八話 海も私のものですわ
さて、一月もして、秋真っ盛りには、鞄村の葉っぱ製造が軌道に乗り始めましたわ。元々対魔は生育の速い植物ですけれど、それが鞄村の最適な日照と気温と降雨量、そしてしっかり与えられた肥料によって更に強化されて、一月で人間の背丈を超えるくらいの生育速度を見せていますのよ。
鞄村には数日に一度、キーブが食料の差し入れに行っていますわ。その度に村人達の好感度が上がっていくものですから、今や村人達はキーブを喜ばせるために一生懸命働いてくれてますのよ。
……そして、葉っぱ販売が軌道に乗る直前、廉価版ミスティックルビーを少量だけ生産してエルゼマリンの裏通りで販売することにしましたわ。
廉価版は私の血を三百万倍希釈したものですわ。それでもラリれるらしいですから、私の血も大したモンですわねえ……。名前は『メルティストロベリー』として、瓶も白い陶器のものにしましたわ。そしてお値段は金貨一枚。葉っぱの五倍くらいかしら。エルゼマリンの路地裏の薬中共でもちょいと頑張れば買える額ですわね。まあ、それを葉っぱより先に売り出しておけば、安い葉っぱに流れきる前にちょいと高級な魔法毒由来の薬の味を覚えさせることができますし、それでいて、メルティストロベリーが定着するまでには対魔も市場に戻ってきますから、お薬市場が私達だけの支配下に堕ちたことも誤魔化せますわね。おほほほほ。
……と、いうことで葉っぱが私達の管理の下で市場に流れるようになってからもボチボチ魔法毒由来のお薬が売れて、私達の資金が随分と潤いましたのよ。これは嬉しい誤算でしたわねえ。
さて、お金がたっぷり入りましたから、私、キーブと一緒に魔法の杖を買いに行きましたわ。エルゼマリンの裏通りに腕のいい職人が居るのを知っておりましたの。まあ、私自身は魔法をほとんど使えませんから、杖なんて文字通りの無用の長物なのですけど。でも、キーブにとっては杖ってとっても大切なものですものね。
杖を扱うお店って、大抵、お店の中が素敵なんですの。魔法の杖が長いものから短いものまで色々並んでいるのを見るだけでも楽しいですし、杖の素材となるものが所狭しと並んでいるのを一つ一つ確かめていくのも楽しいですわ。キーブもすっかり杖屋さんが気に入ったみたいで、ドラゴンの鱗や骨、ユニコーンの角、それに、人魚の真珠や永遠の石炭や剛力金剛石なんかをきらきらした目で見つめていましたわ。一つ一つ、素材の性質を教えてあげたら益々目がきらきらして、もう、可愛くってしょうがなくってよ。
キーブは元々、魔銀のチャチな芯が一本入っただけの、とっても雑な作りの杖を使っていたようで、ちゃんとした杖を手にするのはこれが初めてだったみたいですわね。
私が色々と教えながら購入したのは、彫刻が入った黒檀の柄に、魔銀で飾られた夜空水晶を据えた杖、ですわ。長さはショートソードくらい、ですわね。杖は長いほど魔法の威力が上がるのですけれど、その分魔法の取り回しが利かなくなりますのよね。キーブは長杖と迷ったようですけれど、結局は短めの杖を選んでいましたわ。まあ、私達と一緒に行動する分には身軽に手数を増やせた方がいいかもしれませんわね。
それにしても、新しい杖、キーブによく似合いますの。夜空水晶の瑠璃色がキーブの瞳のようで、誂えたようなんですの。魔法の相性もいいみたいで、キーブったらそれはそれはもう、嬉しそうにしてくれましたわ! 私も嬉しいですわ! 支給した装備の分の活躍を今後に期待しますわよ!
