二人は慌てて宗助を救出して居間に入れたのだった。
「いやぁ……面目ない」
「肝を冷やさせるな……にしてもやけにでかい刀だな」
「作った本人が潰されるほどに」
宗助を救出した義晴と三九郎は宗助を潰していた大太刀を見て驚いた。
その大きさもさることながら宗助の持つ短刀と対になる刀装は美しい。
「では見させてもらうぞ」
宗助が返事をする前に義晴は床に置いた大太刀を抜いた。
そして突然掴んでいた柄を思わず手から離すが、三九郎がすぐさま受け止めた。
「ちょ重っ、い……若?」
三九郎は義晴を呼ぶがその目線は大太刀から動かない。彼は何があったのかと大太刀を見て、柄を取り落としそうになるのを耐えた。
義晴が見る先には刀の形をした星があったのだ。
銀色の刀身は美しく、部屋を照らす炎の光に照らされ反射する刃はきらきらと自ら光る星のようであった。
鞘の黒味がかった蒼色がまるで夜の色に以て
「美しい……美しいぞ宗助!! まるで星を間近で見ているようだ……!」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟ではない!! 俺はこんなに美しい刀を見たことはない!! 是非欲しいぞこの刀……っ!?」
義晴は大太刀を持とうとしたが大太刀の重さに持ち上げようと踏ん張っていた腰を落としてしまう。宗助はそんな義晴を見て首を横に振った。
「残念ですが、義晴様とはいえこいつを持ち上げられないのであれば差し上げることは出来ません……俺はこの大太刀を振るうことができる方にこの大太刀を託します」
「むむむ……持ち上げられぬのであれば仕方ない……今回は諦めるとする、が短刀は貰うぞ。こんなに美しい大太刀の兄弟なのだからな」
宗助の前にあった短刀を掴んで懐に入れてしまう義晴を見た宗助は諦めたように肩を落とす。
その姿を見た三九郎は労わるように背中を撫でたのであった。そして、呆れたような目で持ち主を見る刃龍の姿もあったのである。
三つの呆れた目を気にせず義晴は満足そうに笑うのであった。
その夜、客間に通された義晴は編み込まれた布の敷布団と試作品の畳の枕と麻で編んだ掛布団の寝具で眠っていたが、目に光が入りその眩さに思わず目を覚ます。
が、わずかに覗く障子の戸の隙間から見える景色は暗く月の光が入りこんでいるだけであり義晴は眉を顰める。
「なんだまだ夜か……?」
義晴は寝ぼけていた目ですぐそばに置いてあった短刀を見ると僅かに鞘から抜けて刃が見える。
僅かに見える刃に光が当たり反射した光は何故か義晴にあたりまだら模様の光を作っていた。
その光は義晴の顔や体を照らす。彼を起こしたのはこの光であった。
「刀……?」
それはほんの小さな好奇心だった。この刀を抜いたらこの光はどうなるのだろう。
義晴は好奇心から寝ぼけた目で刀を掴み鞘から抜いた。
その時、義晴の目は完全に覚めた。刀から放たれた眩い光によって。
眩い光に目を眩ませて短刀を離し、仰向けに倒れてしまうがすぐに視界は戻る。
そして視力の戻った目で見えたのは星空だった。
「何っ!?」
義晴は起き上がり上を見る。
家財や戸板が存在するので部屋の中であると理解するが上を向けばまるで屋根を取り外したかのような満天の星空がそこにはあった。
義晴はゆっくりと先ほど手にした短刀の方へ向けば月の光を受けて美しい光を放っていた。
またゆっくりとした動作で短刀に四つん這いに歩み寄ると先ほどのように顔や体にまばらな光が当たる。
義晴は短刀を鞘に戻したり、出したりを繰り返す。その動きに合わせ天井に星空が消えては現れた。
義晴は確信した、この星空はこの短刀が作り出したものなのだと。
「なんてものを作るのだあいつは……」
月の光を受けることで刃が反射する。その反射された光は天井に当たり星空を作っていたのだ。
「くくく……くははははは……!!」
「若、どうしたので……若?」
