十一章 Crepi!
マフィアの処刑法は色々あるが、今回は、効率が重視された。
「アーロンが裏切者なら、R・O・O・Tは〝敵〟の手に落ちたと考えるべきでしょう。我々は、あれの対策を発見しなければならない」
フィルマンのそんな提案に、ボス・フォルナーラも同意した。
「影響を受けたマーリアの脳を回収したいが、アーロンは見過ごさないだろう。せめてアバターから、可能な限りR・O・O・Tの被害データを手に入れる」
そうして、リンカをリーダーとし、近くの実験場へマーリアを連行するように命じた。
ファスト・トラベルも座標指定ログインも、逃亡の恐れがある。厳重監視が必要だ。
いまのマーリアは、ファミリーが知っている〝お嬢〟ではないからだ。
リンカはマーリアを五人乗りクロスカントリー・ビークルに押しこむと、同型の五台に警備メンバーを詰め、
エリア時刻は午前五時。すれ違う車はない。マーリアは車列二番目の車の後部席に乗せられ、左右を見張りに固められていた。
しかしマーリアに逃げる気はない。さっさと生を終わらせ、死の底で忘れ去られるのを待ちたかった。
そんな
『ねねっ、マーリィ、外みて、外! きれーだよー』
つられて、マーリアは外を眺めた。たしかに
綺麗だ。それを、どこからでも、だれとでも共有できるのがVRSNSだった。
「一緒に、見たかったですね……」
マーリアは
自問していると、運転手がとつぜん怒声を放った。
「先頭車両から報告! 正面からグリッチャーがくる! 速いぞ!」
どうでもよかった。そのはずだった。自分は電賊ですらなくなったのだから。
それなのに、首を伸ばし、フロントウィンドウの先を見た。
深紅の毛皮。新緑色の宝石尾と
口元を覆った黒マフラーの両端を、たなびかせながら。
「リオニ・アラディコだと? 対象だ! よせ、攻撃するな、命令をまて!」
リオニは衝撃波コード〈証明の渦〉を足裏から発して道路を陥没させ、反作用で高々と跳んだ。全員が、頭上を飛び越えていくリオニを見送った。リオニは車両隊後方に着地すると、再び〈証明の渦〉で道路を破壊。身を
車内に残されたマーリアは、口と目を真円にしていた。
「ナオト……?」
まにあった! ナオトは歓喜した。銃を持った
「はいはーい、ちょっとごめんー、通してー」
大人たちの壁を
「やほー、アタシはリンカ。いま、R・O・O・Tを破壊しろって命令されたんだー。でも、そのまえに確認があるんだってー。ナオトくん、なんできたのー?」
「マーリアと話をするためだ」
「やーん、情熱的ー。アタシ、そういうの好きー。けどー、ねー、トージョーさーん?」
呼ばれ、集団の中から
「これって、マーリィを使ったハニー・トラップ? それとも、別の思惑があったり?」
トージョーは右目でリンカを見下ろす。リンカは小首を
歴戦の
「……〈テイルズ〉、行動開始だ」
「あっ、やっぱそーゆーこと?」
刹那、二人は互いに逆回転し、ポーチ窓から抜いたナイフと長刀をぶつけあった。
同時に、道路の上斜面にある山林で二〇のログイン光柱が生まれた。
「ログイン奇襲だ!」
光柱たちがコンバットスーツを着けたアバターを形作るまえに〈ウルヴズ〉の面々が連射する。ログインした男はなにもできないまま弾幕を浴び、茂みに倒れた。もう一人も殺された。しかし残る十八名はログインに成功し、すばやく木立の陰に隠れつつポーチ窓から銃を出したり、L・O・S・T具体化光を発生させたりしていた。
そして銃弾や
リンカが
「やー、トージョーさん、やっぱ裏切ったかー。でもさー……」
リーダーから離れたことにより、〈テイルズ〉の照準がリンカへ集まる。
