「うん、甘い!」

「こりゃうめぇな。ただ石で焼いただけでこんなに甘さが変わるとは思わなかったぜ」

 セージとギルが感嘆の声を上げる。

 二人はマーフル洞窟に近いドラルの村、その村長の家の庭で焼き芋を作って食べていた。

 今日はマーフル洞窟の魔物せんめつ作戦の翌日の休息日。

 ルシールは村長とカテ峡谷のばしやその先の薬草の群生地にある素材について話があり、騎士たちはカテ峡谷に村人を連れていく班と、明日領都に戻るための準備をする班に分かれている。

 セージは、生産職のランク上げをするために持ってきていた素材もなくなり暇になったので、村長から芋を分けてもらって焼き芋作りの実験をしていたのだ。

「やっと成功しましたね。これが食べたかったんですよ」

 焼き芋は意外と難しく、生焼けだったり焦がしてしまったりして失敗が続いていたのだが、石焼き芋にしてようやく成功したのである。

 ドラルでは芋は野菜という位置づけであり、鉄鍋で煮たり焼いたりするのが一般的だ。

 まるごと蒸した芋はおやつとして定番だが石焼き芋はなかった。

「食べたかったって、前はどこで食べたんだよ。ドラルの芋がここまで甘くなったのは最近のことだって聞いてるぜ」

「えっ? そうなんですか?」

「今の村長が改良したらしいな。ほら、村長の家系が戦士をやってんのに村長は強そうじゃねぇだろ? ありゃ、芋の改良って成果があったからなんだってよ」

 現村長は体格に恵まれなかったため、戦士として大きな活躍はできなかったが、その代わりに農業に力を入れていたとのことだ。

「へぇー。そうだったんですね。知らなかったです」

「セージ、何をやっているんだ?」

 ちょうど会議を終えて出てきたルシールが話しかける。

 ギルの問いにいい答えが思い浮かばないため、セージはすぐにルシールへ向いた。

「あっルシールさん、ちょうどいいところに。ルシールさんも食べてみてください」

「おっ、いいのか? それじゃあ遠慮なくもらおうか」

 ルシールはセージから受け取った焼き芋をそのままかじる。

 そして、目を丸くしてもう一口食べた。

「うん、これはしいな。領都でもるんじゃないか?」

「石焼き芋屋……ありですね」

 真剣な表情で言うセージにジトッとした目を向ける。

「ちょっと待て。店を開くつもりじゃないだろうな。忘れてないか? セージは研究所の所長だぞ。薬の研究をしてくれ」

 現在のセージの肩書はラングドン家の研究所長だ。

 セージが住んでいた町ケルテットから北にある町に出現した魔物の群れを討伐する時、高品質の回復薬を供給した縁で所長になったのである。

 ただ、実際に研究所で活動していたのは、一日にも満たない。同じように副所長になったハーフエルフの薬師トーリに丸投げであった。

「そうでした。ちゃんとしますよ? まさか所長にされるとは思いませんでしたけど」

「あぁ、私もスライムに追われていた少年がこんな風に成長するとは夢にも思わなかったな」

「スライムに追われていたって懐かしいですね。考えてみると今まで大変でした。スライムの後はワイルドベアにも追われましたし」

 スライムに追われたのは五年以上前のことになる。

 その時セージは転移してきたばかりでスライムにすらちできなかった。

 そして、ワイルドベアにもひんにさせられていたのだが、ルシールはワイルドベアの件を知らないため首をかしげる。

「ワイルドベア? 今のセージなら余裕だろうが、いつの話だ?」

「あの時は六歳でレベルも6でしたね。それに上級魔法も知らなかったんですよ。もう死ぬかと思いました」

「おいおい、よくそれで生きてたな」

「たまたま僕を探していた冒険者の人たちに助けられたんです。本当に運がよかったですね」

「この前言っていたエルフの魔法使いのことか?」

「そうです。エルフはヤナさんといって、カイルさんって人族がリーダーのパーティーで、高品質の回復薬が欲しくて僕を探していたみたいです」

「高品質のものなんてめっに見ることがないから当然だろう。ラングドン家としても、それが欲しくて研究所に呼んだんだからな」

「ケルテット北の町での魔物殲滅戦ですね。あれからまだ十日程度しかってないんですよね。結構前のことのようにも感じるんですけど」

「確かにそうだな」

 ルシールとしても、セージと再会してからの日々が濃密で、まだそれほど時が経っていないことが不思議に思えるほどだった。

 魔物殲滅戦と聞いて、ギルが思い出したように言う。

「あの時は大変だったよなぁ。まさかキングリザードマンが出てくるとは思ってなかったぜ」

「そうですね。僕はリザードマンに追いかけられていましたけど。マーフル洞窟の魔物を殲滅していたら子虎に追いかけられましたし……」

「ずっと追われてばかりじゃないか」

 ルシールはあきれたように突っ込んだ。

「うーん。思い出してみるとそんな記憶ばかりなんですよね。普段のランク上げの時も逃げ回ってましたから」

「なにか前世で悪いことでもしたんじゃないのか?」

「いや、そんなことはしてないですよ? いたって真面目に暮らしていましたし」

「んっ? 真面目に暮らしていた?」

 セージは前世のことをつい答えてしまい、慌ててす。

「あっいや、なんでもないです。とりあえず、せっかく石焼き芋ができたので、ドラルの人に提案してみましょうか。石焼き芋屋やってみませんかって」

「本当にやるのか? まぁ、一応村長に提案しておいてもいいか」

「すぐに提案しましょう。僕は明日帰ってしまいますし」

 ルシールをけつつ、誤魔化せたことにホッと一息つくのであった。