「ええ。国家転覆しますわ。王家を一族郎党皆殺しにしてこの国ぶっ潰しますわ」
「成程ね。ドランが嬉々として連れてきたわけだ!」
『お手上げ!』みたいな仕草をしながら、彼はドランをじっとり見つめましたわね。
「で、ドラン。お前、やる気なの」
「ああ。悪いが付き合ってくれ」
ドランが答えれば、深々とため息が返ってきますわ。……きっと苦労性なんですのねぇ、彼。
「まあ……しょうがない。ドランが決めたんだったら嫌でもなんでも俺も振り回されることは間違いないし……」
ぶつぶつ言う様子を見るだけで、なんとなくこの二人の関係が分かる気がしますわねえ。……まあ、如何にも『腐れ縁』ってかんじかしら。
「それに、ま、麗しのお嬢さんになら振り回されるのもやぶさかじゃあございませんので、ね」
そんな彼は気を取り直したようににやりと笑って(骸骨が笑うと不気味ですわね)、私の手の甲にキスしてきやがりましたわね。堂に入った所作ですこと。
「ジョヴァン・バストーリン。知ってると思うけど、『ダスティローズ』の店主。今後とも、どうぞ御贔屓に」
「ええ。どうぞよろしくね」
まあ、何はともあれ裏社会に通じる商人と懇意にしておいて悪いことはないでしょうね。特に、今後はお金も必要になるでしょうし……。
「早速ですけれど、売りたいものがありますの。よろしいかしら?」
ということでそのお金の調達のためにも、ジョヴァンには早速働いていただきましょうね。
「ん? ゴマタノオロチの皮?」
「いえ、ドラゴンの、ですわ」
「何、ドランが背負ってるやたらでかい包み、全部ドラゴン素材だったの?」
「五匹分ある」
ドランが荷物を開けつつそう言えば、ジョヴァンが『うげっ』みたいな顔しましたわ。まあ、普通、ドラゴンって数人がかりでやっと一匹仕留めるモンですものね。おほほほほ。
「……俺は驚かないぜ。何せお前と『狩りの女神様』だからな」
ちょいと悟りでも開いちゃったような顔して、ジョヴァンはそんなことを言いましたわ。そういやドランも似たようなこと言ってましたわねえ……。なんですの? 私のあだ名ですの?
「ん? ……あー、えーとね、お嬢さん。『狩りの女神様』ってのは、俺の店に時々やってくる、『傷一つない魔物の皮』を持ってくるお嬢さんのことよ。それはそれはいい腕してるもんだから、敬意を込めてそうお呼びさせていただいてました、ってこと」
私が怪訝な顔してたのが分かったのか、ジョヴァンがそう解説してくれましたわぁ……。
「だから俺はお嬢さんの腕前についてはもう知ってるのよ。間違いない。お嬢さんはこの国一番の弓の名手。それこそ、『狩りの女神様』ってとこでしょうよ」
まあ確かに、獲物の傷を見れば狩人の腕前が分かりますものね。単純なところですと皮の傷を見て、仕留めるまでに大体何発射ったか分かりますわ。それに、獲物の種類。当然ですけれど、そこら辺の鹿とドラゴンとじゃあ、仕留める難しさも命の危険も全く異なりますものね。
「ま、そういうわけで……このドラゴン素材一式、うちで買い取らせて頂きましょう。それなりの額を期待してくれていいぜ」
「そう、ありがとう。ねえドラン。分け前は半々でよくってよ」
「そうか。ならそういうことにしよう」
仕留めた数は私が三でドランが二ですけれど、私が仕留めたドラゴンの方からは血や心臓や肉を取りませんでしたし、まあ、そもそもここまで運ぶのはドランに任せてしまったものね。
「じゃ、ここから店まで運ぶか……面倒なこって」
「そもそも何故、こっちに居た?」
「そりゃーね、ドラン。王都で大量脱獄事件があった、ってニュースが飛び交ってるんだぜ? ならムショ入りしてたはずのお前も脱獄したと考えてこっちに張ってるのが妥当でしょうよ」
「そうか。要らん心配をかけたな」
「はいはい。その分稼げよ」
ジョヴァンは苦い顔でドランの背中を叩いて、それからドラゴン素材のでっかい包みをげんなり見下ろしましたわ。……ジョヴァンに運べるようには見えなくってよ!
