「フンッ! フフンッ!」
「ハッ! ヘアッ!」
「……」
教会の話を聞いた翌日、どんな場所か
教会の
「フォォォ! アイィィ!」
「ホアアアア! ホイポイッ!」
「……」
やはり教会の位置が町の外周沿いでスラムに近いこともあり、お金がないのだろうか? それにしたって大教会の方はあんなに立派なのに、こっちのステラ教会がこの状態で放置されているのは意味不明ではある。
「ホッ! ハッ! 武具強化! いけっ!」
「いくぞぉぉぉ! 筋肉! 武具強化!」
「……」
いや……もう見えないフリは
まったく意味が分からないよ!
「あぁぁぁぁぁ!
「おい! 止めろ! 燃えるな! ああああああああ……」
「……」
そして失敗。
上半身
どうやら高価な武具を燃やしてしまったらしい。
「う~ん……」
思わず声が
他の地域の教会でも武具強化にチャレンジする男達と、そして失敗して
それについて色々と話を聞いてみたい気もするけど、それが許されるような
「すみません」
ギシギシと
中はキレイに整えられてはいるものの、長
「教会内での武具強化はお断りしておりますよ」
教会の
「あぁ、いえ。お
「そうでしたか。お若いのに
彼はそう言ってテスレイティア像の前に
そこに進み
光の神である最高神テスレイティア。四属性の神々。そしてここに加えてもよいのか分からない名もなき
「フンッ! アチョォ!」
「ハイィ! ホイッ!」
「……」
教会の壁がボロくて
「……ダメだ、集中出来ない」
「そうでしょうな」
僕の
「どうしてこのようなことになってしまったのでしょうな……。
「伝説? って、あの『祝福を受ければ強化に成功する』的なヤツですよね?」
「? いえ、確か『
「えっ?」
ちょっと待てよ。なんだか前に聞いた話と少し違うぞ。
確か、教会で祝福を受けた男が武具強化に成功しまくってたから
もしかすると、伝説が伝わる過程で
それに両方共に正解である可能性も捨てきれない。武具強化を成功させる方法が複数ある可能性もあるからだ。
……まぁ、はっきり言ってしまうと両方共にただの
「そのような噂を信じ教会であのような姿を
「そうですよね」
僕も自分の家の前で毎日毎日マッスルお兄さんがフンッフンッ! やり続けたら
それから司祭様と少し話をして、教会を出た。
「さて……」
せっかく教会に来たのだし、ついでに記念すべき初武具強化をやってみよう!
「となると、なにを強化するべきか、だけど……」
今回の強化はお
となると多少でも使う可能性があるアイテムで試したいのだけど……。
「使う可能性があって、消えても最悪どうにかなるアイテム……となると最初に持ってた
そう考え、手に持っていたミスリル合金カジェルを
そして
「……」
強化スクロールをミスリル合金カジェルに巻き付け、地面に置く。
あとは強化スクロールを
そうすれば武器が強化されるか──もしくは消滅するか……。
成功すれば強化されてハッピー。……でも万が一、失敗してしまうと消えてしまう。
消えてしまう。消えて、しまう。消滅してしまう……。消滅してしまうと、また新しい武器を買わないといけないし、メイン武器がなくなるから
二つに一つ。……いや、そんな単純なフィフティーフィフティーなモノじゃない。成功率によってはもっと楽観視してもいいかもしれないし、悲観的なモノかもしれないし──
「あぁぁ……ダメだ。ミスリル合金カジェルではチャレンジ出来ない」
失敗した場合のことを考えるとちょっと決断出来なかった。
強化スクロールを回収し、教会の
こっちなら最悪、消滅しても問題ないし気分的にも
「よしっ! やるか!」
強化スクロールを巻き付けて発動──の前に……。
「まぁ……とりあえずやっとくか」
いや、ここでは全員がやってるらしいしさ。
周囲を見回し、変に注目が集まっていないことを確認し、安心してササッと「フンッ! フフンッ!」とボディビルポーズを見様見真似でやっておく。
うん……。別に見られてるわけじゃないけど、やっぱりちょっと
「今度こそいくぞ! 強化!」
そして強化スクロールを発動。
するとスクロールがホロホロ解けて光の
そしてすぐに光が収まって、それまでとまったく変わった様子のない杖が現れた。
「成功……した?」
「強化前と違いは……ない?」
ない? そんなことあるのか? なにかが変わってないとおかしいというか、リスクリターンが合ってないというか、フンッフンッやり損というか……。
う~ん、そもそもだけど、強化をしたことで具体的にどういった要素が強化されるのか、どういったことが起こるのか、完全には
「これは、ちゃんと調査していかないと見えてこないか」
◆ ◆ ◆
「で、武具強化とは、なんなのですか?」

「なんだ?
