクで描かれた、抱き合う二体のコカトリス。
その周囲にいるバットやボールを持ったニャフ族。
当然、無記名であるが……しかしこの絵には見覚えがあった。
「はい……。わたしが描きました」
「自供しました!?」
「潔いにゃ」
「うっ、ふぐっ……」
ステラはテーブルを見つめながら、ぷるぷるしていた。
「もう少し他の案もあって、まぎれるかと思っていました。浅はかでした……!」
「そ、そんなことないぞ。しっかりアイデアが伝わってくる」
「うっ、ふぐっ……」
「ええ、そうですとも! アイデアは大切です!」
「貴重なご意見、アイデアにゃ!」
「そ、そうですか……。良かったですっ」
ステラは気を取り直した。
なんとなくだが、みんなステラの
まぁ、わかりづらい面もあるが──根は素直な性格だし。
「よし、最後のアイデアにいこう」
ステラの案を詳しく読み上げるとまずい流れになりそうだったので、俺は次の紙に移った。
「ふむ……これもなかなか良いな」
丸っこい、温かい
ででーんと描かれているのは巨大な縦に長い花の
花の飾りの横に、小さくドリアードの全身図がある。大きさの対比、ということだろうか。
この絵からすると、花の飾りは十メートル以上だな。いわば
しかしこのドリアードの絵で、案の
大きさの
……多分テテトカかララトマだろうな。
「だが、良い案だな。派手で村らしさが出ている」
ステラもこの案を見て、しっかりと頷いた。
「そうですね。縦にかなり大きいですが……横にも
「ふむ、これはいいな……」
村の良さを活かせる案があれば、それが一番だ。
「この三つの案だが、どれも良いところがあるな」
第一の案は台座と山車本体。第二の案はコカトリスとニャフ族。
第三の絵はとにかく派手で華やかなフラワースタンド。
逆に言うと、それぞれの案は他の部分をそれほど気にしていないみたいだ。
ナールとアナリアが色々と見比べている。
「にゃ。案を出した人が、どこを重視するか出てますにゃ」
「そうですね、これほど違いが出るとは……」
ステラは無言になっている。自分の案があるので、言えないのだろう……。
「俺としては、これらの案をまとめて一つにできればと思うんだが」
「にゃー! いいお考えですにゃ!」
「それはいいですね……!」
「わ、わたしも賛成です」
「ステラ、
「いえ、ぴよちゃんが採用されるなら……何も言うことはありません!」
「はっきり言ったにゃ」
「心の声が出てますね……」
「でも本当に良いと思いますにゃ。案を出した人も浮かばれますにゃ」
せっかく案を
「よし、それじゃこの三つの案をミックスしよう!」
「はいですにゃー!」
「承知しました!」
「
ということで、山車はこの三つの案を
今からわくわくしてくるな……!
お礼
夕方前、ウッドとディア、マルコシアスは大樹の塔に向かっていた。
グロウストーンを入手できたのはララトマのおかげである。
「ウゴ、おれいにいかないとね!」
「わふー。大切なことなんだぞ」
「ぴよ! れっつごーぴよ!」
そう、ララトマにお礼を言いに行こうとしていた。
三人は村を歩いていく。とはいえ、アポは取っていない。
ララトマがいそうなところを途中途中、見て回るのだ。
まず
「ぴよ。うまってるなかには……ララトマはいないぴよ」
「わふ。屋根を一部直してるんだぞ?」
土風呂は屋根がついているが、その一角で工事が行われていた。
中心になっているのはアラサー冒険者とブラウンだった。
興味を引かれた三人が工事場所に近づく。
どうやら土風呂の一部、柱と屋根を新しくしているらしい。
「ウゴ、やねをいれかえてる?」
「おー、その通りですぜ。冬に向けて、少しばかり補修でさ」
現場を
「えーと、屋根の向きはこっちですぜ」
「了解にゃーん。回転させるにゃん」
図面を手に、アラサー冒険者たちはてきぱきと工事を進めていく。