天に突き付けられた長刀の周囲に、黄の粒子が発生していく。
魔法のステッキのように刀を回すリンカ。その笑顔は、無邪気で、血なまぐさかった。
「全盛期が過ぎた身で、アタシに勝てんの? ──おいで、カガイ・ソウキュウ」
黄光が凝縮し、一滴の
拍子抜けだが、〈テイルズ〉は遠慮せず、リンカに集中砲火を浴びせた。
しかし彼女の周囲に無数の黄線が描かれると、金属音が連続した。イナゴが超高速で射線に割りこみ、外殻で弾丸を跳ね返したらしい。トージョーが眉をひそめた。
「高レベル対
「了解。スティール・ブリッツ!」
赤い巨大カマキリが坂を駆け下りる。その大鎌がリンカの頭を捉える前に、ソウキュウが光線となってカマキリの眉間を破り、鎌を振り上げた姿勢のまま停止させた。
L・O・S・Tを攻撃に使った。いまがチャンスと〈テイルズ〉の一人がリンカを再捕捉するも、肩に違和感を覚え、そちらを見て
兵士がそれを払うまえに、イナゴが自爆した。カットシステムが破砕し、爆熱で
「あのスペックで群体型だと!」
「ちがう! いますぐそいつを手放せ!」
トージョーが警告したとき、負傷した〈テイルズ〉が仲間に引っ張られながら激しくせき込み、
イナゴたちが離れると、二人の痕跡は骨すらなく、かわりにイナゴの数が倍化していた。
イナゴ群が
〈テイルズ〉たちが銃口を上に向けるが、リンカのバカげた戦闘力に戦慄するばかり。
「──こい、ムカン・ササガニ」
リンカへ走るトージョーが具体化したのは、赤い外殻を持つ人間大の
それがトージョーの背に飛びつき、四本脚をかれの胸前で交差させて身を固定する。
「むむっ? ソウキュウー、目標をトージョーさんに変更ー」
そして残りの四本脚が
リンカが手を振り、カマキリの頭内から最初の一匹を呼び戻す。
その一匹が無尽に飛翔し、蜘蛛の四本脚と連続で激突する。咲き乱れる火花の中、トージョーはリンカ自身が突き出してきた長刀をナイフの峰で受け、また
「……【
「へへー。元々、トージョーさんとマーリィを殺すために鍛えられたしねー」
会話の間にも、トージョーはナイフと長刀を
(いまだ、ナオトくん。いけ)
トージョーがリンカを止めたことで、増殖したカガイ・ソウキュウの統制が乱れた。入れ替わりに、斜面上山林の〈テイルズ〉と車両を盾にした〈ウルヴズ〉の戦いが激化した。
ナオトに注意を向ける暇人はいない。いまのうちにリオニと
目前の道路に流れ弾がミシン目みたいな弾痕を作っても、イナゴに群がられた〈テイルズ〉メンバーが転がり落ちてきても、ナオトは止まらない。着実に進み、たどり着いた。
マーリアが乗る車両側面には二人の〈ウルヴズ〉が隠れ、忙しく弾倉交換をしていた。
「〈反感
そこへ、少年と
ほかの〈ウルヴズ〉には
「マーリア、ケガはない?」
「どうして、あなたがここに?」
声も顔も
それがトージョーの予測で、かれが送ってきた救出作戦最大の障害だった。
急がねば。ナオトはむりやりマーリアを車外へ引っ張り出した。
「どこへ行く気ですか? わたしは……」
「話はあとで。──トージョーさん、マーリアと合流できました!」
(よし。ここでログアウトは難しい。例のポイントへ向かえ。そこで次の計画に移る)
ナオトはリオニの背にマーリアを乗せると、自身もその前に乗った。
リオニはそばのガードレールを飛び越え、山林の斜面を駆け降りる。気付いた〈ウルヴズ〉の一人が叫んでいたが、その声はすぐ〈テイルズ〉の支援射撃にかき消された。
例のポイントまで約三〇〇メートル。リオニの足ならすぐだ。しかし……。
(くそっ。リンカに振り切られた。そちらへ向かうぞ。予測保有コードを送る)
