帝国神聖党を呼び出した張本人は、なんとユリシアの執事だった――。

 このことは当然、会談の参加者たちに大きな衝撃を与えた。

「ど、どうして自国で開催される会談に、テロリストを呼び寄せたのだ……?」

「我々をこの場で始末したかったのか……?」

 と、それぞれ思い思いの言葉を、参加者たちが話し始めている。

 ……まあ、そりゃ当たり前のことだよな。

 さっきのユリシアは、明らかに〝事件の首謀者〟についてせんさくされるのを嫌がっていた。なんとか話題をらそうと必死だったんだよな。

 しかもそれはユリシアだけでなく、シュドリヒ国王も同様だ。

 ユリシアの不自然すぎる話題逸らしを、国王も一緒になって押し進めていた――。

 ここまでの状況が出揃っておいて、執事ハマスの悪事が「単独で行われていた」とはどうしても考えにくい。つまりこれは国家ぐるみの陰謀だったのではないかと、そう思われても仕方ないわけだ。

 クックック、本当に馬鹿な奴らだな。

 みずから墓穴を掘るとは、悪役の風上にも置けない奴らである。

 俺は込み上げてくる笑みをなんとかこらえながら、ユリシアに声を投げかけた。

「ひとまずは姉上、このことについて詳しく取り調べる必要がありそうですね。他ならぬあなたの執事が引き起こした事件なのですから」

「う、うううう……!」

 さすがに言い訳のしようもないのだろう。

 ユリシアは視線を落としたまま、ぶるぶると身を震わせ始めた。

「時期女王と呼ばれていたユリシア殿が……なぜ……」

「王権争いのためでしょうか……?」

 そんなヒソヒソ話が繰り広げられ始めると、ユリシアはがくりと両膝から崩れ落ちる。

「…………どうして」

 次いでユリシアから発せられたのは、そんなぼそりとした声。

「エスメラルダ。血の繋がった弟が失墜してから、あなたは完全にやる気を失っていたはず。すべての勉学や特訓を放棄して、怠惰王子とまで呼ばれていたのに……。いったいなぜ……」

「ふふ、愚問だな。俺はただ、悪のおっぱ……げふんげふん」

 やっべ。

 真の悪役王子を演じているのに、思わず本音を吐露してしまうところだった。


「――そんなのは簡単ですよ、ユリシア王女殿」


 そうして俺がよどんでいるところを、間髪入れずクローフェ女王が割って入った。

「エスメラルダ様は、ただひたすら器が大きいお方なのです。たとえご自身にはたいした利益にならなくても、このお方はエルフ王国を大きく発展させてくださいました。今ではエルフ全員に尊敬されているのに、ご自身は質素な生活をされてるんですよ。……すごいと思いませんか?」

「…………」

「それはきっと、ユリシア王女殿がおっしゃる〝王権争い〟が関係していたのかもしれません。誰よりも辛い思いをしてきたエスメラルダ様だからこそ、誰よりも人の心がわかる。――そうでなければ、こんな名君になれるはずがないではありませんか」

「あ…………」

 おいおい、なんだよこれ。

 俺としちゃただ独裁国家を作ろうとしてただけなのに、なんだかしんみりとした空気になってるんだが。

 しかしそんな俺の心境を知ってか知らずか、クローフェ女王はこちらを振り返ってにこりと微笑んでくるのみ。

「ですから、私は決めたのです。我がエルフ王国を、エスメラルダ様の統治下に置いてほしいと。一生エスメラルダ様についていって、この方の作りだす世界を見届けていこうと」

「わ、私は……」

 なんだかうつろな瞳をして俺を見つめてくるユリシア。

「いつの間にか忘れてしまっていたというの……? 人の上に立つ者が持っているべき、大切なものを」

 いやいや、知らねえよそんなもん。

 人の心なんて、社畜に徹していた前世に置いてきてしまったわ。

 ……と言いたいところだったが、このしんみりした空気のなかでそれを言うことはさすがにできなかった。

 悪役王子たる者、場の空気はきちんと読んでいかないとな。

 ひとまずはこの茶番に付き合ってやるか。

「フフ、そうですね。最近の姉上には傲慢があった。そしてそれが、みずからの破滅を招く原因になってしまったことは否めません」

「…………」

「ですが俺にはわかっていますよ。姉上も本来、優しいお方だ。王権争いに明け暮れる中で、自分の心を殺すしかない子ども時代を送ってきた。――そうではありませんか?」

「う…………」

「だからどうか、思い当たる罪があるのなら素直に白状してください。そしてすべての罪をつぐなった上で、本来あなたがやるべきだった使命をまっとうしてください」

「う、うううう……!」

 そこでユリシアの涙腺が崩壊した。

 瞳からぼうの涙を流し、大きな声で泣き始める。

「ごめんなさい。私が全部間違っていた。正しいのはエスメラルダだった……!!

 パチパチパチパチ、と誰かが拍手をした。

 そしてそれがきっかけになって、事のてんまつを見守っていたすべての人々までもが俺にはくしゆかつさいを浴びせ始めた。

「いやいや、あっぱれです……!」

「あれこそ名君ですな……!!

「やっぱりエスメラルダ様かっこいい……! 今夜にでも私のおっぱいを触ってもらわないと……!!

 などと絶賛されてしまっているものだから、俺としても歯がゆいことこの上なかった。