10


 その後。

 俺とクローフェ女王は、ユリシアの案内でエルフを幽閉している場所におもむくことにした。

 シュドリヒ国王は気絶しっぱなしだったからな。

 ここは私に案内させてほしいと、ユリシアみずからが提案してきたのである。

 ……よくわからないが、今回の一件で《大切なもの》とやらを取り戻したらしい。本当によくわからないけどな。

 当然だが、会談の参加者については同行していない。

 明らかな内政干渉となるため、バージニア帝国・オーレリア共和国はこれ以上首を突っ込まないと決めたらしい。ゆえにいったんは王城の客室にて待機してもらうよう、係の者に対応させているところだ。

「……こちらです」

 数分後。

 ユリシアが案内してきた先は、ある王城の一室だった。

 ゲームでは《立ち入り禁止区域》として設定されており、どうにも足を運べなかった場所だな。この部屋について、有志たちがさまざまな考察をしていたが――まさかここにエルフたちが閉じ込められていたというのか。

「では、いきますね」

 ユリシアがその扉を開けると、物置らしき部屋が目の前に広がった。

 棚の中にいくつもの箱が置かれているだけの、一見すると普通の物置部屋だ。

 だが部屋の隅にはなにやら意味深な小門が設置されており――そこをくぐった瞬間、まるで別の世界が広がっていたのだ。

 中央に延びる通路の左右に、等間隔で並ぶ牢屋。

 そこにげっそりとやつれたエルフたちが地に伏せており、なんとも痛々しい光景が広がっていた。

「ぐっ…………!」

 同胞の苦しそうな姿を見て、クローフェ女王が悔しそうに両の拳を握り締める。

「…………」

 一方のユリシアは、そんなクローフェ女王を黙って見つめるばかり。

 エルフの王たる彼女にどんなふうに声をかければいいのか……心底迷っている様子だった。

「ん…………」

 と。

 ふと近くのエルフからそんな声が聞こえてきて、俺は目を丸くした。

 なんだ。

 助けるのは絶望的だと思っていたが、まさか生きているのか……?

 念のため周囲を見渡してみるも、死んでいるエルフはどこにも見当たらない。活力は極限まで奪われてしまっているものの、すべてのエルフが生き残っているようだ。

「なるほど、そういうことか……!」

 ユリシアの目的はあくまで《エルフの血》。

 ここで殺してしまっては採取の効率が悪い。

 牢屋でうまいこと生かしておいて、定期的に傷をつけては血を回収する……。

 もちろんこれ自体も許せないことではあるが、エルフたちが誰も死んでいないのは僥倖だった。

「エスメラルダ様、どうしたのですか……?」

 ニヤリと笑う俺に対し、クローフェ女王が不思議そうに首を傾げる。

「なに。これなら有効活用できると思ってな。――ひっそりと大量生産しておいた《ラストエリクサー》を」

「へ…………?」

 ラストエリクサー。

 それは対象者のHPを全回復し、瀕死を除いた状態異常さえも一瞬で治すチート級アイテムだ。

 ゲームではレア中のレアアイテムで、なかなか手にすることができないが――。

「ふふ……クローフェは知っているだろう。現在のエルフ王国においては、このラストエリクサーを大量生産するための体制が整えられていることを」

「は、はい、はい……っ!」

 泣きそうな表情になっているクローフェ女王に笑みを投げかけると、俺はエルフたちのもとに歩み寄っていく。

「少し待っていろ」

 そう言って、俺は懐からラストエリクサーを取り出す。

 もちろん全員分の本数は持ち合わせていなかったので、その分は素材を調合する必要があるけどな。

 いずれにせよ、今回のテロリスト襲撃をしっかり切り抜けるため、俺自身も多くの回復アイテムを用意してきていた。

 調合素材の分も含めれば、おそらく全員のラストエリクサーを作り出すことが可能だろう。

「よし、これで完成だ。クローフェに姉上、これを手分けしてエルフたちに渡してもらってもいいか」

「は……はい!」

「わ、わかった」

 そう言って全員で手分けして、まずはじゆうとくに陥っているエルフたちにラストエリクサーを飲ませていく。みんな息も切れ切れになっていたが、このチートアイテムさえあれば……。

「あ、あれ……?」

「治った……?」

「なんで……?」

 果たして俺の狙い通り、さっきまで地に伏せていたエルフたちが、一気に元気を取り戻した。

「じょ、女王様……? わ、私たち、助かったんですか……?」

 うち一人のエルフが、クローフェ女王にそう問いかける。

「ええ。そこにいらっしゃるエスメラルダ様が、惜しげもなくラストエリクサーをくださったんです。あなたたちの傷は――完全回復しました」

「う、うわぁああああああああああ!」

 エルフは泣き出すと、勢いよく俺の懐に飛び込んできた。

「ありがとうございます、ありがとうございます……!」

「もう助からないと思ってたのに……!」

「あなたは命の恩人です……!」

「ふ、これしきのことで騒ぐな」

 そう言ってなんか意味深な笑みを浮かべる俺だが、柔らかいおっぱいがぐいぐい押し付けられてきて、正直それどころじゃなかったのは秘密だ。