トージョーの報告と共に、左右から低い羽音が聞こえた。樹冠に寸断された朝日を浴びて、霊魂のように輝く青黄の光。L・O・S・Tカガイ・ソウキュウの擬体たちだ。
七匹いる。しかしイナゴたちは並走するばかりで、距離を維持していた。
L・O・S・Tのこういう動きには、覚えがある。
「リオニ、防御に集中!」
ナオトの悲鳴と雷鳴じみた銃声が重なる。リオニは飛来してきた大口径弾を大剣で受け止めたものの、体勢を崩して坂を転がり、ナオトたちも背から放り飛ばされた。
ナオトは宙でマーリアを横抱きし、土を両膝で
また銃声が
やはり、あのトンボのグリッチャーと同じテクニック──L・O・S・T観測射撃だ。
「〈証明の渦・ワイド〉!」
リオニが大剣を
観測役のイナゴたちをどうにかしなければ。しかし、方々に散っている。
うかつにリオニを使い、ダメージを負えばそこで終わりだ。となると──。
「マーリア、武器を貸して! なんでもいいから!」
「……? あなたに扱えるとは思えませんが」
マーリアはたじろぎつつも、ポーチ窓からいつもの装備を出す。ナオトは岩陰でもがくようにナイフ
狙いは約二〇メートル先。樹皮に留まり、ナオトたちを観察している一匹のソウキュウ。
銃口が火を噴く。反動は〈反感
「やばっ、外した!」
観測役のイナゴ七匹が四方からこちらへ飛んできた。自爆コードの兆候だ。
パニックが頭で膨れあがった瞬間、リボルバーを握る左手が純白に輝いた。
──オブジェクト確認。管理者系コード〈追憶〉実行。記録のインポート完了──
リボルバーが五連続で
左から迫る一匹を抜き打ちで斬り、転がりつつ逆方向からきた一匹を裂く。
ソウキュウの残骸が熱を吐いて飛び回る中、マーリアは
「それは、わたしの動き……?」
「た、たぶん! なんかR・O・O・Tが、教えてくれたみたい!」
ナオト自身が戸惑っている間にも、両手はスピードローダーを出し、リボルバーを再装填していた。R・O・O・Tが盗むのは、L・O・S・Tだけではないらしい。
仮想兵器からも記憶──使用履歴を読み取り、その情報を与えてくれるのだ。
これで戦力はリオニだけではなくなった。だが、それはリンカにも知られたはず。
「リオニ!」
「あら、防がれた。──っとぉ?」
リンカがリオニの
リンカは助走をつけるように、自分の周りでオリジナル・ソウキュウを旋回させている。
──情報を読み解け。相手の考えすら読み、先を読め。すべてを変えるために。
「具体化解除!」
リオニが赤い
しかしナオトは、マーリアの手を引いて逃走していた。
マーリアと真逆のことをすれば、リンカは混乱する。当たりだった。
さらに、こちらには絶大な切り札がある。ナオトは走りながら叫んだ。
「R・O・O・Tよ、カガイ・ソウキュウを食べちゃえ!」
「うひゃ!」
追撃してきたソウキュウが急上昇で逃げていく。だが、ナオトは左手を向けていなかった。かわりにマーリアを前へ突き放すと、両手でリボルバーを一発撃った。
散弾は遠くのリンカの胸に当たった。カットシステムの光がノーダメージを表すが、負い紐が千切れ、ライフルが地に落ちる。リンカがそれを拾おうとし、横へ転がる。次の散弾がライフルに当たり、金属片を散らした。ナオトはまたマーリアの手を引いて走りはじめた。もうL・O・S・T擬体はなく、ライフルも壊した。
──ソウキュウ本体がきたら、こんどこそR・O・O・Tで食べてやる。
「あー、やっぱ
リンカは追跡を諦めたように、いじけ顔で左前腕に留めたソウキュウを
「もーいーや。カットシステム解除ー」
戦闘中ではありえない口頭コマンドに、ナオトは足を止めてしまう。
リンカは懐から革バンドを出すと、右手と歯を使い、左の二の腕をきつく縛っていた。
