それが消えた瞬間、名前を呼ぶ。

「ディザーク!!

「ああ!」

 大きなルフの背後からディザークが飛び乗り、その頭部に剣を突き立てた。

 ギェエェェッと断末魔の叫びを上げながらルフが首を振る。

 ……雷魔法が直撃してもまだ動けるなんて……!!

 ディザークは摑んだ剣から手を放さず、若干振り回されながらも詠唱を行う。

「燃え尽きろ……!」

 頭部に刺さった剣にディザークの火魔法が絡みつき、そのまま頭部が激しく燃える。

 ルフがいっそう激しく暴れたからか、ディザークは剣から手を放して飛び退いた。

 数秒、激しく頭を振っていたルフだけれど、最後は鳴くことも出来ずに地面に倒れ臥した。

 駆け寄ったディザークが風魔法の刃でそのルフの首を断ち切った。

 見上げた空にはまだ数羽のルフがいる。

 わたしは詠唱しながら、それらに手をかざして魔法を展開した。


 ファイティングブルとルフの群れをそれぞれ五つと三つ討伐し、わたし達は王都に戻った。

 帰りの道中でもやたらと王太子はわたしに話しかけようとしてきて、正直に言うと鬱陶しかったが、ディザークだけでなくヴェイン様やゼニス君、近衞騎士達が壁になってくれたので何とか苛立ちを抑えて王都に到着した。

 王城に戻るとすぐにオースフェン国王と謁見し、討伐の報告をした。

「ああ、何と感謝の言葉をお伝えすればいいか……。最近、あの辺りはファイティングブルとルフの群れが増え、それにより農作物や人的被害もあり、頭を悩ませておりました」

 討伐部隊の遠征も考えていたようだが、どちらもかなりの人数が必要になるため、その準備とかかる費用を考えると気軽に実行できなかったのだろう。

「陛下、ルフの群れは我らオースフェンの騎士達で首を刎ねたのです」

「おお、そうか。……我が国の騎士達がお二方のお役に立てたのであれば幸甚の極みです」

「さっそく今夜にでも宴を催し、魔物討伐の朗報を皆に広めましょう!」

 国王は少し考えたようだったが、王太子の言葉に頷いた。

「お疲れの中で恐縮ですが、真聖女様と守護聖騎士様にもご参加いただけますでしょうか?」

 それにディザークが頷き返す。

「ああ、皆と挨拶をする機会を作るという約束を果たしたい」

「ありがとうございます」

 その後、この国に来たばかりの頃に通された部屋にまた案内された。

 そこにはリーゼさんとノーラさんが待っており、出迎えられる。

「おかえりなさいませ、サヤ様」

「入浴の準備は整っています」

 そうして、入浴して汚れを落とし、二人が全身をマッサージしてくれたおかげで気分も体もスッキリした。あとは夜会の準備をする時間になるまで少し休む。ベッドには範囲回復魔法をかけたので起きた時には疲れはもう残っていなかった。

 これまで通り聖女の装いで待っていると、ディザークが迎えに来てくれる。

「王太子の問題行動は国王に伝えておいた。夜会には出席するが、その後は謹慎となるだろう」

「だといいけどね」

 ディザークのエスコートと王城の使用人の案内で舞踏の間に向かう。

 今日はヴェイン様もゼニス君もゆっくり休んでもらえるよう、夜会にはディザークとわたしの二人だけで出席することにした。何かあっても自分の身くらいは問題なく守れるし、道中で王太子から守ってくれたのでわたしもかなり機嫌は良くなったと思う。

 ……明日には帝国に帰れる。

 ヴィレンツァ王国、リドアニア連合国、オースフェン王国と巡ってきたけれど、やはり、一番慣れている帝国に帰れると思うと気持ちが軽くなる。魔物討伐の使命が無事終わってホッとしたのもあった。

「帝国に戻ったら聖障儀の魔力充塡もしないとなあ。マルグリット様にお任せで出てきちゃったけど、結構負担大きいだろうし……あ、奉仕活動とかどうなるのかな?」

 向こうを出立する前に出来る限り聖障儀の魔力充塡は済ませてきた。

 しかし、それで全て事足りるということもなく、先輩聖女であるマルグリット・ドレーゼ伯爵夫人にわたしがいない間の魔力充塡は任せている。けれどマルグリット様も高齢なので無理はさせられない。

「恐らく継続だとは思うが、以前よりは回数が減る。警備も強化しなければならないから、そう頻繁に出向くのは難しい。だが、代わりに神殿の大きな祭事の時にはサヤと俺とで呼ばれることになるかもしれない。何にせよ、あちらも『真の聖女』にどう対応するか決めている最中だろう」

「そっかあ」

 ……どっちにしても忙しいのは変わらないかな?

