十話 舞踏会、燃やしますわ!
人狼、という種族が居ますわ。人間ではなく、けれど魔物でもない。そんな生き物ですわね。身体能力は人間を遥かに超え、特に、月の光を浴びればその力はより強まる、とも言われていますわ。狼に変ずることができる一方、耳も尻尾も隠して人間に紛れて生きることもできるそうですの。
……そして、この国では存在を許されておりませんわ。
ええ。人狼は存在するだけで違法ですわ。『悪しき人狼を排除せよ』とする政策は、現国王が出したものですわね。今から二十年前かそこらの話でしてよ。
……人狼は強いんですの。素手で、かつ真っ向から人間が勝つのは難しい。だから国王はそんな人狼を恐れ……そして、人狼への恐れを煽って、民衆の王家への怒りを全て、人狼へと向けさせたのですわ。私が生まれる前に始まった人狼狩りですけれど、その甲斐あって人狼はほとんど死に絶えた、とも言われていますわね。
ドランが人狼だとしたら、色々と納得がいきますのよ。彼のバケモンみたいな身体強化は、人狼の力を使ったものなのでしょうね。普段は耳と尻尾はありませんけれど……今、全く予想していなかった銃という攻撃手段にやられて、耳と尻尾を出さざるを得なかった、ということかしら。
そしてクリスは、そんなドランを殺そうとしている。
……まずい状況ですわ。
まず、クリスが居る。銃を持っていて、剣も持っている。どう考えても絶好調ですわ、あいつ。
対して、こちらには手負いのドランと、気づかれていない私が居ますけれど……でも、駄目ですわね。もうじき警備の兵士達が駆けつけてくるはず。今から逃げたとして、交戦は間違いありませんわ。その時、私一人ならまだしも……手負いのドランを連れて逃げるなんて、不可能でしてよ。
ですから、私の最適解は、このままこの場を去ること。ドランを置いていくのが、最も賢い選択ですわね。
……でもね、私、フォルテシア家の娘ですの。
そう。私、お父様とお母様が心血注いで作っておられた『銃』を奪われたこと、決して許しませんわ。大切な、フォルテシアにとってとても大切な『銃』を我が物顔で使っているクリスに一撃もお見舞いせず、その上、人狼を狩らせてやるなんて、絶対に許しませんの。
だって私、フォルテシア家の娘ですのよ! フォルテシアの誇りはそう簡単に捨てられるほど安くありませんわ!
……ですから私、ドランを諦めませんわよ。ええ。諦めた方が賢くったって、諦めませんわ。
ここでクリスを殺していくのが難しい以上、ドランまでをも諦めるなんて、絶対に、してやりませんわ。クリスに吠え面かかせてやりますわよ。絶対に。
さて。どうすれば、この状況を脱することができるのか。今の状態ではパズルのピースがいくつか足りませんわ。
今の状況で足枷となっているものは、三つありますわね。
一つ目は、ドランの負傷。……これによって、ドランはまともに動けない状況となっていますわ。ですから、脱出するにしても、私が運ぶ必要があって……まあ、現実的じゃありませんわね。どう考えても。あの筋肉の塊を私が運ぶなんて、流石に無理ってモンでしてよ!
