おゆきが頬を膨らませている……太郎は苦笑しているし三九郎さんは頭を抱え始めた。
それに義晴様は……うわ、真顔だ。しかもなんかつぶやいていて怖い!!
「簪を贈る意味を知らんだと? これは俺が色々教えないと駄目だ、いつか変なのについていくかさらわれる……」
「若、今はそこまでに……城で話しましょう」
「……わかった、とりあえずこの近辺の警備をより厳重にしろ」
なんか密談している……怖いから触れないでおこう……あ、そういえば簪の他にもう一つ作品といえるかはわからないが作ったものを思い出した。
「そういえば壺を作ったんだ……忘れていた」
「あの漬物の?」
「いや、一つ試しに作ったのがあって……あった、これだ」
漬物用の壺を作ったときに材料が余ったので試しに作ってみたものだ。
俺は部屋の隅に置いておいた水の入った陶器を持ってくる。意外と綺麗に出来たやつだからインテリアにも使えるぞ。
青みがかった灰色に白い雲のような模様が描かれた壺だ。
特にこれといったモチーフはないが水入れに使えるように分かりやすくしてみた壺だ。
義晴様は密談を終えたのか壺を見て目を輝かすが、水が入っていることに気づきどこか遠い目をし始めた。
いや、これは呆れている目で……気に入らなかったのかと思っていたらやれやれとため息をつかれた。
「お前なぁ、こんないい壺を水入れの壺にするなよ……」
「いい壺って……俺が水入れにでも使おうと思って陶器の練習用に試しに作ってみたものなのです」
「いやいや、作者のお前がそんな……いや、何もいうまい……」
もごもごと何かいいたそうではあったがやめたらしい義晴様は亀太郎と遊び始めた。
何だったのだろうか……。太郎とおゆきを見ても首を傾げられ、三九郎さんはまた頭を抱え始めたのでとりあえず壺については置いておいた。
もう話題にならないだろうと思っていたこの壺だったのだが三日後に使うこととなる。
それは村長からの依頼だった。どうやら楚那村から離れたところにある村だけ日照りが続き作物どころか、人の命も危ないらしい。
そこでその村の村長と仲のいいうちの村長が水を壺に入れて分けてやることにしたらしく俺が作った壺で水を運びたいと許可を取りに来たのだ。
俺は勿論了承したし、うちにある水を入れた壺も提供した。すると村長は何度か本当に壺をその村にやるのかと確認をしてきたが俺は是非使ってくれと壺を差し出すと、何故か村長は壺を大事に抱えて帰っていった。
何だったのだろうかと亀太郎に聞いても亀太郎は頭を俺の指に擦り付けて甘えるだけだった。かわいいなぁ。
壺を村長に渡した翌日に三九郎さんが俺の様子を見に来た(健康チェックと周辺警備の確認らしい)のでこの件について相談。
日照りの件は知っていたようで義晴様も何故一部だけ日照りが起きているのかと不思議がっているらしく調査中と教えてくれた。
どうやら近隣の村に手助けをするように指示を出そうとしていたところだったので、村長の行動は逆にありがたいと言っていた。
また壺の件については……。
「……は? もう一回頼む。何と言った? 壺をどうしたって?」
「水を入れてその村に贈ることとなりました」
「はあぁぁぁぁ!? おま、なんてことを!!!」
三九郎さんは顔を真っ青にして飛び出して行ったが、すぐに戻って来て義晴様に報告することがあるから帰ると告げて帰っていった。
嵐のように慌ただしく去ったので俺は何かしてしまったかと考えたが水の入った壺を贈ったくらいなのでそこまで大事に考えていなかった。
だが数日後、義晴様が突然褒美だと反物を沢山くれて、そのあとに簡単に作ったものをやるなやら、危機感を持てやら、またとんでもないものつくりやがって等と説教をしてきた。突然のことに俺は勿論理解などしていなかったがそれについても怒られた。