「ディザークはもっと忙しくなるんじゃない? 大丈夫?」

「それについては考え中だ。場合によっては公務と軍の仕事を調整する必要もあるかもしれん」

「無理はしないでね。どうしてもって時は治癒魔法かけるけど、それが当たり前になったらダメだよ?」

「ああ、気を付ける」

 話が落ち着いたタイミングで舞踏の間に到着する。

 わたしとディザークの入場を告げる声が響き、視線が集まる。

 国王と王太子が近づいて来て、わたし達も二人に改めて挨拶をした。

 それからは怒濤の勢いで貴族達の挨拶が始まったが、覚え切れなかった。三ヵ国も巡って全ての国で貴族と挨拶を交わしたから、顔を見れば覚えはあるけれど、どの国の何爵位の人かというところまでは記憶にない。ほとんどごちゃ混ぜになってしまった。

 だが、これでも貴族達はこちらに配慮して手短な挨拶にしてくれたようだ。

 それぞれが挨拶の言葉を述べて、一言二言話す程度で済んだので挨拶は長引かなかった。

 やっと挨拶が終わって一息吐いていると王太子が近づいて来るのが見えた。

「うげ」

「サヤ、声に出てるぞ」

「おっと……」

 思わず手で口を覆う。

 近づいて来た王太子に声をかけられた。

「真聖女様、夜会は楽しんでおられるか?」

「ええ。皆様にご挨拶をさせていただけて、大変有意義な時間を過ごしています」

「そうか、皆も真聖女様と話すことが出来て喜んでいることだろう」

 王太子と目が合うと、手を差し出された。

「真聖女様、一曲踊らないか?」

 その手がわたしの手を取ろうとしたけれど、ディザークがそれを防ぐ。

「残念だが、サヤは俺以外とは踊らないのでな。貴殿ならばいくらでも踊りたいという令嬢がいるだろう。自国の令嬢達の熱い視線に応えるのも王太子の務めではないか?」

 王太子の眉間にシワが寄り、次の瞬間、ディザークを指差した。

「守護聖騎士殿こそ、真聖女様を無理やり囲っているのではないかっ? 守護するなどと言いながら、行動を監視して、この世界のことをよく知らない真聖女様を帝国の利益のために使おうとしているのだろう! そうでなければこの世界に来たばかりの真聖女様が婚約などするはずがない!!

 図星だろう、とでも言いたげな自信満々な顔で王太子が言葉を続ける。

「皆よ、聞いてくれ! 守護聖騎士殿はこの討伐遠征中、私が真聖女様に近づくことをことごとく邪魔してきたのだ! 私はただ、これまでのお話を聞きたい、世界のために使命を負う真聖女様のお力になりたいと思っていただけなのに! まるで守護聖騎士殿は自身の許可がなければ真聖女様と接するのは許さないというふうに、真聖女様を隔離し続けた!!

 両手を広げ、演説するように声を響かせる王太子に頭が痛くなる。

 ……どこからツッコミを入れればいいのか。

 ディザークも呆れた顔をしていた。

「真聖女様は人類の至宝である! そのお心を邪魔するなどあってはならぬこと! 守護聖騎士殿はその立場を利用して、真聖女様の言動を己の良いように制限しているのだ!!

 振り向いた王太子が何かを取り出し、それをディザークに投げつけた。

 体にぶつかる前にディザークが片手で摑んだのは白い手袋だった。

「私、リーシエル=アル・オースフィオルムは聖騎士ディザーク=クリストハルト・ワイエルシュトラスに決闘を申し込む!!

 ざわりと舞踏の間が大きく騒ついた。

 貴族の礼儀作法などについても勉強しているので『決闘』の意味も分かる。

 この世界では貴族同士で白い手袋を相手に投げつけるのは、決闘を意味する。

 ……でも、何であなたがディザークに決闘を申し込む流れになるの?

「正気か?」

 ディザークの言葉に王太子が頷いた。

「ああ、もちろんだとも! この決闘に勝った暁には、守護聖騎士殿は真聖女様の婚約者を辞し、お救いした私こそが真聖女様をお守りする盾となる! 真聖女様は自由になられるべきなのだ!!