二つ目は、クリスの存在。元々が強いのもそうですけれど、今は何故か、フォルテシアの銃を持っているようですもの。手負いのドランが居る状況で戦いたい相手ではありませんわね。元々、こいつとはマトモに戦わないつもりでしたし……。
そして三つ目は、そう遠くなくやってくるであろう警備の兵士達。……もし、私がクリスと真正面から戦ったとしても、すぐ兵士に囲まれて死ぬでしょうね。そして、兵士達を片付けながら逃げるには、クリスが邪魔ですわ。そしてドランを運べませんから、どのみち逃げられませんわね。
……どう考えても、手数が足りなくってよ。クリスを無視したとしても、クリスから逃げながら兵士達をなぎ倒していくなんてどう考えても手数が足りませんわ。そしてドランを運ぶには手が足りなくて、クリスと戦うには手が足りなくて、これから来るであろう兵士をなぎ倒して逃げるにも手が足りませんの。ついでに、今からジョヴァンかキーブかチェスタを呼びに行く時間は無くってよ。つまり、詰みですわ。おほほほほ。
……いえ、まだ終わってませんわ。詰んでたって終わらせませんわ。
だって、ドランが居ますもの。
……私、手負いだからって容赦しませんわよ。自分のケツは自分で持って頂かなければね。彼が本当に人狼だというのなら、それも十分、可能でしょう。
ええ。私、この状況を打破するために、ドランを救いますわよ。
最初にやることは簡単。ミドルソードをぶん投げて、ステンドグラスの大窓をぶち破りますわ。一振りだけ、なんてケチなことはしませんわよ。どうせもう、戦ってる余裕なんざありゃしませんもの。なら、できる限り大きく窓を破るためにも、剣は二振りとも投げてやりますわ。
ひゅ、と風を裂いて飛んでいく二振りの剣に、クリスが気づかないわけはありませんわね。けれど遅くってよ。派手な音を立ててステンドグラスが割れ砕けますわね。ガラスの破片が少々飛んで、それを避けるためにクリスが顔を腕で庇った、その瞬間が狙い目。私は隠れていた場所から一気に躍り出て、クリスの背後へ突撃。そして……。
「動かないで頂戴ね。さもなくばあなたの心臓に穴が開きますわよ」
クリスの背中に、『銃口』を押し当ててやりますのよ。
「ごきげんよう、クリス・ベイ・クラリノ様。銃を持っているのがあなただけだとお思いにならないことね」
クリスが息を吞むのが分かりましたわ。服越しにも硬く冷たい金属の感触を味わって、身を硬くしていますわね。……銃の威力はよく知っていることでしょう。自分でドランを撃ってるんですもの。だからこそ、今、背中に『銃口』をぐりぐりやられてる状況を恐れないはずが無いのですわ。
「そのまま振り返らずに銃をお捨てなさい。そうすればあなたを殺す前にお話しする時間くらいはくれてやってもよくってよ」
時間が欲しいのは私もですけれど、クリスもそのはず。……むしろ、ここで時間稼ぎができるなら、クリスとしては嬉しいでしょうね。だって警備の兵がここに押し寄せてくれば形勢逆転できますもの。
……ということで利害が一致したクリスは、銃を床に放りましたわ。これでひとまず、ドランに二発目をぶち込まれる心配は無くなりましたわね。
「……何者だ?」
さて、心配が一つ減ったところで、ここから先は時間稼ぎですわ。警備の兵が来ようが、私の逃げ場が無くなっていこうが、それでも時間を稼ぎますわ。
「あら、ご挨拶が遅れましたわね」
……今、私が破った窓からは月光が差し込んでいますわ。そして月の光は、ドランを照らしていますの。人狼が月光によって強化されるというのなら……あれで動けるくらいまで回復してくれるんじゃ、ないかしら。
そして、月光は私達をも照らしますわ。ここはまるで、スポットライトに照らされる舞台ね。
「ごきげんよう。私、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアですわ。……忘れたとは、言わせませんわよ?」
さあ、ドランが回復する時間を稼げるか。そもそもドランは回復してくれるのか。諸々を賭けて、勝負、ですわ。
「……何が、目的だ」
さて。私が何かするより先に、クリスが時間稼ぎに貢献してくれましたわね。まあ、こいつとしても、兵士達が駆けつけてくるまでの時間を稼ぎたいんでしょう。
「目的? あら。そんなの、あなたが一番よくお分かりでしょう?」
そうとなれば、私も嬉々として時間を稼ぎますわ。相手に問いかけるような言葉は、相手に考えさせて間を繋ぐための策略。クリスが考えて、けれど答えを出すより先に、私がまた喋りますわ。
「うちの武器を、よくも盗んでくれやがりましたわね」
