教会の暗部。そう言われて多くのヒトが想像するのは『異端審問官』であり、彼等は表でも裏でも有名ではある。しかし、実態は違う。異端審問官はあくまで聖堂騎士の一部であり、本来は誉れある立場。異端者への教義尋問という名の拷問が目立つだけ。市井の者たちが思うような立場ではない。実のところ、正真正銘の教会の暗部には名などない。気付けばそこにいる。誰の隣にも。

 東方辺境地は魔族や魔物扱いの亜人種との交流もあり、教会の影響力は他の地域に比べると表向きは弱い。教会の権威が通じにくい場所だ。だからこそ、教会関係者は東方の地では、権威を振りかざすのではなく、地域に根ざした活動を行い、教義においての矛盾にも緩やかに目を瞑ってきた。他地域の教会関係者からは『東方教会』などと揶揄され、問題視されることもあるが、実際に東方を任地とする者や地元の民にはまるで響かない。特に問題がない。

 もちろん、それを面白くないと思う者たちもいる。

 結果として、東方に馴染んだ表立った教会関係者と、総本山から密命を受けて暗躍する者とに分かれた。当然、名もなき暗部は、表向きの教会関係者に存在が明かされることもない。

「……つまり、今回独立派と敵対しているのは、教会の密偵……潜んでいた者たちということですか」

「ええ。セシリーなら実務の中で知っているでしょう?」

 アルの助力を得る為にアリエルは情報を開示する。東方においての教会の在り方と、それを是としない勢力のことを。

「あぁ。……時折、民に愛される助祭様や修道士の方が行方不明になるような……明らかに教会絡みの事件もあった。そんな時には、密命を受けた〝外〟の教会関係者が実しやかに語られていた。そういう連中は、街の住民を装っており、義父上や治安騎士も手を焼いていたよ。殆どが犯人に繋がらなかったし、そんな連中は捕えてもすぐに自決する」

 東方における教会関係者の暗闘。時に治安騎士に混じり、事件に関わった際のことをセシリーは語る。

「教会の総本山からすると、元々東方地域は敵対勢力……異教徒の地って感じなのかも知れませんね。そこに、教会の一大事業である『託宣』を妨害する輩が集結していると……そりゃ向こうからしたら手を出してくるのも分からないではない」

「アルバート殿。向こうの行動に納得してもらっては困るのですが……」

 アルからすれば、完全に邪悪な敵の存在などあり得ない。敵には敵の道理があるというだけだ。

 彼が天秤にかけるのは、民への害悪を撒き散らすのはどちらか。流儀に反しないか。ただそれだけ。双方の陣営が掲げる、正義の熱量には興味がない。アルが思いを馳せるのは結果。どちらがより害悪か。

「ま、アリエル様と行動している僕についても、相手は標的と見做しているだろうし、今回の敵は〝教会の暗部連中〟としましょう。もちろん、僕が動く結果に関しては、アリエル様やダンスタブル侯爵家が責任を負って下さいね?」

「当然のこと。私はアルバート殿の行動と結果について、全責任を負いましょう」

 アルが内心でほくそ笑んだのは秘密。この場では、ヴェーラとヨエルが薄らと勘付いていたが……わざわざ口に出すこともない。

 アリエルは安請け合いをしてしまった。〈都貴族に連なる者〉としては迂闊としか言いようがない。

 もし、ブライアン・ファルコナー男爵と面識がある、アリエルの父……エイベル・ダンスタブル侯爵が事前にこのことを知っていれば、全力で止めた。必ずや止めていたとも。

『争乱に際して、ブライアン卿の息子を街に解き放つなど正気の沙汰ではない! その上、その行動と結果を保証するなどッ!!

