「もう一名については、今は専属という形ではなく、必要に応じ都度手を借りたく思います。既に定期大会の運営要員として、皆には手を貸してもらっていますし」
「元々タクヒールが、射的大会の運営のため見つけて来た子たちです。貴方! 当然ですよね?」
母さまは、ちゃんと父を追い込んでくれる。感謝!
「も、も、もちろんだとも。ただ、何人かは魔法士としての戦闘訓練に参加してもらいたいと考えているが、その点、お前には異存はないな?」
「はい、もちろん当然のことと考えます。そのあたりは本人の適性に応じて、差配はお任せいたします。バルトの件で父上にお願いしたいことは、信頼のおける交易商人、特に北の隣国、この国にない海の沿岸部で交易を行っている商人を、ぜひ紹介いただきたく思っています。また、交易商人に対してバルトの同行を願う際、父上からの依頼、といった形で商人にお話しいただけませんか? 本日の私のお願いは、この三点です」
そう、商人を信用していない訳じゃないが、俺からの依頼では全く重みがなく軽すぎる。
商人男爵の異名を持つ父からの依頼となると、商人たちもきっと無下にはできないはずだ。
「それは構わんが、タクヒールよ、お前は何を始める気だ?」
「海辺にある、打ち捨てられている素材を使って、このエストールの大地を豊かにする算段です。それをこれから試すために、彼の力が必要です」
「ふむ、面白そうだな。その素材が入手できたら私にも報告すること、結果を全て共有すること。それが口添えの条件だな」
「勿論です。ご了承いただきありがとうございます」
まぁ、牡蠣殻を収集する目的は他にもあるのだけど。それについては、おいおい後ほど……。
元々交易に才のある父と、好景気に沸くエストール領、この二つの理由で商人の出入りも多い。
そのため、ほどなくしてある交易商がバルトの同行を認めてくれることとなった。
そしてある晴れた日、領主館付きになった魔法士の仲間たち、受付所のみんな、射的場関係者、孤児院の仲間たちに見送られ、バルトは交易へと旅立っていった。
見送るために俺の周りに一緒にいるのは、これから俺の目論見を進める大切な仲間たちだ。
一気に走り出してから、やっとここまで来たと思うと、凄く感慨深かった。
交易に出たバルトには、大きく三つのことをお願いしていた。
そのために、それなりの数の金貨も彼に預けている。自身の判断で使って構わないと伝えて。
・ひとつ、牡蠣殻を収集すること。
これは最優先の依頼として対応し、海辺の町などで捨てられている牡蠣殻を回収することだ。
可能な限り多くを。それに対価が発生しても構わないので、先ずは量を集めることを優先する。
・ひとつ、穀物の種を収集すること。
これはできる範囲での依頼であり、領内で栽培されていない種類の穀物の種を入手することだ。
その中に、特に米が有れば優先して収集し、併せて栽培方法を確認することも申し添えていた。
・ひとつ、芋を収集すること。
こちらもできる範囲での依頼だが、領内では栽培されていない種類の種芋を収集することだ。
もちろん、その栽培方法も併せて確認してもらう。
バルトに説明した後、俺は意外な落とし穴があることに気付かされた。
「タクヒールさま、牡蠣って何ですか?」
「えっと、海の岩場や岸壁のいたる所に張り付いている平らな貝で……」
「申し訳ありません……、その……、貝ってなんですか?」
「!」
海を知らない者なら当然の疑問だった。そもそもカイル王国は海に面しておらず、海なし国だ。しかもエストール領は、海の方向とは正反対の位置の、山側にある最辺境なのだから……。そもそも海を見たことがある者が皆無、そう言っても差し支えないぐらいの状況だった。
俺自身、絵を描こうにも牡蠣の絵って意外と難しかった。個体によって形が全然違うし……。
見たこともない牡蠣について、バルトに説明するのに相当苦労したが、幸いにも同行する交易商人が知っていたので助かった。彼が道中、実物を見せてバルトに教えてくれることで解決した。
あと、往路は何も運ぶものが無いので、自由に空間収納を活用して構わないとも伝えていた。
米はもちろん、いつか叶えたい俺の願望! もうそれは熱望と言った方が良いかもしれない。
この世界でも、いつか白米のご飯を食べること、それは俺の夢だ。青竹を飯盒にしたご飯だって食べてみたい。運よく米が入手でき、エストール領で稲作ができればそれこそ最高だ! ただこの世界に米があるのか、入手できるかどうかも分からない今、この優先度は低い。
バルトに対し、米を説明することも難しかったので、穀物なら何でも良いからと表現を変えた。
そして芋! これは食料事情の改善に大きく寄与するものだ。
カイル王国内でも、北部地域では芋の生産も行われており、食料として活用されているが、中央から南部一帯ではまだ馴染みがなく、エストール領でも芋は、一部を除きあまり浸透していない。
荒地でも育つ芋、いろいろな気候に適合した芋など、ジャガイモやサツマイモ、タロイモなど、多種多様な芋が見つかれば良いのだが……。それらが、テイグーンの土壌でうまく育てば最高だ。
芋についても、同行する商人が詳しく知っていたので、道中で見掛けたらその都度教えてやってほしい旨をお願いしていた。俺自身がこの世界で読んだ書物や交易商人の話からも、数多くの種類の芋が存在することは確認している。良い種芋が見つかれば活用方法の案もバルトには伝えている。
それは孤児院や学校など、子供たちの手で栽培を進め、収穫物が彼らの収入となる仕組みだ。
牡蠣殻も、米を始めとする穀物も、そして芋も、全てが何年か先のための大事な布石となる。
今はまだ、そのための準備で俺たちは動き出したばかりだ。今後、バルトの活躍次第で六年後、九年後の未来はきっと変わるはず。俺はそう考えていた。この交易は、そのための第一歩であり、やっと踏み出せたものだ。よくよく考えてみると、様々な作戦はあるが、それら全部がまだ第一歩、またはその準備段階であり、足さえ踏み出せていないものもある。
「まだまだ先は長いな……」
思わず呟かずにはいられなかった。その割に残された時間は少なく、刻々と減り続けている。
「必ずや成果を持って帰ってきます!」
バルトは無事の帰還を祈る皆に、何度も手を振って旅立っていった。
バルトを送り出した後、益々盛り上がる射的場の利用や次の定期大会、登録者の増加を受けて、魔法士候補者の洗い出し、洪水対策など、俺たちが立ち止まり休息を取る時間は、まだなかった。
次回の魔法士適性の確認は、もう少し目立たぬよう候補者の選定と囲い込みを進めてゆき、時期が来たら一気に行うつもりでいる。
そうそう、年に一度の最上位大会、この企画や賭け事(お金儲け)の仕組みも考えないといけない……。多分一年なんてあっという間だろうし。
ここ最近、忙しくしているせいか月日の流れがすごく早い気がするな……。
俺は机に向かいぶつぶつと独り言を言いながら、構想を練るためにペンを走らせていた。