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意識を失っている間、やや
家が貧乏だったゆえに、高校卒業してすぐ地元のブラック企業に就職して。
それでもせめて弟には大学に通ってほしかったから、低賃金ながらもいっぱい貯金して。
やっと弟が大学を卒業できたと思ったら、クソ上司のご機嫌取りのために残業しまくって、その疲労がたたって交通事故に遭って……。
――他人のために生きて、他人のために死ぬ。
そんな人生なんぞ、クソ喰らえだと思った。
俺は誰かのために生きているんじゃない。
俺の人生は、俺のものだ。
だから悪役に徹してでも、来世では自分の好きなことを追求していこうと思った。
……笑い話だな。
気を失っていた時に脳裏に蘇ったのは、あえて記憶の奥底に封じ込めていた、しょうもない前世のことだった。
「――ルダ様、エスメラルダ様……!!」
名前を呼ばれて目を覚ました。
俺は今、王城にてベッドに横たわっているようだ。
あたりを見渡せば、剣帝ミルアやローフェミア第一王女、ブラッドデスドラゴンから守ってみせた子ども、そして他にも大勢のエルフたちが俺の顔を覗き込んでいた。
それはまるで、ここにいる全員が、俺のことを心配しているかのような。
文字通り、俺がエルフたちの主役になっているかのような――。
そんなありえない錯覚を思い起こさせるに充分だった。
「エスメラルダ王子殿下ぁああああ!」
「エスメラルダ様あぁぁぁぁぁぁあ!」
俺が目覚めたことで限界に達したのか、ミルアとローフェミアが思い切り泣き始めた(さすがに自重しているのか、いつもと違って抱き着いてはこない)。
彼女たちだけではない。
他のエルフたちも同様、涙を浮かべては俺の名前を呟いていた。
エルフ王国なんて、俺の王国を築くための土台にするつもりだったのにな。
でもみんな、本気で俺の目覚めを嬉しがっているようでもあった。
「…………」
そうか。
狙っていた通り、ブラッドデスドラゴンの炎を喰らって、俺は生きていたんだな。
いくらエスメラルダの身体でも、レベル五十程度じゃ絶対に生き残れないのだが……。
エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド レベル100
物理攻撃力:10578
物理防御力:9780
魔法攻撃力:11032
魔法防御力:9971
俊敏性 :10451
ふとステータスを確認すると、ブラッドデスドラゴンを二体も倒したおかげか、全体的な数値がめちゃくちゃ高まっていた。
……やはり、そうだったな。
繰り返しになるが、ブラッドデスドラゴンはかなりの強敵だ。
ゆえに、一体目のブラッドデスドラゴンを倒した時点でレベルが急上昇を果たし――あの火炎放射にもギリギリ耐えられると信じて、身を
賭けに近い部分はあったが、エルフたちにより支持されるためにも、ああやって身を挺して子どもを守ることは必要だからな。
もちろん無傷ってことはなくて、身体のあちこちがめちゃくちゃ痛いが。
「エスメラルダ様……!」
と。
しんみりした空気のなか、クローフェ女王がいきなり部屋に飛び込んできた。
しかもどういうわけか、女王ともあろう者が全身汗だくである。
「なんだ? そんなに慌てて……何があったんだ」
「よかった。エスメラルダ様、目覚められましたか……」
クローフェ女王はほっと胸を
「それは……」
「我がエルフ王国には、緊急時に備えて〝聖なる秘薬〟が保管されているのです。希少品かつ効果の高いものなので、王家の承認なしには扱えないものなのですが……」
「…………」
「ですがエスメラルダ様は、身を賭してでも我が民を守ってくださいました。……であればこそ、こちらをエスメラルダ様に使うべきだと判断したのです」
そう言ってクローフェ女王が掲げてきたのは、なんと《世界樹の雫》。
ゲーム中でも極レア中のレアアイテムで、パーティ内のHPやMPを全回復する上、
ゲームでよくある、回復系チートアイテムってやつだな。
まさかそんな高価なものを、俺に使おうとするとは……。
「心優しいエスメラルダ様なら遠慮するかもしれませんが、でも、これは私たちからの気持ちです。どうか受け取ってください」
そう言ったのはローフェミア第一王女。
……むしろこれくらいしないと、エルフ王国の
俺はこくりと頷くと、クローフェ女王が右手をかざす。
そして次の瞬間、《世界樹の雫》から放たれる光が、俺の全身を丸ごと包み込んだ。
「ほう……?」
その温かな感触に、俺は思わず目を見開いた。
さすがはチート級アイテム。