夜に宿の食堂にいたブライドンさんに気になることをぶつけてみた。
「いや、そうではなく、具体的に武具強化をしたら武具がどうなるのか知りたくて」
「どう……って、そりゃ強化されんだよ、強化」
う~ん……ちょっと上手く伝わらない。
もう一度、考えを整理して最初から説明していこう。
「実は杖を一回、強化してみたのですが、なにが変わったのか分からなくて……」
「強化したのは一回だけか?」
「そうです」
「なら変わらなくてもおかしくないぞ。武具強化は一回や二回じゃ大した変化がないことも多いからよ」
一回や二回では変わらない? 武具強化って何度も重ねがけ
「何度も武具強化したら違いが出てくるってことですか?」
「あぁ、一回でも強化はされてるのかもしれねぇが、常人に見分けがつくような差じゃねぇよ。三回……五回と重ねていけば
「それに?」
「もっと何度も何度も強化を重ねていくと、変わるんだ。それこそ別物にな」
「別物? とは?」
「そのままだ。別の物に変わっちまう。そうなると元の武具とは比べ物にならねぇ
ブライドンさんは食器をキュキュっと
なにそれ
……これ、なんだかギャンブルみたいになってないか?
「それは、見た目が変わったりするんですか? それとも性能が一気に上がるとか?」
「どっちもあるぜ。見た目からして、こう……なんて言うんだ? グワーっとしたモノになることもあるしよ、切れ味だけ一気に上がったこともあったな」
なにそれ怖い。
グワーってなんだ……
「それって、具体的にどれぐらいの回数でそうなるんです?」
「分かるわけねぇ。それが分かったら苦労しねぇよ」
「いやそうですけど、目安というか『大体はこれぐらい』みたいなモノってあるんじゃないですか?」
「一回でそうなることもあれば、七回八回と重ねてもダメな時はダメだ。そもそも自分の武器がどれだけ強化されてるかなんざ正確には分からねぇだろ」
「自分が強化した回数が強化数じゃないんですか?」
「前の持ち主が強化したかもしれねぇだろ? 良い武具ほど人の手を
「あぁ……」
武器の見た目が強化数によって変化しない以上、その武器が過去にどれだけ強化されてきたのか正確に把握することは不可能、と。
ゲームとかならアイテムの正確な情報が表示されたりするから分かりやすいけど、そんなモノがない以上、正確なデータを取ることが難しいってことか……。
「ただ、俺の経験上、良い武具は成功しやすい……とは思ってるぜ。確証なんてねぇけどな」
「なるほど」
う~ん……。こういうのって正確なデータはなくても大体の
……いや、一つだけしっかり伝わっているモノがあったな。
例のアレ……教会でフンッフンッすることだけがしっかり伝わっているのが謎すぎるが……。とにかく、まだまだ情報収集は必要そうだ。
◆ ◆ ◆
翌日。カタカタと鳴る木窓の音で目が覚める。
ベッドから立ち上がり木窓を開けると冷たい風が雪と共に流れ込んできた。
「本格的に降ってきたか」
隣の建物の屋根が
今日はちょっと寒くなりそうだ。
「シオン、行こうか」
「キュ」
宿から出ると地面にも雪が薄く積もっていた。
それをキュッキュッと
雪が降っても毎日出勤。これ、真冬になったらもっと大変になるよね? そうなったら仕事なんてせずに宿屋に引きこもってようかな。
とか考えている間に冒険者ギルドに着く。
いつものように
「あっ、ルークさん」
「おはようございます。回復
「今日もありませんね。でも、別の指名依頼が入ってますよ」
「指名依頼ですか?」
「はい。
「廃坑の調査依頼……」
調査? 調査ってなにをすればいいんだ? そもそも、どうしてそんな依頼がギルドから僕に来るんだろう。
「指定された廃坑に向かい、中に異常がないか調査してください。もしモンスターを確認した場合、
「……中にモンスターがいたかどうか、どうやって証明するんです?」
「討伐証明部位は持ち帰っていただきますが、基本的にはルークさんの自己申告で大丈夫ですよ」
「それって
「そうですね。なのでこれは一定以上、
信頼出来る冒険者? 僕がそうなのか?
