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「ほう……?」
さっきまで三下っぽい雰囲気を漂わせていた男たちだが、戦闘になると目つきが変わったな。
懐に隠し持っていたらしい短剣を両手に持って、油断ない視線を俺に向けている。
「エスメラルダ殿下……。加勢致しましょうか」
と。
いつの間に魔法から立ち直ったのか、ふいにミルアが俺にそう提案してきた。
……そうだな。
部下にすべてを任せるのも悪役っぽくていいんだが、ここはエルフの好感度を稼ぐことを優先したほうが良さそうだ。
前世ではろくに満喫できなかった〝ハーレム生活〟を、今生くらいはまっとうしてみたいしな。
「いや、いい。ここは俺に任せておけ」
「かしこまりました。エスメラルダ様の勇姿、この目に焼き付けておきます……!」
「ふふふ……はははは……」
「まさか戦うつもりなのか? 悪名高き第五王子ごときが」
そしてやはり、第五王子の悪評はこんなムサい男たちにも伝わっているっぽいな。
両頬を卑しく吊り上げ、勝利を確信しているかのような笑みを浮かべている。
「王子ぃ。聞いてますよ? あんた、ゴブリンにすら勝てずに王女に守ってもらってたんすよね?」
「ゴブリンなんて、冒険者になりたての新米でも勝てるのによぉ。ちぃと血筋がいいからって、俺たちを従わせられると思うなよ」
「貴様ら、エスメラルダ殿下を悪く言うのは断じて許――!」
先に
……前世の記憶が戻る前の話ではあるものの、たしかにゴブリンから逃げた覚えはある。
たぶんあれは、自身の強さを国民に広くアピールする会だったか。
ゴブリン程度の魔物、本来の「エスメラルダ」ならもちろん取るに足らない魔物だ。いかにレベル自体が低かろうとも、ステータスそのものは高いからな。
しかし俺が戦ったゴブリンだけ、異様に強化されていた覚えがある。
俺も油断していたわけではないんだが、執事から渡された武具では到底
後から考えれば、あれはユリシア王女によってハメられたんだと思う。
俺が思わず身を引いた直後、これ幸いとばかりに、ユリシア本人が飛びかかっていったからな。
しかも偶然、当時の彼女は強力な宝剣を持っていたし――。
あまりにもシナリオができすぎていたのである。
おそらく作中のエスメラルダ王子も、そうしたしょうもない血筋争いが嫌になって、メンタルが不安定になったんだろうな。
だが……。
こんな昔話で動揺してしまうようでは、悪役の風上にも置くことができない。
いついかなる時も泰然自若としていることが、俺の憧れる悪役の条件だからな。
「さて、立ち話はもう終わりだ」
俺は笑みを浮かべつつ、男たちを挑発してみせる。
「かかってこいよ愚民ども。おまえらのようなクズが、王子様と
「あん……?」
その反応が面白くなかったのだろう。
男たちは一転して表情を
「はっ、いいだろう。そこまで言うなら遊んでやるよ、最弱の王子様よぉ!」
と、二人同時にこちらへ突進してきた。
――速いな。
なにかしらの組織にでも所属しているのか、妙に統率が取れている。
というかこの動き、どこかで見たことあるような……?
カキン、と。
男が振り下ろしてきた剣を、俺は同じく剣で防いでみせる。
「お……?」
なんだ。
思った以上に軽いな。
さっき剣帝ミルアに勝ったことで、全体的なステータスが向上しているのかもしれない。ゲームでよくあるレベルアップってやつだ。知らんけど。
「な、なんだと……?」
「
簡単に防がれたことに対し、男たちも驚きを禁じ得ない様子だった。
しかしまあ、やはり剣帝ミルアと比べればぬるすぎるな。
男たちが続々と繰り出す剣撃のすべてを、俺はさも当然のように受け止めていた。
しかもこの動き方、やはり俺には見覚えがある。
前世でのゲームも非常に精巧に作られたVRゲームだったので、もはや疑いようもないだろう。
「おまえら……王国軍の人間だな。それも第三師団所属の」
「な…………!?」
「第三師団ってことは、ユリシア姉様とも距離が近いはずだ。――ふふ、さぞ色々と裏がありそうだなぁ?」
「き、貴様……!」
図星だったのか、あからさまな動揺を見せる男たち。
……なるほど、薄汚い風貌はカモフラージュか。たしかに今の見てくれならば、王国に従事する者がエルフに手だししているようには思えない。
通りすがりのおっさんが、道行くエルフに欲情したとしか捉えられないだろう。
