……頂いてしまったネックレス、とりあえず、着けてみましたわ。宝石と黄金の重みがちょっぴり嬉しくってよ。

「似合うかしら?」

「お似合いですよ、お嬢さん。まるであなたのために誂えたみたいなネックレスじゃあないの、それ」

 聞いてみたら、ジョヴァンが鏡を持ってきて見せてくれましたわ。……私、瞳が赤色をしていますし、元より赤が似合うのですけれど、確かにこのネックレスはよく似合いますわね。ちょっぴり嬉しくってよ。

「ではこれ、ありがたく頂きますわね。チェスタ、ありがとう」

「へへへ……目玉が三つある……」

 ……もう既に半分ラリりかけの薬中の意見は無視するものとしますわ!


 それから私達、盗んできたものとあり合わせのもので晩餐としましたわ。何といっても、ワインセラー一つ分のワインと食料庫半分程度の食料を頂いて参りましたもの。贅沢したっていいと思いますわ。

 ちなみにチェスタも飲んでますわ。薬と酒のチャンポンですわ。命知らずですわね。キメたら飲むな、飲んだらやるな、がお薬の常識ですのに!

「へー。お嬢さん、随分イケるのね。一人で一瓶空けてない?」

「まだ九分目までしか空いてなくってよ」

「それほとんど一瓶って言わない?」

 そして当然、私も飲んでますわ。ええ。私、上等なワインは好物ですのよ。どっしりと濃厚なチョコレートケーキとハムとチーズをおつまみに、赤ワインを空けたところですわ。とっても美味しくってよ!

「まるで酔いが顔に出ていないな。相当酒に強いのか」

「ええ。私、中々酔いませんの。そういうあなたも酔っていないように見えますわねえ」

 ジョヴァンはグラス三杯目でほろ酔いになってるようですし、チェスタはもうラリってますから関係ありませんわね。けれどドランはどうやら、お酒に強いようですわ。瓶から直飲みしてガンガン瓶を空けてますわねえ……。

「顔に出にくいだけだ。酔ってないわけじゃない」

 けれどドランはくつくつ笑ってそう言いますわね。まあ、本当に酔っているのかどうかは判別がつきませんけれど、少ーしばっかり、陽気になってる、かもしれませんわね。ええ。……いえ、それでも瓶二本目を空けておいて『少しばかり陽気』ってくらいなら、十分バケモンですわね!

「そうか。酒に強いなら……こっちに少し強いのがあるんだが、飲むか」

 更に、ドランは棚から蒸留酒の瓶を出してきましたわ。結構よいお品ですわねえ。折角ですからそっちも頂きましょう! 貴族の邸宅から頂いてきたグラスを鞄から取り出して机に並べれば、ドランがそこにお酒をいでくれますわ。うふふ、綺麗な琥珀色……これは期待が持てますわねえ!

「ジョヴァン、飲むか」

「いーや。俺はこれ以上飲んだらおかしくなっちまうよ」

 一応、ジョヴァンの分もグラスは出しておいたのですけれど、どうも彼、然程お酒に強くはないようですわねえ。ま、そういうことでしたら私とドランで頂きますわ。チェスタは知りませんわ。もうラリってますものね。ええ。

「あら、美味しい」

 注がれたお酒を早速頂いてみたら、なんとまあ、美味しいこと! ちゃんと熟成されたものらしく、酒気はすっかり角が取れていて、丸みのあるコクが感じられますわ。そして何より、華やかな香り! まるで薔薇か何か、花のような香りが広がりますのよ! これはいいお酒ですわぁ……。

「ようやく酒を飲む仲間ができたな」

 ふと気づいたら、ドランがにやり、と笑いながら私を見てましたわ。……まあ、そうね。ジョヴァンは然程お酒に強くないようですし、チェスタは強い弱い以前にラリっちまいますものね。そう考えると、強くて美味しいお酒を楽しむ趣味があるのはドランだけだった、ということになるのかしら。

「ええ。私、お酒は強くってよ。そして味を楽しむ余裕も持ち合わせておりますもの。もし今後も美味しいお酒を開けることがあれば、是非、お相伴に与らせてくださいな」

「よし。言ったな? なら今後も付き合ってもらうぞ」

 ま、ドランもなんだか楽しそうですし、お酒を飲む仲間が欲しいということなら、こういうのもやぶさかじゃなくってよ。私も美味しいお酒、大好きですし、ドランは静かですからお酒の邪魔になりませんものね。