……と、まあ、そういうわけで思っていた以上に効率よく資金稼ぎができてキーブの杖も買えましたし、葉っぱが出回るにつれて、ミスティックルビーもメルティストロベリーも紛れて、お薬の出所を上手く隠すことができましたの。ええ、計画通り、ですわね。
……それから、もう一つ、私達の葉っぱ事業の効果がありましたのよねえ……。
「なんかここんとこ、小競り合いが減ったよなあ。野垂れ死にしてる奴も見ねえし。……なんで?」
ある日、チェスタがアジトのソファの上にうつ伏せに寝そべりながら、首を傾げましたわ。
「お薬が供給されるようになってお薬ジャンキー共が暴れなくなったせいですわね」
私が答えると、チェスタは『へー、そっかー』とか言いつつ、足をぱたぱたさせますわね。薬が抜けてる時のチェスタは何というか、ちょいと幼いというか、阿呆というか……。
「ま、喧嘩が無いのはいいことだよなー」
チェスタは妙に朴訥としたことを言いながら、ワインの瓶を開け始めましたわ。なので私、すかさずグラスを持っていって分けてもらいますわ。こうやってチェスタが一瓶丸ごと飲んでべろんべろんになるのを阻止して差し上げますのよ!
「楽しそうな話してるじゃない。俺も交ぜて。あと俺にも一杯分けて」
そこにジョヴァンがやってきて、棚から出したグラスをチェスタの前に持っていきましたわね。そうするとチェスタが飲む分が減って益々いいかんじですわ。
「ねえ、お嬢さん。あなた気づいてない? 薬中共が暴れなくなった以上に、エルゼマリンの治安は良くなってきてるんだぜ」
……けれど、続いた言葉はちょいと、聞き捨てならなくってよ。
「ほら、何といっても、お薬業者が全て解体されてウチに統一されちゃったから」
ええ……まあ、言われるまでも無く、分かっては、いますのよ。ええ。
お薬業者を全て潰したら、当然、お薬を求めるお薬ジャンキー共が暴徒と化して、却って治安が悪くなりますわ。けれど……お薬業者があったらあったで、業者同士の抗争があったり、それによって死人が出たりしますわね。お薬業者が競い合う中で粗悪品のお薬が製造されて、それによって死んでいく者も当然、多いですし……そして何より、お薬の売買で得られた資金はろくでなしの資金になりますから、そうした組織が余計に勢いを増すのですわね。
……でも。つまりそれって、『ヤバいところに資金を流さない』『ちゃんとした品質のお薬を生産する』『ただ一つの組織』がお薬を流しているならば、話は別なんですのよねえ!
「お薬を取り扱ってた商人同士の小競り合いが無くなったし、お薬を資金源にしてた組織は軒並み解体しちゃったから盗みも殺人も減っちゃった。そして何といってもうちはなんだかんだ、ちゃんと正しい薬を売ってるからね。キメたら死ぬような粗悪品が市場に出回らなくなったら野垂れ死には減るし、そして何より、お薬が出回ってるから薬中共が暴徒化しない! 実に理想的な状況よ!」
なんだかジョヴァンがニヤニヤしてますわねえ……ええ、まあ、確かに、その通り、なのですけれど……!
「お嬢さん、俺達のおかげでエルゼマリンの治安が良くなっちまいましたね?」
「そんなんどうでもよくってよ! 私の国家転覆計画のせいでうっかり治安が良くなったとしても、そんなの知ったこっちゃーありませんわ! 治安が良くなるっていうなら勝手に良くなればいいのですわ! 私には関係ありませんわーッ!」
にこにこ笑顔でワインを味わうジョヴァンや、『そっかー、俺達、いいことしてるのかー、おもしれー』なんて言ってるチェスタを横目に、なんとなく、間の抜けた気分が残りますわぁ……。
私、別に良いことをしたいわけじゃありませんのよねえ……。統治とはむしろ反対のことがしたいんですのよ……?
「ジョヴァン。治安はどうでもいいが、貴族の没落は進んでいるか?」
そう! 私に関係があるのは、ドランの方! これ! こっち側ですのよ! こっちこそ、私がやりたいことですわーッ!
「ま、結論から言うと、トントン拍子で進んでますよ、ってとこかね」
ジョヴァンがニンマリなのにつられて、今度は私もニンマリ、ですわ。
そう! 私達の目下の目標は、貴族院の弱体化! 貴族達がそれぞれに財産を食い潰して没落していってくれれば、自然と貴族院の力は弱まっていく、というわけですわ!
そのためにお薬を売っているんですもの! ちゃんと貴族共が没落してくれなきゃー困りますわ! フォルテシアが没落したんですから、他の貴族も没落すりゃーよくってよッ!
