第二十六話 第一回定期大会(カイル歴五〇三年 十歳)

俺の人材収集が進む中、定期大会も本番の日を迎えた。

「これより第一回定期大会を開催する。皆、日頃の鍛錬の成果を存分に発揮してほしい」

父の挨拶で開始された第一回の大会は、予想以上の申し込みと参加者で賑わっている。

あまりの参加者の多さに、大会は三部制とした。

「何故大会を三部制にするのだ?」

「開催の目的には、優秀な領民から弓箭兵の発掘することもあります。兵士たちは常に訓練で技術を磨いており、一緒に開催すると差が有り過ぎる、そう考えて配慮しました」

父の質問に俺はそう答えるしかなかった。

実は領民の部で魔法士の候補者を際立たせたい、このことが主な理由だったが……。


◇参加者の構成

兵士の部 参加者一〇〇名

領民の部 参加者三〇〇名

若者の部 参加者一〇〇名


兵士の部は、騎兵、歩兵(専業、兼業)を含め、ほぼ全員が参加を希望していた。

だが規模が大きくなり過ぎることと、現実問題として兵士を全てエストに集め大会に参加させることは不可能であり、彼らには月ごとに交代で参加してもらうことで折り合いをつけ、無理やり数を百名にした。

領民の部も、今回参加できなかった者は、翌月に優先的に参加できることにして三百名にした。

若者の部は十五歳以下であれば、誰でも参加できるようにした。


エストの街は、他の町や村から来た参加者、見物客などで大賑わいとなった。

予想外の申し込み数で賑わいが予想されたため、射的場の一部を急遽改築することで対応した。

会場の周りには臨時で観客席も設けられ、露店も立ち並び、正にお祭りの様相になっていた。

本来は俺が全ての運営を行う予定だったが、あまりの参加者の多さから、実行委員長は父が、運営統括はレイモンドさんが務め、兄と俺は実行委員として走り回っていた。

「あら、彼らも頑張ってお仕事しているのね」

実行委員下部組織の運営要員として、一生懸命走り回っている青年や少年、少女などの子供たちがいることに、微笑ましく目を細める住民も何人かいた。

もちろんそのうちの何人かは、リスト情報を元に、俺が射的場や各方面から新規採用スカウトした魔法適性があると思われる者たちだ。

候補者と同じ年齢で名前も同じだが、全くの他人という可能性は、気にしないことにしている。

まずは仕事を与え、仲間として囲い込んでから、次の段階に進めば良いだけだ。


「先ずは、双頭の鷹傭兵団による射撃をご覧ください」

兄の案内とともに、大会はヴァイス団長率いる双頭の鷹傭兵団の演武射撃から始まった。

彼らも情報秘匿のためエストールボウではなく、競技で使う改良型クロスボウを使用している。

「おおっ、素晴らしい!」

「キャー、恰好いい!」

さながら弓騎兵のごとく、騎馬に乗りながら行われる射撃は、次々と的に命中していった。

他にも動く目標への射撃など、観衆は手を叩いて彼らの妙技に魅入っていた。

日頃から訓練で魔境に出入りし、実戦経験豊富な傭兵団の射撃はまさに圧巻だった。先の戦い、サザンゲート殲滅戦で名を挙げたこともあり、傭兵団の人気は凄まじく何度も大きな歓声があがる。

観衆の中からもきっと、今後傭兵団に入団を希望する者が出てくるんだろうなぁ……。

俺自身、見ていてそう感じたぐらいだ。


次に若者の部を開催した。

参加者全員に参加賞で乾麺が配られ、一定の得点を超えれば、優秀者には賞金も用意している。そのため、予想より多くの少年少女が参加することになった。

十五歳以下は全て若者の部での出場となるが、参加条件に、クロスボウの弦を自身で引き絞れること、そう規定しており、兄と同世代か、その少し上の年齢の参加者が大勢を占めていた。

そして驚くべきことに、若者の部参加者の中にも、大人顔負けの腕前を披露する者たちがいた。

「団長、彼女はうちの弓箭兵と比べても、極めて優秀じゃないかね?」

「そうですね、私は彼女と腕を競っているあの少年、できれば傭兵団に招き入れたい。そう思って見ておりました」

父、ソリス男爵とヴァイス団長は、当初は所詮、若者こどもたちの部、と気楽に眺めていたようだが、予想外の優秀な技量を目にして、青田買いを目論む衝動に駆られだしていた。