トンテンカン、トンテンカン。
ニャフ族と冒険者の軽快な工事音が
「すぐ図面ができて、大助かりにゃん。今日中に終わるにゃん」
「簡単なモノならね。昔、ちょっとやってたんでさ。それに土風呂の整備は大事ですしね」
「たくさん入ってるしにゃん」
「そーいうことですぜ!」
工事はどんどんと進んでいく。
すごいのはこれだけ音がしても、土風呂に変わらず入っている人がいることだ。
工事は全く気にならないらしい。
「ぴよ。じゃましちゃ、わるいぴよね」
「だぞだぞ。ここにはララトマはいないんだぞ」
「ウゴ、つぎにいこう!」
ウッドたちは土風呂エリアを離れ、畑へと向かった。
◇
畑ではテテトカとドリアードたち、それにジェシカ、ナナが集まっていた。
長方形の大きな机が置かれ、その上にはトマトが並んでいる。
「ふむふむ、実にいいね……」
着ぐるみ姿のナナがトマトを手に取り、じっと見つめる。
少しするとトマトを戻し、また別のトマトを手に取っていた。
「ぴっぴよー。なにしてるぴよ?」
「えーと、トマトの品質をみてますー」
テテトカがふにっと手を挙げながら答えた。
「水だけを変えて、トマトの
「わふー。比較ってやつなんだぞ」
「ウゴ、おしごとちゅうだね……」
そこでとあるトマトを手に取ると、ナナの動きが止まった。
「ジェシカの水で育てたトマトはこれだね?」
「おー、正解ですー」
ぱちぱちぱち。テテトカたちが
「……どうしてわかるのですわ?」
「ほら、わずかに色つやが良くて、重いよ」
ジェシカがナナの掲げるトマトに近づき、穴が開くように見つめる。
「わかりませんわ……。私の故郷も農業はさっぱりですし」
「へー、そうなんですねー」
「海が近すぎて無理なんですの。水はこだわりがありますけれど……トマトはさっぱりですわ」
「もったいないね。これは素晴らしいトマトだよ」
ナナが満足そうに頷く。
「水が変わると、変わるもんですねー」
そこでテテトカがジェシカの
「ぜひぜひー、ぼくたちにもー……」
他のドリアードもジェシカに群がり始めた。
「おみずー、ぱしゃぱしゃー」
「ちょうだいー」
目当てはジェシカの
「今、出しますわ。えーい!」
ジェシカが魔力を込めて杖を振るう。
「がおがおー」
水は
「わーいわーい!」
「ぱしゃぱしゃー!」
ドリアードたちは大喜びでジェシカの魔法の水を浴びている。
「これから
ウッドたちがドリアードたちに近寄る。
「わっふー。花飾りを作るんだぞ?」
さっき、エルトから冬至祭の話が大々的に発表された。
これから準備が始まっていくのだ。
「ですですー。はわー、腕の見せ所ですねー。アイデアを出した
「がんばるるー」
「どーんとおっきく作るよー」
「ウゴ、あのアイデアはテテトカたちだったんだ!」
「そですー。アナリアとナールに、出したほうがいいと言われましてー」
「なるわふなんだぞ」
テテトカたちは自身のアイデア、ということもあってかなりやる気のようだ。
「花飾り……私はどうしましょうですわ」
しかしジェシカは少し戸惑っていた。
「あまりそういうの、したことないんですの」
「へー、なるほどね。それなら迷うかも」
「好きな花とか色とか、こう……いい感じにぎゅっとすれば大丈夫ですよー」
そんな話をする横で、ナナは上機嫌にトマトをカットしていた。すぐに食べるつもりらしい。
「ウゴ! それ、たいせつ!」
「ぴよ! いいかんがえぴよね!」
「気楽にー、リラックスして作ればいいのができますー」
「な、なるほどですわ……」
ジェシカがふんふんと頷く。
「そうしたら、やはり……私は
「いいですねー。思い入れのある色は花飾りにぴったりですよー!」
そこでドリアードたちが、再びジェシカに群がった。
「今度は飲む用にー!」
「ちょうだいちょうだいー!」