「クックック……。その反応を見るに、当たらずしも遠からずといったところかな」
「よ、
「はは、おまえらが知る必要はないのだよ」
なんか悪そうな笑みを浮かべつつ、あくまで泰然とした態度を崩さない俺。
――決まった。
悪役王子として、この上ないシチュエーションであろう。
「エスメラルダ殿下……」
背後では相も変わらず、ミルアが両手を重ねて俺を見つめていた。
戦場なのに油断しっぱなしで本当に怖いな、この女。
「そらっ!」
ガキン、と。
俺が思い切り剣を振り払うと、それを刀身で防いだ男たちが大きく後退していった。
「くっ、これはいったいどういうことだ……!」
「こんなに強いなんて聞いてないぞ……!」
当惑する男たちに向けて、俺は自信満々に距離を縮めていく。
「クク、さあどういうことかな、諸君。仮にも王国軍に所属している者が、俺が王族とわかっていてもなお突っかかってくる。何かがあると考えるのが妥当ではないか?」
「ぐ……」
俺がそう問い詰めるも、男たちは黙ったまま後ずさりするのみ。
ちなみにユリシア王女と第三師団に繋がりがあること自体は、当然ハッタリをかましているわけではない。
基本的に主人公の一人称視点で進むゲームだったので、王家で繰り広げられていたという玉座争いについて、細かいところまで語られていたわけではないが……。
しかし男たちの反応を見るに、俺の推測は正解だったようだな。
「ふふ……」
だがまあ、俺にとっての最優先は当然エルフの女の子。
国家に渦巻く陰謀も、王族たちの玉座争いも、それに従う王国軍にも興味はない。俺はただ、悪役王子をまっとうして好き勝手に生きられればそれでいい。
俺は咄嗟に地面を蹴ると、男たちの間をすり抜け、尻餅をついたままの女の子と距離を詰める。
「な……!?」
「馬鹿な……!?」
数秒遅れて男たちがこちらを振り向くが、もう遅い。
俺は少女の
「俺がおまえを救ってやる。だから今日から……俺のものになれよ?」
「…………ッ」
決まった。
少女は顔を真っ赤にして、こくこくと頷いている。
やっぱ王子+イケメンって反則要素だよなあ。〝人間顔じゃない〟とはよく言うが、やはりイケメンであるに越したことはないだろう。
実際にも今、エルフの少女の目はまさにハートの形になっているからな。
「ふふふ……」
俺はゆっくり立ち上がると、前髪をさらりと
「ごめん、寝取った☆」
「なんか知らんがムカつく!!」
顔を
いいね、実に三下らしい言動だ。
俺の強さを一層際立たせてくれている。
「まあ、そういうわけでおまえらには眠ってもらおうか。一瞬で片づけてやるからな」
「な、なんだって……!?」
さっきまで地団駄を踏んでいた男たちの視線が、ぎろりとこちらに差し向けられる。
「いい気になるなよ小僧。いくら王族といえど、証拠さえ残さなければ殺してもいいって言われてるんだぜ?」
「……ほう? 誰にだ?」
「答えるかよ馬鹿野郎ッ!」
男の一人が威勢よくそう言い放つが――。
「はっはっは、元気なのはいいことだがな。もっとまわりを見てないと駄目だぜ?」
奴らが剣を構えたその直後には、俺は彼らの背後に回り込んでいた。
ゼルネアス流の剣技が一つ、《瞬透撃》。
ゲーム世界ではすべての技を主人公に習得させていたので、その使い方が身体にもう染みついている。主人公の場合はいちいちレベルを上げないと強い技を使えなかったが、このエスメラルダは最初から強い技を扱える。
やはりこの第五王子、あまりにもチートだな。
この《瞬透撃》だって、本来ならゲーム終盤にならないと習得しない大技だったんだが。
「殺しはしない。だがもう、二度とその手で剣を握れると思うなよ……!」
俺はそう言い放つと、男たちの両手両足に鋭い斬撃を見舞う。
「かぁぁあぁぁぁぁあああ……っ!!」
鋭い痛みを感じたか、その場にうずくまる男たち。
本当ならこの場から逃げ出したいだろうが、足を深く斬りつけておいたので、走ることもままならないだろう。そして手首にも強い攻撃を与えた都合上、剣も持てないはずだ。
「……どうだおまえら。ゴブリンにさえ負けた男に敗北する屈辱はよ」
「あ、ありえない……! 欠かさず訓練してきた俺たちが、なぜ出来損ないの第五王子などに……!」
「へえ? 訓練ってのはなんなんだよ、おい」
意識が
クックック……こういう仕草も悪役っぽくていいよな。
「言うわけが、ないだろう。――今後はどうか頼みましたぞ、敬愛するユ……」
そこまで言いかけて、男たちは意識を失うのだった。