「ちょっと、失礼しますね」

 ヴェフェルド王国の王城。ザレックスと戦った会談室にて。

 クローフェ女王は前方に両腕を伸ばすと、水晶玉のような球体を出現させた。

「ほう……これは」

 たしかゲームでも見たことがある。

 はるか遠方の地を覗くことができる水晶玉で、自身が訪れたことのある場所ならば、どこであろうとその地を観察できると。

「す……すごい!」

 そしてその水晶玉の景色を覗き込んだ時、クローフェ女王が驚きの声をあげた。

「エスメラルダ様、たしかにこれ、圧勝できてますよ!」

「どれどれ……」

 言われて俺も水晶玉を覗いてみると、上空からエルフ王国を眺めるような形で、見覚えのある景色が広がっていた。

 広大な緑が広がる土地。

 普段はエルフたちがのどかに暮らしている場所だが、そこに大勢のテロリストたちが侵攻をしかけていた。

 しかもやはり元傭兵たちの集まりなのか、全員の動きが精錬されている。

 無駄な動きは一切ないし、驚くべき統率力をもってエルフの地を攻撃していた。

 ――だがエルフたちは、そんな元傭兵たちをも上回っていた。

 剣帝ミルアがうまいことリーダーシップを発揮してくれているのもあるが、なにより個々の戦闘力が抜きんでている。

 元傭兵たちが攻撃する前から次々と蹴散らしているし、繰り出される大剣を真正面から受け止めているし、仮に致命的なダメージを喰らったとしても、大量生産したラストエリクサーで回復できているし……。

 そんな感じで、まるで勝負になっていなかった。

「な、なぜ敵わぬのだぁあああああ!」

「エルフがこんなに強いなどと……き、聞いてないぞ!」

 と元傭兵たちが当惑を示す一方で。

「我々を育ててくれたエスメラルダ様への恩返しだ! なにがなんでも切り抜けるぞ!」

「いつもエスメラルダ様が言っていたことを思い出せ! ――絶対に死者を出してはならんぞ!」

「「おおおおおおおおおっ!!」」

 エルフたちはある意味で、元傭兵たちよりも統率が取れていた。

 すなわち、俺への忠誠心だ。

 クックック……いい感じだな。

 ゲームシナリオをやり込んでいたおかげで、敵側のステータスは大方知れている。だからそのレベルを上回るまで特訓してやっただけだが、やはりうまくいったようだな。

 しかもそのエルフたちに尊敬されまくっているというオマケつきだ。

 見た感じ死者は本当に出ていないようだし、この分なら俺たちの完全勝利だと言えるだろう。

「お、おいおい……信じられんぞ」

 同じく遠間から水晶を覗き込んでいたザレックスが驚きの声をあげる。

「俺がいない分、エルフ王国に向かわせていたのは練度の高い奴らだった。そいつらをじゆうりんするなど……俺は夢でも見ているのか」

「クックック、だから言っただろう。このことも織り込み済みで特訓をさせていた……ただそれだけのことだ」

「…………」

 そこで大きく目を見開くザレックス。

「もはや驚きの連続だな……。あんたはもはや〝無能王子〟どころじゃないな。うちの国も率いてほしかったくらいだよ」

「ふふふふ……。それも悪くないな」

 俺が今統治しているのはエルフ王国だけだが、もちろん、この程度で満足する俺ではない。

 いずれはより広範囲の土地を統率していければ、それこそ全世界が俺のものになるな。

 クックック……。

 それはつまり、すべてのおっぱいが俺のものになると言えるだろう。

「エスメラルダ様、しゅごいです……」

 現に今も、大きなおっぱいを誇るミューラが目を輝かせていた。

 ……だからその胸アピールをやめろ。

 めちゃくちゃ触りたいんだが、この場面でおっぱいを触り始めるのはさすがにかっこ悪いだろ。

 ともあれ、これにて一件落着。

 エルフ王国も問題なさそうなら、当面の危機は去ったと言えるだろう。

 ゲーム中での危険ポイントをきちんと切り抜けられたわけだから、達成感もひとしおだった。

 そして。

「ほぉ~、すごいなこれは。エスメラルダ殿、まさかあなたがやったのですか」

「信じられん……。ザレックスは我が国のSランク冒険者とて手を焼いていたはずだが……」

 事件解決を聞きつけたらしき各国の代表が、一斉にこの場に駆けつけてきた。

 ザレックス含む元傭兵たちは拘束済みなので、ここで暴れる心配はない。もちろん代表たちもそれぞれ護衛を連れているし、滅多なことは起こらないと思うが。

 クックック……。

 目論見通り、代表たちの〝エスメラルダの評価〟が急上昇しているようだな。

 こうして国際社会の信用を少しずつ獲得していければ、ゆくゆくは俺の独裁国家を作りあげることができるだろう。俺は働くことなく、ただ寝そべっているだけで金とおっぱいが寄ってくる生活。

 ふっふっふ。

 せいぜい今のうちに俺を崇めるがいい。

 束の間の平和が訪れたように思えて、今こそが本当に恐ろしい独裁国家誕生のきっかけなのだ。

「して、シュドリヒ殿」

 ふと思い出したように、オーレリア共和国の代表が、シュドリヒ――ヴェフェルド王国の王に問いかけた。

「エスメラルダ殿は、そちらの国ではあまり良い評判がないようですが……。私にはそのように思えません。いったい何が起きているのですかな?」

「ぐう……」

「なんで……どうして……」

 さんざん俺を無能者扱いしてきたルーシアスやシュドリヒ国王、そしてユリシア第一王女が悔しそうに歯噛みしているのだった。