実はこの若者の部にも、魔法適性があるであろう候補者が参加者に混じっている。

父と団長が話していた二人の少女と少年だ。

まだ本人達も気付いてないが、彼らは風魔法士としての適性を持っており、射撃の腕も抜群だ。

俺は候補者リストと射的場の登録者情報を元に、この大会の開催前からずっと網を張っていた。

彼らが射的場を訪れるのを待ち、やっとの思いで出会えた時は、迷わず声を掛けた。

そして二人に、今回の大会参加を促していた。


一人はエストの街に住む少女で、カーリーン十四歳。

彼女は父親と一緒に、いや父親の娯楽に付き合わされて射的場を訪れていた。その時から彼女は飛び抜けた実力を持っており、彼女の父親は、娘が得た景品をいつも嬉しそうに持ち帰っていた。彼女は当初、定期大会への参加意思は無かったが、俺の勧誘を受け参加を決意してくれた。

もう一人は狩人の息子でクリストフ十五歳。

魔境で魔物を狩る狩人である父親に師事し、既に幾度かは実践で狩りにも出ていた少年だった。どこかで見たことのある顔だったが、それがいつ、どこでだったかは思い出せなかった。なので、もしかすると前回の歴史で、彼とは接点があったのかもしれない。

本人は領民の部での参加を希望していたが、大会規定のためやむなく若者の部に参加していた。もちろん彼にも事前に声を掛けている。


二人は順当に予選を勝ち進み、決勝では天才的ともいえる射的の腕前を披露し、観衆はみなため息を漏らしていた。二人の腕前は甲乙つけ難く、異例の同時優勝となった。

「この二人の優勝者には、賞金の授与と、特例として決勝大会への参加を認める」

父の宣言に、観衆は一斉に大きな拍手で歓迎した。

本来、若者の部では、決勝大会に進む資格はないが、余りにも優秀だったため惜しい、父もそう思ったのだろう。そしてそれは、大会を見守る観衆たちも同じ気持ちだった。


熱狂も冷めやらぬ中、領民の部と、兵士の部の予選が開始された。

さすがに兵士の部はレベルが高かった。

だが領民の部でも、兵士の部に負けないぐらいの腕前を披露する者も出てきていた。そして、日が暮れる前には、翌日の決勝大会へと駒を進める者たちが確定した。

なお、決勝大会は領民や兵士なども関係なく、一括で実施され、各部それぞれで本選に勝ち進んだ十名ずつが参加することになる。

初日はここで終了し、若者の部優勝者への賞金授与式で幕を閉じた。

カーリーンとクリストフは、大人顔負けの優秀な成績を残し、父からは領民一か月分の稼ぎ相当の報酬が授与されていた。この様子を見て後日、射的場に通う少年少女の数が一気に増え、親たちも積極的に通わせるようになったのは、俺自身が思ってもみなかった嬉しい誤算だった。


翌日は決勝大会が行われた。

兵士の部から十名、領民の部から十名、若者の部から二名の計二十二名が参加していた。

実は決勝大会ではちょっとした意地悪もしている。これまでは全ての標的が静止目標だったが、決勝大会では一部の的が動く仕掛けを作っていた。更に、静止目標についても、目標までの距離を実戦に合わせた想定とし、通常射的場にある目標と比べて遠い、中距離射撃に変更されている。

