序章 消された少女



 十歳で、少女は悟った。自分はまったく無価値な人間だと。

 両親はいない。今年、勤務先の研究所が襲撃に遭って死んだ。

 それはいい。突然の不幸ですべてを失う人は、世界中にいる。

 問題は、少女が現場にいて、すべてを失うところを眺め続けていたことだ。

 なにもできなかった。ただすくみ、救助がくるのを待っていただけだ。

 あのとき、自分が動かなければならなかった。いや、存在してはならなかった。

 自分がいなければ、数万の命を救えた。少女はイヤというほど、それを教えられた。

 苦しかった。だから願った。すべてから逃げたいと。

 この事実からも。両親の死からも。世界中の呪いからも。

 少女はそこまで考えて、自分がうわさどおりの無価値な人間だと思い知った。

 両親がどれだけ偉大で、そして、自分を愛してくれていたかは知っている。普通の人情もあれば、その愛を大切にするだろう。しかし彼女はそうしなかった。

 両親の偉大さを恨めしく思った。人として腐っていると、我ながら思った。

 無価値な人間。無価値な人生。

 そんな生にも、慰みは要るらしい。保護施設の人たちがクリスマスに子供たちへ贈ったブレスレット型神経リンクデバイスには、少女も興味をかれた。

 別段、特別なことはなかった。施設の子供たちと同様に、世界規模でっているネットワーク・サービスのアカウントを作るところまでは。

「……これは?」

 自室でリンクデバイスがくうに映し出す立体ウィンドウに魅入られていると、メール受信通知がきた。作ったばかりのアドレスにだ。初期設定に関するものかと思い、指先を立体ウィンドウへ伸ばして、メールに添付されていたファイルを開いた。

 そして指先から脳天までショックが巡り、彼女の人生は激変した。

 無価値な人間が、価値あるお宝に手を伸ばせる権利を手にしたのだ。

 この世で、もっとも大切なものを〝失う〟ことによって。