電子書籍特典 マリー・ルアールの恋


「それでは、また休日に」

「はいっ、ありがとうございます、アルノー様」

 今日はディザークが離宮で仕事をしていて、エーベルスさんがついでにわたしのところに寄り、マリーちゃんに何かを渡している。箱は平たくて細長い。

 ……あの箱の形からするとネックレスかな?

 エーベルスさんがマリーちゃんに小さく手を振り、扉を閉めて去っていく。

 細くて平たい箱を両手で持ち、嬉しそうな表情のマリーちゃんが振り返り、目が合った。

「あっ、サ、サヤ様、これはその、お、お土産で……!」

 エーベルスさんはわたし達と共に魔物討伐の使命で帝国を出ていた。

 お土産というのは別に構わないけれど。

「マリーちゃんとエーベルスさんってそんなに仲良かったっけ?」

 この二人が一緒にいる姿は全く見たことがないのだが。

 箱を大切そうにポケットに仕舞いながら、マリーちゃんが頷いた。

「は、はい、アルノー様にはいつも良くしていただいております……!」

 そう言ったマリーちゃんの顔が少し赤い。

 まるで出会った頃の『はわわ』なマリーちゃんに戻ったみたいだ。

 そこまで考えて突然、ピンと来た。

「マリーちゃん、ちょっとこっち来て」

 手招きすればマリーちゃんが素直に近づいてくる。

 その手を軽く引っ張ってソファーに座らせ、耳打ちする。

「エーベルスさんのことが好きなんでしょ?」

 瞬間、マリーちゃんの顔が真っ赤に染まる。

「えっ!? な、なんでそれを……っ!?

「マリーちゃん、分かりやすいからね」

 それに、この感じだとエーベルスさんもマリーちゃんの想いに気付いているか、エーベルスさんも少なからずマリーちゃんに気があるのだと思う。お土産にネックレスを贈るなんて、好きだと言っているようなものだ。

 つい、ニマニマと笑みが浮かぶ。マリーちゃんが今までで一番『はわわ』してて可愛い。

「それで、エーベルスさんとはどこまで進んでるの? 告白はした?」

「こっ……告白なんて、そんな……! お食事や買い物に一緒に行ったことはありますけど……!」

「え、もうデートしたのっ? エーベルスさん、やるぅ~!」

 マリーちゃんはこれでも貴族の令嬢である。

 異性と食事に行くというのは、それなりに親しい関係でなければしないだろう。

 ……それに、さっきのエーベルスさんの表情、初めて見たしなあ。

 いつもは貼り付けたみたいに同じ微笑みを浮かべているエーベルスさんが、マリーちゃんには柔らかな笑みを浮かべていて──……あれば絶対に特別な相手にしか向けない表情だと思う。

 マリーちゃんだっていつかは誰かと結婚するだろう。

 その時に『真聖女様の侍女だから』という理由で国や神殿にとって都合の良い相手をあてがわれる可能性もあるし、逆にその立場を利用するためにマリーちゃんに近づく男もいるかもしれない。

 そんな誰とも知れない相手にマリーちゃんを嫁がせるくらいなら、相思相愛のエーベルスさんと結ばれて嫁いだほうが、マリーちゃんは幸せになれるだろう。

 がしりとマリーちゃんの手を握る。

「マリーちゃん、応援してるからね! 絶対にエーベルスさんを落とすんだよ!」

「えっ? あ、ありがとうございます……? えっと、その、反対なさらないのですか……?」

 戸惑った様子のマリーちゃんにわたしは首を傾げた。

「むしろ反対する理由なくない? マリーちゃんを利用しようとする家とか男が寄りつく前に、好きな人と付き合って、さっさと結婚しちゃえばいいよ。エーベルスさんはディザークの右腕だから安心だし」

 まだ戸惑っているマリーちゃんに微笑みかける。

「わたしはマリーちゃんにも幸せになってほしいな。最初の頃からずっと助けてくれた恩人だもん」

 そう言えば、マリーちゃんの目にぶわりと涙が溜まり、泣き出した。

「っ、サヤ様ぁ……! わ、私、私はずっと、サヤ様にお仕えいたします……!!

「うん、ありがとう、マリーちゃん。でも自分の幸せも大事にしてね」

「は、はい……! 頑張ります……!!

 なかなか泣き止まないマリーちゃんの涙をハンカチで拭く。

「ほら、泣かないで。今から作戦会議をするんだから」

「さ、作戦、会議、ですか……?」

 不思議そうな顔するマリーちゃんに、わたしはニッと笑ってみせた。

「そう! 名付けて『エーベルスさん陥落大作戦』!」

 背後でぼそりと「……サヤ様、作戦名つけるの下手」とノーラさんの呟きがしたが聞こえないふりをして、マリーちゃんの手を握り直す。

「さあ、エーベルスさんを『マリーちゃん大好き』にさせるために、どうするか会議するよ! あ、ヴェイン様もゼニス君も、このことは他の人には秘密にしてね!」

「うむ、人の恋路を邪魔すると碌なことがないからな」

 ヴェイン様がチェス盤を見たまま頷き、ゼニス君も「興味ねーよ」と言う。

 それから、わたし達はお茶会がてら作戦会議に勤しんだのだった。