「あ、そうだ」

 エルフ王国に向かおうとした瞬間、ローフェミアが兵士たちを見て立ち止まった。

「そういえば、この兵士たちはどうしましょうか? いずれ目を覚ますでしょうし、エスメラルダ様のことを上の者に報告するかもしれません」

「ふむ……」

 たしかにそうだな。

 先ほどの戦い方を踏まえれば、こいつらが第三師団の兵士であることは確定事項。

 そしてその第三師団そのものが、ユリシア王女と深い関係にあることも確定事項だ。

 つまりこいつらを放置すれば、俺はさらにユリシア王女に目をつけられることになる。

 面倒くさいことになるのは間違いないし、今のうちに兵士どもを始末するのが無難な選択ではあるんだが――。

「いや、いいさ。こいつらにはこのまま、俺のことをしやべってもらおう」

「え……!? いいんですか?」

「ああ、構わない」

 そう言ってニヤリと悪い表情を浮かべる俺。

 なぜ今回に限って、男たちの口封じを見送ろうとするのか。

 ――それは単に、俺の理想とする悪役像に反しているからだ。

 裏でコソコソ動きまわるのではなく、気に入らない相手には真正面からたんを切る。そうやってユリシア王女に揺さぶりをかけたほうが爽快だし、なによりも、誰かの陰で動き回るのは前世でこりごりだ。

 一見すると賢くないかもしれない。

 一見すると損しているかもしれない。

 それでも俺は、己の信じた道を往く――。

 今生のエスメラルダ・ディア・ヴェフェルドはそういう男だ。

「すごい、大胆なんですね……」

 目をキラキラさせて俺を見るローフェミア。

「そしたら、男たちの記憶は操作しないでおきますね。エスメラルダ様がお望みなら、それも検討していたんですけど」

「ああ、よろしく頼む」

 記憶操作。

 どう考えてもチート技だが、たしかゲーム中のローフェミアもこれを得意としていた気がするな。

 そんなキャラを味方にできたなんて、「悪のおっぱい王国を築く」という俺の夢は、これで大きく実現に近づいたといっても過言ではないだろう。

「あ、でも。このまま逃がすのはしやくなので、ひとつだけ悪戯いたずらしてもいいですか?」

「ん? 悪戯?」

「はい。十秒に一回はおならが出るように暗示をかけたいです」

「…………」

 なにかと思ったら、めちゃくちゃしょうもないな。

 まあローフェミアは男たちの被害者なわけだし、実際にどうするかは彼女に決めさせるか。

 いや。待てよ……?

「ローフェミア。それもいいが、さらにもう一つ、良い悪戯があるぞ」

「へ……?」

 目を見開くローフェミアに、俺はそっと耳打ちをする。

!! いいですね、それ!!

「ふっふっふ、これを喜ぶとは……おまえもなかなかに悪だな」

「いえいえ、そんなアイディアが浮かぶエスメラルダ様が一番ですよ」

 そう言って互いに悪い笑みを浮かべる俺たちだった。

 たしかゲームの設定上では、ユリシアは胸の小ささにコンプレックスを感じていたはず。

 昔、なにげなく兄弟から放たれた〝貧乳〟という言葉がトラウマになっているんだとか。

 だから現在、ユリシアは胸パッドを入れている。

 少しずつパッドのサイズを増していったのもあってか、周囲には不審感を抱かれていないようだが――。

 その秘密を暴けば、きっとユリシアにも大きなダメージを与えられるだろう。

 まさに前世のゲームをやっていた俺しかできない、あくどいやり口だと言えた。