 ……私、つくづく、いい仲間に巡り合いましたわねえ。おほほ。


「さて。ではそろそろ私はおいとましますわね」

 そうして時計の針が両方てっぺんを過ぎた頃。私、ボチボチお暇することにしましたわ。流石にここで眠るのはちょっと憚られますもの。ちなみにチェスタはもう寝てますわ。リビングのソファで死体のように眠ってますわ。でも生きてましたわ。ですからほっときますわ。

「行くアテがあるのか」

「ええ。地下通路のどこかに居を構えようと思いますの」

 ドランは心配そうですけれど、私の行き先は決まってますわ。このアジトがある地下通路。そのどこかにはもうちょっとばかり隙間があると思いますの。そこを私の城といたしますわ!

「いやいや、お嬢さん。若い娘さんが野宿同然の暮らしなんてするもんじゃあないでしょうよ」

「ベッドならある。チェスタを転がす部屋の他にもう一つ仮眠室があるからそこを使えばいい」

 ジョヴァンもドランも心配してくれるようですけれど、私、そのあたりは抜かりありませんの。

「あら、ご心配なく。家具も頂いてきましたから問題なくってよ」

 ほらね、と、空間鞄からドレッサーを取り出しましたわ。

 ……ええ。私、盗んできたものが書類とワインとケーキだけ、なんてみみっちいことはいたしませんわ! ちゃんと家財道具一式も盗んできましたわ! そうじゃなきゃー空間鞄を持っていった意味がありませんものね! おほほほほ!

「……このお嬢さん、可愛いナリして大したタマじゃあないの」

「忘れたのか。こいつは国家転覆を目論む脱獄囚だぞ」

 おほほほほ! しばきますわよ!


 ということで、夜明け前には私の城が出来上がりましたわ。

 場所はアジトからほど近い通路のどん詰まり。そこを盗んできた家の塀とドアとで上手く区切って漆喰で固めて、私の城としましたの。こういうのってワクワクしますわねえ。

 部屋の床には深紅に金糸が織り込まれた見事な絨毯。壁には蔓草模様が金で箔押しされた壁紙を張って、タペストリーで隙間風を防ぎますわ。タペストリーで隠れる位置にでも、ネズミ除けに私の血を使って魔法の紋様を描いておきましょうね。この魔法の文様の効果は単純ですわ。侵入してきた害虫害獣は死にますわ。以上ですわ。おほほほほ。

 さて、天井からは鉄とガラスでできたキャンドルランタンを吊るしてみましたわ。このランタンは使用人室のものでしたわね。格の低い品ですけれど、歪みのあるガラス板に炎の光が揺らめく様子が気に入りましたの。こういうのも風情があって悪くなくってよ。

 それから、磨き抜かれたマホガニーのテーブルと椅子のセットを置いて、黄金細工の燭台に蜜蝋の最高級蝋燭を立てますわ。蜜蝋の蝋燭って火を灯すと甘い香りがして最高ですわね。ああ、それから食器棚は気に入った食器が入っているものを丸ごと持ってきましたの。金で薔薇模様が入った白磁のティーセットは特にお気に入りですわ。茶葉もいいものを缶ごと頂いてきましたから、今後、いっぱい使いますわ!

 それから、寝室も別途作りましたわ。たっぷりとした天蓋が付いた大きなベッドにふかふかのお布団。これは客間にあったものをそのまま頂いてきましたのよねえ。お隣に小さな書き物机と本棚を置いて、鈴蘭の花のような形のランプを設置しますわ。このランプも可愛くってお気に入りですわ!

 更に、寝室の隣に食糧庫を作って、頂いてきたワインと食料……パンにジャムの瓶詰に、上等なハムにチーズにドライフルーツに木の実の蜂蜜漬けに、と並べていきますわ。食料庫の外には少しばかり火を使える竈をこしらえて、そこには小さなケトルだけ置いておきましょうね。お紅茶だけ淹れられるようにしておけば十分でしてよ。

 それから、シャワールームも作りましたの。見当を付けてちょいと掘ってみれば、丁度いいところに貴族街用の温水上水管が通っているのが分かりましたの。ですからそれをちょちょいと弄って、温水を引けるようにしましたわ! これで上水道はバッチリですわね! そして排水は簡単ですわ。だってここ、排水用の地下水道なんですもの! つくづくいい物件ですわあ!