 大国の王太子が、精霊王や神殿に認められた聖騎士に決闘を挑む。

 その事実に貴族達が落ち着かない様子で騒めいている。

 ブチッと頭の中で何かが切れる音がした。

 この王太子はディザークと決闘し、自分が勝ったら婚約者を辞めろと言った。

 しかもちゃっかり自分がわたしの婚約者になるとまで宣言している。

「──……バッカじゃないの?」

 自分でも驚くほど低い声が出た。

 一番近くにいたディザークがピタリと動きを止めた。

 思いの外響いたわたしの声に舞踏の間が静まり返る。

 王太子がわたしを見た。

「し、真聖女様、今何と……?」

 瞬間、わたしはグワリと顔を上げた。

「馬鹿だって言ったんだよ、この勘違い王子!!

 ディザークの手にあった手袋を奪い取り、王太子に大股で歩いて行く。

 わたしの怒気を感じたのか、王太子が半歩ほど身を退く。

 王太子のもとに辿り着いたわたしは手袋を握る手の指で、王太子の胸を強めに突いた。

「ディザークが無理やりわたしを囲ってる? わたしを監視して、帝国の利益のために良いように扱ってる? 決闘して自分が婚約者に成り代わる? ……はあ? 頭沸いてんじゃないの!?

 言いながら何度も王太子の胸を突くと、その度に王太子が若干下がる。

 逆にわたしは前に出て王太子との距離を詰めた。

「この世界に来て助けてくれたのはディザークだし! 帝国でも良くしてもらってるし! わたし達は好き合って婚約者でいるの! 本当に嫌だったら婚約解消してるっつーの!! いくらこの世界に来たばかりでも、聖女がどれくらい力を持ってるかくらい知ってるし!!

 わたしの怒りの声が舞踏の間に響き渡る。

 こんなに誰かに対して怒鳴るなんて初めてだ。

「ディザークが邪魔してたのは、あなたがわたしにしつこく絡んできて嫌だったから! ディザーク達はそれを察して近づかないようにしてくれてたの! それを勝手に勘違いした挙句、決闘なんてどうかしてる!! あなた本当に王太子なの!?

 わたしは握り締めていた手袋を王太子に叩きつけた。

「そもそも、人を勝負の賞品みたいに扱って! 何でわたしのことなのにあなたが決めてるわけ!? ディザークと決闘させるくらいなら、わたしが相手になるわ!!

 背後でディザークの「サヤ!?」と驚く声がしたけれど、わたしは今とても怒っているのだ。

 我慢すればいいと思っていたが、こんなことまでされて黙っている意味はない。

「わたし、聖女、沙耶・篠山はオースフェン王国王太子リーシエル=アル・オースフィオルムに決闘を申し込む! 逃げることは許さない。わたしとディザークを下に見たこと後悔させてやる!」

 その宣言のすぐ後に国王が慌てて出て来て、わたし達に謝罪をしたけれど許さなかった。

 夜会は中止になり、部屋に戻ることになり、事と次第をディザークがヴェイン様やゼニス君達に説明した。ヴェイン様もゼニス君も、リーゼさんやノーラさん、近衞騎士まで応援してくれた。

 それにディザークが「誰も止めんのか……」と頭を抱えていたが、やめろとは一言も言わなかった。多分ディザークもかなり怒っているのだろう。

 結局、翌日の午前中に城の訓練場で決闘を行うことが決まった。

「ギッタギタのメッタメタにしてやる!」

「意味は何となく分かるが……ほどほどに手加減をしておけ」

 拳を握って唸るわたしにディザークが小さく息を吐いていた。

 聖女と他国の王太子が決闘だなんて前代未聞だろう。


* * * * *


 翌日の午前、騎士の訓練場でわたしと王太子は向き合っていた。

 聖女と王太子の決闘という話題性もあり、多くの貴族が観戦に来ていた。

 ディザークとヴェイン様、ゼニス君、そしてリーゼさんやノーラさん、近衞騎士達までこの決闘を見守るために来てくれていて、わたしは俄然やる気が出た。

 ……絶対に勝って分からせてやる!

 わたしは王太子と婚約なんてしないし。わたしに勝てない人にディザークと決闘もさせないし、何よりわたしを勝負の賞品扱いするような人と性格が合うとは思えない。この数日間ですら苛立っているのに。

「聖女様、私は手加減をしない! それでも本当に決闘を行うのか!?

 王太子の言葉にわたしは返事をした。

「女に二言はありません! わたしはあなたと決闘を行います!」

「怪我をするかもしれないのだぞ!?

