変わらない願いを抱きしめて
「お嬢様、本当にお綺麗です……!」
そう言って微笑むハンナの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。綺麗に着飾ってくれた彼女に心からのお礼を言うと、改めて鏡の中の自分に目を向けた。
彼の瞳と同じ色をした質のいいドレスは、思わずため息が出てしまうほどに美しい。
その場でくるりと回ってみると、スカートの裾の部分が星空のように輝いている。その部分は全て小さな宝石や砕いた真珠だと知った時には、値段を想像して目眩がした。
今日だけでなく、いつも素敵なドレスを贈ってくださるアーサー様には感謝してもしきれない。少しでもこの素晴らしいドレスに見合うようになろうと、改めて背筋を伸ばした。
準備を終えて待っていると、やがてアーサー様の到着を知らされて。玄関から出てきたわたしを視界に収めると、彼は眩しいものでも見るようにアイスブルーの瞳を細めた。
「……本当に、よく似合っている。こんなにも美しい君の隣に立てるなんて、誇らしいよ」
「ありがとうございます。アーサー様も、とても素敵です。ずっと見ていたいくらいに」
「そんなことを言われたら、このままパーティなんて行かずに攫ってしまいたくなる」
そう言って笑うと、彼はわたしに向かって手を差し出した。そんな仕草ひとつすら絵になる彼に、今日も胸が高鳴る。
アーサー様の手を取り、馬車へと乗り込む。そうして、学園生活最後のイベントである卒業パーティへと二人で向かったのだった。
会場に足を踏み入れると、辺りの視線が一気にこちらへと集まった。
特に女子生徒は皆、隣にいるタキシード姿のアーサー様に釘付けで。わたしには時折、羨望や嫉妬の籠った視線が向けられている。
「お、来た来た。アーサー、アリスちゃん!」
そんな中、ほっとするような明るい声に振り向けば、ライリー様とノア様、そしてリリーがいた。
結局、ノア様から後腐れの無さそうな友人を誰か紹介してくれないかと頼み込まれ、わたしはリリーを紹介した。彼女はいつもアーサー様やノア様のことを素敵だと言っていたけれど、それ以上の何かを望むことはない。
ノア様との同伴の話をすると、「あんなにも素敵な方と卒業パーティに出られるなんて、いい思い出になるわ!」と喜んでくれて、ぴったりな組み合わせだと安心した。
「アリス、本当に綺麗だわ」
「ありがとう。リリーもとても素敵よ」
「ふふ、ありがとう。それにしてもノア様といると、突き刺さるような視線が凄くて。アーサー様といる時、アリスはずっとこんな感じだったのね」
私には荷が重いわ、とリリーは笑う。
「あの、スカーレット様のお姿が見えませんが……」
「彼女なら入場後、すぐに友人達の所へ行ったよ。お互いそのつもりだったし」
あまりにも淡々としていて、逆に二人らしいなとも思ってしまう。一緒にいる姿が見られるのをこっそりと楽しみにしていたから、少し残念ではあった。
それからは皆で学園生活の思い出を話したり、クラスメートや友人に挨拶をしたりしているうちに、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
……これからも友人としての付き合いは続いて行くけれど、皆に会える頻度はかなり減ってしまうだろう。毎日のように沢山の人々と顔を合わせていた学園生活は、とても貴重で大切な時間だったのだと改めて気付かされる。口には出さなかったけれど、内心は寂しい気持ちでいっぱいだった。
やがて会場内に流れている音楽が変わり、間もなく卒業パーティの終わりが近づいていることを知らせていた。パーティの最後にはダンス用の音楽に変わり、一曲だけ好きな相手と踊ることが出来るのだ。
アーサー様はグラスを近くのテーブルに置くと、わたしに向かってその手を差し出した。
「俺と踊って頂けますか?」
「はい、喜んで」
彼の手に自分の手を重ね、ダンスフロアへと移動する。
ゆるやかな音楽に合わせて踊りながら、時折視線を絡めては微笑み合って。アーサー様によってリードされ、心地良い流れに身を任せる。王子様のような彼と踊っていると、まるで自分がお姫様にでもなったような気分になってしまう。
この幸せな時間が、いつまでも続けばいいのにと思った。