「んでもってー……あーあ、半年はリハビリだろなー。ソウキュウー?」
ガブリと、イナゴがリンカの左前腕に
「おっし、完了。【
「
リンカの左前腕が
ナオトは迫る一匹を銃撃しようとしたが、発砲前に自爆され、爆風と外殻片に全身を
降ってくる土や
「ナオト、逃げてください。わたしに命を懸ける〝価値〟など──」
しかしナオトはマーリアに肩を貸し、両足に力を込めて立ちあがった。
また爆発に背を叩かれ、膝を突くが、すぐにまた走る。カットシステムが弱ってきた。

再度の爆発に押されるように
「納屋に移動系コードを用意してある! 急げ!」
〈テイルズ〉たちは叫ぶと、森の中を掃射する。思わぬ伏兵にソウキュウたちが散開した。
ナオトはマーリアの腕を
その中央で輝いていたのは、黄色のポータル。【
ナオトはマーリアを連れ、それに飛びこんだ。
ナオトの視界をモニターしていたカンナは、緊張を吐息にした。グリッチャーが入り混じっていたせいで映像がぼやけまくっていたが、無事に脱出できたらしい。
窮地が去ると、先を思う余裕が生まれ、それが一筋の恐怖を呼んだ。
トージョーの〈テイルズ〉は〈ウルヴズ〉の下部組織だ。戦力差は歴然だろう。
だが、かれはそれを
「……お悩みか、相棒?」
驚きのあまり声を詰まらせる。玄関に、
「アーロン……」
「選択のときだ。おれと契約を結ぶかどうか、いますぐ決めてくれ」
黄色のゲートを抜けた先は、牛と鯨の合唱のような機械音に満たされていた。
機械製造工場のメインフロアだろうか。左右では冷却し終えた鋳型盤や3Dプリンターから運搬ロボが部品を取り出し、背部ボックスに詰めている。その数は多く、見えるだけでも数十機いる。太い鳥形四脚と、その二メートルほど上の胴体上にあるアイカメラと
手の込んだVR工場だ。頭上でも、キャットウォークや配管がびっしり交錯していた。
近くに監督部屋があり、マーリアと入る。そこの制御盤に『完全オート』と表示されていたから、ここは無人らしい。ナオトはホッとし、椅子にマーリアを座らせた。
「マーリア、平気? ここ、どこだろうね? 位置情報検索しても出てこないんだけど」
「……どうして、きたのですか?」
のろのろと
「最後のチャンスを捨ててまで助けた者がどういう人間か、理解しているのですか?」
「うん、教えてもらった。……〝消された少女〟って言葉の意味も」
マーリアが失笑する。
「なるほど。それで、わたしを助けた理由は? 同情ですか?」
「うん、そうだよ。これはきっと、同情だ」
碧眼が鋭くなる。
ナオトは、真正面からその視線を受けていた。
「おれ、リオニを奪ってから、マーリアがL・O・S・T化した記憶を見てたんだ。……ご両親の研究所で起きたことは、恐ろしいことだった。そのあとの出来事も」
「それで? わたしを
「うん。でもさ、同情って悪いことなの?」
ナオトは片膝をつき、椅子に座るマーリアを見あげる。
「思いやれる人になりなさい。父さんと母さんの口癖だった。同情は、その一歩だと思う」
「……ご両親は、殺し屋も愛せと?」
「難しい話はわからない。けど、おれはグリッチャーだ。組織にも自分自身にも背いておれを助けようとしてくれた
マーリアは
「わかりました。──リオニ、マーリアを守ってて。絶対だよ」
通信を終えると、ナオトはリオニを具体化する。
ナオトは監督室を出ると、深呼吸した。世界を
だから、この出会いを悲劇なんかで終わらせない。
やがてフロア中央に〈
「マーリアは?」
「無事です。……〈ウルヴズ〉のほうは?」
「〈テイルズ〉が食い止めている。立て直す時間くらいは稼げるだろう」
