私ことローフェミア・ミュ・アウストリアにとって、ここ最近は驚きの連続だった。

 エルフ誘拐の真相を突き止めるために人間界に足を踏み入れて、そうしたら謎の男たちに襲われて。

 自分もここまでかと思ったら、今度はかっこいい男の人に助けられて。

 しかもその男の人――エスメラルダ様は、エルフ王国に潜んでいた刺客の正体をも見破った。

 月並みな表現だが、「すごい人」「尊敬できる人」という言葉しか思い浮かばないほど、彼は私にとって大きな存在になっていた。

 ……しかも、この気持ちをなんていうのだろう。

 エスメラルダ様のことを考えているだけで、胸がドキドキする。

 エスメラルダ様に触れるだけで、なんだか身体がぞわぞわっとする。

 だから何度も密着しちゃうんだけど、それでもエスメラルダ様は拒否しないでいてくれる。

 それが嬉しかった。

 ほんとはエスメラルダ様のほうからくっついてほしいと思うこともあったけれど、さすがにそれはミルアさんが怖かったのでやめておいた。

 なにはともあれ、彼はかっこよくて、世界最強。

 誰がなんと言おうと、それは揺るぎない事実だと思った。

「ギュアアアアアアアアアアアアアア!」

「うるせえ、くたばっとけ」

 アウストリア洞窟。その最深部にて。

 この洞窟には、世にも恐ろしい鬼のモンスターがいる……。かつて私は、お母様から何度もそう教わってきた。

 この鬼のせいで、何人ものエルフが犠牲になっているのだと。

 だから私たちがこの鬼に遭遇した瞬間、これはさすがにエスメラルダ様にこのことを伝えたほうがいいかと思った。

 いくらエスメラルダ様が世界最強と言っても、こいつは油断ならない相手。

 一度態勢を整えてから、万全の状態で戦いに臨んだほうがいいと。

「フハハハハハハ、当たらないねぇ! その程度なのか貴様は!」

 ――でもやっぱり、彼は世界最強だった。

 鬼の棍棒を涼しげな表情で躱し続けるだけじゃなく、その上で鬼をあおっている。

 きっとモンスターのほうもこんな経験はないのか、すごく焦ったような表情を浮かべていた。

 そして。

「――クックック、しょせんこの程度か。興ざめだな」

 と言ったエスメラルダ様は、たった一発の殴打を、鬼の腹部に見舞う。

「グオッツ……?」

 鬼はその一撃を受けると、一瞬だけ棒立ちになった後、その場に崩れ落ちる。

 一撃。

 たった一撃で、何百年もの間エルフたちに恐れられていた伝説を倒した。

 本当にすごすぎて、私はまたエスメラルダ様に抱き着いてしまった。