解せぬ。
◇
清条国
何故謎かはこの村以外は雨が降り、水不足等は他の村には一切なかったからだ。
村長が何かの
きっと水はまだあるはずだと希望を求めていたところに村長と仲のいい楚那村の村長、虎八須が楚那村の若者を連れて水を壺に入れて運んできた。
熊八が求めていたものではないが皆の命が助かると熊八は喜んで年下の子供達を抱えて水をもらいにいった。
「虎八須、かたじけない……!! なんとお礼を言えばいいか!」
「気にするな旧友よ、困ったときは助け合うものじゃ……太郎、みんなに水を配るから動けないやつらに運んできてやってくれ」
村長が泣きながら頭を下げる中で楚那村の村長は冷静に太郎という青年に指示を出す。
子供達に水を配っていた太郎は村長の指示に快諾の頷きを返した。熊八よりも少し年上だろうその青年は優しく子供達の頭を撫でると楚那村の他の男に仕事を頼んで村長達に駆け寄った。
「わかった、でも誰が動けないんだ? 流石に俺もこの村は初めてだからわからない」
「俺が案内する! それに手伝わせてくれ!」
熊八は冷たい水を一杯もらい、久々に体の渇きを癒すと太郎の手伝いを買って出た。
太郎は朗らかに笑うと、頼むと熊八に言った。が熊八は先ほどは気づかなかった太郎の大きさに気づき、面くらう。村では見たことのない大男だったのだから。
しかし、太郎はその巨体に反し穏やかな性格だと熊八は少し話しただけで理解する。
力は巨体に相応しい怪力で村の者達を軽々と運んでいくが怪力とは思えぬほど優しい手つきで水を飲ませていった。
「お前、すごいな」
「ん? なにがだ?」
「怪力だ、すごくうらやましい」
太郎は照れるように一度笑うが空を一度仰いでからうつむいた。
何かあると思った熊八は太郎にどうした? と聞く。この短い時間で太郎に親しみを覚えたこともあるがこの怪力なすごい男が顔を曇らせるほどのなにかがあるのかと好奇心が出たのだ。
「俺はあいつが危ない時守ってやれなかったことが多いからな……だから怪力なんて意味はない、それにあいつのほうがすごいんだ」
「あいつ?」
「俺と同い年の大切な友達で兄弟みたいなものかな……本当にすごいんだ、俺の村の家を丈夫で住みやすい家にしたり、俺たちが知らなかった食える物の育て方を知ってたり、あの月ヶ原の義晴様が首ったけになるほどのものを作るんだ」
「なんかすげぇな……その友達」
熊八がそう感想を言えば太郎は嬉しそうにうなずいた。
そうなんだすごいんだ、と自分のことのように喜ぶ太郎にとってその友達は大事な存在とよくわかる。
しかし熊八は一つ、月ヶ原義晴が首ったけになるというものだけはわからなかったが。
話を聞いていた熊八に友人を自慢できた太郎は機嫌がよく、笑顔で熊八の耳にこっそりと話した。
「お前にだけ教えてやるぞ……多分、ここで不思議なことが起きるかもしれないぞ」
「え?」
太郎は楽しそうにそういうと村長の傍にある一つだけ色の違う壺を指して笑った。
それは子供のような笑顔で。熊八にとってはよくわからない壺だがなにかあると。
「宗助が作ったものには何かが起きるんだ、だからあの壺はきっとすごいことをする。だって宗助は今まで星を映した刀を、生きた龍の刀を、精霊が宿る酒を、人の人生を変えた鏡を作ったんだ」
「それ、本当の話か……? 流石に信じられないな」
「きっとあの壺は何かするぞ」
そう信じて疑わない太郎の目はまっすぐで太郎が冗談を言って希望を持たせる人物に見えない熊八はとりあえず壺を大事にすると太郎に告げれば……それでいいんだと満足げに笑う太郎がいた。
その後熊八と太郎は話をして、いつか太郎のいる楚那村に遊びにいくと約束をして太郎は楚那村へ帰っていった。