「ひとまず、お薬はしっかり貴族連中に蔓延してくれてるみたいね。ミスティックルビーの高級感はしっかり貴族ウケしたみたいだし、一回使っちまえばもうその虜なわけだし。早速、元々資金が少なかったような家は領地を切り売りし始めてたから買っておいたぜ」
ココね、とジョヴァンが地図を指し示してくれましたわ。
……あらまあ。結構買えてますのねえ。地図上に、ペンで囲まれて斜線を引かれた部分が結構な面積、ありましてよ。
「ならばここはフォルテシア領としますわ」
「あら、それはゴメンねお嬢さん。流石にフォルテシア家の名前を出しちゃうと貴族院に警戒されるだろうと思って、こっちはバストーリン領になってて、こっちはトラペッタ領ってことになってるのよ。あ、それに合わせて俺とチェスタの貴族位、買っておきました。ヨロシク」
……バストーリン、は分かりますわ。ジョヴァンなら、『貴族との取引のために貴族位を購入した商人』ってことで十分通りますものね。……けれどチェスタに貴族位ってのは何なんですの!?
「は? 俺? 冗談だろ?」
「俺だって薬中に貴族位なんざ与えたくありませんけどね! ウチには名前を出したらヤバい奴が多すぎるの!」
まあ、フォルテシアの名を出したら一発でお縄ですものね。ドラン・パルクの名前もヤバいですわ。ええ。私達、脱獄犯ですものね。おほほほほ。
「ったく、俺自身が貴族、ってのも妙な気分だってのに……ま、次に領地を買う時はキーブの名前を借りるかな。ヨロシクね、キーブ」
「え、僕も貴族にされんの……? うわあ」
あら、キーブが嫌そうな顔してますけれど、キーブには貴族位が似合うと思いますわ。少なくとも骸骨商人とか薬中チンピラよりはマシですわね!
「ま、そういうわけで貴族連中の没落は、もう時間の問題、ってとこまで来てる。勿論、薬に溺れてくれない真面目な家もあるわけだけど、そこは、ま、何とでもなるでしょ」
「そうですわねえ、ああ、ワイナリーを持っている家に、アオスライムだけじゃなくてアメジストスライムを嗾けるのはいかがかしら」
アオスライムは草食のスライムですけれど、アメジストスライムは、こう……酒食ですわ。お酒が大好きなスライムなんですの。ワインの樽の中に潜り込んで中身を空っぽにしてくれたりするスライムですのよ。だからワイン倉庫ではアメジストスライムを存分に警戒するのですけれど……空間鞄で大量増殖したアメジストスライムが一気に襲ってくる、なんてのは想定外なはずでしてよ!
「スライムの大量発生なら、人為的な事件とは思われないだろうからな。既に葡萄畑がアオスライムに襲われている。同様の『事故』なら然程警戒されないだろう」
ええ、ええ。そうなんですのよ。やっぱり悪いことするなら、バレないように、ですわ。はー、やっぱりこれだから『手っ取り早い手段』はいいですわねえ。何せ手っ取り早いんですもの。おほほ。
「ならまずはアメジストスライムの方からやってみる? 即座に現金化できるワインを全部やられたら流石に貴族連中も大打撃でしょ」
「そうね。じゃあ早速、空間鞄をお一つ頂いて……アメジストスライム適当に捕まえて、お酒と一緒にぶち込んでおきましょうね」
アメジストスライムはお酒を餌にしてどんどん増えますから、増やすのも簡単ですわ。空間鞄いっぱいに育ったら、適当な貴族のワイン蔵近辺に放してやりましょうね。おほほほほ。
「ワインを作ってる貴族はこれで相当痛手だろうな。だが、他はどうする。全ての貴族がワイナリーを運営しているわけではないだろう」
まあ、それはそう、なんですのよねえ。
フォルテシア家もワイナリーを持っていましたけれど、全ての貴族がそう、というわけじゃあ無くってよ。鉱山を持っている貴族も居ますし、そもそも、領地の作物だけで収入を得ているようなところもありますわね。
