「着いたか……」

 それから数分後、俺たちはようやく目的地に到着した。

 地下水路の一角に隠されていた、人の背丈ほどの小門。

 まあ、ゲームでよくある転移ゲートみたいなやつだな。門の内部には淡い光が漂っていて、その光をくぐけた瞬間、向こう側の世界へと転移する仕組みだ。

 しかもこの転移ゲート、基本的にゲームキャラクターは認知していない。

《限の刻》においても、主人公のクリアしたエリアから順番に転移ゲートが解放される仕組みだったからな。

 この部屋においてもそう。

 普通にここを訪れただけではただ壁面が広がっているばかりで、転移ゲートを拝めるはずもないんだが――正しい合言葉を唱えれば、部屋への扉が現れることになる。

 通常であれば、その合言葉はゲームを進めなければ知ることはできない。

 だが俺は前世で《限の刻》を死ぬほどやり込んできた身。ここの合言葉もしっかり覚えていたという形だな。

 つまりこの転移ゲートは、プレイヤー側の手間を省くための、ある意味メタ的な便利システムでしかないんだよな。

 ゆえにローフェミアもミルアもこの転移ゲートの存在を知らず、

「え、なんですかこれ……?」

「エスメラルダ殿下、なぜこんなところに……? てっきり何か抜け道があると思っていたのですが……」

 と二人して目をぱちくりさせていた。

「クックック……、不安になるのも無理はない。安心しろ。俺の言っていることにミスはない」

 今回の転移先は、もちろんエルフ王国。

 ゲート以外の手段で向かうにはあまりにも遠いので、今回は裏技を使わせてもらうことにした形である。

「さあ行くぞ。俺の手に掴まれ」

「「は、はいっ……!」」

 これ幸いとばかりに、ミルアとローフェミアが同時に片方ずつ腕を絡ませてくる。

 くっ……、二人ともまたおっぱいを当ててきているな。

 しかしここは我慢だ。真の悪役たるもの、自身の欲望をおさえることも重要だからな。

「ふっ……では行くぞ、二人とも」

 合図をかけたのち、俺はおっぱいたちとともに転移ゲートに足を踏み入れる。

 直後、一瞬だけ青白い光に視界が覆われ――。

 そして数秒経った頃には、四方八方に雄大な自然が広がっていた。

「わぁぁぁあああ……!」

「本当に着いた……!」

 圧巻の様子で周囲を見渡している美少女たち。

 特にミルアはここに来るのは初めてのはずなので、感動もひとしおだろう。

 あちこちに生えている大樹、腰のあたりまで生えている草、そして世界の中心にあるとされる《世界のしんじゆ》……。

 どれも王都では見ることができないので、ミルアが言葉を失う気持ちはわかる。

 俺も前世のゲームで何度も見てきた光景ではあるが、やはりVRとリアルでは景色がまるで違うからな。

 ミルアと同じように感動しているのが本音だったが、ここで取り乱さないのが大物悪役としてのきよう。そんなことよりも気になるのが――。

 まわりにいる美少女エルフたちが、めっっっちゃ可愛いこと!

 おっぱい大きい子も多いし、しかも露出が多いし、これは楽園すぎるぞ!

 悪のおっぱい王国を築くという俺の夢が、早くも成就してしまいそうではないか……!

「あ、あれは人間……?」

「ローフェミア王女殿下、いったいなぜ……?」

 しかし悲しいかな、エルフたちにとって人間は〝恐怖の対象〟らしい。

 さすがに悪口や暴言を吐かれることはないが、みな一様に俺たちにおびえてしまっているな。

 ……まあ、無理もないだろう。

 ユリシア第一王女を筆頭として、他にも一部の人間がエルフを誘拐し続けているからな。

 いくらエルフたちが平和主義者といえども、俺たち人間を良く思わないのは当然だろう。

「気にしないでください、エスメラルダ様」

 そんな俺の気持ちに勘付いたのか、ローフェミアが俺の手をぎゅっと握ってきた。

「きっといずれ、エスメラルダ様のかっこよさがみんなに伝わるはずです。ですからどうか、私たちのことを嫌いにならないでください」

「…………」

 これは驚いたな。

 自分たちも人間にさんざん苦しめられてきただろうに、それでも俺をようしてくれるとは。

 だが――それこそ本当の見当違いだ。

 俺こそが悪のおっぱい王国を築き、真なる悪役となる者。本当に恐れるべきはユリシアではなく、この俺なのだから。

 だがまあ……せっかく擁護してくれているのだ。

 わざわざそれをけることもあるまい。

「気にするな。これしきのことで動揺はしない」

 俺の憧れる悪役の条件の一つ――いついかなる時でも泰然自若とする。

 今生こそ悪役として自分勝手に生きていきたい俺は、この程度のことで取り乱さない。

「ああ、やはりエスメラルダ王子殿下は、私が一生ついていくべき方……」

 ミルアは相も変わらずぶつぶつ言っていたが、エルフたちが怖がっているならば、こんなところで長居している場合ではないだろう。

「さあローフェミア、まずは女王に会わせてくれ。先に俺たちの誤解を解いておかなければ、ここでくつろぐこともできん」

「は、はい……!!

 ゲーム廃人の俺なら痛いほどわかっている。

 ここエルフ王国には強力な武器防具が取り揃えてあるし、絶好のレベルアップポイントも多数ある。ゴールデンアイアントやシルバースライムなど、経験値効率の良いモンスターがうじゃうじゃいるからな。

 要はここに滞在していれば――俺はより強くなれる。

 これから悪役王子となって人民を束ねるためには、当然ながら君主たる俺も強くなければならない。

 あのクソポンコツ女……ユリシアもなにをしてくるかわからないからな。

 つまり立派な悪役王子になるためには、エルフ王国を自由に動き回れるようになることが必須事項。

 このままではそれが叶わないので、女王とのえつけんはなによりの優先事項だった。

「けっこん、けっこん……!」

 ローフェミアは別の意味で浮足立っていたが、それについては聞かないふりをしておいた。