「ふう……」

 俺が剣を鞘に納めた時には、グルボアはすでに動かなくなっていた。

 もちろん殺したわけではないが、最後に容赦ない一撃を浴びせてやったからな。すぐには目を覚まさないだろうし、仮に意識が戻ったとしても簡単には動けないだろう。

 そしてそれは向こうでも同じだったようだ。

「――消えろ」

 ズドォォォォォォォォォォオオオン!!

 という大轟音を響かせながら、ミルアがとんでもない衝撃波を発生させる。

 たぶん剣を振った後の衝撃だと思うんだが、それだけで壁面にヒビ入れるとか、どれだけとんでもねえ威力してるんだよ。

 ローフェミアの魔法でステータスが上昇しているのを加味しても、まさに化け物のごとき腕力である。

 やはり、ステータス自体は俺よりミルアのほうが上だな。

 ここ近辺には経験値稼ぎになるモンスターが沢山いるわけだし、当初の想定通り、エルフ王国での特訓はマストになるだろう。

「よくやった、ミルア」

「はい! エスメラルダ様のためを思って全力を出しました!」

 うん、いったいどうしたんだろうな。

 ミルアの奴、なんだかさっきよりもはつらつとしているというか……。俺を見つめる時の目が、心なしかうっとりしているというか……。

 とにもかくにも、前にも増して俺を溺愛していそうなのは気のせいだろうか。

「わ、私も頑張りましたからね!」

 そう言って大きな乳を揺らすのは、第一王女ローフェミア。

 彼女はまだ実力的には少々頼りないが、成長しさえすれば、ゲーム中でもチートレベルの魔術師になる。

 俺ことエスメラルダの能力も抜群に高いし、やっぱりこれ、後々とんでもないパーティーになりそうだよな。

 ……というか、もうなってるかもしれないけど。

「な、なんと……」

 そしてこの展開に最も驚いていたのは、もちろん女王クローフェ。

 まあ、そりゃそうだよな。

 エルフ王国において最も厳重な場所に、あろうことかユリシアの手先がひそんでいたのだ。信じられないのも無理からぬことだろう。

 俺とても、この一件は色々とに落ちない。

 第一に、この作戦は色々とガバガバすぎるんだよな。

 いくら姿を消していたとはいえ、兵士たちは最初から軍服を着ていた。それでは自分たちの正体を敵に晒しているようなものだし、グルボアに至ってはこれが《ユリシアの仕業》だと公言してしまっていた。

 緩い作戦と言えばそれまでだが、あのユリシアがそんな間抜けなことをするだろうか……?

 このへんは完全にゲームシナリオの本筋からずれまくっているため、どういうことなのかまだわからないな。

 だから女王もまた、このあたりのことを悩んでいるのだと思っていたが――。

「すごいです! あのれたちを、こうも一瞬で倒してしまうなんて!」

「…………へ?」

「娘があなたに心酔する理由がわかりました! エスメラルダはエルフ王国に絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対に必要なお方です! さっきのご無礼をお許しください!!

 そう言って土下座をしてくるクローフェ女王。

 ……おいおい、おかしいだろこれ。

 女王が俺に様付けするのもおかしいし、土下座をするのもおかしい。

 突っ込みが追いつかないというのはこういうのを言う。

 これでは深刻に考えていた俺が馬鹿みたいだが、しかし俺はここで思い出した。

 ――そもそも、エルフ王国には自分自身を強化するために来た。

 ――もしユリシアが今後厄介なことを仕掛けてくるのだとしたら、どちらにせよ強くなっていたほうがいい。

 以上の点を鑑みれば、クローフェ女王は俺に心酔させたままのほうが良いだろう。

 ゲーム中の設定でも、エルフ王国には女王の許可がないと入れない場所が沢山ある。

 そして当然、そうした場所に限って強力なアイテムが隠れていたりするんだよな。

「クックック……」

 だから俺はなんか意味深な笑みを浮かべ、土下座したままの女王を見下ろす。

「わかっていただけたなら嬉しいです。ヴェフェルド国王に一矢報いるためにも、エルフ王国は俺が守ってみせますよ。……この国、自由に探索してもいいですね?」

「はい、それはもう当然当然当然当然絶対に当たり前のことですからはいはいはい!」

 そう言って俺の靴をぺろぺろしてくる女王。

 ……おい、いったいなんのプレイだよこれは。

「お、お母さん……」

 脇ではローフェミア第一王女が恥ずかしそうに頬を赤らめていたが、正直、どっちもどっちだと思った。