熊八は太郎達、楚那村の者が帰った後に村長にあの例の壺が欲しいと告げて、割られないように保護のため家に持ち帰った。今の家には熊八一人。親は水不足で倒れてしまったため、村長が療養する場所に連れて行ってしまったからだ。
家の居間に置いた件の壺は両手で抱えるほどの大きさだが、なぜか水が入っているはずなのに異様に軽く、水が冷たいままだった。
熊八は不思議に思ったが、冷たいままな水にありがたいという感謝しか感じなかった。
その翌日に不思議なことが起きたのだった。
今日も今日とていやに天気が良く、雨が降る気配はない。これでは楚那村からもらった水も早々につきてしまう……。
熊八は畑仕事を終えると今日も池の周りを掘っていた。
どこかに水源が残っていることに希望をかけて掘り続ける熊八に村長からの怒声が降り注ぐ。いきなりの怒鳴り声に熊八はなんだと悪態をつきながら穴から出た。
「こらぁ熊八! お前が欲しいといった壺をここに置くな!!」
「は? 俺は家に……え、なんで……」
熊八が掘っていた穴の近くに何故か家に置いたはずのあの壺があったのだ。
いつからあったのかわからないが不思議な事に水量はこの炎天下なのに減っていない。
「まったく、村の為にしてくれるのはいいが無茶はするんじゃないぞ!」
「…………」
熊八は村長が立ち去った後に壺に触れる。誰かが運んだり水を入れたのかと思ったが、中に家の
……このまま運べば明らかにわかるであろう音だ。
「……訳わかんねぇ」
熊八はとりあえず休憩と水を飲めばその冷たさは未だに続いており、暑さが冷えるのを感じる。
明らかにおかしいのだが、何故か熊八はこの壺を捨てるなどの思いは浮かばなかった。
太郎と約束したからかもと熊八は思ったが、便利だという思いもあったのかもしれないと自己解釈して作業に戻り、日が暮れてくるのを感じるとまた先日のように壺を抱えて家に戻った。
その日、熊八は夢を見た。その夢の中で熊八は件の壺を抱えて歩いていた。
そして壺を村の真ん中に運ぶと何かが壺から出てきて天へ昇っていくという夢だった。
その何かは
熊八は目が覚めた。傍にはあの壺があり、場所が家であると分かったことで夢を認識する。
「今の、夢か……? 俺は確か、そう、村の真ん中に壺を運んで……っ! そうだ、壺から何かがでてきたんだ!!」
夢の内容を思い出した熊八は壺から少し距離を取る。
この壺から出た何かと目があったのだ。夢の出来事とはいえ少々恐怖はある。
熊八は壺を居間の端に置いたのを確認すると朝食を食べて畑仕事のため足早に家を出た。
そして今日も畑仕事をした後に池の周りを掘っていると……。
「壺がまたある……」
先日のように壺があった。しかし、夢のこともあり昨日のように水を飲む気にはなれず、熊八はまた穴を掘りに戻ろうとすると穴の外から水をかけられた。バシャバシャとかけられる水が冷たいことから、あの壺の水だとすぐに理解した熊八は穴から飛び出た。
「誰だ!! 悪戯してるやつは……いない?」
しかし、誰もいなかった。
人影もなく、壺の中に揺らめく水と柄杓だけが動いている。
「一体だれが……全く俺は忙しいんだぞ! ……怒鳴ったから喉渇いた」
イラついている熊八は少々乱暴な仕草で水を飲むとまた穴に戻るが、今度は水をかけられなかった。
今日も水は出なかったが日が暮れたので家へと壺と一緒に帰った。
そしてまた夢をみた。
その夢ではまた村の真ん中に壺を運ぶと何かが壺から出てくる。しかし今回は違った。
その何かは空で黒い雲を作ってその身を隠したのだ。少しして顔のようなものを出す。
ここで夢から熊八が目を覚ました。
また壺を見れば近くにある。昨日のような夢だが熊八は今日は怖がらずに壺をじっと見つめる。
そこで熊八は気づいた、この壺の模様は雲のようだと。
「青っぽい灰色に白い模様で雲みたいだ……ん? なんだ……今、何かいたか?」
