翌朝。

「エスメラルダ様。ヴェフェルド王国から書面が届いております」

 まだ半分寝ぼけていた俺の意識を覚ましたのは、メイド役エルフのそんな発言だった。

 朝食をテーブルに並べ終わった直後、そのように言われたのである。

「わかった。後で読んでおくから、そこらへんに置いておけ」

「……かしこまりました。エスメラルダ様のおおせのままに」

 エルフは深いお辞儀をすると、手紙をテーブルに置き、そのまま退室していった。

 開けずともわかる。

 送り主は、おそらくヴェフェルド王国第一王女、ユリシア・リィ・ヴェフェルド。

 そろそろ何かしら手を出してくるだろうとは思っていたが、ついに向こうからアクションを仕掛けてきたか。

 だが、俺は真の悪役を目指す者。

 こんなことで動じるつもりはない。

 俺はひとまず朝食を優先させてから、ゆっくりと手紙を開ける。


 親愛なる弟、エスメラルダ・ディア・ヴェフェルドへ。


 あなたが王国を旅立ってから、早くも一か月近くが経過しようとしています。

 無事に過ごしているとは聞いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。

 お父様を含め、皆あなたのことを心配しております。

 どうか暇な時にでも、私たち家族に顔を見せてください。


 ……さて、あなたも聞いているかもしれませんが、近日、ヴェフェルド王国にて定期会談が行われます。

 ヴェフェルド王国、バージニア帝国、オーレリア共和国。

 近隣諸国のトップがお集まりになり、国際社会における重要な問題を話し合うための会談です。

 例年は私とお父様が出向いておりますが、今年はエスメラルダも連れていきたいと、お父様がおっしゃっておりました。


 もし国際社会での立場をばんじやくにしたいなら、あなたにとっても悪い提案ではないでしょう。

 よろしければぜひ、参加をご検討ください。

 もし不安であれば、一人までなら同行者を連れてきてもいいと、お父様がおっしゃっております。


ヴェフェルド王国第一王女 ユリシア・リィ・ヴェフェルド 


「ふん……なるほどな」

 手紙を最後まで読み終えた俺は、笑いをこらえることができない。

 これは三大国代表会談――。

 何百周もゲームをやり込んだ俺なら、この後どんなイベントが起こるのかだいたい推測がつく。ほぼほぼ間違いなく、悪鬼やブラッドデスドラゴンの時とは比較にならないほどのドンパチが始まるだろう。

 だがまあ――まったく心配には及ばない。

 何百周と成し遂げてきたゲームクリアのなかには、当然、いくつかの〝縛りプレイ〟も含まれている。仲間を誰一人死なせずにイベントをクリアすることなど、俺にとっちゃ朝飯前だ。

 ユリシアも相当に焦っているようだが……ここで勝利できれば、得られるリターンもかなり大きい。他国と繋がることができれば、エスメラルダ王国の領土はさらに広がっていくことになるだろうからな。

「となると……そうだな」

 書面によれば、三大国代表会談が行われるのは五日後。

 それまでの間、じっくりと作戦を練ることにしよう。


 ――四日後。

「わ、私が同行相手ですか……!?

 エルフ王国の王城。その玉座の間にて。

 玉座に座る俺に対し、クローフェ女王が驚きの声を発する。

「ああ。連中に最も一泡吹かせられるのは、やはりエルフ王国のトップであるおまえだろう」

「で、でも、いいんですか……? ミルアさんに付き添ってもらったほうが、エスメラルダ様も安全なんじゃ……」

「ふふ、気にすることはない。俺一人で充分だ」

 それに俺の読みが正しければ、ユリシアはここエルフ王国にも攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。

 この三週間でエルフもだいぶ強くなったが、まあ、ミルアにいてもらったほうが色々と安心できるからな。

「わかりました。エスメラルダ様がそうおっしゃるのなら……」

「クク、よろしく頼むぞ」

 俺が不敵な笑みを浮かべると、エルフ王国の女王は俺に深々とお辞儀をするのだった。


 そして、さらにその翌日。

 俺は久々に、人間界――ヴェフェルド城下町へと足を踏み入れた。

 初めてエルフ王国に来た時は地下通路を経由してきたが、今回もそれと同じルートを辿ってきた形である。

「あ、あれ、もしかしてエスメラルダ王子殿下……?」

「な、なぜエルフの女王様がここに……?」

「しかもなんだか、王子殿下のほうが女王様を従えている……?」

 クックック、やはり王都の連中はめちゃめちゃ驚いているな。

 無能王子たる俺がエルフ王国を統治下に置いているなど、おそらく誰も想像がついていないだろう。

 三大国代表会談――存分に暴れさせてもらうとするか。

 悪役王子の名にかけてな。