「くそっ! あのように動く的では狙いが付けられんっ!」

『……、そうですか? でも当ててくださいね。だって敵は動きますから』

「こんなの聞いてないっ」

『……、はい、事前に言ったら勝負になりません。戦場では何が起こるか分からないでしょ』

「こんなの、練習場には無かったぞ!」

『……、もちろんです。あくまでも練習と実戦は違いますし。その想定ですからね』

「こんなの……、当てられる奴がいるのか?」

『……、きっといると思いますよ、多分。逆にいないと少し困りますが……』

決勝大会の参加者からは、苦渋に満ちた声が至る所から聞こえていた。

俺はその叫びにも似た声に対し、都度心の中で答えていた。

「だって実戦では、敵は止まってくれないもんね」

俺はどこ吹く風、と言わんばかりに参加者たちの嘆きに満ちた声を聞き流し、最後に呟いた。

予選を勝ち抜いた強者たちが悪戦苦闘するなか、実戦の経験もあり、日頃から訓練を受けている兵士たちは、それぞれ安定した成績を残していた。

領民の部からの参加者、街の射的場でしか練習をしたことのない者は、決勝で大いに苦戦した。

そして、優勝は兵士の部を勝ち進んだ者が制した。

元々彼は解散した弓兵部隊出身であり、そもそも経験値や技量の底力が他の参加者とは違う。

だが、準優勝は領民の部から出た! 観衆は彼の成果に大きな拍手と歓呼で迎えた。

ゲイルという名の男性だが、実は彼も風魔法士の適性があると思われる候補者のひとりだ。

そして若者の部から出場したクリストフは、なんと三位に入る好成績を残していた。

四位以下は兵士の部出身者が続き、八位には領民の部出身者、九位にはカーリーンが入った。

カーリーンは、静止目標までは上位三名に入る成績を残したが、慣れない移動目標で苦戦し点数を落としてしまっていた。逆に、日頃から狩りで腕を磨いていたクリストフは、移動目標でも遺憾なくその実力を発揮していた。

大会が終わり、上位十名のうち、優勝者を含め六名が兵士の部からの参加者だったが、結果からみると、兵士以外の者が大健闘したといえ、領民の技量もある程度満足できるレベルに成長しつつあることが窺えた。

こうして、第一回射撃大会は大いに盛り上がり、エストール領の領民にとってほぼ毎月行われる恒例行事、お祭りとして定着することとなった。この大会の期間中、父はちゃっかり商人達とやり取りしながら、特設店舗、大会に合わせた市の開催など、商機を掴むことにも余念がなかった。

娯楽の少ないこの世界では、貴重な娯楽機会として領民に定着する確かな手応えを、俺も父も、今回の大会を通じて知るよい機会となったのは言うまでもない。


「今日は二人とも素晴らしい成績だったね」

二日目の表彰と賞金授与式が終わった後、俺はクリストフとカーリーンに声を掛けた。

ここからが俺にとっては勝負の瞬間だ。

「ありがとうございます。優勝こそできなくてとても残念でしたが、これもタクヒールさまが参加を勧めてくださったお陰です。俺は領民の部に出られなくて拗ねていましたので……」

「私もここまでできるなんて……、思ってもいませんでした。でも、移動目標は散々だったので、また参加して次は優勝を狙います!」

それぞれが、一定レベルの結果への満足と、悔しさの混じった顔で答えてきた。

ここで俺は、本来の目的であった話を、彼らに切り出した。

「この大会は今後も継続して開催予定なのは知っていると思うけど、実は二人にお願いがあって。二人にはこの先、実行委員としてもっと深く、大会運営に関わってほしいと考えているんだ。今後は仕事として正式に、俺たちと一緒に働いてほしいと思っているのだけど、お願いできないかな? もちろん、今後も大会参加はできるし、空いている時間は自由に射的場を使って構わないよ。こんな特典しかなくて申し訳ないけれど、できれば色々と力を借りたいと思っているんだよね」

そう言って俺は、少し緊張しながら二人をじっと見つめた。

二人は少しの間沈黙していたが、先に答えたのはカーリーンだった。

「こんな私でも、その……、大丈夫でしょうか? お仕事をいただけることは、凄く嬉しいですし、私が働けば家族の支えにもなります。私でよければ喜んでお手伝いさせていただきます!」

クリストフはカーリーンの回答に釣られるように答えた。

「俺でお役に立てるのでしたら……、俺は狩りしか知りません。なんの知識もない俺が、男爵家の役に立てるのでしょうか? そこは自信がありませんが、ここが自由に使えるのは正直言って、とても有難いお話です。狩りの訓練にもなり、次回こそは一位を目指したいので……」

「二人とも、もちろんです! お願いしたい仕事も沢山あるし、これからも是非よろしくっ!」

二人の魔法適性を持つ領民が取り込めた瞬間だった。

彼らが去ったあと、俺は一人、大きなガッツポーズを取っていた。