 アリエルは早まってしまった。ほんの一日だけ。

 次の日、彼女は父との再会を喜んだのも束の間、即刻に叱責を受けることになる。

 彼女はファルコナーの逸話を父からの聞かされた時に思った。『アレでおとなしいフリだったの!?』『アイツやりやがったな!!』と。その内心は淑女には遠い。

 後悔先に立たず。彼女が自身の行動の不味さに気付いたのは、既に狂戦士が動き出した後のこと。


「アル様。東方における教会の確執をご存知だったのですか?」

 二人で街へ出て、すぐにヴェーラは確認する。どこまでが主の想定だったのかを。

 落ち着いた立ち話のようではあるが、二人の足元には三つの損壊した死体がある。早速のお出まし。教会の暗部は、思っていたよりも深くオルコット領都に根付いていた。

「まさか。そこまでは知らなかったよ。ただ、相手が教会関係者だとは考えてた。街に入ってから襲撃の素振りを見せた連中は、アリエル様を〝殺そう〟としなかった。未だに託宣に拘っているのは、教会関係者か、僕みたいに何らかの操作を受けている輩だろうからね」

 アリエルは託宣において『役割』がある。一行が領都に到着してから襲撃してきた連中は、アリエルを殺すのではなく、捕らえようとしていたことにアルは気付いていた。

 託宣を諦めていない連中。

 今から託宣の流れに戻すということは、東方の地で戦を起こすということ。

 神ならぬアルには、どちらが正解かは分からない。ただ、独立派は武力ではなく、王家との対話にて事の収束を画策している。戦が起きないならそれに越したことはないという常識的な判断を優先する。

「託宣を至上とする連中は、後世に禍根を残す。〝物語〟の先を認めないような輩はある程度退場してもらう。責任はアリエル様が負うと言ってるしね」

「それがアル様のお考え……確信ですか」

 もうアルには遠い記憶。前世。

 泥沼と化した紛争。お互いに正しさがあるが故に止まらない。止まれない。負の連鎖は子々孫々と続く。

 マクブライン王国には、そんな泥沼の紛争の歴史はまだない。……貴族家同士の世代を超えた諍いはあるが、それらは聖戦に非ず。あくまで利害のある争い。

 だからこそアルは警戒する。

『誰もが終わらせ方を知らない紛争』

 そんなモノが始まる予感。託宣を失った教会関係者は分裂するとアルは見ている。世の流れに迎合して、教義を緩やかに変えていく者たちが主流となるだろうが、託宣や元の教義を頑なに手放さない者も出てくるだろう。原理主義の台頭。教義や神のびゆうせいを信じ抜く者たち。

 前世は知らないが、この世界に神と呼ばれるモノが実在することをアルは知った。無謬性などない。全知全能の存在ではないことも知っている。神は普通に間違えるし、更に上位のモノに頭を押えられてもいる。

「ヴェーラには馴染みがないかも知れないけど、神が間違えることを認められない連中は、託宣を外れたこの世界こそが間違いだと断じ、女神の名の下に結束するんじゃないかな。そして世界を正す為の行動に出る……とか?」

 アルは語る。あくまで可能性の話だ。ヴェーラにはあまりピンと来ない。だが、これまでに感じたことのない、主の感情を察知した。

 それは恐怖。

「……アル様はそんな未来を恐れているのですか?」

「あぁ。僕は恐れている。〝物語〟だの、神子だの、クレア殿の目論見だの……そんな諸々よりも怖い。クソッタレな女神の名の下に、力無き者を巻き込むような泥沼の争いが起きることがね。ま、その流れを個人では止められないし、どうしようもないってのも分かってるけどさ。ただ、あまりに状況が酷くなるなら……もしかすると、腐った都貴族より託宣の残党の方が優先度の高い相手になるかも知れない」

 教会関係者にも言い分はあるだろう。託宣を守るのは敬虔な信仰心が高じてという者もいる筈。今の段階ではアルの妄想に過ぎない。

 また、信仰は指摘されるモノではない。この世界の女神は完璧ではないが……それはあくまでもアルの認識でしかない。そんな曖昧な根拠で、信仰に篤い者を説得するなど不可能だということは彼とて理解している。

 ただ、今回のオルコット領都においては、そんな葛藤の必要もない。暗部は暗部を知るのか……アルを既に危険因子として認識している。問答無用で向こうから襲ってくる有様だ。やられたらやり返す。至極単純なファルコナーの流儀で十分だ。

