やはり国際社会から《大国》と呼ばれているだけあって、ヴェフェルド王国はかなりにぎわっているな。

 すれ違う人々もめちゃめちゃ多いし、見渡す限りに商店や飲食店が並んでいる。

 のどかで自然溢れるエルフ王国も心地良かったが、活気に満ちたヴェフェルド王国も悪くはないな。ユリシアに目をつけられている以上、安易な行動はできないが。

「やっぱり、あのお方は第五王子の……」

「どうしてエルフ王国の女王様を……?」

 そして王城へ向かう道すがら、俺は通行人たちの視線をいっぱいに浴びていた。

 まあ当然だよな。

 この世界において、俺ことエスメラルダは「無能者」「怠惰者」として悪評が広まりすぎている。おそらくはユリシアを始めとする王族たちが、俺を王権争いから蹴落とすために噂を流したんだろうけどな。

 そんな無能王子が、よもやエルフ王国の女王を従えて城下町をかっしているのだ。

 これに驚かない理由がない。

「クックック……」

 呆気に取られている国民を見て、俺も笑いが止まらない。

 これでまた、俺に対する国民の評価も変わるだろう。民の支持を得たいユリシアたちにとっても、これはかなりの打撃になるはずだ。

 悪役王子は悪役王子らしく、三大国代表会談でも好き勝手に振る舞わないとな。

「エスメラルダ様、靴にほこりがついておりますよ」

「ん……?」

 しばらく城下町を進んでいると、隣を歩くクローフェ女王がそう言ってきた。

「少しお立ち止まりください。私のほうで拭かせていただきますから。エスメラルダ様に付着する埃など、絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対に放っておけません」

「ん? あ、ああ……」

 まあたしかに、今から俺たちは各国の代表に会いに行くわけだからな。

 身だしなみを整えておくことに越したことはないが、しかしここで女王が俺の靴を拭く構図はさすがにちょっと……。

 しかしクローフェ女王は、こちらが止める間もなく、すっと俺の足下にしゃがみ込む。

「おおっ……!」

 と民衆たちが驚きの声を発しているのさえも気づかずに。

「はい、綺麗に磨かせていただきました。これでエスメラルダ様の覇道を阻む者は、もはや何人たりともいないでしょう」

「あ、ああ……」

 ク、クックック……。

 さすがにここまでは想定していなかったが、まあ、これはこれで国民たちに良いアピールになっただろう。

 俺ことエスメラルダ第五王子が、エルフ王国を統治したというな。


 さて。

 ここヴェフェルド城下町が賑わっている理由のひとつは、もちろん、本日の三大国代表会談にあるだろう。

 各国の代表たちが集まるわけだから、三国以外のマスコミも駆けつけているし、外国からの来訪者もちらほら見受けられる。そしてもちろん、そんな代表たちを決して傷つけぬよう、ヴェフェルド王国の軍も厳戒態勢を敷いているな。

 特に会議の場となる王城まわりについては、王国軍があちこちに厳しい目を向けている。

 いつもは一般人も城門近辺までは足を運べるが、今はそれさえも許していない状態だった。

 そんな王城の門へと、俺とクローフェ女王は堂々と歩みを進めた。

「第五王子のエスメラルダだ。ユリシア姉様に呼ばれてきた。そこを開けろ」

 言いながら、俺は一枚の書面を兵士たちに掲示する。

 五日前、ユリシアから届けられた会談への招待状だな。

「か、かしこまりました」

 門番の兵士二名がピンと背筋を伸ばし、今度はクローフェ女王に目を向ける。

「し、しかし、そちらの方は……」

「見てわからないか。エルフ王国の女王、クローフェ・ルナ・アウストリアだ。今回の同行者だよ」

 俺がそう言うと、背後にいるクローフェ女王が小さく頭を下げる。

 だがここまで教えてやってもなお、兵士たちは困惑の表情を浮かべたままだ。

 今日は三大国代表会談――。

 関係のない国のトップを、そう簡単に通していいものかと思案しているのだろう。

「さっきから騒がしいですね。いったい何事です?」

 すると次の瞬間、ヴェフェルド王国の第一王女――ユリシア・リィ・ヴェフェルドが姿を現すのだった。