「ははははっ……!! やはり睨んだ通りよ! この短刀も素晴らしかった!! 宗助が作るものはこの世のものではない!」
義晴が短刀を抜くと天井に星空が現れる。初めて天井の星空をみた三九郎は言葉を失った。
三九郎は星空に魅了されると共に顔が青くなる。それは義晴の顔が楽しげに歪み、目を
「(初めてだ、この方がここまで〝もの〟に感情を露わにするとは……)」
「三九郎決めたぞ。俺は天下を取ったあと、あいつに作らせる」
「……自分の刀をですか?」
「違う!! 自由にだ! あいつが作りたいものを作らせるのさ、馬鹿げたことと笑われようとそれはこの国の歴史を変える!! この国に新しい風を吹かせるのだ! 源平合戦の〝
〝鋤奈田藤次〟の名に三九郎は思わず顔を強張らせた。
「源氏の武将において最強の名を欲しいままにし、その後御家人へと上り詰めた者……宗助が同等とお考えですか?」
「見よこの星空を! 刀一本で作り出したのだぞ!? このような刀を作る男を歴史の陰に埋らせるなど愚かなことよ!! あいつはこの国に降りてきた《神の国の者》だ!」
「またも鋤奈田藤次の呼び名を使われるのか……しかし、この技術や様々な分野での幅広い知識。確かに素晴らしいものです……彼の畑や楚那村の畑は異常な成長と実りと豊かさがあります。彼の知識があればこの国も豊かにはなるでしょう」
義晴は短刀を手に立ち上がるとバンッと音をさせて戸板を開く。その顔はやる気に満ち溢れ、爛々と輝いていた。
「刃龍、水清酒、光輝く短刀と大太刀……たったこの四つでここまでの奇跡を起こしたのだぞ? あいつの作品は日ノ本にとどまることは無い!! もし今の時代に評価されずとも、遠くの世には最高の職人として名をはせておるわ! 俺はその作品をすべて見たい! できるならば所持したいのだ!」
「だから彼の作品を欲するのですか?」
「あぁ、だが宗助にも職人の思いがあるのだろう……あの大太刀のようにな……三九郎、あの大太刀に見合う者を探せ」
「作品が行く先まで見たいと……?」
「当たり前だ、宗助の作品をどこの馬の骨に渡すか。三下の大名や武士のもとに渡るなど宝の価値が無くなる」
三九郎はどこまでも無茶を言うと溜息をつくが、ここまで執着を見せるのも珍しいと感心もしていた。
宗助の作品によって生まれた主の執着心はこれからも膨らむであろうと。
「そうだ、この刀に名前を付けてやらないとな。そうだな……星の、川、泉、空……なんかいまいちだな」
「最後に宗助の名前を入れては如何でしょう?」
「おぉ、それはいい! あの名刀と誇り高い三日月宗近も三条宗近の名があるからな! あとはその前に入れる名だな……そうだ、星の海、《星海宗助》としよう! 早速宗助を叩き起こして銘を」
「やめてあげてください」
三九郎が朝まで待てと説得する中、宗助は……夢の中にいた。
宗助は気が付くと見たことのない少年が目の前で頭を下げていた。
美しい銀髪に赤い着物を着た美しい顔の少年だ。
その少年の後ろには同じ銀髪に紺色の着物を着た大きな体の青年が泣きそうな顔で少年を見ている。
「父上、早くに父上の元を離れることをお許しください。新たな主、月ヶ原義晴公の元で刀としての役目を全う致しまする……まだ名を与えられておらぬ弟よ、兄らしいことをしてやれずに済まない。しかし義晴公は父上の元をよく訪れるようだ、おそらくまた会えるだろう。どうかお前がよき主に出会えることを祈っているぞ」
「兄上……」
「では行って参りまする」
少年はにこりと笑ってもう一度頭を下げた。
「宗助起きろ!! 朝だ!!!」
「若!!」
宗助は布団をひっくり返されて目を覚ました。
布団を持っていた義晴は布団を部屋の隅に投げて短刀を宗助の前に掲げる。
「宗助、早速で悪いが銘を刻んでくれ。この短刀の名は〝星海宗助〟だ」
「星海……」
「まだこいつ寝ぼけておるな、よし頭をはたくか」
「おやめください」