「運ぶのはチェスタにやらせるか。……使い物になりゃいいが」
ジョヴァンはそう言うと、アジトの奥の方へ入っていきましたわ。ドランもそれを追いかけるのを見て、私もついていくことにしますわね。
……けれど。
「おーい、チェスター、おーい……あ、駄目だこりゃ」
入っていったのは仮眠室らしい部屋ですわ。そして、そのベッドの上に寝ている奴は……。
「へへ……今日も空がきれーだなー……」
……目がイっちゃってますわ。当然ですけれど、空なんて見えませんわよ。ここ、地下ですもの。
「ヴァイオリア。こいつがチェスタ・トラペッタだ。戦闘では頼りになる。特に人間相手なら俺に引けを取らない。……まあ、いつでも使い物になるとは限らないところが玉に瑕だが」
成程。こいつ、ラリってますのね。まあ、エルゼマリンの裏通りでは珍しくないですけれど……。
派手な金髪に飴色の瞳はまあ、どこに居てもおかしくない容姿ですわね。けれどチェスタの特徴は、そのラリラリ具合と、義手、ですわ。
そう。チェスタの右腕、明らかに鋼鉄でできた義手なんですのよ。ぱっと見ただけでも、おそらくここに武器の
「俺さー、大きくなったらさー、お城の騎士になるんだ……」
大きくなったらもクソもありませんわよ。もう十分でかい図体してますわよ。というかラリった野郎の将来の夢なんざ知ったこっちゃーなくってよッ! ……本当にこいつ、大丈夫ですの?
……まあ、チェスタを見て不安は増しましたけれど、それはそれ、ですわ。戦闘員が私の他に二人、それに頭脳労働や渉外担当に使えそうな人員が一人。上出来ですわ。これだけ芋蔓式に丁度いい仲間ができたんですもの、ドランを連れてきたのは正解だったようですわね。
「これだけの人員が居れば国家転覆も夢じゃありませんわね! 贅沢を言うなら、魔法が使える戦闘員も一人居ると嬉しいですけれど……ジョヴァン、あなた、実は戦えたりしませんこと?」
「ちょっとちょっと、お嬢さん。俺を戦闘員にする気? 無茶言っちゃあいけませんよ。俺は頭脳労働担当。戦うのはドランとチェスタにやらせてくれる?」
ですわよねえー。まあ、ジョヴァンが戦えるとは思ってませんわ。魔法を使うだけならガリガリでもできたりしますけれど、そもそも魔法を使える人は貴重ですのよねえ。私も……諸事情あって、まともに運用できる魔法は火の魔法と身体強化の魔法くらいですわぁ……。
「まあ、戦闘員三名でもなんとかなる、と思いたいですわね」
「……そもそもどこから国家転覆を図る気だ? 国王の暗殺か?」
「暗殺? それだと派手さに欠けますでしょ? やっぱり王族は全員火刑ですわ」
そう。私の計画ですと、やっぱり王族は全員火刑ですの。火って見栄えがしますでしょう? それに、フォルテシアの屋敷を燃やされてますもの。お返しに丁度いいんじゃなくって?
そう……そうね。私の計画、ここで一度、共有ついでに整理しておくのがよろしいかしら。
「私、最初に貴族院と大聖堂を狙いますわ。それから王家を潰す。こういう順序の予定ですの」
まず、この国の制度ですけれど。この国を支えるのは三本の柱ですわ。
一本目は貴族院。私を死刑にしようとしていたあの憎きクリス・ベイ・クラリノを筆頭に、いけ好かない貴族共で構成された議会ですわね。……議会といっても、まともに議論なんてされてませんわ。一部の貴族の、一部の貴族による、一部の貴族のための議会ですもの。全員が全員、王家と私欲のために動いてますわ。
二本目の柱は、大聖堂。エルゼマリンにある施設ですけれど、この国で一番の宗教施設であり、福祉施設でもありますわ。この大聖堂、神の声の代弁者であり、同時に、民意の代表としての面も持ち合わせていますの。ですから、王家に進言できる立場の内の一つなのですわ。まあ、こっちも上層部が腐敗して久しいんですけれど。おほほほほ。
そして三本目の柱は王家ですわね。……権威とやら以外に何も持ち合わせていない、無能の集まりですわ。以上ですわ!
……と、まあ、この国はそういう作りになっていますの。ですから、貴族院と大聖堂を潰せば王家がにっちもさっちもいかなくなって、革命を起こしやすくなりますわね。そこで改めて王家を攻撃して連中を火炙りにしてやれば、この国は晴れて転覆、というわけですのよ。おほほほほ。
「貴族院と大聖堂、か……ただ真正面から向かっていくと難しそうだが」
「貴族院は簡単ですわ。金を毟ればあいつらただの人間以下ですもの」
ドランが難しい顔をしていますけれど、そんなに難しい話じゃあなくってよ。
「適当に浪費させるなり収入源を潰すなりして、貴族連中を困窮させますわ。そしてそいつらの領地を金で買いますのよ。そうしていけばその内、
「成程ね。それは俺の得意分野かも」
「ええ。期待してるわ、ジョヴァン」
貴族が貴族なのは、金があるからですわ。つまり、金を失った貴族は貴族じゃなくってよ! 金を奪えば連中に表舞台からご退場願える、というわけですわ。何も正面切って戦わなくたっていいのですわ。
「できれば、貴族院総裁のクリス・ベイ・クラリノに気づかれない内に貴族院を瓦解させたいんですの。あいつだけはちょいと厄介でしてよ」
まあ、貴族院唯一の壁は、クリスでしょうね。あいつの処理だけはちょいと手間取るかもしれませんわ。ですから、クリスを除く他全ての貴族をサクッと没落させて差し上げましょうね!