「治癒魔法を使えますので、即死しなければ多分何とかなります!」

 後ろでディザークとヴェイン様、ゼニス君の「『多分』……」「まあ、サヤなら必要ないだろう」「オレも多少は治癒魔法を使えるぜ」という声が聞こえる。心配しなくても怪我をするつもりはない。

「そうか。……それでは、決闘を行うしかないな!」

「ええ、望むところです!」

 訓練場の中央に出て、やや距離を空けて王太子と向かい合う。

 ディザークの横には頭を抱えたオースフェン国王がいる。

 王太子が勝っても、負けても、恐らく何かしらの処罰は下るだろう。

 神殿が認めた『真の聖女』と事を構えても利点はなく、他国から後ろ指を差されるだけだ。

 国王が定めた審判がわたし達の丁度中間に立つ。

「どちらかが負けを認めるか、行動不能になった時点で勝ちとなります! 致命傷を与える、もしくは与えると思われる過剰な攻撃を行った場合、その者の負けと判断されますのでお気を付けください!」

 わたしと王太子が頷くと審判が下がっていく。

 ある程度の距離が開いたところで審判が手を上げた。

「それでは、試合始め!!

 わたしが詠唱を始めると王太子が剣を抜いて駆け出した。

 意外にも足が速く、開始前から詠唱を行っていたのか風魔法で速度を上げたらしい。

 一呼吸ほどでわたしの目の前に飛び込んで来る。

 傷を付けないためか、剣を横向きにして腹へ振り下ろしてくる。

 ……手加減はしないって言ったのに。

「噓吐きですね」

 ガキィインッと王太子の剣が障壁魔法に弾かれる。

 わたしも同じように、開始前から障壁魔法の詠唱は済ませていた。

 体勢を崩した王太子へ手をかざした。

「凍れ」

 王太子が恐らく本能的に飛び退る。瞬間、ピキリとひび割れる音がして、剣を持つ王太子の腕につけていたブレスレットの小さな宝石が一つ砕け散った。

 ……もしかして、あれは魔法を防ぐ魔道具か何か?

 この国に一人しかいない王の息子ならば、身の危険を守るためにそういった魔道具の一つや二つ、付けていても不思議はない。自然と笑みが浮かぶ。やる気が満ち満ちていく。

「そうでなくちゃ」

 簡単に勝ってしまっては分からせる意味がない。

 王太子が詠唱を始めたので、わたしも詠唱を行う。

 わたしが火魔法を放つと王太子は水と風の刃を飛ばし、それらが空中でぶつかり合って水蒸気を発生させる。辺りがモクモクとした水蒸気で見通しが悪くなった。

 瞬間、ビシッと障壁魔法に水の鞭のようなものが巻きついた。

 それがギュッと引き結ばれて障壁にかなりの圧がかかる。普通の障壁魔法なら砕けているかもしれないが、残念ながらわたしの障壁魔法は魔力を大量に注いでいるので、わたしより魔力量の少ない人間の魔法で壊れることはありえない。

 どれほど圧がかかってもわたしの障壁はびくともしなかった。

 水蒸気が風に吹かれて視界が晴れる。

 水の鞭を持った王太子が厳しい表情をしていた。

「これで終わりですか? ではわたしも行きます」

 魔力の流れを意識し、集中する。

 魔法を防ぐ魔道具があるなら、それがなくなるまで攻撃すればいい。

 わたしの周囲にいくつもの魔法が展開される。

 わたしは全属性持ち。だから、どの属性の魔法も使える。

 聖属性の雷、火魔法の火球、風魔法の刃、水魔法の槍、土魔法の棘、そして闇属性の蔦。

 蔦で拘束しようとすれば、王太子が慌てて手をかざした。その手の指輪が光ると王太子の周りに障壁魔法が展開される。あれは聖障儀の小型版か。しかし、魔力を必要とするのは普通の魔法と変わらないだろうから、物量で押し切ることは出来る。

 障壁魔法の外から闇魔法の蔦で捕まえ、全方位から闇以外の魔法で攻撃する。

 これでもかなり手加減をしているので当たっても多少怪我をする程度だ。

 だが、それらも全てひび割れた音と共に防がれた。

 このままでは埒があかない。

 闇魔法の蔦に魔力を込め、より強く障壁に巻きつける。

 先ほど王太子がやっていた水魔法の鞭と似たようなものだ。

 ……まあ、それよりもずっと強力だけどね!