まあ、領内で全て完結しているような弱小貴族はどうでもよくってよ。そいつらはどうせ、貴族院の中でもはみ出し者。要は、私にとってもどうでもいい奴らですの。そいつらまで没落させる必要はありませんわ。
ですから私が狙うべきは、貴族院の中でも中枢の、いくつかの上流貴族。そいつらって大抵、既得権益だけで今も食べてやがりますのよ。
例えば、このエルゼマリンってクラリノ家の領地なのですけれど、同時にエルゼマリンはこの国一番の港にして、この国一番の関税の高さでいやがりますのよねえ……。
そう。この国に流通する多くの商品って、エルゼマリンを通りますわ。エルゼマリンの大きな港を通れば、この大都市エルゼマリンに商品が流れる他、エルゼマリンからそう遠くない王都にまで商品を流せますもの。ですから、エルゼマリンを利用する商人は多いのですけれど……エルゼマリンの港を通る全ての商品には、税が掛けられますの。ええ。それがエルゼマリン関税ですわね。
大抵は商人の『コネ』を使って、商船一隻につき金貨十枚、ですとか、そういう風に簡略化されていますけれど、嫌がらせしたい相手には、本当に積み荷の一つ一つの一覧を作らせて、それに一つ一つ課税していく、っていう面倒な計算をさせるんですのよねえ……。ええ、フォルテシア家も嫌な目に遭わされましたわ。ですから別のところにフォルテシア専用の港を開いてやりましたけれど。おほほ。
ですから、まあ……これを潰してやる、っていうのが、理想的なんじゃ、ないかしら。
そう。ワイナリーやってようが鉱山やってようが、商品を流通させたらエルゼマリンを通ることが大半ですわ。特に、王都に近い場所に領地を持つ上流貴族共は絶対にエルゼマリンを使いますわ。
なら……答えは簡単ですわね!
「私、海賊やりますわ!」
ほら、犯罪って、手っ取り早いんですのよ。おほほほほ。
「へー、いいじゃんいいじゃん。面白そうだし、俺は乗る!」
はい、早速人員が集まりましたわ。薬中の思い切りの良さは最高ですわねえ。
「いやー、流石にバレるんじゃないの? だって海賊でしょ? 国を挙げて対策し始めるぜ」
「対策したけりゃすればよくってよ。その頃にはトンズラしときゃーいいのですわ! そうすれば貴族院は間違いなく無駄な対策のために無駄な費用と労力をかけることになりますもの!」
「あっ、それもそーね……」
そう! 海賊の良いところって、これですわ! こちらは好きな時に好きなように船を襲えばよくっても、向こうはいついかなる時も警戒しなきゃいけませんの。ですからその分、船に一々護衛を乗せなきゃいけなくなってお金がかかりますわねえ。港や近海を巡視するなら、それにもお金と人手と手間がかかりますわ!
そう! 私達の目的は、貨物を奪うことじゃありませんの! 奴らが大損こきさえすりゃーそれでいいのですわ! となれば、海賊となって適当に商船を襲ってさっさとトンズラこくって、最高じゃありませんこと?
はい。ということで私達、早速動き始めますわ。善は急げ。悪だって急げ。そういうことですわ。
「海賊ってことは眼帯とかすんのかよ」
「しなくていいですわよ」
チェスタがどこからか眼帯持ってきてブラブラさせてますけど、わざわざ視野を狭める必要があって? バカですの? やっぱりチェスタっておバカですの?
「いやー、お嬢さん。見た目って大事よ。俺達が海賊っぽい恰好してりゃ、数隻襲うだけで『海賊』の噂が立つだろうからね」
けれどジョヴァンの言うことも尤もですわねえ。ま、そういうことでしたら多少は海賊らしい恰好をしてやってもいいかもしれませんわ。私、船上で使うための曲刀、嫌いじゃありませんの。今回の私の武器はアレにしますわ。おほほ。
「ねぇ、ジョヴァン。あなたも参加しますの? 間違いなく戦闘になりますけど」
ところでジョヴァンが乗り気なのが気になりますわねえ……。だって、海賊ですわよ? 相手を襲って海にほん投げて、船奪って逃げますのよ? 当然、戦闘になりますけど非戦闘員がわざわざ参加する意味、ありまして?