熊八は雲をじっと見ていた時にふと何かが視界の中で動くのを見た。
何が動いたとじっとして見ていれば……壺に描かれた雲の間で何かが動いているのが見えた。
「壺の絵が……動いている? 何かが雲の中を移動しているのか?」
熊八がじっと見ているとまた雲の間を何かが通る。くねくねと上下に動く動きはまるで蛇のようだ。
ここで熊八は夢を思い出した、壺の中から出たのは長い何かで雲の中に隠れたと。
もしや、夢の中の生き物は今動いているものなのかと熊八は思い、また何か伝えたいのかもしれないとも思った。ここで熊八はまた思い出した、畑仕事をしないといけないと。
「っと、いけねぇ! 壺鑑賞する暇なかった! 畑だ!」
熊八は今日の畑仕事を終えると……昨日と違うことが起きた。なんと壺が畑の近くにあったのだ。
そこで熊八はふと壺を家の中に戻してみた。そして畑に戻ると、壺は何故か同じ場所にまたあった。
熊八はここで確信した。先日からの奇妙な出来事はこの壺が原因だと。
熊八は壺の傍にしゃがむとそっと壺に問いかけた。
「お前が昨日俺に水をかけただろ」
熊八はじっと壺を見ていれば……ちゃぽんと水の音が壺から返ってきた。
どうやら返事をしたらしい水の音に熊八は太郎がいった不思議なことはこのことかと力が抜けるように尻を地面につけて座ると軽く壺を指で叩いた。
「とんでもない壺が来たもんだ、ついてくるし、水をかけるなんて……しかも変な夢を見せるとはな」
熊八がやれやれと首をうつむかせているとまたちゃぽんと音が鳴ったことに気づき、文句でも言っているのかと言おうとしたが……じりじりと日光が熱いのを感じ顔をしかめた。
「暑いなこん畜生……なんでここ最近こんな日が熱いんだよ……しかもここだけなんておかしいぜ、まぁお前は関係ないもんな、暑くなってから来たし」
冷たいわーと水を飲む熊八に隣りの家のものが水を分けてくれと頼む、どうやら貰った水はもうほとんどないようで、まだまだ量のある熊八の壺の水を見て来たらしい。冷たさに驚くがありがたいありがたいと喉を潤した。
熊八は水を分けたあと、もしかしたら他の奴も同じように水がないのではと思い、今日は池の周りは掘らず壺を抱えて村を歩くことにした。
まだまだあるからと水を分け与えていく熊八に村の者は感謝するが何故そんなにあると熊八に聞く。が、熊八もわからないので不思議な壺のせいかもと答えていった。
そして、そんなことをしていると熊八は村の真ん中に来ていた。
壺を抱えた熊八は夢を思い出すが不思議と恐怖はなく、もしかしたらという好奇心が出てきたため夢同様に壺を村の中央辺りに置いてみた。村の者達は熊八が何かしていると見ていた中……その何かは起きた。
熊八が地面に置いて、少しすると壺はガタガタと独りでに揺れ始めた。
地震等起きているわけでもないのに揺れている壺に村の者は驚きの声を上げるが熊八はわくわくとしてきたのか笑みを浮かべていく。
「つ、壺が動いとる!!」
「何か入っているのか!? そうなんじゃろ熊八!」
「でもさっき見せてもらったときは水しか入ってなかったぞ!」
壺の揺れはどんどん激しくなっていき、ピタリと止まる。
「え」
村の誰かが一音零したその時。
空に向かって水の柱が勢いよく上がっていった。
「なんじゃ!? 何が起こっておる!?」
「熊八! お前なんなんだこれは!!」
熊八を呼ぶ声がする中で熊八は見た、水の柱の中で何かの影が天へ昇っていくのを。空へ昇るその何かと目が合ったのを。
水の柱が天へ昇った後、冷たい水が雨のように村へ降り注ぐ。そして日の光を遮る黒い雲を作り出した。
ゴロゴロとなるその雲は雷雲であった。水の柱は消えたが水は村へ降り注ぎ続けている。そう、これは雨だ。
「すげぇ!!」
熊八が今までにない光景に思わず叫べばその叫びに応えるように稲妻が一瞬空に走る。
