「そう。……なら、今からあなたと私は赤の他人。遠慮は要りませんわね! おほほほほ!」
視線が一身に集まるのを感じながら、私は悪の華らしく、と笑い声を響かせますわ。高笑いは令嬢の嗜みでしてよ。
ダクターを、国王を、貴族院総裁を、そして周囲の貴族を、一人一人見つめて……。
「地獄の底で後悔なさい」
にやり、と笑ってみせて差し上げましたわ。
「つ、連れていけ! この悪魔を……地下牢へ連れていけ!」
私は高笑いを残しながら、兵士に連行されて堂々と地下牢へと進むことにしましたわ。ええ。ハッタリかます時はでかく出ろ。手を離す時は相手の手を切り落とす勢いで。これ、フォルテシア家の家訓でしてよ。おほほほほ。
*
ということで私、地下牢にぶち込まれましたの。遠慮がありませんわね。これでも私、貴族令嬢なのですけど。
まあ、豚共に人間のマナーを期待する方が間違っていますわね。寛大な心で許して差し……上げませんわ! 許しませんわーッ! あの野郎共!
まずダクター! あいつ、よくも婚約破棄しやがりましたわね! 政略結婚とはいえ、私、王子の婚約者に恥じない令嬢であるようにと努力を重ねて参りましたのよ! 学院では常に成績優良者。武術大会では毎回毎回ぶっちぎりの優勝。王家に嫁ぐ者ならば常に優秀であれと思ってここまでやってきたのですけれど! ダクター様にはこのお気持ち、通じませんでしたのねえ! 全部無駄でしたわ! 流石にちょっぴり悲しくってよ!
次に国王! まんまと貴族共に乗せられて、政略結婚相手に決めた家を取り潰すなんて愚か極まりないですわ! 国王が国の頂点ではなく愚の頂点に立つなんてこの国ももうおしまいですわね! 大体、なんですの!? 金のある家に冤罪吹っ掛けて取り潰しつつ財産を没収するって、法治国家でやっていいことじゃーなくってよッ!
それから……あの貴族共! 特に、貴族院総裁のクリス・ベイ・クラリノ! あいつらも許しませんわ! 貴族共は浪費と簒奪しかしない! そして貴族院はそれを良しとして見逃し続けている! 許せませんわ! 許せませんわ!
……私、市場の競争の末に敗れて没落していくのなら、納得できますのよ。けれど、能力と状況の読み合いによる勝負ではなく、権力と数にものを言わせた非合法の暴力で没落させられるなんて、こんな理不尽、許されてはなりませんわね!
ええ。許しませんわ。絶対に、許しませんわよ。でも、私が許さないからといってできることなんて、限られておりますの。
訴え出たところで無意味ですわね。司法はド腐れ王家の肩を持つでしょうし、私を死刑にするために法律を変えるくらいの愚行はやってのけてくれることでしょうし。この世界は不平等ですのよ。まあ、貴族入りした時から、正しさなんて貴族界に期待していませんけど。
ええ。そう。不平等。能力で成り上がったフォルテシア家が、無能な貴族に潰される。ここはそういう、不平等な世界なのですわ。同じ人間だからといって、私とあの腐れ貴族王族共との間には深ーい溝がございますのね。唯一平等なのは、死ぐらいかしら。
……そう。死。
死は、平等ですわね。私にも、あいつらにも。等しく、死は。死だけは……。
つまり。
「……あいつらも人間だから、殺すと死にますわねえ」
私、気づいちゃいましたわ。あいつら、殺すと死にますわ。
そうですわ。
ええ、そうですわ! 私、この恨みを晴らせないままこんなところでくたばるわけには参りませんのよ! 家も名誉もお金も全て失いましたもの! これ以上失うものが無い者は最強ですのよ!
間違ったことをしている奴が笑いながら生き残って、冤罪を掛けられた者が死んでいくというのなら、私だって間違ったことをしてやればいいのですわ。法にも正義にも裏切られたのなら、お綺麗な名分にいつまでもしがみ付いてるのはバカってもんですわね! ええ! ですから、私、やりますわ! やりますわよ!
「あいつら全員、皆殺しですわァーッ!」
殺しますわ! あいつら全員、殺しますわァアーッ!