……と思っていたら、ちょいちょい、と手招きされたので、ジョヴァンに近づいてみますわ。
「俺の目、ね。実は片っぽ、作り物なのよ。ちょいとズルの利く特別性でね」
促されるまま、ジョヴァンの目ン玉を覗き込んでみたら……あらっ! よく見たらジョヴァンの目、片っぽ義眼ですわ! ブルーグレーの色合いは両目とも同じですから、今まで全く気付きませんでしたけれど……。よくできた義眼、ですわねえ。ええ。そして私、とんでもないことに気づきましたわよ。
「……これ、夜の女王の心臓じゃありませんこと?」
「ご名答!」
夜の女王、という実体の無いゴースト系の魔物が居るのですけど、そいつを殺した時に一つだけ手に入る宝石が、『夜の女王の心臓』ですわ。これを握り込んで少し魔法を使えば、暗視や生命の探知の力を得ることができますのよね。つまり、夜の海、なんていう只々真っ暗な場所でも相手の船が見えちゃったりするんですのよ。ええ。確かにそんな人員が居れば、海賊行為には利になりますわね。ジョヴァンが参加する意義がようやく分かりましたわ。
……ただ問題は、『夜の女王の心臓』が目ン玉の代わりにぶち込んであるってことですわ。……そう。『夜の女王の心臓』って、本来、握り込んで使うモンですわ。魔物から取ったブツなんて、精々、その程度の使い方にしとかなきゃ危ないんですのよ。ですから決して、義眼にして目ン玉の代わりに突っ込んどくもんじゃー無くってよッ!
「まあ、そういうわけだ。今回はジョヴァンも同行させる」
「偵察要員としてなら使ってくれていいからね。ただし俺は戦わないぜ」
まあ、ドランがそう言うなら大丈夫なのでしょう。こいつら同士の付き合いは長いように見えますし、私が云々言うべきところじゃありませんわね。ジョヴァンには偵察に徹してもらいますわ。
「今回は僕の出番は無い?」
「そうねえ、相手の船を奪うのが目的ですもの。雷落としちゃうわけにはいきませんわ。それにあなたはきっと、顔が割れない方がよくってよ」
今回、キーブはお留守番ですわ。相手を殺すことが目的じゃあありませんし、海賊の噂を広めて警戒させるのが目的ならむしろ、相手には生きていてもらわなきゃ困りますもの。雷を落とすわけにはいきませんわね。そして何より、顔が出る仕事は汚れ役がやった方がよくってよ。おほほ。
「何も見えねえ!」
……そしてチェスタは眼帯を両目に着けてゲタゲタ笑ってますわ。そうですわね。両目に着けたら見えませんわね。薬中ってこんなんであんなに笑えて安上がりですわねえ……。
そうして私達、出港しましたわ。勿論、エルゼマリンの港からなんて出港しませんわ。そんなことやったらあっという間にお縄でしてよ。
エルゼマリンを出て少し移動したあたりの入り江。そこにジョヴァンが買ってきた小さな船を停泊しておいてくれましたから、それに乗り込んで出港、ですわ!
出航は夜。そして襲撃は夜中。私達はエルゼマリンから離れて、海を南へ南へと進みますの。
そうすると、隣国ウィンドリィとの間を行き来する貿易船が航行していますから、それを襲いますわよ。
「おー、幸先がイイじゃない。早速一隻、居るぜ」
そしてしょっぱなから大当たり、でしてよ。ジョヴァンが早速、商船を見つけてくれましたわ。……まあ、私達の目には、ほとんど見えないのですけど。でもジョヴァンがあるって言うんだからあるんだと思いますわ、船。
ちなみにジョヴァンは、如何にも海賊らしく襟の高いコートに襟の開いたシャツ、そして頭にはトライコーン、という恰好ですわ。大変に乗り気でしたわ。衣裳係としての素養がありますわね。
「なら俺達三人で乗り込んで船員を海に落とすか」
ドランとチェスタは麻のシャツにズボンにブーツですわ。頭にバンダナ、という恰好ですから、下っ端海賊、ってかんじですわねえ。おほほほ。
「でしたら、ジョヴァン。私達が乗り移った時点で錨を下ろしておいて頂戴な。梯子も下ろしといてやれば、海に捨てた連中がそれを伝ってこっちの船に移れるはずですわ。適当に生き残りが居た方が海賊の噂が広まりますもの。可能なら殺さずに海に投げ込んで頂戴ね」
そして私はオフショルダーのブラウスにコルセットとスカートに金ボタンのコート、そして頭にはダチョウの羽根を飾ったトライコーン、という恰好ですわ! 海賊ですわ! 私、海賊っぽいですわ! 勿論、武器はカトラスですわ。海賊の曲刀ですから、揺れる船上でも使いやすい作りになってますのよねえ、これ! ふふふ、楽しみでしてよ!