さっきまで全身に焼けるような痛みが走っていたというのに、もうそれがまったく感じられない。身体中の傷がみるみるうちに
たしか前世のゲームでも、年に一度のイベントで採取できるかどうかといったくらいのレアアイテムなんだよな。
そんなものを惜しげもなく使ってくれるとは……。
クックック、やっぱりクローフェ女王も俺にかなり心酔してくれているようだ。
おかげで悪のおっぱい王国建設も着々と近づいてきていると言えるだろう。
「ど、どうですか……? 傷のほどは……」
不安そうに聞いてくるクローフェ女王に対し、俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべて答える。
「……ああ、問題ない。全回復したぞ」
「や、やった……!!」
クローフェ女王だけじゃない。
俺の回答に、剣帝ミルア、ローフェミア、そして他のエルフまでもが大きく喜んでいる。
なかには互いに抱きしめ合ったり、ハイタッチしているエルフまで見られる始末だ。
「よかった、よかった……!」
「エスメラルダ様が無事なら、それだけでもう何もいらない……!」
「エスメラルダ様ぁ……!」
クククク、やはりエルフたちはとんでもなく俺に酔い始めているな。
ブラッドデスドラゴンの火炎放射を喰らって生き残れるのかは賭けに近い部分はあったが、まあ、結果的に功を奏したようで何よりだ。
真の悪役たる者、こういう時の決断はすぱっとできないと駄目だしな。
「……さて」
そうして皆がひとしきり喜び終わった後、クローフェ女王がエルフを見渡しながら言った。
「申し訳ないですが、ローフェミアとミルア殿以外の者は、いったん席を外していただけませんか? エスメラルダ様に大事な話があるのです」
……おっと、どうしたんだ改まって。
もしかして俺の真の狙いがバレたのだろうか。
身体を張ってエルフの子どもを助けたのは、エルフたちの心を掌握するためだったということが。
エルフたちは女王の言葉にぺこりと頷くと、ぞろぞろと部屋を後にしていく。
もちろんミルアとローフェミアの二人を除いて――だ。
「……大変失礼しました、エスメラルダ様。本来はこのような状況で申し上げることではないのですが……身を挺してまでエルフを守ってくださったあなたを見て、私は思ったのです。やはりあなたこそが、絶対絶対絶対絶対絶対、世界にとって必要な方であると」
「…………」
訂正、俺の陰謀はまるでバレていなかった。
まったく……ヒヤヒヤさせてくれる女王様だな。
というか、ちょっと待てよ。
この話の流れ、もしかして……。
「――ですから、エスメラルダ様。あなたに、エルフ王国の統治をお願いしたいのです」
「…………は?」
「もちろん、細かな国政などは引き続き私が担います。ですが国家の根幹を揺るがすほどの大きな決断は、エスメラルダ様に判断を
「…………」
おいおいおい。
こりゃびっくりだな。
俺から提案しなくとも、まさかエルフ王国がごっそり俺のものになるとは。
「……私は感じたのです。エスメラルダ様の素晴らしさは、その
「ええ、ええ。まさしくその通り……!」
共感する部分があったのか、ミルアがそれはもう深く頷いている。
「もちろん統治をお願いする以上は、エスメラルダ様は私以上の権限を有することになります。……いかがでしょうか」
「女王以上の、権限……」
思い出した。
エルフ王国に足を踏み入れた時、ここにはおっぱいの大きいエルフたちが沢山いたのを覚えている。
しかもみんな可愛いんだよな、これが。
「……本当に好きにしていいんだな?」
「はい! エスメラルダ様ならばきっと、エルフ王国を良き方向に導いてくださると思いますので!」
クックック、この女王、何もわかっていないな。
俺は悪の帝王、エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド様だ。
ここまでエルフたちに好かれているのも、俺の陰謀によるものでしかない。
にもかかわらず俺に一国を譲ってしまうとは……。
「もう一度聞くぞ。本当にいいんだな?」
「はい、もちろんです! エスメラルダ様ならもう絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対に大丈夫ですから!」
「クク……いいだろう。そこまで言うのなら、引き受けようではないか」
「ありがとうございます!!」
そう言って、なんと俺に深く土下座をしてくるクローフェ女王。
本来ならこれもおかしい光景だが――俺はもう、この女王より上の立場に立つんだもんな。
……クックック、面白い。
前世ではゴミクズみたいな人生を送ってきた分、今生では好き勝手に生きさせてもらうぞ。