ぐり、と『銃口』をクリスの背に押し付けながら、会話の主導権は私が握りますわよ。
「……盗んだ? 何のことだ」
「あら、まさか『押収しただけ』とでも仰るつもり? 罪無きものから名誉も研究も取り上げておいて、よくもまあデカいツラできますわねえ」
「……貴様は法の下で裁かれたに過ぎない。貴族院と王家の認めがあっての罪だぞ」
「あーら、随分と都合のいい法ですこと。ついでにあなた達の頭の中もご都合がよろしすぎるんじゃなくって?」
適当にクリスを煽りつつ、ちら、とドランへ目をやれば……思いの外、意志が強く宿った目と目が合いましたわね。……そして、冷や汗を流しながらも、にや、と彼、笑いましたのよ。笑う余裕ができる程度には回復できたみたいで何よりですわね。どてっ腹に穴開いてるはずですけど、でも、本当の本当に、何とかなるんじゃないかしら。
「犯罪者風情が、何を偉そうに」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。罪無き家に火をかけ、罪無き令嬢に死刑を宣告して……その上、その家の努力の結晶を盗み出して、我が物顔で使っている。あなた、犯罪者じゃないとしたら何なんですの? それともあなただけ前時代を生きてらっしゃるのかしら?」
クリスが苛立っているのが分かりますわ。今すぐにでも動き出しそうな気配もありますわ。でももうちょっとばかり、時間が欲しくってよ。
「本当にこの国は変わりませんわね。百年前とやっていることが同じ。まあ、他国から奪っていたものを自国民から奪うようになった分、より小物になった感は否めませんけれど」
「貴様、王を愚弄する気か!」
「ええ、勿論。……あんなアホ、中々居ませんわよ? あなたはそうは思いませんこと?」
まあ、クリスから見ても国王はアホでしょうね。でも、アホが権力を握ってアホなことをやっている。賢い者から奪い、賢い者を滅ぼして、アホが頂点に立っている。それがこの国ですわ。
「でも……いつまでもアホが国を治めては、いられないでしょうねえ。ええ。いつまでも賢者達が黙って奪われていると思わない方が良くってよ」
私の言葉に、クリスが少々、焦るのが見えましたわ。まあ、クリスはアホ共の中ではマシな方ですから、私の言葉なんて聞かなくたって予想しているはずですのよ。だからこそ、新興貴族への締め付けを強めて、今回フォルテシアを潰したのをはじめとした見せしめを行っているのでしょう。
「ねえ。この国、滅びますわよ」
「……そうはさせない。お前達犯罪者の好きにはさせん!」
「あら、威勢がよろしいことね。やれるもんならやってごらんなさいな」
さて。そろそろ、向こうの方から兵士のものらしい足音が聞こえてきていますわね。……そして、ドランは。
「既に申し上げたことですけれど、もう一度、お聞かせしますわね。……私、許しませんわよ」
ドランは、私を見て小さく頷いてくれましたわ。私もそれに頷き返して……。
「地獄の底で、後悔なさいな」
クリスの背、『銃口』が触れている箇所に、火の魔法で着火してやりましたわ!
クリスの背中に火が付いてすぐ、クリスは氷の魔法をギュッと凝縮して展開しましたわね。
……ま、読めたことですわ。背後から攻撃されたとしても凝縮した魔法で防ぐくらいのことはやってのけますのよねえ、彼。……だからこそ、いつか殺すのが楽しみなのですけれど!
「魔法の無駄撃ちご苦労様」
それに、この火は単なる誤魔化しですわ。『銃』で撃たれると思っていたクリスに、銃弾を受け止められるくらいの強力な魔法を展開させるための、簡単な嘘。それを信じてくれたおかげで、今、クリスは極限まで魔法に集中してしまった、というわけですわね。
……そして、この隙を、私達は見逃しませんのよ!
まず、ドランがクリスに襲い掛かりましたわ。
クリスは背後の私に警戒を払っていましたし、魔法に集中していましたもの。咄嗟にドランへの対応が遅れますわね。死にかけだった奴が動くなんて、流石に予想できなくってよ。
ドランはクリスへタックルかまして、同時に私が背後から脚払いを掛けますの。そのままクリスを床へ倒しましたわ。けれど、そのままやり合うほどには、ドランがまだ回復していないようですわ。ならさっさと逃げますわよ。
勿論、退却前には一撃お見舞いしていきましょうね。私は、早速起き上がろうとしているクリスに向けて、手の中に持っていたものを、向けますわ。
当然、クリスは、それを存分に警戒して動きを止めましたわ。大方、銃を警戒していた、ということなのでしょうけれど……。
「それでは、ごきげんよう!」
私、追いかけてくるクリスに、手の中にずっと持っていた……燭台を、投げつけましたわ!