 ギュッと両手で押し潰すように力を込めれば、王太子の障壁が大きくゆがむ。

 その中で王太子の表情が苦しそうなものになるのが見えた。

「砕けろ!」

 魔力を注いで力を込めれば、ガラスが砕けるかのような甲高い音と共に障壁が砕ける。

 しかし、まだ魔道具の宝石が残っていたのか闇魔法の蔦が弾かれる。

 隙間から王太子が剣を片手に飛び出して来た。

 けれども、その表情は真剣なもので、剣もしっかりと構えられている。

 ……障壁魔法で防げると思うけど。

 王太子がわたしの障壁に剣を突き出した瞬間、その刃に魔力が通るのを感じた。

 剣先が障壁にぶつかり、ピキ、と障壁のほうにヒビが入った。

 ……へえ?

 わたしの障壁にヒビを入れるなんて、恐らく普通の剣ではない。

 そして今度こそ手加減なしの戦いだ。

 障壁が砕けた瞬間、新しい障壁を展開する。

「ハァアアアアァアァッ!!

 王太子が剣を振る度に障壁が砕けるが、その度に新しい障壁を作り直す。

 剣と魔法が優秀というのは本当だったようだ。

 ……確かに、剣の腕だけならディザークと互角かもしれない。

 でも、魔力量が足りない。剣も魔法が付与されているのだろうけれど、魔力を注ぎ続けなければ効果が出ないものらしく、王太子の魔力がずっと剣に注がれている。それもあってか王太子の動きが段々と鈍ってくる。

 バキン、と最後の障壁魔法が砕け散る。

「もらった……!!

 王太子の剣がわたしに向かう。

 その剣の動きがゆっくりとして見えるのは危機的状況だからか。

「『反転障壁』」

 王太子の周囲に障壁魔法が展開され、中に王太子が閉じ込められる。

 地面から数センチほど浮いた状態で、転んで座り込んでいた。

 すぐに立ち上がった王太子が剣で障壁を突き、斬ろうとするけれど、障壁は壊れない。

 ……壊れるわけがない。

 ドラゴンを捕まえた時よりも強固な障壁魔法だ。

 本来の障壁魔法は外側から内側への干渉は防ぐけれど、内側から外側へは魔力や剣などが通る仕組みになっている。これはその逆バージョンだ。

 障壁魔法の内側と外側をそのまま裏返して作った障壁魔法。だから『反転障壁』と名付けた。

 外側からわたしの攻撃は通るが、中から王太子の攻撃は通らない。

 王太子が魔法を放っても障壁の内側にぶつかって四散する。

「その障壁魔法はわたしの最大魔力で作ったので壊れませんよ。それから、あまり中で暴れたり火魔法を使ったりすると空気が減って動けなくなります。……降参しますか?」

 中で王太子が叫ぶ。膜を張ったようにその声はくぐもって聞こえる。

「王太子である私が負けを認めるなどありえない!!

「そうですか。では、攻撃を続けます」

 右の掌を上に向けてそこに小さな障壁を展開させた。

 大体ハンドボールくらいの大きさで、中に水を入れ、水風船くらいの硬さの水球を作る。

 足元にいくつも同じような小さな障壁を生み出し、数を用意する。

 これだけあればスッキリするだろう。球数は多いほうがいい。

「さあて、楽しい楽しいストレス発散のお時間です!」


* * * * *


 ……これは決闘と呼んでいいのだろうか?

 目の前の光景を眺めながら、ディザークはそう思った。

 サヤが王太子を障壁魔法に閉じ込めたところまでは決闘らしさがあったものの、今は障壁魔法の中にいる王太子に向けて、水の入った小さな障壁魔法をいくつも投げつけている。

「〜! !!

 王太子が障壁魔法の中で何やら騒いでいるが、こちらまで声は届かない。

 近くにいるサヤには届いているようだ。

「悪いことをしたら、ごめんなさい、でしょ!」

!」

「何でわたしが、怒ってるか、分かってるのっ?」

 サヤが言葉の途中途中で王太子に小さな障壁魔法を投げる。

 球の形のそれはそれなりに重さがあるのか、弧を描いて王太子を捕まえている障壁魔法を抜け、王太子の体にぶつかる。半数近くは当たらずに外れているけれど、サヤはいくらでも小さな障壁魔法を生み出せるから球数が減ることはない。

 王太子にぶつかった小さな障壁魔法は、弾けて中の水が王太子の体を濡らす。

 先ほどからサヤはこうやって障壁魔法の球を王太子に投げつけて攻撃しているのだ。