 後は細々とした箇所を整えて、完成ですわ! 我ながら、満足のいく出来栄えですわ!

「椅子はもっと気に入るものが今後見つかるかもしれませんわねえ……」

 勿論、不足はいくらかありますわ。けれど、それも今後手に入ることでしょうし。その度にちょっとずつ模様替えをする、というのもきっと楽しくってよ。

「ではおやすみなさいましっ!」

 ということで私、早速、できたての寝室で寝ますわ! よく考えたらシャバに出てから初めてのまともなベッドですわ! ぐっすりたっぷり眠ってやりますわよー!


 


 有言実行ですわ。いっぱい寝ましたわ。起きたら夕方でしたわぁ……。そのまま部屋の片付けや鞄の改造なんかを細々とやって、地下水道の水辺でぽよぽよしてたアオスライムを適当に捕まえて手慰みに戯れて……さて、夜になったらドラン達のアジトへ向かいますわ。

「ごきげんよう」

「ああ、来たか。どうする、対魔の栽培場へ行くなら今夜がいいかと思ったが」

「ええ、私もそのつもりで来ましたの。早速、出ましょうか」

 ドランは既に旅支度をしていましたわ。……そう。これから向かう先は、エルゼマリンからちょいと離れた場所ですの。恐らく一晩は野営ですわねえ。

「チェスタはどうしましたの?」

「使い物にならない」

「あらぁ……まあ、そうでしょうねえ……」

 見れば、昨夜見た通りにチェスタがソファの上で寝てましたわ。お酒とお薬でグデグデですわねえ……。ならしょうがなくってよ。今回は私とドラン、あと移動手段のジョヴァンで三人の仕事になりますわね。


 さて。エルゼマリンは検問がボチボチ厳しくってよ。抜け出すのもちょいと難しいのですわ。なので今回は、積み荷に紛れて街を出ますわ。……ジョヴァンが商人で助かりますわねえ。

 私達三人、途中で野営を挟んで、出発から一日半。ようやく栽培場に到着ですわ。まあ、普通の畑、といった風情ですわ。対魔の葉っぱって綺麗な形をしていますし、こうして見ている分にはただ綺麗な、背の高い草がたくさん茂った葉っぱ畑、なんですのよねえ……。

「どうする。この栽培場は燃やすか?」

「いえ。それですと人為的なものだと分かってしまいますでしょ?」

 この栽培場以外にも、葉っぱ栽培場はあるはずですわ。というか、お薬業者が一つだけなはずがなくってよ。ですから顧客リストをジョヴァンに預けて、別の業者を探ってもらいますの。そしてそこには、私達が潰しに行くその時まで警戒せずにいてほしいのですわ。だから、この栽培場は『事故で』潰れてくれた方が都合がいいんですのよ。


 ……ということで、私、空間鞄を逆さにして、ふり、ふり、とやりましたわ。すると、まあ出るわ出るわ、大量のアオスライムが出てきてはぞろぞろと葉っぱ畑へ向かっていきますのよ。草食のアオスライムはこのまま葉っぱを食べつくしてくれるはずですわねえ。これでこの葉っぱ畑も終わりですわー!

「スライムがたまたま大量発生して食べちゃった分には、誰かの仕業だと疑えませんわ。次の栽培場を潰す前に警戒されたらたまりませんものねえ! おほほほほ!」

「成程。いい策だな」

「……お嬢さん。それはいいんだけど、なんで空間鞄からスライムが出せるんですかねえ」

 ドランがのんびりアオスライムの群れを眺めている一方、ジョヴァンがちょいと焦ってるのが見えますわ。

 まあ、そうですわね。空間鞄って、元々は生き物を入れられませんのよ。

 どうしてそうなってるのかは、まあ、古代魔法の設計者に聞かないと分かりませんけれど……恐らく、中に入れておいた生き物が暴れて鞄を壊さないようにするためだけじゃなくて、食品が腐敗しないように、ということなんじゃないかと思いますわ。ええ。ですから、空間鞄にしまってある食品は腐りませんし、熟成も進みませんのよ……。

 まあ、でも、それだと魔物や人間を生け捕りにする時にちょいと不便ですわ。特に、スライムなんて大量に運ぶのが大変ですもの。空間鞄にでもしまえなきゃーやってられませんわ。

「まあ、簡単なことでしてよ。空間鞄を改造して生き物が入れられるようにしましたの」

 ということで改造しましたわ! 仕組みが解明されてない魔法だって、ちょいと改造するくらいならできちゃうものなのですわ!