「アル様に作用しているという、〝物語〟の操作に反する気もしますが……その辺りは大丈夫なのですか?」

「今の所は問題ないかな? クレア殿への敵意とセシリー殿やダリル殿への庇護欲くらいだ。つまり、教会関係者への配慮はなしでいい」

 大義名分と免罪符を手に、己自身の意図を持って、狂戦士がオルコット領都を征く。


 オルコット領都において、ある日を境に行方不明者や死亡者が続出する。

 ある者は善良な木工家具職人。妻と二人の子。愛すべき家族に囲まれていたが、突然にいなくなってしまう。

 ある者は商店の番頭。大商家から店を任されていたが、同じく突然に行方不明に。後ろ暗い噂もない清廉潔白な男であり、何らかの事件に巻き込まれたと考えられた。そして、その不吉な予感は的中し、二日後に教会の共同墓地にて遺体が見つかる。胸元が大きく損壊しており、一目で致命傷となる一撃を受けたと判明した。しかし、どうにも不思議だったのが、荒事などしたことがないという男の手には、毒の塗られた針があったこと。

 ある者は酒場の歌姫であり、身寄りのない子供であり、良家の娘であり、教会の修道士もだ。

 行方不明や遺体として発見される者に共通項が見当たらない。無差別だと街の者は恐れ慄いた。

 貧困層向けの集合住宅の一棟が丸々焼け落ちる火事があったり、身元不明の複数の遺体が路地に放置されていたりと、不穏な出来事は続く。

 そして、遂には〈貴族に連なる者〉……魔道士として戦える者すらもが犠牲となる。

 ただ、住民が一番に首を傾げたのは、治安騎士の捜査についてだ。初動で駆けつけるものの、その後は一向に捜査の進展がないまま。時には教会の聖堂騎士団もが動員されたが、結果は同じ。沈黙する捜査機関。不安にかられた住民が詰め寄るも、騎士は苦虫を噛み潰したように押し黙るだけ。

 噂が街を駆け巡り、人々は口々に『不審な影を見た』『誰それが怪しい』『騎士様に圧力を掛けるなら貴族か?』『まさか領主様ではないだろう』……などなどの言葉が飛び交う。

 密かにナニかが起きているのだと……皆がそんな想いを共有する頃。

 とある貴族家の邸宅から火が出て、瞬く間に邸宅が全焼した。

 その焼跡から、行方不明だった者や身元不明の者を含め、二十以上の遺体が見つかったのだ。また、燃え残った地下室は女神の聖堂を模した造りであり、その場には明らかに高位の聖職者と思われる者たちの遺体も発見される。

 発見時は、これは悪魔崇拝か!? ……と、不穏な情報も流れたが、調査の結果『真っ当な聖堂であり、れっきとした聖職者』と声明が出された。ただし、遺体の身元……結局どこの誰で、どのような立場だったのかが公表されることはないまま。


「くそッ! 何なんだ奴等はッ!?

「拠点を一つ失ったのも痛手だが、それ以上に手の者が次々に殺られている。今回召集していない者まで……」

「独立派への工作どころではないぞ? ……正規の聖堂騎士を巻き込むか?」

「馬鹿な! 我らが何の為に街に溶け込んでいると思っているのだ!?

 喧々諤々の様相。

 この集まりを知らぬ者が見れば、彼等が聖職者だとは思うまい。

 一張羅を身に纏う街の名士風の者、筋骨隆々な鍛冶職人、制服を着崩した治安騎士、貧困層の継ぎ接ぎの装いの者。

 まとまりのない集団。秘密の会合であり、踏み込まれたことを考え、すぐに脱する為に普段の役割のままに集まっている。

 彼等は皆が敬虔な女神の信徒。名もなき暗部ではあるが、指揮系統の比較的上に位置しており、司祭以上の位階を与えられている。当然の如く〈戦える者〉で構成されており、魔道騎士やオルコット家の私兵などに後れをとる者はいない。

「手練ればかりをかなり減らされた。もはや活動を維持するだけで手一杯だ。後方支援の者まで数人殺られているし、情報が漏れているとみて間違いない」

「問題はどこまで漏れているかだ。流石にここの情報は我らしか知らぬから大丈夫だろうが……安心はできんぞ?」

「くッ……! 背信者を目の前にしながら、より深く潜まねばならぬとは……ッ!!