「なっ」
……この瞬間、クリスの頭の中には色々なことが廻ったでしょうね。銃はどこへ行った、とか。銃を撃ってくるんじゃなかったのか、とか。さっきまで背中に押し当てられていたはずの銃は……本当に、存在していたのか、とか。
ええ。勿論、銃なんて私、持ってませんわ。持ってたのはそこらへんにあった燭台だけでしてよ。でも、ただの燭台の足だって銃口だって、背中に押し当てられれば只の金属の筒ですもの。銃を知ってる奴が相手なら、簡単にハッタリが効くってわけですわ! おほほほほ!
「それ、あなたに差し上げますわ! あなたにお似合いの『銃』ですものね! おほほほほほ!」
ドランに続いて私も逃げつつクリスを馬鹿にしてやれば、クリスは床に落ちた燭台を見て……それから、激しい怒りの形相を露わに、私達を睨みましたわね。
「この……! 待て!」
そしてクリスが追いかけてきましたわ! まあそうでしょうね! なので逃げますわ!
……ここで戦って、そうしてクリスを殺しても、兵士に追いつかれて死にますわ。というか、そもそも武器をぶん投げちゃった以上、もう戦えませんわ。逃げる以外の選択はあり得ませんわ。
でもよくってよ! クリスをここで殺しても今後の安全がちょいとばかり増すだけですわ。そして何より! こんなところでクリスを殺しても! お派手な復讐はできませんのよッ! 私、やられたことをそのまま返すくらいじゃ物足りなくってよ! このふざけた野郎にも王家にも、フォルテシアが受けた屈辱の十倍か百倍の屈辱と没落を味わって頂かなくてはね! ……ということで、ここでの決着は避けて逃げますわ! クリスには後で必ず、相応しい処刑場を用意してやりますのよ!
ですから私! 今日のところはさっさとトンズラこきますわァーッ!
クリスから逃げ始めてすぐ、兵士達が集まってきましたわ。危ないですわ。けれど、後から後からなんとか追いつくような形で到着する兵士って、然程統率されていませんもの。ドランが薙ぎ倒し、私が払って突き進んでいけば、なんとか振り切れますわね。はあー、統制が取れてなくって助かりましたわぁ……。それに、なんだか予想していたよりも兵士が少なくってよ。これは幸運でしたわねえ。
「ドラン! あなた、大丈夫ですの?」
さて、私ももう一人ばかり適当な兵士をぶちのめして走りつつ、ドランの様子を窺いますわ。
「ああ。血は止まってる。走るくらいは問題ない」
……あらあら。人狼の力って、本当にすごいんですのねえ。脇腹に銃弾を食らったはずなのに、もう、その血が止まったなんて。……勿論、血が止まっただけで、痛みが無いわけはありませんし、傷が開いたら元も子もありませんから、あんまり無理はさせられませんけれど。ま、ドランが言うなら、私もこれ以上のことは言いませんわ。
「あら、そう! なら遠慮はしませんわ! ダンスホールを突っ切りますわよ!」
「何をする気だ」
「革命の舞台を整えに行くんですのよ。私、やるべきことはちゃーんと全部済ませていきたいんですの!」
話しながらも、私達は中庭を抜けて、ダンスホールへと向かっていきますわ。
ダンスホールを抜ければすぐ玄関ですけれど、勿論、ただ逃げるだけなら、正面から出るよりも抜け道から逃げた方がよくってよ。でも、そんなことしませんわ!
何故かって? ……私達がこのまま逃げたら、『聖女を攫うために来た』と簡単に勘繰られるはずですわ。ええ。だって、聖女様とクリスが居る部屋に飛び込んでいって、クリスを引き付けて戦って、その上でクリスを殺すことより逃げることを優先しているんですもの。目的が透けてますわよねえ。
ですから、それを誤魔化すための小細工くらいは、お派手にやらせて頂きましょうね。
そうして私達、ダンスホールに到着しましたわ。
華やかな音楽、さざ波のように聞こえてくる歓談の声。煌びやかなシャンデリアの光の中。
……そこへ飛び込む、私達!