村が突然の雷と雨に大騒ぎで、その様子を見た熊八は思わず笑うがふと夢を思い出した、壺のあの生き物は炎の何かを食らっていたと。
熊八がもしかしてと空を見渡せば黒い雲の中に赤いもの……夢で見た炎の鳥を発見する。逃げるように慌ただしく羽ばたく炎の鳥を見つけた熊八は雷雲に向かい叫んだ。
「あいつだ! あいつがいた!!」
熊八の指示が聞こえた雷雲はゴロゴロと音を出す。稲妻に照らされた雲の中で生き物の影は泳ぎ炎の鳥へ向かう。そして炎の鳥を視界に捉えると口を大きく開けて雲から飛び出してきたことでついにその姿を現した。
雲の中から現れたのは鋭い牙を持つ白い龍。
白い龍は炎の鳥にばくりとかみつくともがく鳥と格闘するように空で暴れる。村のものが
「頑張れ! 負けるな! 絶対そいつを離すなよ!!」
声援を送られている白い龍はその声に応えるように雲の中に鳥を引きずりこんだ。
雲の中で稲妻が数度光ると、白い龍がぷっと炎の羽を吐き出しながら雲から出てきた。
白い龍の勝利である。
「いよっしゃああああああ!!! 勝ったぁあああ!」
龍の勝利を確信し、雄たけびを上げて喜ぶ熊八に白い龍は
互いに喜ぶ一人と一匹に村のものが
呆然と空を見ていた村人達は雨を浴びてようやく久々の雨が村へ降ったのだと理解し、歓声を上げて喜んだ。そしてあの龍が雨を降らせたのだと理解もした。
「久々の雨だ……気持ちいいなぁ……」
久々の雨はあの白い龍が降らせているからなのか優しく、心地よく感じた熊八は雨に打たれながらも笑みを浮かべ、喜ぶ村人を見て笑みを深めた。
そんな中、白い龍が雲から出てきて熊八についてこいと頭を動かして誘導する。
「なんだ? まだなにかあるのか?」
熊八は雨が降る中、壺を抱えて空を飛ぶ白い龍に走ってついていくとそこは熊八が先日から掘っていた枯れた池だった。
熊八が壺を置いて池を覗く。白い龍はするどい爪を池の中央にある地面に突き立てると水がそこから湧いて出た。勢いよく水は湧き、すぐに池の中は水でいっぱいになる。
驚き声を出せずにいる熊八にどうだ? すごいだろう? というように熊八を見て胸? を張った白い龍がいた。
そんな白い龍に熊八は思わず可笑しくなり大きな声で笑った。
「はははっ! お前、池も復活させてくれたのか!! すごいよ本当に!! すごいやつだ!」
そうだろう! という仕草の白い龍に熊八はもっと笑うが、そんな熊八につられて白い龍も笑うように鳴くと突然熊八を水がたっぷり入った池に尻尾で突き落とした。
突き落とした白い龍がケタケタと笑うと水をかけられた。池の中には落とされた熊八がおり水をすくってまた白い龍に水をかけた。
「おかえしだ! 昨日もかけられたからな!」
悪戯に笑う熊八に白い龍はこちらもだと大きな巨体を彼の体に巻き付けて水の中に引きずりこんだ。
しかし、命に危険が無いようにして水に熊八を沈め、熊八はなんとか出た腕で水を白い龍の顔にかけていた。
その様子を見ていた村の者は熊八が龍と遊んでおると笑って見守った。
もうこの時には突然現れた白い龍に対し恐怖もなく、熊八の友人として龍を見ていたのだった。
雨が降ったことと池の水を戻した龍を神様のようなものかと思っていたが、笑い声を上げて池の中でじゃれている一人と一匹に恐怖など湧くはずもなかったのだ。
その後、思いっきり遊んで満足した白い龍はまた壺の中に戻った。
熊八はまた家に持ち帰ろうと抱えたので村長が止めようとするが逆に村のものに止められた。
「駄目だぜ、村長」
「熊八の壺には龍が棲んでおったんじゃなぁ」
「きっと龍は熊八を気に入って助けてくれたんかもしれんぞ、あんなになついておるんじゃから」
「
「あんな仲がいいのに離すなんて可哀そう」
「今、熊八と離すのはやめとけ」
