血濡れの戦狂いザレックス。

 ゲームの設定によれば、そいつは最強の傭兵団――《血濡れの傭兵団》に所属していた元幹部だ。

 自身の二倍はあろうかという大剣を軽々と振り回し、問答無用で敵を蹴散らしていく。

 たとえ相手が戦車で突撃してこようとも、まるでお構いなく、その戦車ごと剣で真っ二つに叩き斬る。

 そんな化け物じみた逸話を持つ傭兵として、ゲーム内ではかなり有名なキャラなんだよな。

 また一方で強烈な政治的思想も持ち合わせており、傭兵を脱退した後は、前述の帝国神聖党に加入。

 ザレックスを尊敬していた元部下も一緒についてきたために、帝国神聖党の武力が飛躍的に高まったとされている。

 つまり今俺たちを囲んでいるのは、最強の元傭兵とその部下たち。

 ちょっと鍛えたくらいの兵士ごときでは、まるで太刀打ちできないのだ。

 ――だから俺は今、ひとりで元傭兵どもを相手にしていた。

 一対六。

 数だけで見れば圧倒的に不利だが、俺には前世で何度もクリアしたゲームの知識がある。どの予備動作がどの攻撃に繋がるのか、こいつらにはどんな攻撃パターンがあるのか、どの攻撃が弱点なのか……。

 そのすべてを知り尽くしているゆえに、絶対に攻撃を回避できるのだ。

「はぁはぁはぁはぁ……!」

「どうして当たらねぇんだ……!」

 間断なく大剣を振り回してくる元傭兵の猛攻を、俺は軽いステップだけで躱していた。

 別に大きく身体を動かさなくたっていい。

 こいつらの動きを把握できている以上は、最小限の動作だけで回避できるからな。

「おのれ、呑み込まれるな! 作戦をパターンDに変更!」

「ヤー!!

 もちろんこいつらも元傭兵であるため、さすがに一方的な戦いになるわけもなく――。

 ドドドドドドドドドドド!

 いつの間にか死角に移動していた他の傭兵たちが、背後から一斉に魔導銃を撃ってきた。

 前世でいう小銃のようなもので、そこに魔力を込めることで威力を上乗せさせる武器だ。

「はっ、無駄だと言っているのがわからねぇか!」

 ――ゼルネアス流、《瞬透撃》。

 俺がこの技を発動した瞬間、魔導銃を撃ちこんでいた元傭兵の背後へ一瞬で回り込む。

「なっ……!」

「馬鹿な……!」

 一気に距離を詰められたことで、元傭兵たちが悲痛な叫び声をあげる。

 だがもう遅い。

 銃使いは間合いを詰められた時点で終わりだ。

「くたばれ」

 ――――轟!!

 俺が思い切り剣を振り払うと、その衝撃で元傭兵たちが勢いよく後方に吹き飛んでいく。

 その向こう側では兵士たちが苦戦を強いられていたようだが、

「くお……!」

「かはっ……!」

 元傭兵同士がぶつかり合い、なんとか救助することができた。

「エ、エスメラルダ王子殿下、ありがとうございます……!」

「助かりました……!」

 そう言ってぺこりと頭を下げる兵士たち。

 なんとか助けることができたものの、よくよく観察してみると、右腕にかなり深い切り傷を負っている者がいるではないか。

「これを使え。すぐに回復する」

 俺は懐からラストエリクサーを取り出し、それを負傷している兵士に手渡す。

「えっ……え!?

 さすがに驚いたのか、その兵士はぎょっとしたような表情を浮かべていた。

「こ、これってラストエリクサーじゃないですか! 受け取れないですよ!!

「やかましい。いいから使え」

 俺の目的はあくまで、このむなくそイベントを死者なしで切り抜けさせること。

 そうすれば俺の評判だってうなぎ上りだし、国際社会における立場も大きくなるだろうからな。

 ラストエリクサーだって、今のエルフ王国なら大量生産が可能。俺の懐はまったく痛まないので、たいした贈り物でもない。

 この薬でみんな無傷で切り抜けられることを思えば、安い代償だと言えるだろう。

 そんな意味を込めて放った言葉だったのだが、

「うううう……エスメラルダ王子殿下……!」

「俺たち、あなた様のことを誤解しておりました……」

 と涙を流し始める始末。

 おいおい、なにを泣くことがあるんだ? しょうがない奴らだな。

 とにもかくにも、これにて取り巻きの元傭兵たちは全滅。

 残るは――。

「……なるほどな。第五王子エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド。薄汚れたヴェフェルド王国にも、おまえのような大物がいたか」

 ザレックス・エフォート――別名《血濡れの戦狂い》が、大剣を掲げて立ちふさがっていた。

「はん、なんだよザレックス。もしかしてづいたのか?」

「フフフ、そんなわけがあるまい。おまえのような真のつわものを見るとな……ついつい、血が騒いでしまうのだよ」

「クックック……。さすがは戦狂いと呼ばれるだけあるな。だが――俺もだよ」

 何百周もゲームをクリアしてきた身としては、やはり普通のゲームプレイでは物足りない。

 魔剣レヴァンデストの効果で被ダメージを三倍にすることで、ドキドキ感とともにゲームをクリアする廃人プレイ。

 ゲーム通りにシナリオを進めるのではなく、決して誰一人も死なせない高難易度プレイ。

 普通にゲームを進めるだけでは味わえないロマンが、ここにはある。

「フフフフフ……」

「クックック……」

 俺とザレックスは笑い合うと、地面を蹴り、互いの剣をぶつけ合った。

 それだけで王城が激しく揺れた。

 近くにあった調度品が呆気なく倒れた。

 あたりに大きな轟音が響き渡った。

「ひ、ひえぇぇぇえええええ……!」

 戦いを見守っていた兵士のひとりが、呆気に取られているのが視界の端に映った。