「わかったですわー!」
ノリノリのジェシカが杖から水を生み出す。
「「「ごきゅごきゅごきゅー!」」」
ドリアードたちは放たれた水を
テテトカもちゃっかり水を頰に
しかしはしゃぐドリアードたちの中に、ララトマはいなさそうだった。
「ウゴ、ここにもララトマはいないみたい……」
「わふ。そうすると塔なんだぞ?」
「ぴよ! テテトカにきいてみるぴよ!」
テテトカの頰は大量の水でたぷんたぷんになっていた。
「はふへー、ろうかひまひたー?」
「のんでからでいいぴよ」
ごきゅごきゅ、ごっきゅん。
テテトカは一気に水を飲み干すと顔を輝かせた。
「はわー。失礼しましたー。ジェシカの水がおいしくてー」
「幸せそうなんだぞ」
「それはもうー。で、どうしましたー?」
「ウゴ、ララトマをさがしてるんだけど……」
「あー、ララトマなら塔の上で草だんごをこねてるはずですよー」
「ぴよ! ありがとぴよよ!」
「あるいはお昼寝してると思いますー」
「だいぶ差があるんだぞ」
「用があったら起こしてもらって大丈夫なのでー」
「ウゴ、そこまでのアレじゃないけど……ありがとうー!」
ウッドたちはお礼を言うと、その場から離れた。
「ふんふーん♪ トマットマー♪」
ナナはカットしたトマトをぐっとくちばしに
◇
ディアたちは塔へと歩いていった。
大樹の塔も最近は出入りが多い。主にニャフ族やギルドの職員であるが。
「ウゴ、いいかおり……」
「レッドドラゴンの爪の匂いなんだぞ」
マルコシアスがくむくむと鼻を動かす。
先日オープンした冒険者ギルドのレストラン、
なので大樹の塔に料理を持ち込んでいるドリアードもいるのだ。
「ぴよ。おいしそうにたべてるぴよね……」
ディアがドラゴンの爪を食べているドリアードたちに視線を向ける。
「見ちゃダメなんだぞ……!」
「わ、わかってるぴよ。はやくうえにいくぴよ!」
自由にのびのびなディアたちであるが、エルトとステラに禁じられていることがいくつかある。
その代表が買い食いと拾い食いである。
ご飯以外の食事は、さすがに制限されているのだ。
ディアたちが塔の上へ行くと、そこにはコカトリスたちとララトマがいた。
「ぴよ」(こんな感じ?)
「そうです、雰囲気でてますです!」
「……なにしてるぴよ?」
数体のコカトリスが並んで、花のついた枝をぽきぽきと折っている。
「多分、あの後ろの飾りを作ってるんだぞ」
マルコシアスがぴっとララトマの背後にある花飾りを指す。
コカトリスは真剣に、花飾り作りの手伝いをしていた。
ぽきぽき……。
そこでふとコカトリスの羽が止まる。
「ぴよー……ぴよ!」(折りすぎた……もぐもぐ!)
「ウゴ、たべてる」
「わふ。よく見ると、けっこー食べてるんだぞ」
「もはやごはんぴよね」
「有力な説なんだぞ」
ぽきぽきして折られた枝も、コカトリスは残さずもぐもぐしていた。
「ぴよ……」(うーん、
「ぴよよ……」(たまに食べたくなる、それが枝……)
「おや? どうしましたです?」
花飾りに集中していたララトマがディアたちに気が付いた。
ぽてぽてとララトマはディアたちに近寄る。
「ウゴ! おれいがいいたくて……!」
「んんー? 何かありましたです?」
ララトマが首を傾げる。
「ウゴ、これこれ……!」
ウッドは腕を前に出し、アイススタチューのスキルを使った。
青い魔力が空中に放たれ、形になっていく。
まもなくヒールベリーの氷の彫刻が出来上がった。
「ウゴ、まだれんしゅうがひつようだけど……」
ウッドはきらきらと輝くヒールベリーの彫刻をララトマに渡した。
「はわー。あれはウッドくんがもらったんですね」
「ウゴ! そうだよ!」
「ぴよ! やっぱりきれーぴよね……」
ララトマは氷の彫刻を見つめると、花飾りのほうに歩いて行った。
「これは飾りに使いますです!