という村の者の意見に村長は確かにと賛同し、引き続き熊八に壺を所有させることにした。
「水を司る龍のようじゃし、せめて綺麗な布の上に置くように熊八に言っておくべ」
と一応敬っています感は出しておこうと心に決めながら。
そして、熊八の家で引き続き置かれることとなった壺は熊八の友人であり、水の神様の家として丁重に扱われるようになったのである。
その三日後に突然雨が降り水問題が解決したと聞いて調査に訪れた月ヶ原義晴とその家臣達に、村長は全てそのまま話した。
楚那村から送られてきた水の入った壺の中に龍が棲んでいた壺があったこと。
その壺を所有している熊八を気に入ったのか、村を日照りの元凶であった炎の怪物から助けて、雨を降らせてくれたことを。
その熊八と壺に棲む龍は友人で、池で遊んでいたことを。
話を聞いた月ヶ原義晴はあんぐりと口を開けた後に頭を抱え、付き添いの家臣の一人はやっぱりと声を漏らして同じように頭を抱えていた。
その中で月ヶ原義晴の腰にあった刀がカタカタと音を鳴らしていたという。
話を聞いた後に月ヶ原義晴は件の壺を見に熊八の家を訪れた際に熊八に名前はあるのかと聞いたが壺に名前など無く壺と呼んでいたことを告げられると、後世に残すためにもつけておけと言い、壺は白い龍と雲の模様から
「安直な名前を……」
「熊八、お前村を救った龍の家なんじゃぞ」
「でも村長、この壺は雲みたいな模様があるだろ? それが分かりやすいじゃねぇか、なぁ龍」
龍も龍呼びしていた熊八に龍にもつけろと村長に言われたことで名前を考える熊八だが、犬猫にするような名前を龍に付けようとしたので無論龍が気に入るはずもなく、その度に壺の中から水が飛んできた。
熊八が、じゃあ体が白いから
ちなみに代わりに月ヶ原義晴が名付けようとすると、すぐに拒絶するように水をかけられて
その後一応神様のようなものなのだからと大きな社が建てられそこに壺を納めた。勿論熊八とその家族がその社に住むことになったため彼らは離れていないが、熊八が畑仕事や子供達と遊ぶ時に必ずついて行ってしまうので熊八がいる朝と夜ぐらいしかその社にいなかったという。
◇
「すぅ……すぅ……」
草木が眠る丑三つ時、宗助も深い眠りにつくなかで亀太郎は目を覚まし、桶から脱走して宗助の傍まで歩いていった。
歩く最中に亀太郎の体は宗助を遥かに超えて大きくなり、小さな尾が蛇へと姿を変えて宗助の傍へ寄り添うように大きな体を下ろし、腹を床につけた。宗助の傍へ腰を下ろした亀太郎は尾の蛇と共に首を曲げて宗助の顔を覗き込む。
その眼差しは敵意等一切無く逆に慈愛を込めた優しい眼差しで宗助の寝顔を見つめていたのであった。
目を細め愛おしげに見つめる亀太郎はちらりと家の外に目を向けると宗助に向けていた優しい眼差しを鋭くさせ、尾の蛇も威嚇音を鳴らす。
暑いからと開け放たれているが虫よけをかけた戸板の間から月明りが優しく宗助を照らす。
しかし、戸板の陰からグルルルルと唸り声をあげながら全身黒い獣が現れる。
その獣の姿を見た亀太郎は静かに立ち上がり、己の腹の下へと宗助を隠すと尾の蛇が牙を見せ獣へ威嚇を続ける。
カタカタと宗助の作った作品達が警戒するように音を鳴らす部屋の中で、亀太郎と獣の間で激しく視線を合わせ、二匹はすでに目で戦闘を行っていた。
その目での戦闘をじれったく思ったのか、それとも亀太郎の下にいる宗助を狙いにしたからか、獣は早々に亀太郎の目を狙い爪で襲いかかるが勝負は一瞬だった。
獣の攻撃を予知していた亀太郎は首を縮めて爪を躱し、爪を空振りして隙を見せた獣の横っ腹に尾の蛇がかみつくと激しく振り回したあと家の外へと投げ飛ばす。とどめと地面に獣の体がぶつかる寸前で巨大な岩を地面から生やし、槍のように獣の腹を突き刺したのだった。
断末魔を上げる間もなく黒い獣は