「スライムもこのように大量に運搬できるとなると、人為的に災害を起こせるようなものか。バッタを畑に放てば戦争にも勝てそうだな」

 ええ、ええ、そうですの。生き物を大量に運ぶことができれば、途端に色んなことができるようになるのですわ! これだから空間鞄って素敵ですわ!

「ね、お嬢さん。空間鞄……っていうか、解明されてない古代魔法の産物の改造って」

「ま、違法ですわねえ」

 まあ、そのあたりは今更ですわ。私に冤罪吹っ掛けて死刑にしようとした法治国家の法なんざ、守ってやる義理はなくってよ。おほほほほ。


 こうして私達、スライムに葉っぱ畑を襲わせて、お薬業者の栽培場を一つ、綺麗に潰してやりましたわ。ついでに帰り道で通りがかったどこぞの貴族のワイナリーにもスライムけしかけておきましたわ。今後、どんどんスライムを活用して『事故』を起こして参りましょうね!

「あの、お嬢さん。このスライム、一体何匹出てくるんですかね」

「さあ……分かりませんわね。私は出発の夜、地下通路に居たアオスライム三匹とお水を入れておいただけで……あ、後は道中で雑草をいくらか、鞄の中に入れましたけれど。でもそれだけですわ」

 スライムってお水があれば、案外簡単に、かつ勝手に増えるんですの。餌となるものがあれば、もっとですわ。ええ、本当に便利な生き物ですわぁ……。だからしょっちゅう潰れて死んだり捕食されて死んだりしてるのですけれど。ええ。スライムって多産多死の生き物なんですのよね。

「ねえお嬢さん。それ、更にほっとくと鞄から溢れてきたりする?」

「……しないように気を付けますわ」

 そうですわね。増えすぎには気を付けなくてはね。ええ……朝起きたらお部屋の中がスライムだらけ、なんてのは御免ですわよ!

「さて、次はどうする」

「そうね、ここでちょいと張っておいて、業者が来たら捕まえますわ。その方から『お話』を聞かせて頂ければ手っ取り早くってよ。それと同時に他の貴族の家も強盗していきたいところですわ」

 さあ、ここからまた頑張らなくてはね。この国からお薬業者が消えるまで、潰し続けるのですわ! ……そして潰し終わったところで私達の寡占市場が花咲きますのよ! おほほほほ!


 


 ……ということで、それから一月ほど、お薬業者を潰しに潰していましたわ。栽培場は五つ、業者は四つ、潰したかしら。それから、末端の売人を適当にボコしておいたので、エルゼマリンではすっかり、お薬を売る者が居なくなりましたの。裏通りに売人が居ない、珍しい光景が続いていますわ。

「じゃ、すっかり平和になり下がったエルゼマリンの裏通りに乾杯!」

 そんな今宵、私達はささやかながらパーティを開いていますの。まあ、目障りな業者を全て潰し終えた記念、といったところかしらね。

 貴族の家から頂いてきた高級ワインをバンバン開けて、業者潰しのついでに見つけて狩ったドラゴンのお肉をバンバン焼いて、飲んで食べて楽しく参りますわよ!

「俺は嬉しくねえ……どこで薬買えばいいんだよぉ」

「私から買いなさいな。はい、葉っぱですわ。金貨一枚でよくってよ」

 唯一、チェスタだけは業者が潰れに潰れたせいで最近ラリれずにションボリしてますわね。まあ我慢なさいな。

「あ、チェスタ。こっちは私のためのお肉ですの。あなたはそっちからお食べなさいな」

 ションボリチェスタが私の皿にフォークを伸ばしていましたから、その手をぴしゃりと叩いて躾けますわ。……こっちのお肉は私が私の矢で仕留めたドラゴン肉ですのよ。だからあげませんわ!