少し残念そうだが、ララトマは花飾りの中央にヒールベリーの彫刻を差し込んだ。
「ウゴウゴ、それでいいよ! またつくるから!」
「本当です!? 楽しみです!」
ララトマが嬉しそうに微笑む。
「わふ……。いい感じなんだぞ」
「ぴよ。すっごいよろこんでるぴよね」
「兄上もララトマの喜ぶ姿が嬉しいみたいなんだぞ」
ウッドとララトマは並んで花飾りを見て、盛り上がっていた。
「ウゴ、それにしてもおっきいね。きらきらしてるし」
「まだ未完成なんです。
「ウゴ、いいの?」
「
ララトマの言葉を聞いて、ウッドが嬉しそうにした。
「ウゴ、それじゃ……みんなでやろう!」
「ぴよー! やるぴよー!」
「わっふふー! 出番だぞ!」
ディアとマルコシアスもててーっと花飾りに駆け寄る。
「ウゴ? あれ……?」
そこでウッドは塔の窓から村の様子を覗き込んだ。
塔の上でも樹木に
むしろ、木々を飛び越えた外のほうが見えるのだ。
「どうかしましたです?」
「ウゴ、なにか……おっきいのがちかづいてきてる」
ウッドが指差した方向から
「ぴよ。なにぴよ? またナナぴよがやばぴよか?」
「わふ。どうやら違うんだぞ……」
土煙と
「あれはアルミラージなんだぞ」
マルコシアスの言う通り、もっこもこなアルミラージたちが近づいてきていた。
ふわきゅい再び
俺は村人から知らせを受け、アルミラージたちの来訪を知った。
大樹の家の上から確認すると、猛スピードで村に近づいているのだ。
しかもアルミラージは背中から黒い書の旗を掲げていた。
その
「……というより、カイの一行だよな?」
「そうですね……ふふっ」
村の入り口で俺とステラが並んで待ち構えていた。
この国でアルミラージを乗りこなす者はごく限られている。
しかも
だが、事前連絡の例外こそカイたちなのだ。
「またあのふわもっこ、とても素晴らしいウサギさんが……」
まぁ、あのアルミラージは実に可愛らしかったが。
「見えてきましたにゃー!」
一緒に村の入り口に出てきたナールが手を振る。
道の向こうに土煙が見え、その上に旗が突き出している。
ふむ、黒い書の旗だな。間違いなく黒書騎士団だ。
「どうどうどうー!」
土煙の中から聞き覚えのある声がする。
黒書騎士団の副団長、カイの声だ。相当慌てているな。
「きゅっきゅいー!」
「ちょっ、スピードを落としてください~……!」
「きゅい! きゅっきゅー!」
アルミラージの鳴き声も聞こえるな……。
土煙は
「この勢いはまずい気がしますにゃ」
入り口に見物にきた村人とナールがちょっと後ずさる。
ドドドド……!
アルミラージは馬以上にパワフルな動物だ。地響きもかなりのものである。
まさかそのままのスピードで村の中へ……?
「あわわ──!?」
「きゅいー!?」
しかしアルミラージは村のそばで急ブレーキをした。
きゅるきゅるきゅるー!
おお、ちゃんと減速している……。
土煙も晴れてきていたが、そこではアルミラージたちがドリフトしていた。
「ぐふっ……!」
振り回されて苦しそうなカイの声が聞こえ、俺の近くでアルミラージがストップする。
見事なドライビングテクニックだった。
「だ、大丈夫ですか……?
ステラが心配そうに声をかける。
「身体がぐいーってしてましたにゃ」
「ムチウチになりそう……」
村人も
「も、問題は……ありません!」
アルミラージに乗ったカイが頭をふらつかせながら答える。
止まってからわかったが、アルミラージに乗ってるのはカイだけだな。
アルミラージ四体にカイ一人。他の騎士はいないみたいだ。
「何かまたあったのか?」
カイがアルミラージから下り、俺に敬礼する。
「ああ、エルト様! お
カイがアルミラージに備え付けられたバッグを漁る。
「きゅいー……!」(はわわー……!)
