答え合わせ

「わあ、素敵。どれも綺麗ですね」

「どれが欲しい? 全部買おうか?」

「ど、どれも買って頂かなくて結構です!」

夏期休暇の最終日。わたしはアーサー様にデートに誘われ、二人で手を繋ぎ街中を歩いている。ウィンドーショッピングのつもりが、すぐに何でも買ってくれようとする彼に慌ててばかりいた。

「何か欲しいものはない?」

「本当に何もないですよ」

「アリスはもうすぐ誕生日だろう? 君が欲しいものを、何かプレゼントさせて欲しいんだ」

「どうして、それを」

「俺は君のことなら何でも知っているから」

そんな冗談を言うアーサー様につい笑ってしまったけれど、彼がわたしの誕生日を知っていたことには素直に驚いた。毎年誕生日は友人を数人招き、小規模なホームパーティを開くだけなのだ。だからこそ、わたしの誕生日など知らないものだと思っていた。

そんなわたしに、アーサー様は欲しいものを何か買うまで絶対に帰らないと言い出した。けれど本当に、欲しいものなど思いつかないのだ。ドレスも靴もアクセサリーも、十分贈って頂いている。

そう説明してもアーサー様は納得してくれず、しばらく考えた末にわたしは一つだけ思いついたことを口にした。

「あの、それではアーサー様と何かお揃いのものが欲しいです」

「……そんな可愛い答えが返ってくるとは思わなかったな」

アーサー様は、照れたように微笑んだ。

「じゃあ、一緒に探そうか」

「はい」

わたし達は手を繋いだまま、再び街の中を歩き出す。

彼がわたしの手を引いて入っていくお店は高級な店ばかりで、お揃いのキーホルダーのようなものを想像していたわたしは、再び焦っていた。もっと安価なものでいいと言っても聞き入れてくれない。自分も身につけるものだからと言われてしまえば、返す言葉がなかった。

結局、買って頂いたのは一粒の宝石がついたブレスレットで。シンプルだけれど洗練されたデザインのそれは、かなりのお値段で目眩がした。宝石は何種類かあって、わたしは迷わずアーサー様の瞳の色と同じアイスブルーのものにした。彼も、わたしの瞳の色と良く似た淡いピンクのものにしていて、なんだかすごく恋人っぽいなと思ってしまう。

アーサー様が腕に付けてくれたそれは、日の光に当たってキラキラと輝いていて、溜め息が漏れてしまうくらいに綺麗だった。

「アーサー様、本当にありがとうございます……! 宝物にします」

「俺もこれを君だと思って、大切につけるよ」

買い物の後は二人で昼食をとり、帰りの馬車へと乗り込んだ。馬車はまっすぐに我が家へと向かっていたけれど、もう少し一緒に居たいと思ってしまう。

そしてそれは、彼も同じだったようで。

「もう少しだけアリスと居たいな」

「実はわたしも、そう思っていました」

「本当に? 君さえ良ければ、家に来ないか」

「アーサー様のお家、ですか?」

「ああ。両親は今日も出かけているし、気を遣う必要はないよ」

「はい、喜んで」

まだアーサー様と一緒に居られることが、何よりも嬉しい。そうして馬車は方向を変え、グリンデルバルド家へと向かったのだった。

◇◇◇

「……これが、アーサー様の」

着いた先にあったのは、お城だった。絵本の中に出てくるような、お城。先日避暑に行った領地のお屋敷もかなりのものだったけれど、それとも比べ物にならないくらいのもので。

「将来、君も住むことになる家だよ」

「わたしが、ここに……」

「勿論、アリスと俺は同じ部屋だからね」

そんな事を言うアーサー様に、動揺しつつも屋敷の中へと足を踏み入れる。そしてわたしは、使用人の数やその質の高さ、屋敷の中の装飾品の豪華さなど、全てに驚いてしまうことになる。

「君が俺の部屋にいるなんて、不思議な気分だよ」

「とても素敵なお部屋ですね」

先日とは逆で、今日はわたしがアーサー様のお部屋にお邪魔したいとお願いした。白と金を基調としていて、シンプルだけれど華やかさがある素敵な部屋だった。ソファやテーブルなどの家具も全てが最高級品で、今腰掛けているソファの座り心地も信じられないくらいに良い。

「君に見せたいものがあるから、待っていて」

「はい、わかりました」

そう言って、アーサー様は部屋を出て行った。わたしはソファに腰掛けたまま、部屋の中を見回す。物がとても少なくて、アーサー様らしいなと思う。

やがて金色の大きなベッドで、わたしの視線は止まった。その枕の下からぴょこんと、ぬいぐるみの足のようなものがはみ出ていたのだ。

……アーサー様も、ぬいぐるみと寝たりするんだ。

あまりにも可愛すぎるその事実に、胸がときめく。そうしてぬいぐるみを見つめているうちに、わたしは気づいてしまった。その関節のボタンや布地に、見覚えがあることに。

勝手に部屋の中を歩いて、物に触るなんて良くないというのは分かっている。それでも、止められなかった。恐る恐るベッドへと近づき、ぬいぐるみへと手を伸ばす。心臓の音が、漏れてきそうなくらい大きな音を立てていた。

そしてそっと抱き上げたその人形を見たわたしは、かつての自分の予想が正しかったことを知る。

「……スターリー」

子供の頃、サイズアウトして着られなくなったお気に入りのドレスを、いつまでも捨てたくないと泣いてきかないわたしに、お祖母様が「これならずっと一緒に居られるでしょう」と、ドレスの布地やボタンでぬいぐるみを二つ作ってくれたのだ。それが、ミーティアとこのスターリーだった。

───そしてこれは、わたしが彼にあげたものだった。

その場に立ち尽くしてしまっていたわたしは、やがて聞こえてきた足音に我に返った。

アーサー様が戻って来る前に、元の場所に戻さなければ。彼の方から話してくれるまで、黙っていようと先日決めたばかりなのだから。

そう思い、枕へと手を伸ばした瞬間だった。

「お待たせ、アリス。これなんだけど……」

気づいた時にはもう、遅くて。笑顔を浮かべるアーサー様の視線が、やがてわたしの手元で止まる。そして、彼の顔から笑顔が消えた。

沈黙が、続く。

腕の中のスターリーに視線を落とせば、十年も経っているのにこの子はとても綺麗だった。大切にされていたのが見て取れる。わたしはそっとその小さなぬいぐるみを抱きしめた。

もうこの状況で、誤魔化すことが出来ないのは目に見えている。

わたしは、意を決して口を開いた。

「……あなたが、アスランだったんですね」