「我々には、敵だけでなく味方すら予想もしていない、圧倒的に優位に立てることがあります。

第一に、地魔法を駆使し、陣地構築に長けたコーネル男爵の軍勢が我々と共にあること。

第二に、わが軍は全て、総勢四百名の兵士がエストールボウを装備し、弓箭兵となること。

第三に、新たに編成できた二百騎の騎兵戦力があり、打撃戦力を持っていること。

そして最後にもう一つ、秘匿戦術もあります。なのでそれなりの戦いができると思っています。幸いにも、味方の左翼を率いるのは、勇猛で名を馳せたキリアス子爵軍です。戦機を見るに敏な、子爵軍がこちらの攻勢に応じて、左翼側から敵を半包囲すれば戦局は一気に逆転します」

そう、前回の歴史とは異なり、今回の世界ではソリス男爵軍には前回なかったものがある。


・ソリス男爵軍には、常勝将軍と呼ばれた戦いの天才、ヴァイスが傭兵団を率い参加している

・ソリス男爵軍の全兵士には、長射程で鉄騎兵の装甲を貫くエストールボウが配備されている

・そして、前回の歴史と比べ格段に増えた騎馬戦力がある


軍略の天才でもあるヴァイスの采配は、多少の不利など覆すだろう、戦場にいないタクヒールらを安心させるほどの、不思議な安定感があった。更に彼は、タクヒールから戦場で起こるかも知れない危惧について、事前に情報を得ており、鉄騎兵に対する戦術案などの提案も受けていた。

ヴァイスが率いる傭兵団は、彼が自ら鍛え上げた精鋭であり、戦場では彼の意のままに動き、男爵軍の先鋒となって軍を誘導し、活躍することが期待されている。またソリス男爵軍では、専門職の弓兵を全て廃止し、代わりに騎兵を含めた全ての兵士が、エストールボウと呼ばれる新型クロスボウを所持している。技量により効果が大きく左右される弓と違い、クロスボウは熟練を必要としないため、召集された兼業兵でも、その利点を十分生かすことができる。


そして、ソリス男爵軍に騎兵が増えたことにも裏があった。

二年前の穀物暴騰の際、そこで得た利益を元にダレンはちゃっかり手を打っていたからだ。飢餓に苦しむ他領では、食料が足らないなか、飼料まで手が回らない領地も多かった。そのため馬を潰し食料としていたケースや、軍馬を売り対価として穀物を得ることなどが頻繁にあった。ダレンはこの機に乗じ、軍用馬を中心に大量に馬を買い集めていたのだ。

『新規開拓地に送るため、エストール領では大量の馬が食料と引き換えに買われている』

『南の辺境に大規模な開拓地を作る予定があり、入植地への往来に大量の馬が必要とされている』

そんな触れ込みを聞いた商人たちから、次々と買い付けを行っていた。

南最辺境の開拓地であるテイグーンは場所柄、大規模な盗賊や魔物の襲撃があった際など、危急の事態が起こったときには、全領民が速やかに逃げられるよう、大量の馬を配備する必要がある。

そんな名目で各地から馬を購入、対価として穀物を放出していた。

その結果、ヴァイスの傭兵団は、契約料の現物払いとして優先的に軍馬が供給され、全員が騎兵となっており、常備軍にも新たに多くの騎兵が誕生していた。そのため、以前は百騎にも満たない騎兵部隊は、今や傭兵団も合わせると二百騎を優に超える。


「そろそろ敵が動き始めます。コーネル男爵にお借りした地魔法士は陣地構築を完了しています」

布陣するとヴァイスが直ちに取り掛かったことがあった。

それは、地魔法士の力を借り、陣地構築や塹壕ざんごう設置、想定される戦場への罠の設置など、弓箭兵の弱点を補完し、最大の力を発揮できるように工夫された各種の準備であった。

「全軍、戦闘準備!」

ダレンの号令でソリス男爵軍全軍が戦闘態勢に入った。

後日、サザンゲート殲滅戦、と言われる戦いがついに始まった。