「で、お嬢さん。大聖堂の方はどうするのよ。あっちは金じゃあ動かせないぜ。まさか武力制圧、なんて言わないでしょーね」
「あら、大聖堂の方はもうちょっと考えますわ。私、あの建物気に入ってますの。あれを破壊するとエルゼマリンの景観が悪くなっちゃいますわ」
続いて大聖堂の方ですけれど……こちらは複雑ですわ。
「大聖堂は民意の代表、という建前を持っていますわ。真っ向から叩き潰したら民意に背く大罪人、ってことになりますわね。革命を起こすにしろ、国民を皆殺しにする気はありませんもの。民衆および大聖堂に敵対の姿勢を示すのは賢くないんじゃないかしらね」
大聖堂をどうにかする、となったら、まあ、腐敗した上層部を総とっかえしてやる、くらいかしら。その時にこっちの協力者を上層部に押し込めれば尚良し、といったところですわね。まあ、最悪の場合でも王家にちゃんと楯突いてくれる大聖堂になりさえすればよくってよ。
「そして王家には火を掛けますわ。連中全員火炙りですわ。城も燃やしますわ」
そして最後に……これは譲れませんわ! フォルテシアの屋敷を燃やした以上、あいつらも燃やされるべきですものね!
「何、お嬢さん。あなた火刑によっぽどのこだわりがあるの……?」
「ええ。火炙りは絶対ですわ。私、冬の生まれですの。だから火を付けるのが好きなのかもしれませんわね」
「お嬢さん、お嬢さん。その理屈でいくと俺も放火魔になっちまうんですけれどね」
あら、ジョヴァンも冬生まれなんですのね。じゃあご一緒に放火魔になりましょうね。おほほ。
「ということで、早速ですけれど貴族連中から金を毟るためのご意見を頂けるかしら?」
ぱん、と手を打って、早速、相談ですわ。……ええ。私、一対一かつ生身の生き物相手の戦闘ですとか、ハッタリだけで魔法の実技試験をこなすとか、そういうことには自信がありますけれど、
「そうね。じゃあ、頭脳労働担当から言わせてもらうと……ワイナリーを持っている貴族については、ワイナリーを狙うってのがいいんじゃないかね。丁度もうそろそろ葡萄の収穫期だ。そこで畑なり、収穫が終わった直後の蔵なりを燃やしてやれば、一年分の収入をそこで断てる」
早速、ジョヴァンから意見を頂きましたわね。まあ、貴族の収入源として、ワイナリーは王道ですわね。そこそこの数の貴族がワイナリーを持っていますわ。そこを全部燃やしてやる、というのも悪くありませんわねえ……。
「……でも、収入を断つだけじゃなくて、支出を増やしたいところなんですのよねえ」
貴族連中って金はありますのよ。ええ。金しかありませんけど、金はありますの。ですから、蓄えてある分も相当なモンなのですわ。それを削り取らないと、没落まで追い込めませんけれど……。
「何か売りつけてやる、ってコト?」
「ええ、そうよ。……お父様やお母様がいらっしゃれば、フォルテシア家で扱う予定だった商品を使えたのでしょうけれど……屋敷が燃えた以上、それは難しくってよ」
フォルテシア家は元々、商人の家でしたもの。物の売り買いは得意分野でしたし……何より、お金になりそうな新しい武器の開発なんかもしてましたのよねえ……。本当に惜しまれますわ!
「あるいは家屋を破壊してその修繕費を支出させるのはどうだ」
「おいドラン。せめてドラゴン革を流行させておいてからドラゴン狩りに行く、ぐらいの案は出してくれよ」
ううーん、何か売るにしても、何を売るかが問題ですわ。ドランの言うように損害の補填をさせるのも限界がありますものね。どうしようかしら……。
「チェスタ。ねえ、あなたは何かご意見、ありませんこと?」
「へへへへ……見ろよ、星がきれーだから……」
藁にも縋る思いで聞いてみましたけど、駄目ですわ。ラリってる野郎から意見が出るはずがありませんでしたわ。藁に縋った方がマシでしたわ。まったく、こういう風になってしまうからお薬の
「……あらっ?」
「どうした」
チェスタを見てたら、ピンとくるものがありましてよ。……ええ、そうですわ。お薬って、厄介なんですのよ。そして、厄介被るのが私側じゃなくて、貴族連中なら……それって、とっても素敵じゃなくって?
ということで、決めましたわ!
「私、お薬を売りますわ」