いや、信頼されるのは
と考えていると、それを察したのか受付
「疑問に思われているようですね。私も全てを把握しているわけではないのですが、ルークさんが回復依頼を問題なく達成していることを上は高く評価しているようです。それに私達ギルド職員との接し方を見ても人となりは問題ないと感じますし」
「って人となりも評価基準に入ってるんですか?」
「
なるほど……。いや、確かにそう言われてみたら当然というか。冒険者ギルドって言うなれば
そう考えると冒険者というのも完全に実力で判断される自由な仕事というわけではないのかもね。上に行くと、それなりにそれなりのモノも求められていくのだろう。
なんかちょっとサラリーマンっぽさが出てきたな……。
「それと、今回の依頼に関しましては、いつもこの依頼を受けていただいている冒険者の方がたまたま別の依頼で不在でして。それならランクアップをご希望のルークさんに任せてみて様子を見よう、という上の判断があったとかなかったとか……」
と、受付嬢さんが少し小声で続けた。
「なるほど……」
となると、この依頼はあまり断るべきではない感じなんだろうね。
実質的に僕のランクアップ評価にも
「分かりました。やります」
「ありがとうございます」
それから細かい情報などを確認し、ギルドを出た。
そして町を出て西側に向かい、パラパラと降ってくる雪の中を歩いていく。
「えーっと……向かうのは四号
ギルドの受付で借りた地図を確認する。
地図によると
今回の報酬は金貨二枚。高いのか安いのか
色々と考えながら歩いていると、すぐに目的の四号坑道に
少し地面から盛り上がった小さな
「さて……」
マギロケーションを意識しながら廃坑の中に足を踏み入れる。
この依頼の主な目的は、実質的には内部になにか危険なモノが
モンスターなんかが棲み着いて
じゃあそもそも、モンスターなんて入れないように入り口の扉をちゃんと修復しておけばいいじゃん! とは思ったけど、モンスターによっては扉ぐらい簡単に
じゃあもうそんな廃坑なんて
「おっ」
廃坑の奥から声が聞こえてきて、マギロケーションでも人の形を確認した。
「ん?」
「あっ! 誰かと思ったら兄貴じゃないっすか!」
その声を聞いて内心ホッと
そこにいたのはジョンとパーティメンバーの三人だった。
「ここにいるってことは、兄貴もクラクラ
「それはない」
「
「好んで食べてるのはアンタぐらいだから!」
ジョンの言葉に残りの三人が
「そうか? 食べるとちょっとクラクラするけど、それも慣れるとヤミツキに──」
「いや、それ毒キノコだよね?」
思わずツッコミを入れてしまう。
そうなのだ。ここいらの廃坑にはキノコが生えていて、それがスラムの住人らの貴重な食料源になっているらしい。なので廃坑を
ただ、このクラクラ茸は味も悪く、命に関わるようなモノではないにしろ毒がある。なのでスラムの住人でも積極的には食べないらしく──しかしそれが逆に最後のライフラインという位置付けにこのクラクラ茸を持っていったらしく、余計に廃坑の封鎖が難しくなった、という
「クラクラ茸が目的じゃないってことは廃坑の調査依頼っすか?」
「まぁ、そうだね」
「兄貴、流石っすね! その
ワイワイ
まだ初冬のこの時期に彼らがクラクラ茸を採りに来ている理由。それを考えていくとあまり良い状況が思い
「ところで、鉱山労働の仕事はどうしたの? 今はまだやってる時間だよね?」
鉱山労働の仕事があるなら最低限、食えてるはずだ。こんなところに来る必要はない。
「それが、今日は
「こんなこと、初めてだよな?」
「うん」
「どうなってんだろね?」
四人の話を総合すると、いつものように鉱山に行ったら全ての作業員が
