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「クックック……。今頃姉上は、恐怖で夜も眠れぬ状態だろう」

 兵士を倒してから三時間後。

 俺たちはこのまま、ローフェミアとともにエルフの王国に向かうことにした。

 もちろん通行人に姿を見られたら面倒なことになるので、極力、正体がバレないように変装しているけどな。ローフェミアと同じように、深いローブを被って顔を見られないようにしている。

「ふっふっふ……。エスメラルダ様、本当に悪いことを思いつきましたね……」

 俺が悪役っぽく笑っているかたわらで、ローフェミアもなんか悪そうな表情を浮かべだした。

「そうだろう? 外面を大事にする姉上にとっては、巨乳パッドを使っていることをバラされることが何より恐ろしいはず。クックック……我ながら悪い作戦を思いついたものだ」

 これにて、俺は実質的にユリシアへ喧嘩を仕掛けたことになる。

 おかげでもう王城へは帰れなくなってしまったが――まあ、そんなことはどうでもいいだろう。第五王子なんて仕事らしい仕事もしていなかったし、少しくらい姿をくらましたとて何の影響もない。

 ヴェフェルド王国のいんうつとした空気にも嫌気が差してきたところだ。

 俺はこれから、エルフ王国を起点として、今生こそ好き勝手にハーレム生活を築いていくのだ。

 ちなみにエルフ王国のある場所だが、ゲームの設定では、たしかまんま世界の中心に位置していたと記憶している。

 世界の真ん中には大きな大樹があって、そのまわりにはとうの森林があって、そこでエルフが暮らしている……。

 まあ、よくある設定だったんだよな。

 ここ王都ヴェフェルドからは相当離れているので、普通に向かっていくのでは時間がかかりすぎてしまう。ではどうすればいいかというと――。

「そらっ!!

 王都ヴェフェルド。その地下水路にて。

 目の前にいるザコモンスター――ゴブリンナイトを剣の一太刀で片づけると、俺は息をつきながら周囲を見渡す。

 何度もゲームプレイしてきた時の記憶と同じだ。

 人がギリギリすれ違えるくらいの狭い通路が、視界の奥まで延々と続いている。ゲーム時はチュートリアル的に訪れる場所だったので、リポップするモンスターはそこまで強くないけどな。

 そしてこの地下通路の一角にて、エルフの王国へと繋がるワープポイントがある。

 ゲーム廃人だった俺は、これを当然のことのように覚えていた。

「さあ、たしかこの先に行けばよかったはずだ。ついてこい、二人とも」

 そうして歩き出す背後の二人――剣帝ミルアと王女ローフェミアが、ぽかんと口を開けて見つめていた。

「なんでエスメラルダ様、この道筋がわかるんでしょうか……」

「ふふ、だから言っただろう。エルフの知能もずば抜けているようだが、エスメラルダ王子殿下の知能はそれをはるかにりようしている! つまりはそれこそが神の証であり最強の証でもあり私があのお方についていくと決めた理由の一つでもある本当はもっと話したいこと沢山あるけどでもこれ以上話すと私の血がぶほほほほほっ!!

 ……ブツブツ呟きながら鼻血を出し、またその場から崩れ落ちるミルア。

 さっきから大量出血がひどいんだが、あいつはこのまま生きて帰れるのだろうか。

 そして納得いかない点は、さらにもう一つあった。

 つい数十分前の出来事だ。

「よし、じゃあさっそくエルフ王国へ行くか。ローフェミア、案内してくれないか?」

「…………」

「ん? どうした」

「ごめんなさい。帰り道忘れちゃって……」

「………………は?」

 あまりにも衝撃的な発言に、さすがの俺も思考停止してしまった。

「ローフェミア。おまえが人界に降りてきた目的は、たしかエルフ誘拐の真相を突き止めるためだったよな?」

「え? あ、はい。えへへ……」

 俺と話しているだけで顔を真っ赤にするローフェミア。

 アニメキャラよろしく巨乳の露出部分がめちゃめちゃ広いので、どうにもそこに視線を向けていきそうになるが――。

 しかしそこだけを見ていては小物の悪役なので、極力、目を見て会話するようにする。

「……そんなに大事な役目があるんだったら、帰り道を忘れてちゃ意味ないだろ。びっくりしたぞマジで」

 だってこいつ、俺に出会わなかったら帰れなかったってことだぞ。こんな間抜けな話があってたまるか。

 あの時俺が戸惑ったのも、さすがに無理からぬことだと思う。

「でも、やっぱりエスメラルダ様に出会えてよかったです! 私を助けてくれただけじゃなくて、頭もいいなんて……。かっこよすぎてそつとうしそうです」

「ローフェミア王女、抜け駆けは良くないな」

 俺と腕を絡ませようとしたローフェミアの肩を、立ち直ったミルアが力強く掴み上げる。

「さっきは黙って見過ごしていたが、そこは私のポジションだ。そう、先にエスメラルダ殿下の魅力に気づいたのは私なのだからなッ!!

「――――あらなにをおっしゃるの? おっぱいは私のほうが大きいですし、なにせ私は王女。剣帝ごときの出る幕はありませんわ? それとも私を刺す気?」

「ば、馬鹿を言うな! おっぱいは私のほうがでかいぞ! それは疑いようもない事実だ!」

「あらあら♡ こうなったらもう、エスメラルダ様に確かめてもらったほうが一番早いんじゃないかしらねぇ」

「…………」

 片や、急に早口になって勝手に倒れている剣帝ミルア・レーニス。

 片や、ヤンデレ属性で妙に好戦的な王女ローフェミア・ミュ・アウストリア。

 それぞれ地位や肩書きはめちゃくちゃ立派なのに、とんでもないパーティーが形成されていた。

 というかミルアの奴、立場的にローフェミアにタメ口きいてちゃ色々とまずいと思うんだが……。

 まあ、仲良しの証だということで、いったんそのままにしておくか。

「「エスメラルダ様、どっちが大きいか確かめてください!」」

 二人でそう言いながら、胸を強調してくる美少女二人に。

「ふっ」

 俺はなんか意味深な笑みを浮かべると、ポケットに手を突っ込み、くるりと身を翻してみせた。

「そんなものに興味はない。しまいたまえ」

「…………!」

「すごい……! やっぱり、普通の男とは違いすぎる! かっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこよすぎて死ぬああ神よあなたはなんてすごい方を生み出してしまったのですかいや違った、神はエスメラルダ殿下だった」

 やっべ。

 本当はめっちゃ触りたいんだが、非モテをこじらせると、こういう時勇気を出すことができない。

 だからかっこつけてこんなふうに言ってみたんだが、

「すごい……やっぱり王子殿下はかっこいい私たちの浅ましい考えを否定することもなくしっかりと受け入れてくださりそして私たちの美しさを認めてくれているやっぱり私はこの方に一生ついていきたいいやん私のえっち」

「エスメラルダ様……。やっぱりあなたは普通の人とは違う。あなたについてきてよかった……!」

 ……うん、やっぱり二人の調子はまったく変わっていなかった。