ダンスホール中の注目を集めて、私達は無遠慮に、ダンスホールを突っ切る形で駆けていきますわ! そして私はダンスホールの中心で、ドレスの裾をふわり、と翻して半回転。背後から追ってくる兵士と、更にその奥からやってくるクリスを確認しながら、立ち止まりますわ。
「おほほほほ! ねえ、クリス・ベイ・クラリノ! あなた、まんまと引っかかってくれましたわねえ!」
「……何?」
立ち止まる私を囲むように、徐々に、兵士達が動きますわ。そしてその中で、クリスは訝し気に私を見つめますの。まだお喋りに付き合ってくれるらしいですわ。余裕ぶっこいてやがりますわね。
「あなたが私や人狼を追いかけている間に、会場への細工が終わりましたの」
「細工……? な、何を言っている!」
クリスが一瞬で青ざめましたわね。ええ。まだ失うものがある奴って、こういう時に弱くってよ。
「明日の新聞の大見出しは決まりましたわね。『貴族院主催の舞踏会、爆破』ですわ。ついでに、『死者多数』ですとか、『貴族院の責任は重い』とかも書かれるかもしれませんわ」
会場の爆破、なんて言葉を聞かされて、クリスも兵士も、周りの貴族連中も皆、青ざめますわねえ。いい気味でしてよ。
そして彼らは皆、私達の『手段』を『目的』だと勘違いしましたわ。
……そう。あくまでも聖女の生死を不確かにするための『手段』である会場の爆破こそが、私達の『目的』であると、しっかり勘違いしましたのよ。
「ま、まさか、復讐のためにそんな、馬鹿げたことを……!?」
「あら。失うものが無い奴はこれくらいやりますわよ。……そうね、あなた達は無実の罪をフォルテシアに着せて、私を没落させてくれましたものねえ!」
会場がざわめきますわ。フォルテシア家の没落は、多くの貴族にとってどうでもいいことでしょう。だからこそ、その没落よりも、今、私がここで放った言葉の方が彼らの印象に残るのですわ。『フォルテシア家は無実の罪を着せられた』とね。
「あなた、私から家も家族も名誉も奪って満足してたのかもしれませんけれど……こうして、無敵の私を生み出してしまったんですのよ。そこまで考えておいでだったかしら?」
なんとか頭を働かせてこの状況を打破しようとしているらしいクリスを嘲笑って、私、言ってやりますわ。
「さあ、己の罪を省みなさい、『極悪人』クリス・ベイ・クラリノ! そして、よーく御覧なさいな! あなたのせいで、これから死体が増えますわよ!」
……そう言ってやったら、クリスの顔が中々の見物でしたわ。おほほほほ。
さ。小細工も済んだところで、いよいよフィナーレと参りますわよ。兵士が私達に向かってきて、貴族達が混乱しながら我先にと逃げ出していく中、私は……。
「私の復讐はここからよ! さあ、シャンデリアを落としなさい!」
こう、叫びましたのよ!
……当然、打ち合わせとかナシですわ。そんなん話してませんでしたわ。でもまあ、誰も居なかったら多分、ドランがやってくれたと思いますわ。そして、ドランがやってくれなかったとしても、私の言葉に兵士が竦んでくれれば十分でしたわ。事実、私達を追ってきた兵士は皆、身構えて足を止めてくれましたもの。
けれど……私、罠使いの骸骨男が一足先にダンスホールに向かっているのを、知ってますのよ。
ふっ、と光が揺れますわ。皆が天井を見上げますわね。そこには、ギ、ギ、と嫌な音を立てて軋み、揺れるシャンデリア。……そして。
光が、降ってきますの。
派手に鮮やかに煌めいて、豪奢なシャンデリアが、私を囲もうとしていた兵士達の上、そして私とクリスを隔てるような位置に降ってきて……。
……凄まじい音がしましたわ。シャンデリアのクリスタルが割れ砕ける甲高い音に、黄金細工がひしゃげる鈍い音。そして悲鳴や叫び声に……絨毯へ蝋燭の炎が燃え移っていく、心躍る素敵な音も加わりますわね。
そう。シャンデリアが落ちて、ダンスホールは一気に明るくなりましたわ! 絨毯に炎が燃え広がっていきますもの! 中々にお派手でよい見た目ですわねぇ! やっぱり炎ですわ! 炎って最高ですわ! 足止めとしてもバッチリですわーッ!
そうしている間に、他のシャンデリアも次々に落ちていきますわ。ガシャンガシャンとあちこちで派手な音が響いて、逃げ惑う貴族達の悲鳴が上がって、兵士もクリスも炎とシャンデリアに行く手を阻まれて……そして私とドランは、砕け散るクリスタルと炎の煌めきの中を、颯爽と駆けていきますの!
「それでは皆さん、ごきげんよう!」