「いいじゃねえかよ、ケチだなぁ」

「よくありませんわ! そっちにドランが仕留めたお肉があるじゃーありませんの! そっち食べなさいな!」

 文句垂れてるチェスタに言い返しつつ、私は私のお肉を死守しますわ! これは他の人に食べさせるわけにはいきませんのよ。だって……。

 ……あらっ。

「貰うぞ」

「エッ!? あっ、ちょ、ちょっとお待ちなさいなドランッ!」

 私がチェスタと話している横で、ひょい、とドランの腕が動いて……私が止める間もなく、そのお肉、食べちゃいましたわ。

 ……私が私の血で仕留めたお肉、食べやがりましたわァーッ!


 唖然として見てたら、ドランがふらっ、と倒れましたわ。……ドラゴン素手で投げ飛ばすバケモンが! 倒れ! ましたわァーッ!

「吐けェーッ! 吐くのですわァーッ!」

 もう待ったなしでしてよ! ドランの口の奥に手ェ突っ込んで吐かせますわ! 吐瀉物とか気にしてられなくってよ! さっさと吐かせたら水を大量に飲ませて、また吐かせますわ! 

「なん、だ、これは……」

「だから! 食べるんじゃーないって! 言ったじゃありませんのよーッ!」

「お、おいおいおい、お嬢さん! これ一体何なの!?

 もう阿鼻叫喚ですわ! もうなんだか分かりませんわ! これどうしたらいいんですのーッ!

「毒だな」

 ……そこで、吐くだけ吐いて倒れっぱなしのドランが、私を見上げながら、言いましたわ。

「お前の血はどうやら、毒になるらしい。違うか?」


「もうこの際、隠しておくと死人が出そうなので白状しますわ。私の血って、毒ですの」

 ということで、ドランが落ち着いたところでもう、しょうがないから話しますわ。うう、これ、私の切り札なんですのよ。手を組んだとはいえ、今後どうなるか分からない相手に明かしたい内容ではなかったのですけど……このままだと味方から死人が出そうですものねッ!

「血が毒? そりゃ、どういう……」

「そのまんまですわ。私、毒への耐性を付けるため、幼い頃から毒を大量に食らって参りましたの。そして、より一層自らを高めるため、文字通り血反吐を吐きながら毒物収集する勢いで毒物を摂取していたら……私自身が毒物になっていたのですわぁ」

「待って、ちょっとわかんない」

 ジョヴァンが頭抱えてますけど、実際、こんな事例他に聞いたことありませんものねえ。困惑もやむなし、ですわぁ……。

「お前の家は暗殺者の家系だったか……?」

「貴族ですわ」

 フォルテシア家を勝手に暗殺者集団扱いしないでくださいまし。ぶっ飛ばしますわよ。

「まあ、それで、私の場合、摂取した毒があまりに多量で多種だったことと、丁度その時期が成長期で魔力が伸びる時期だったこと、そして元々はとっても魔法の才能があったこと、なんかが嚙み合ってこうなったんだと思いますの」

 まあ、要は、私自身がそういう魔法の産物になっちゃったのですわ。どんな毒をも取り込み、どんな毒より強い毒を生み出す。そういう魔法が、私の体の中で生まれたんですのよ、多分。ですから私、どんな毒も効かなくて、そして、どんな毒より強い毒、なのですわ。

 ……そして、そのせいで私が使える魔法は火の魔法と身体強化魔法だけなのですわッ! フォルテシア家において! 私だけ! 魔法の才能がほぼ無い状況なんですのよーッ! ムキーッ!

「あー、つまり、魔法毒? だっけ? お前の血ってああいうやつなのかぁー」

「ええ。解毒剤も無く、只々強い、世界一複雑で強力な魔法でできた毒。それが私の血なのですわ。強さは……まあ、鏃に塗り付けられる分だけでドラゴン一匹仕留められる程度、ですわねえ……」

「それから、そうして仕留められたドラゴンの肉を一切れ食っただけで俺がこうなる程度だ……」

 倒れたまま、ちょっと朦朧としてるドランがそう付け足しましたわ。説得力が違いますわね。

 ……今回のお肉は多分、場所が悪かったんですのよ。ドラゴンは首のお肉が美味しいもんですからそこを焼いたわけなのですけれど、首って頭に近くて、頭って私が矢を撃ち込んだ場所で……だから余計に毒の影響が濃かったんだと思いますわぁ……。