「ちょっ、動かないでっ」
「きゅい、きゅい!」(至高のニンジンがすぐそこに!)
カイの制止を無視してアルミラージがずいっと俺に近寄ってくる。
「ど、どうしたんだ?」
「申し訳ありません! 空腹のようなのですが……ええと」
カイがもごもごと口ごもる。
ステラがぴんと来たようにアルミラージの顔を覗き込む。
「もしかして、ニンジンが欲しいのですか?」
「うっ、その通りです……!」
カイが正直にうなだれた。
「この村に来るとなってから、この調子でして……はい」
「ニンジンくらいなら、別に大したことじゃないが」
ほとんど魔力は使わないしな。
アルミラージは熱い視線で俺を見上げている。
「きゅー」
「きゅいぃー」
うーん、可愛い。ご飯をあげて、撫でたくなる。
「差し支えなければ、どうかニンジンをあげてください……」
「わかった、そのほうが落ち着くだろうしな。気にしないでくれ」
俺は手の中に数本のニンジンを生み出した。
その瞬間、アルミラージが瞳を輝かせる。
「きゅいー!!」(ニンジンだー!)
「きゅいきゅー!」(やっぱり手からニンジン出たー!)
「エルト様、おひとりでご飯をあげるのは大変かと思います」
ステラがすかさず俺に手を差し出した。
さすがもふもふタイムは決して
「……そうだな、ステラにも手伝ってもらおう」
「はい、もちろんです……!」
俺はステラにニンジンを何本か手渡した。
アルミラージの視線はニンジンに向いているので、当然ステラのほうも見る。
さらにステラは村人からも視線を集めていた。
……どうやらアルミラージに触ってみたい人はけっこういるらしい。
「そうですね、他にアルミラージにご飯をあげてみたい人はいますか?」
ステラは村人にも呼びかけながら、アルミラージにご飯をあげはじめた。
その間にもカイはバッグをごそごそさせている。
「よいしょ……。やっと動きを止めてくれました」
カイの言う通り、ニンジンを食べ始めるとアルミラージの動きが止まった。
正確には、食べるのに夢中になっているだけだが。
「苦労しているな……」
「仕方ありません、最近、アルミラージも少しハードワークでしたので」
カイの手が止まり、バッグから
金粉で飾った格式高い封筒だ。
少し前に見たエストーナ王国からの封筒によく似ている。
なんとなく、
「こちらになります、エルト様」
カイが
受け取ってみると、
俺はちらりと近くにいるステラを見た。
「どうどう……もっふもふですねー」
「きゅっきゅー……」(なでなで、気持ちいいー……)
ステラはアルミラージを撫でてご
ナールもアルミラージのもふもふさを
というより、頭をアルミラージの毛に突っ込んでいるが……。
「冬毛の
「ふふ、実にいいですね……!」
まぁ、とりあえず俺だけで書状を読むか。
俺はぴっと封を開ける。この素手で封を開けるのも、教養と気品が問われる。
さすがに練習して慣れたが。
「ふむふむ……」
やはりエストーナ王国からの連絡だな。
書状にはこう書いてあった。
予定が少し変わり、早めに一度、ヒールベリーの村を
この書状が届いてから数日以内には訪問する──とのことだ。
「……思ったよりも早いな」
元々、他国のスケジュールをどうこうできる立場ではない。
事前連絡があったのなら、それに応じるまでだ。
しかし、俺は心中で少しほっとした。何かあったのかと思ったのだ。
「承知した、わざわざ書状をありがとう」
「いえ、お受け取りありがとうございます!」
とりあえずカイの用件は終わった。
アルミラージは……まだニンジンをかじっているな。
「きゅっきゅいー!」(はふはふ、うまうまー!)
