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「パ、パパってどういうことだよ……」
ミューラ・カーフェスを助けた俺は、内心困惑しっぱなしだった。
おっぱいに視線を向けられるのをなぜか嬉しそうにしているし、挙句の果てには、ばぶばぶしながら〝パパ〟呼ばわりしてくるし。
ゲームではすぐに死んだモブキャラだったので、その内面については深く掘り下げられていなかったが――。
もしかすればこのミューラも、なんかやばい人物なのかもしれない。
「頑張ってください、パパ! 応援しています!」
「はぁ……」
そう言って背後で応援してくるものだから、もはや始末に負えなかった。
まあいい。
あのおっぱいが魅力的なのは変わりないしな。
そう判断し、俺は再度ザレックスに視線を向けたのだが――。
「おい」
いつの間にか戦闘の構えを解いたザレックスが、不思議そうな表情で俺を見つめていた。
「なぜその女を助けた。そいつはおまえらが侵略しようとしている国――バージニア帝国の大統領秘書だぞ」
「……はっ、勘違いすんなよ馬鹿野郎」
「なんだと?」
「侵略しようとしているのはユリシアだ。俺じゃねえ」
「…………」
まあ、あくまで〝今は〟だけどな。
エルフ王国がもう少し強化された暁には、その領土を広げていきたいと考えている。
「それにな――俺にはわかってるぜ? おまえさっき、あの秘書の胸をガン見してなかったか?」
「…………ぬ」
図星だったのか、わかりやすく顔をしかめるザレックス。
「クックック、わかるぞその気持ち。あれには男の夢がすべて詰まっているからな」
「はっ……」
俺の言葉を受けて、ザレックスが口元を緩ませた。
「あんた……まさかとは思うが、あの胸のために命を賭けたってことかよ」
「当たり前だろ」
負けられない戦いがそこにある、ただそれだけのことだ。
「ふっ、面白い奴だなあんた。時と場所が違えば、うまい酒が飲めたかもしれん」
だが! と突如ザレックスは大声を発するや、再び剣の切っ先をこちらに向けた。
「――だとしても、俺はコーネリアス大統領の
「はっ、そりゃ俺だって同じことさ。今ここで死者を出すわけにはいかねえんだよ!」
そうして俺とザレックスは再び剣を交えた。
ゲーム中でも強キャラ扱いされていただけあって、やはり強いな。
まずすべての攻撃が速い。
しかもこいつ、魔法もお手のものだもんな。
距離ができていれば安心というわけではなく、遠慮のない炎魔法が間断なく飛んでくる。
前世でも「ザレックスにトラウマを植え付けられた」というプレイヤーがちらほらいたが、それも納得の強さだった。
だが――それはあくまで並のプレイヤースキルだった場合の話。
何百周とゲームをクリアしてきた俺には、あいつの攻撃パターンが手に取るようにわかる。
「くっ……どうして攻撃が当たらない!」
だから今、ザレックスは焦りを
神速のごとき勢いで大剣を振り下ろしているにもかかわらず、俺がそれを軽いサイドステップだけで避けているからな。
「がら空き」
「くおっ…………!」
俺が指二本で胸部を突くと、ザレックスはそれだけで後方に吹き飛んでいく。
「馬鹿な……馬鹿なぁああああ!!」
なおも諦めることなく、突進をしてくるザレックス。
これもまた相当な速度ゆえに、遅れて周囲に激しい突風が舞った。
「うおおおっ!」
「わあああああああああっ!」
戦いを見守っていた兵士たちが、その突風の勢いに身を
「なんて戦いだ……! もはや達人同士の頂上決戦だ!!」
だがその兵士たちの声さえ、俺の意識には入ってこなかった。
ゲームが起動された瞬間、目前の戦いに全神経を注がねばならない――。そうでもしなければ、簡単にキルされてしまうのがこのゲームだったからな。
「ふう……仕方ねえ。こうなったら力の差を見せてやるか」
レベル百に達したことで到達した、新たな境地。
作中のキャラクターではたしか誰も使えないので、ザレックスに一泡吹かせることも可能だろう。
こいつはなかなかしぶとい奴だし、猪口才な攻撃を繰り返すだけでは、いつまでも決着はつかないからな。
「くたばれぇぇぇえええええ!」
そのまま勢いよく振り下ろしたザレックスの剣を、俺はやはり必要最小限の動きで避ける。
いかに達人といえど、大技を放ったあとに隙が生じるのは必然。
ザレックスも今、剣を空ぶったことで少し前につんのめっていた。
――今だ!
俺は魔剣レヴァンデストにありったけの魔力を込めるや、がら空きになったザレックスの胴体に斬撃を敢行。
そのまま勢いに任せ、奴から少し離れた距離で着地すると――。
瞬間、耳をつんざく爆発音が一帯に響き渡った。
この王城そのものを激しく揺らすほどの大衝撃。
斬った相手を起点にして大爆発を発生させるという、えげつないほど超高火力の大技――
本来であれば攻撃力が二万に達していないと行えない剣技ゆえ、ゲーム主人公の場合だと、たしかレベル三百以上でようやく扱うことができたはずだ。
だが今の俺はエスメラルダ・ディア・ヴェフェルド。
その並外れたステータスと、魔剣レヴァンデストの《攻撃力+一万》という破格性能が組み合わされば、この大技さえ使用することが可能だった。
「ば、馬鹿な……!」
さすがに
「やった♪」
俺の背後では、ミューラがその大きなおっぱいをぶるんぶるん上下させながら飛び跳ねていた。