「口惜しいが……致し方あるまい……」

 暗部の中でも、情報と人員を取りまとめる側の者たちが、一連の痛撃により引き下がることを選択せざるを得ない。彼等は、長い者では一族郎党代々で東方に潜む者もおり、一族が丸ごと教会の暗部という場合まである。普段は善良な民として街に溶け込んでいるが、暗部として、有事の際の心得を忘れることはない。用心深く、引くべき時は引く。当たり前のことが当たり前に徹底されていた。

「……我らの班は、此の度の争乱からは手を引く。良いな? この件に関しては、他の班にも最低限申し送りを頼むぞ」

「承知した」

「……同じくだ」

「後は推移を見守るだけか……」

 溜息と共に皆は引き際を共有した。だが、彼等の判断は遅かった。早まってしまったアリエルの判断と、足して二で割れば良かったのかも知れない。少なくとも、この一日を凌げばアリエルの『お願いだから一度止まって!』という懇願がアルに届いた。

 彼等が秘密の会合を開いていたのは、なんの変哲もない一軒家。少し変わっているのは、即座に逃げられるようにと窓が少し大きめに設計されているくらい。特別に人の目を引くほどでもない。

 集まっていたのは暗部の指揮を執る側の者たち。当然にアルが狙わない筈もない。むしろ、彼等を引き摺り出す為に派手に動いていたとも言える。

「アル様。とりあえずはこれで一段落ですか?」

「ああ。アリエル様も自分のミスを取り返そうと必死だ。僕らを捕まえようと躍起になってる。……流石にこれ以上逃げ続けたら不味いだろうさ」

 己の迂闊さに気付いたアリエルは、早急にアルを捕まえる為に動く。『改めて話をしよう!』……と、それを面と向かって伝える為にだ。

 だが、アルは逃げる。捕まらない。するりとアリエルの包囲を抜けていく。土地勘もない不慣れな地でありながら、逃げ回りつつ〝敵〟を順調に減らしていく。多少の無茶をしたとしても、その後始末について自分で考えなくて良い。アルとしては気が楽だ。

 一向に捕らえられないアルとヴェーラ。その間、オルコット領都では日々事件が起こる。

 ヒトが死ぬ。消える。建物が燃えるし倒壊もする。教会の密偵が洗い出されていく。時にはわざとらしく、教会の暗部と通じている貴族や商家の不正や汚職の証拠までもが出てくるという、憎らしい小細工まで。

 アリエルは早々に自身の責任だけでは到底足りないと判断。恥を忍んで、父であるエイベル・ダンスタブル侯爵に頭を下げ、オルコット子爵家にも詫びを入れ、治安騎士や聖堂騎士にも手を回す。

 彼女の必死の捜索を受ける身となったアルとヴェーラだが、そんなアリエルの動きを嘲笑うかのように、知らぬ存ぜぬと逃げ回る……が、今回でとりあえずの仕上げ。

 これ以上はアリエルがキレる。ダンスタブル侯爵家とオルコット子爵家が本気で介入してくる。アリエルにとっては業腹ではあるが、アルはそんなギリギリの見極めも上手い。その上で今回についてはご丁寧にヒントまであった。

「(ま、流石にこれ以上は、ダンスタブル家の見張りの者も見逃してはくれないだろう)」

 アリエルの手勢ではない。ダンスタブル家の……当主直々の手勢が自分たちを捕捉していることにアルは気付いていた。彼自身の見極めに加え、見張りの者から『そろそろ当主と話をしてくれ』というメッセージを受け取っている。切り上げ時だ。

