その彫像のような美しい顔には、嫌悪感が滲み出ている。その身なりから、彼がかなり高い身分だと言うことが窺える。わたしは慌てて髪飾りを手に取ると立ち上がり、横に避けた。

「……失礼、致しました」

そんなわたしの声に反応することなく、彼は従者を引き連れてまっすぐに歩いて行く。やがて突き当たりを曲がり姿が見えなくなると、ほっとしたように小さく溜め息をついた。

「アリス、大丈夫? 私のせいでごめんなさい……!」

「うん。わたしも前を確認しなかったのが悪いから」

「ありがとう。それにしてもティナヴィア王国の男って皆ああなのかしら、酷い態度だわ!」

「ティナヴィア王国?」

眉を釣り上げて怒る彼女の口から出てきたのは、数ヶ月後にアーサー様と共に留学する予定の国の名だった。

「ええ。さっきのは隣国の公爵家の三男よ、数日前の夜会で見かけたから間違いないと思う」

「そうなんだ」

「顔だけは誰よりも綺麗だけど、中身が最低すぎるわ」

確かに先程の彼は、驚く程に綺麗な顔をしていた。それでいて地位もあるのだ、ああいった態度なのも頷ける。

「そう思うと、アーサー様って本当に素敵よね」

先程まであんなにも怒っていたと思えば、今度はうっとりとした表情を浮かべるリリーに、肩の力が抜けていく。

けれど何故か、先程の彼の人を人とも思わない冷たい瞳が、しばらく頭から離れなかった。