第七章 陶器 龍雲

入道雲が空に浮かぶのが少なくなってきた今日この頃。

俺は冬に備えて保存食を作っていた。

野菜を干したり、発酵させたり、漬けたり……まぁ、多すぎても冬までは持たないので秋に備えてのものもある。

漬物を作る前に俺は漬物専用の壺をいくつか作った。腕で抱えられるほどの大きさの焦げ茶色の壺に採れた野菜を入れていった。いいサイズだったので村の皆にも壺をやればいい大きさと褒められ喜ばれたので嬉しい。

せっせと漬物を漬ける間、亀太郎に畑で収穫したキュウリをやれば、一口食べた後に俺の方に顔を向けて口を開けた。美味い! と言っているのかわからないが気に入ったのかむしゃむしゃと食べたので俺は野菜が実ったらまたやろうと思う。

「ふぅ、やっと終わった、うえぇぇ……今の俺、すごいぬか臭いなぁ……」

作業を終えた俺はすごーく糠臭い。また暑さは続いているので汗臭さもある……。これは太郎はともかくおゆきは嫌がるな。

俺はキュウリを食べ終えてうとうとしている亀太郎を連れて、川で魚を捕るついでに水を浴びることにした。

俺の家の裏から少し歩いたところに川と泉がある。

その泉は川の源泉になっているのもあるのか広く、深い。そして水が冷たくて美味しい。

俺が亀太郎を泉の縁に下ろせば亀太郎は勢いよく泉に飛び込むと俺を見上げて待っていた。

ちなみに亀太郎の傷が治った後に泳げるのかと確認に来た際に、野生に返りたいなら返そうと泉に入れてやったが水に入り少し泳ぐと俺の元に返ってきたので野生に返る気はないと確認済みだ。

服を脱いでふんどし……というよりはボクサーパンツもどき一丁で泉に入り亀太郎と泳ぐ……俺はこの夏用にと作ったゴーグルもどきを着けているので視界は良好だ。

冷たい水に潜れば亀太郎もついてくる、水の中は綺麗なのもあり底まで見えて、上を向けば水面からの光が降り注いで美しい。

亀太郎と少し深く潜って遊んでいると底に何かキラリと光るものを発見する。

「(なんだ? なにかあるのか?)」

俺は好奇心に駆られて光ったところに潜る、するとそこには手のひらよりも大きなサイズの水晶玉を四つ見つけた。

水晶玉を二つずつ持って引き上げた俺は、洗った服の上に水晶玉を置いて亀太郎と眺めていたが……綺麗な丸い水晶玉で傷などはなく水に浸かっていたこともありキラキラと光っている。

……明らかに高価なものだ。

こんな水晶玉はこの泉には今までなかったものだし、誰かの落とし物が妥当だが楚那村にこんな水晶を持てるもの等いない。

村人以外で高価なものを持っているであろう人は……ここに出入りしている領主の息子ただ一人だ。

俺は来たら問いただすと誓い、魚が罠にかかっていたので今晩のおかずと共に亀太郎を連れて家に帰った。


その翌日、丁度良く遊びにきたその領主の息子に水晶玉について聞いたが……。

「俺じゃないぞ! てか、俺は泉にそんなものを捨てないからな!!

と心外だ! と言わんばかりの顔で言われた。

事情を聴いた太郎とおゆきも義晴様ではないと思うと言っていたが……この山に出入りしてる武士の人は義晴様しかいないんだよなぁ。

そんな俺の視線に気づいたのか三九郎さんが違うと首を振って否定した。

曰く義晴様はそんな水晶玉を持ってないと三九郎さんに発言されれば俺は納得するしかない。

「おい、なんで三九郎のいうことなら納得する……!!

「こんな高価なもの誰が泉に入れたのでしょうか……」

「俺の他にも義晴様の忍びがここを巡回しているが……それをもっていそうな身分のものは来ていないし、そもそも村の者と義晴様以外はここに来たという報告はないぞ」

「おい聞け」

水晶玉を眺めながら考えるがやはりほかに候補となる人物を思いつかなかった。

俺は勿論一緒に泉に潜ったことのある太郎もあの泉になかったものだと言ったため俺が今まで気付かなかったというわけではない。

「そんなに唸るほど考えるならばもうお前のものにしてしまえ、そもそもあの泉に捨てたであろうものならば拾ったお前のものだ」

「……こんな高価なものはいりません」

「無欲なやつめ、まぁ持ち主が現れるまでここに置いておけばいいだろう……ところで最近は何か作ってないのか?」

わくわくとした表情の義晴様がいる。

だが今はこれといったものはない。一応物は作ってはいるのだが……。

俺は作業場においてある木箱を義晴様の前にお出しして見せる。そこには様々な簪が入っていた。

「簪?」

「今は売り物用に練習している簪なら作ってはおりますが……」

「売り物? どこかに売るのか? どこの店だ? 信頼できるものだろうな?」

ぐいぐいと聞いてくる義晴様とそんな話聞いてないと互いに顔を見合わせる太郎とおゆき、そして簪を興味深そうにみながら話を聞いている三九郎さんがいた。

まだ二人にも話してないことだから知らないのも無理はない。

俺は一度義晴様をなんとか落ち着かせた後に口を開く。

「いえ、あの、まだ売るかも決まってないんです……村に来る商人に頼んで売ってもらおうかと思っていまして俺も色々素材調達や生活もありますのでこの簪達を売って生計を立てていこうかなと……まぁ、今でも生きてはいけますけど色々作るには金はかかるでしょうから」

「……まぁ筋は通っているな、これほどのものなら売れる」

「でもまだ練習中なのでまだまだ売るには時間がかかりそうです、それにもう少し女性向けにしたほうがいいでしょうし」

義晴様にお墨付きをもらえたので売れはしそうだ。だがもう少し細工を女性らしいかわいいのにしたいというのもある。

今あるものは蜻蛉とんぼだまに組紐で花を付けたり、揺れる金具を付けただけなのでシンプルだ。

あまり高くなくていいので女性の髪を彩ってほしいが、これらの簪にはアレンジが必要なのでまだ売り物にはならないだろう。

「そんなことないわ宗助ちゃん、私この簪可愛いくて好きよ」

「おぉ、気に入ったならやるぞ」

「……宗助ちゃんあまり気軽に簪を女の子にあげては駄目よ、誤解されるから」

「ん? なんでだ?」