 一軒家を見下ろす場に位置取る二人の狂戦士。

 官憲をダンスタブル侯爵家やオルコット子爵家が押さえている以上、自分の居場所を知らせる為に派手にやる。

「ヴェーラ。一応後詰めを頼むよ」

「分かりました。回り込んでおきます」

 即座にヴェーラの気配が消える。逃がすつもりはないが、念には念を入れる。ヴェーラの後詰めの有無でアルも安心感が違う。血生臭い信頼がそこにある。

「(ま、アリエル様は当然として……故郷を荒らした訳だし、セシリー殿にもちょっとは怒られるかな?)」

 そんな益体もないことを考えながらも、アルは既に死を振りまく準備を完了している。

 ほどなくしてヴェーラが配置につく。教会の暗部の四人が、生きて会合場所から出てくることはない。

 その日、オルコット領都の住宅地の一部に『銃弾』の雨が降った。


「……かつての自分の愚かさと、当時の恐怖を改めて思い出すな」

 半壊した家屋を前にエイダは独り言つ。眼がキマっている真顔のアリエルから頼まれ、彼女はセシリーや治安騎士と共にアルたちの捜索に加わっていた。

『我等が多少探したところで、本気で潜むアル殿たちを捕捉するのは無理だ。向こうから接触してくるのを素直に待つ方が得策だろう』

 内心でそう思いつつも、日に日に悲愴な顔になり、アルたちの後始末に奔走するアリエルを前にエイダは一切の言葉を飲み込んだ。今のアリエルには軽口も洒落も通じないことを察した。

 気乗りしない捜索の日々だったが、ある日、街中の一角で轟音が響く。エイダはすぐに気付いた。『アレはアル殿の魔法だ』と。

 それは自らの居場所を報せる為のもの。訝しむセシリーや警戒が先に出る治安騎士を余所に、先行して様子を確認に来たエイダだったが……そこには思った通りの光景が広がっていた。

 半壊の家屋。その瓦礫の下には、ズタボロの肉片と化した思われる死体が複数。

「一番乗りはエイダ殿か。早いね」

「……気配を消したままとは趣味が悪いな」

 エイダが気付いた時には、すぐ横にアルが立っている。

「(……あの時の私は、よくこんな化け物相手に命を繋いだものだ……)」

 エイダの胸に去来するのは虚しさ。もはや彼女はアルに対しての隔意はない。あるのは畏敬の念のみ。ただ、己の愚かさにより、命を落とす結果となった友への罪が疼く。

「……アリエル殿がかなりキテいたぞ。独立派の頭である父君にも、かなり厳しく叱責を受けていた。……美しい貴族の御令嬢が、髪を振り乱して指示を出す姿は流石にな……」

「はは。悪いことをしたね。でも、元はと言えばアリエル様の迂闊さが招いたことさ。都貴族同士の駆け引きは巧いのかも知れないけど……何故か、彼女は僕に出し抜かれるという想定をしてなかったみたいだからね」

「……あまり辛辣に言ってやるのもどうかと思うぞ? それだけ貴殿を信頼していたということだろう?」

 アルはアッサリと『出し抜く』と口にする。はじめからそのつもりだったと。

「ま、一度言質を取ったからね。今回はここらで一旦切り上げるさ」

「(エゲツないな。今回はということは、まだまだアリエル殿に責任を負わせつつ、好きに暴れる心算があるということか……。戦士に二言はないという言葉もあるが、こういうのを目の当たりにすると考えさせられるな。ヒト族の貴族社会なら猶更か……)」

 遅ればせながら、セシリーや治安騎士が姿を見せるが……そちらに対しては、いつの間にか現れたヴェーラが物腰柔らかに対応している。

 オルコット領都に血生臭い暴力を振り撒いていた張本人。犯人。とうとうアルたちは捕捉された。

 アルとヴェーラが、アリエルに責任を押し付けつつ姿を消して、実に一ヶ月近くが経過していたある日のことだ。

 その後、再会したアリエルがどこかやつれ気味で、目の下の隈が酷かったのを敢えて無視し、アルは輝くような笑顔で声を掛ける。