「まあ、そういうわけで、私は毒物を食べても効きませんし、私の血は毒物ですの。……ですから皆、私の血に触れるのはご法度ですわよ」

「あー、お前が怪我してる時に触るなって言ってたの、それかよ」

 ……まあ、そうですわ。こう、私の血がうっかり傷口から入ったりしたら、人間くらい簡単にコロリですのよ。あの時はチェスタ自身も怪我をしている可能性が高かったですし、危なかったですわねえ。

「俺もようやく納得がいった。お前が仕留めた肉は食うなと言っていたことも、血を塗っただけの矢一本でドラゴンを仕留められたことも……お前の血が毒だからだな」

「まあ、そういうことですわ。今後はお気を付けなさいな」

 少なくとも、今後は私が私の血で仕留めた獲物を食べるようなことはしないようにお願いしたいですわねえ……。

「ところでお前とヤッたらどうなんの?」

 ……あまりにも不躾な質問がチェスタから飛んできましたわ。まあ、うん、ええ……よくってよ。

「試したことが無いので分かりませんけれど。まあ、ちんたま腐り落ちて死ぬと思いますわ」

 正直に回答したところ、チェスタは股間をそっと押さえながら『こええ』と呟きましたわ。ええ、存分に怖がればよくってよッ!

「あれっ、てことはお嬢さん。あなた王子様の婚約者だったけど、つまり……」

「ええ。ダクター様は初夜に死ぬ可能性がボチボチ高かった、ですわねえ……」

 ……まあ、良好な関係を築けている様子を散々見せてきましたし、私が結婚相手である王子を暗殺する利点なんて無いのですから、私が疑われることはなかったと思いますわ。そして、一旦王族と婚姻関係を結んでしまえばあとはこっちのモンでしたのよねえ……。それがまさか、こういう風に婚約破棄されるとは思いませんでしたけれど! ムキーッ!


「……まあ、お前とヤるとヤバいってのは分かったけどよー」

 それから不躾チェスタが、妙に寂しそうな顔をして、ぽつん、と言いましたわ。

「お前が怪我した時に助けられねえってのは、困るよなあ」

 ……ああ、そこんとこはもう、覚悟してますのよ、私。

「あら、ご心配なく。私、そうそうヘマはしませんもの。自力で動けなくなるような怪我はしませんし、したとしたら……その時が死ぬ時ですわね」

 私が怪我をしても、誰も助けられない。だからこそ、私は武術を磨いて参りましたわ。ドラゴンだって一撃死させられる能力を得たのですもの。怪我を恐れて何もしないのではなく、怪我の恐怖を乗り越えられるように強くなる。それが、私の生き方ですわ。

 ……その生き方ができなくなるくらいヘマ踏んだら、まあ、その時は潔く死にますわ。案外、私みたいな奴にはお似合いなんじゃなくって?

「……ヴァイオリア」

 そして。

「すまない……水を、くれ……」

 ドランが、助けを求めていましたわ……。ドランは、こう、呼吸が荒くて、時折びくんと痙攣してますわね。あと、意識があるものの、ぼんやりしてて、ちょいと、気持ちよさそうな……。

 ……まあ、つまり、ラリってますわねえ!


「えええ……ちょっとちょっと、ドランが薬キメたみたいになってるじゃない。何だこりゃ」

「ああ……私の血の影響かもしれませんわぁ……」

 私、自分の血を与えて殺さなかった生き物が一匹たりともいませんのよ。ですからごく少量……血で仕留めたドラゴンの肉を食べさせてから吐かせる、みたいな方法で私の血を摂取した生き物がこうなるって、初めて知りましたわぁ……。

「……ねえ、お嬢さん、お嬢さん」

「はい、なんですの?」

 ちょっとラリッてるドランを興味深そうに観察したジョヴァンが、ふと、聞いてきましたわ。

「もしかしてお嬢さんの血って、ものすごーく薄めると、ラリれるってこと?」

 ……ええ、まあ、そう、なんでしょうけれど。

「これ、魔法毒系のお薬に効果が似てるように見えるのよ。ってことはね……」

 そしてジョヴァンが、にんまり不気味な笑みを浮かべて、言いましたのよ。

「これ、売れませんかねえ」

 ……それは盲点でしたわァーッ!