まだしばらく、ニンジンあげは続きそうな気がする。
「この後、予定はあるのか? 前は急いでいたが……紅茶でもどうだ?」
「あ、ありがとうございます……! ぜひ、と申し上げたいところですが」
「うん?」
「実はもう一通、書状がありまして……」
カイは言い出しにくそうに、今度は
俺は書状を受け取り、封を確認する。
前に受け取った黒書騎士団の書状と同じだな。
つまりこれは、アルネスト王国からの書状というわけだ。
「ふむ……読ませてもらおう」
俺は内心ドキリとしていた。
何か、この前のブルーヒドラの件で問題があったか?
俺はちょっとどきどきしながら書状を読み始めた。
『エルト・ナーガシュ
黒書の騎士カイより、諸事の報告を受領しました。
つきましては以下の
・アルミラージの育成協力
・アルミラージの
貴殿の生産するニンジンが素晴らしいため。
担当官として、黒書の騎士カイを
貴殿に剣王の祝福があらんことを。黒書騎士団より』
……んん?
「お読みになられましたか……?」
「俺の領地のニンジンが素晴らしいと書いてあるが……」
「まさにその通りでして。アルミラージたちの育成には、大変な手間がかかるのです」
カイは少し遠い目をした。
「アルミラージは危険な魔物ではありませんが、誇り高い生き物です」
暗に従順なだけではない、とカイは言いたげだった。
「
「ま、まぁ……どつかれていたものな」
「騎乗動物としてはとても
それは本にも書かれていたな。
普通の動物ではないアルミラージには、強力な自己回復力がある。
そのために古くから
「これほどアルミラージが好んで食事をするのは、珍しいことです」
「なるほどな……。ここのニンジンは確かに、高品質だ」
ニンジンの元々の
それ以外にも生産はできるが、
「アルミラージの安定した育成は、黒書騎士団の責務ですので」
「中々の重要
そのアルミラージはご機嫌に撫でられ、にんじんをはむはむしている。
「きゅいー」(しあわせー)
「ぬっくぬくにゃ……」
他の村人もぺたぺた触っているが、全くアルミラージは気にしていない。
相当人に慣れているのか、ご飯に夢中なのか……。
「事情はわかった。対価を貰えるなら構わない。しかし具体的に何をすればいいんだ?」
「それについてですが……しばらく、村に住まわせてはもらえないでしょうか?」
言いづらそうなカイを見て、俺はなんとなく察した。
これは丸投げの単身
「それも構わないが……。副団長の任はどうなるんだ?」
「しばらくアルミラージの育成に専念することになります」
「それでいいのか……?」
「もちろん、他に重要任務があるときは村を離れます。しかしアルミラージも大切です」
大切、という語をカイは強調した。
もちろん、カイにも色々と
アルミラージにどつかれたり、猛スピードで振り回されたり……。
しかしそれもまた、大切な思い出なのだろう。
「わかった。滞在を認めよう」
「ありがとうございます! ああ、良かった……認めてもらえて!」
「ニンジンが好評なようだからな」
実はカイの立場はかなり高い。
黒書騎士団は
だがカイの腰は低く、親切
まぁ、村にはもうコカトリスもいるしな……。
ふわもっこでラージなウサギが増えても大丈夫だろう、きっと。
そこにステラがすすっと俺の隣に移動してきた。
かなり真剣な
「……もう少し、ニンジンが必要かと思います」
すでにかなりのニンジンがなくなっていた。
どうやらアルミラージはかなり空腹だったらしい。
「ああ、わかった……。カイ、追加しても大丈夫か?」
「もちろんです!」
カイの様子を見たステラが少し首を傾げた。
どうやら何かを察したらしい。
「……? どうかされましたか?」
「カイとアルミラージが長期滞在することになった」
「これからよろしくお願いします!」
カイの
「こちらこそ──ふわもっこの楽園がまた一歩……です!」
ステラはアルミラージのあごの下をたぷたぷした。
アルミラージが嬉しそうに鳴き声を上げる。
「きゅーきゅー!」(素晴らしいにんじん生活の始まりだー!)

