私――剣帝ミルア・レーニスは深い感動を覚えていた。

 思った通り、エスメラルダ殿下が秘密裏に特訓していたことには意味があったのだ。

 エルフといえば、私たち人間と比べて圧倒的に強い種族。

 少女はまだ幼いゆえに逃げるしかなかっただろうが、成人したエルフは人間とは比較にならないほどの魔力を有する。人間の魔力を一とすれば、エルフは百……。

 それほどの力量差があるのだ。

 にもかかわらずエルフたちが人間に〝されるがまま〟なのは、基本的にエルフが平和主義者だから。異種族で争うことの無意味さを主張し、できるだけ対話で解決を試みようとする――。

 それがエルフたちの思想なのだ。

 おそらくユリシア王女を筆頭とする貴族たちがエルフをさらっているのも、そのあたりに原因がある。

 エルフたちであれば、多少痛い目に遭わせてもどうせ何も言ってこない。

 だからこうしてエルフを襲い、希少とされている血を奪い取る……。

 こんな非人道的な行為がまかり通っているのだ。

 きっとエスメラルダ王子殿下はここに目をつけたんだろう。

 街に出た直後やや挙動不審だったのは、おそらく男に追われているエルフを捜し出すため。

 そしてそれを見つけた後は、その圧倒的な武力を用いて男たちを制圧する――。

 すべてはエスメラルダ殿下のみつな計算によるものなのだろう。

 特にしびれたのは、一見して無精に見えるその男たちを、第三師団の軍人だと見抜いた点だ。この第三師団は前述のユリシア王女と関係が深いため、これで点と点が一つに繋がる。


 それすなわち、他ならぬユリシア王女こそが、第三師団を率いてエルフを捕えていたということだ。


 ……やはりエスメラルダ王子に付いてきて正解だった。

 彼は本気で、この腐った世の中を是正しようとしている。

 強き者が弱き者をしいたげ、自分たちの利権をむさぼろうとする――そんな社会は間違っているのだと。

 みにくい玉座争いを目にしてきた彼だからこそ、そして王族たる彼にしかなしえないことを、今ここで果たそうとしてくれているのだと。

 これまでの私ならば、王族を信じることは到底できなかったけれど。

 エスメラルダ殿下は、私の知らぬ間に血のにじむような修業をし続け――。

 そしてその力でもって、きゆうおちいっていたエルフを救ってみせた。

 この一連の行動すべてに、エスメラルダ殿下の人柄が表れていると思う。いくら外見上はぶっきらぼうに振る舞っていても、彼には神をも超越した人間性があるのだと。

 いや違うか。エスメラルダ殿下こそが神だったのだ。

 エルフの少女はとても可愛らしく、しかもそんな彼女に抱きしめられているとあっては、並の男なら下世話な考えが思い浮かぶはず。

 しかし彼はその様子をおくびにも出さず、「別におまえを助けたかったわけじゃない」と超絶クールに振る舞っているのだ。

 遠慮なく抱き着いているあたり、少しエルフの少女に嫉妬しなくもないが――。

 彼ならば、きっとこの世界を変えてくれる。

 そう信じられるのだ。

 だからこそ、私も意を決して王子に話しかけることにした。

「エスメラルダ王子殿下……。私もその、抱き着いてもいいですか?」

「は?」

「王子殿下と距離が近いのは、そのエルフよりも私ですから。ですから私のほうが抱きしめてしかるべきだなって」

 そう言いながら、よく「大きい」と言われる胸部を強調してしまう自分。

 こんな下世話なこと、本当は大嫌いなはずなのに。彼を相手にすると、なぜかそれが崩れてしまうのだ。

「ふっ」

 エスメラルダ王子は再び意味深な笑みを浮かべると、右腕をこちらに差し出してきた。

「いくらでも好きなように飛び込んでくるがいい。俺がしっかり受け止めてやる」

「お、王子殿下……!」

 あまりに優しいその発言に、私は思わず彼の上半身にダイブをかましてしまった。

 ああやっぱりかっこいい素敵すぎる彼に触れただけで身体が震えるしやっぱり胸がキュンキュンしてしまう今まで恋愛に全然興味なかったけれどこの気持ちはきっと本物ああ彼ともっと近い距離で接する日が訪れるのだろうかいやん何考えてるの私のえっち(ry

「おいミルア、鼻血出てるぞ!?

 王子にそう話しかけられたのを最後に、私の意識はぷつりと途切れた。