さて。

 ユリシアのほうはいったん落着したとして、お次はヴェフェルドの国王――改め、シュドリヒ・シア・ヴェフェルドだよな。

 悪質度だけで言ってしまえば、こいつのほうがよっぽどひどい。

 玉座争いのためにエルフを誘拐し続けた挙句、今回の会談にて各国の代表を殺そうとしたユリシア。

 シュドリヒ国王はそれを知っていた上で、あえて見逃していたわけだからな。

 ――こんな奴が、王の座に座る資格などない。

 そんなふうに世論が傾くのはしごく自然だと言えるだろう。

「クックック……」

 泣き崩れているユリシアを脇目に、俺はシュドリヒ国王に目を向ける。

「父上、あなたはご自身の進退をどのようにお考えですか。各国の重鎮たちにしゆうたいを晒してしまった以上、いつもの隠蔽は通用しないでしょう」

「ぐぬ……」

 おお、いいねいいね。

 めちゃくちゃ悔しそうにしてるじゃないか、このたぬきめ。

 前世の記憶を取り戻す前のエスメラルダは、それこそ国王に迫害され続けてきた。

 ――ユリシアが悪評を流しているのを知っていて、なおも見て見ぬフリをした。

 ――過激な玉座争いが繰り広げられているのを知っていて、それこそが《王たる者の試練》として知らぬ存ぜぬを貫き通した。

 自分が直接手を下していないぶん、シュドリヒ国王のほうが極悪なのは言うまでもないだろう。

 ここらはもちろん、メインシナリオにない部分。

 シュドリヒ国王がどう出てくるか、非常に楽しみだな。

 ――パチ、パチ、パチ、と。

 果たしてシュドリヒ国王は、なぜか俺に向けて拍手をし始めた。

「ほっほっほっほ、よくやったではないかエスメラルダよ。余は信じておったぞ。おまえならきっと、余からの試練を乗り越えられると」

「…………は?」

「我が子を陥れようとする親などいないだろう? だからあえて辛い試練を課しておったのだよ。強き王に育てあげるためにな」

「…………」

「だが、おまえはその試練を見事にクリアした! 合格だ! おまえはもはや無能王子でもなんでもない! 有望な将来のになとして、さっそく我が右腕となるがいい!」

 うっわ、マジかよそうきたか。

 あまりに小物すぎる言い訳で草も生えないんだが。

「う、う~む……」

「はははははは……」

 各国の代表たちもさすがに呆れた表情を浮かべていた。

 クローフェ女王にいたっては殺意さえ発していたが、ここでまた事件が起きたらややこしいことになるからな。

「まあまあ、落ち着けって」

 と、ひとまず制しておく。

 ――ガツンとやるなら、息子たる俺のほうがいいだろう。

「おい、ふざけんなよおっさん」

 俺はポケットに両手を突っ込み、へらへら笑みを浮かべているシュドリヒ国王に歩み寄っていく。

 前世の俺だったら、立場的に強い上司には絶対に逆らえなかった。

 だが今の俺は悪役王子。

 好き勝手生きると決めた手前、むかついた野郎には真正面から文句言ってやらないとな。

「なんだよ。俺の評判が上がったからって、今度は自分のとこに取り入れようってか? さっむい考えが見え見えなんだよこのクソハゲが」

「な、なんだと…………!」

「知ってるぜ? あんたが並外れた戦闘力を誇ってるのは、大量のエルフの血をもらってるからだ。汚ねえことはユリシアにやらせておいて、自分は安全圏で高みの見物かよ」

「な、なんと……!!

「そんなことが……」

 各国の代表たちが驚きの声をあげる。

 シュドリヒ国王が高い戦闘力を有しているのは、幼い頃から厳しい修業に徹したからだ――。

 世間一般にはこのように知られているが、前世でゲームをやり尽くしてきた俺は、それがプロパガンダだと知っている。実際は自分が一番多くのエルフの血を飲んできたため、比例して戦闘力が高まっているだけだ。

 異様に強かった中ボスのグルボアも、たぶんエルフの血が原因だと思っている。

「なるほど……。そういうことでしたか……」

 クローフェ女王がより明確な殺意をあらわにする。

「取り急ぎ、シュドリヒ殿の私室を捜索させていただきたいところですね。誘拐したエルフたちがどこに行ってしまったのかも含めて」

「い、いや。しかしそれは……」

 なおも両手を振って知らぬ存ぜぬを突き通そうとするシュドリヒ。

 ほんとにクズだよな、こいつは。

 ゲーム中のエスメラルダが闇落ちしてしまうのも無理のないことだと思う。


 前世までの俺だったら、そんなクソ上司相手にもヘコヘコしてしまっていた。

 ブラック企業だとわかってはいても、弟の進学のために馬車馬のように働いて。

 ゲーム以外に楽しい思い出もなく、少ない給料を懸命に貯め続けて。

 ――他人のために生きて、他人のために死ぬ。

 そんな人生なんぞ、クソ喰らえだ。

 俺は誰かのために生きているんじゃない。

 俺の人生は、俺のものだ。

 だから悪役に徹してでも――俺は自分のやりたいことを追求し続ける。

 それが今の俺、エスメラルダ・ディア・ヴェフェルドだ。


「てめぇに国の統治は任せられねえ。このヴェフェルド王国も――今日から俺が統治させてもらうぞ」

「な、なんじゃと……! しかしそれは……!」

 シュドリヒ国王が慌てたように目を見開く。

 だが、俺は悪役王子エスメラルダ。

 欲しいものを手にするためなら、時に過激なことまでしてしまうのが俺だ。

「コソコソ言い訳してんじゃねえよ、このクソおいぼれが!」

「ぐぇぇぇぇぇぽらぬぉ」

 ドォン! と。

 俺は国王の頬を思い切りぶん殴り、シュドリヒ国王を遠くへと吹き飛ばしてやった。

「ごげ……ごげごげ……」

 シュドリヒ国王は間抜けな顔で白目を剝き、そのままがっくりうなだれた。

「わぁ……! かっこいい……!」

「さすがはエスメラルダ様、やっぱり私のおっぱいを一番最初に触るべき人よ……!」

 一国の王をぶん殴るという強行突破に出たはずが、クローフェ女王とミューラはキラキラ目を輝かせて俺を見つめていた。