トージョーは、休むことなく何かを作っている工場を見回す。
「ここは敵対関係にあったころ、電賊〈ブリトリャーニン銃砲店〉から〈テイルズ〉が独自に奪った工場だ。面目もあってヤツらは公表していないから、〈ウルヴズ〉も知らない」
ひとつ懸念が消え、ナオトは
しかし、それは無数にある懸念の一つに過ぎない。
「これから、どうすればいいんでしょうか。このままじゃ……」
「解決策はひとつ。〈ウルヴズ〉を乗っ取ることだ」
トージョーはそっけなく言い、ナオトを驚かせる。
「逃走こそ無謀だ。〈ウルヴズ〉は巨大すぎる。この混乱を逃せば、次のチャンスはない」
「チャンス?」
「ボス・フォルナーラに不満を覚えている幹部やメンバーは多い。それらを懐柔して彼女を倒せば、〈ウルヴズ〉はマーリアにかまっているどころではなくなる」
「可能、なんですか? メンバーは千人近くいるって聞きましたが」
「きみのR・O・O・Tを使い、何人かを殺せばな」
トージョーの右目が、試すような視線を向けてくる。
「……ダメです。やっぱり、おれには、人は殺せません」
「いま〈ウルヴズ〉も〈テイルズ〉も死者を出した。わたしときみの計画でだ。きみ自身は殺さなかっただろうが、大勢が死んだ。それから目を背けるのは
「だれかが危害を加えるなら、マーリアを助けます、絶対に。でも、人は殺しません」
まるで
トージョーも、うなずくだけだった。
「そうか。それなら、それでいい」
「……怒らないんですか?」
「もとは我々の内輪もめだ。きみを頼ろうとした身勝手さこそ、責められるべきだろう」
「それじゃ、ほかに計画が? その、マーリアを守るための」
トージョーはうなずき、運搬ロボたちの間を抜けて、ガラス壁に区切られた一区画へナオトを招く。そこでは、この巨大な工場で作られた完成品がラックに並べられていた。
「これは……銃?」
「そう、仮想兵器だ。ここは仮想兵器工場なのだ」
除染光で真っ白に染まった部屋の壁を埋めつくす、拳銃、自動小銃、大砲、レーザー銃。そしてその弾薬やバッテリー、触媒宝石。ほかの区画には軍用ドローンまであった。
トージョーが操作盤を
「……これで〈ウルヴズ〉と戦うのですか?」
「電賊〈ブリトリャーニン銃砲店〉は、その名のとおり仮想兵器の大手だ。当然、ヤツらから奪ったこの工場の武器も一級品。しかし──」
トージョーはナオトの手から拳銃と弾薬を取ると、スライドの動きを確かめた。
「これを使っても戦力差を埋められない。一工夫しなければな」
一工夫とは、どうする気だろう。ただ、多くの血が流れる。それは確実だ。
しかし戦いを拒否した自分に、それを
ナオトはガラス壁の向こうにある仮想兵器──人殺しのデータ群を眺めた。
妥当な結末か。ガラス壁に張り付く少年を後ろから見て、トージョーは思った。
かれは普通の少年だ。普通の感性の持ち主だった。
グリッチャーになった者は、大なり小なり優越感に溺れる。それに飢える。
ナオトは違った。普通の感性を持ち、外的な力で己を満たそうとしなかった。
そして、唯一、かれに欠けていたモノ──勇気を得てしまった。マーリアから。
そうして、戦況はトージョーにとって困難なプランBへと到達した。
しかし、そんなナオトだから、マーリアにあれほど人間性を与えられたのだろう。自分が何年かけてもできなかったことを、わずか数日で成し遂げたのだ。
──ままならぬものだな。
トージョーは拳銃に弾倉を差しこむと、スライドを静かに引き、初弾を薬室へ送る。
責任を果たすため、罪を重ねる。引き金がひどく重く感じた。あの夜のように。
それでも、カットシステムと脊椎を砕くために、少年の背を狙って撃った。