「それって、もっと昔にもそんなことはなかったってこと?」
「近所のおっちゃんも、こんな晴れてる日に掘らないのは初めてだ、って」
「そうなんだ……」
なんだかよく分からないけど、彼らの状況は良くないように感じる。
以前、ジョンの
それを合わせて考えると、今の彼らの置かれている状況はもっと悪くなっているのだろう。
知ってしまった以上、彼らとこのまま別れて知らぬ存ぜぬで過ごすのはなんとなく目覚めが悪くて、彼らに「この後、時間ある?」と聞いていた。
「時間ですか? 仕事がなくなったんで、いくらでもありますよ! なぁ?」
「うん!」
ならば行こうか──ということで
「
「乾杯!」
「ゴチになりますっ!」
なんだかんだありつつ仕事を終えて町に戻り、四人に夕食を
というか、毒キノコを夕食にしようとしている彼らを放ってはおけなかっただけなのだけど。
「まぁ、今日は
「助かりますっ!」
「テーブルの上にこんなに料理が
「うまうま……」
彼ら──ソルマールの風というパーティで、ジョンとサム、それに女性二人のノエとブーセの四人なのだが、彼らがおすすめしてきた店はスラムに近い場所にあり、いかにも下町の店というか……悪く言えばボロい店だった。
出てきた食事は内容的にも質より量という感じで、まぁ色々とお察しなモノではあったけど、彼らはそれを美味しそうに
僕的にはこの山盛りの
「クラクラ茸を食べなくていいだけで幸せ……」
「アレ、食べると
「そうそう。なんだか悪い方に悪い方に考えるようになっちまうんだよな……」
「そうか? 俺はまったくそんなことないぜ!」
なにそれ、怖い。
なにか精神に
「あんたはクラクラ茸を食べ慣れすぎてんのよ!」
「慣れるまで食べるもんじゃないよ、アレは……」
食べ続けると毒の
なんとなくクラクラ茸に興味が
「クラクラ茸ってさ、どうやって食べるもんなの?」
「生でもイケるっすよ!」
「それはない」
「生だとキツすぎて無理だから」
「普通は焼いて食べるんです。焼くと副作用が少なくなってまだ食べやすいので」
熱を入れると分解される系の毒ってことか。
「男は
「あんた! またあの爺さんに酒奢ったの!?」
「お前! また
なんていう話をしながら食べたり飲んだりした後、彼らは帰っていった。
クラクラ茸を残して……。
ジョンから
まぁ、本当に食べる物がなくなった時の非常食にでもするか……。
それはそうとして、なんとなく彼らと何度も関わっているし、関わってしまったから放ってはおけなくなってきている。
……どうやら彼らはステラ教会の
◆ ◆ ◆
それからまた
毎日のように冒険者ギルドに顔を出し、回復依頼がある時は料金の大小に関係なく受け、廃坑の調査依頼も入ればキッチリこなす。あとは町中を
そしてたまに教会に顔を出して祈り、ついでにジョンらの様子を確認したり。
「どうぞ、ホンラビです」
「いつもすみませんな。ありがたく
町の外に出てホーンラビットなんかが
ジョンの様子を確認した時、教会に
「やった! 今夜はホンラビだ!」
「いえぇぇい!」
「おっしゃー! 楽しみっす!」
子供達に交じってジョンらも大喜びしているけど……まぁそれはよしとしておこう。
「
「ありがとうございます」
席につき、司祭様が入れてくれた白湯に口をつける。
冷えた体が少しずつ温まってきて、ホッと息を
今までどの町でも水を飲む習慣はなかった気がするけど、この町では
やっぱり山に近いだけあって水がキレイなんだろうか。
「最近、どうですか?」
という感じの
「ほっほ……テスレイティア様のおかげで変わりなく過ごせておりますよ」
テーブルを
隣の部屋からは小さな子供が遊んでいる声が聞こえ、台所の方からはダンダンダンッとホーンラビットをぶつ切りにしていく音が聞こえる。
どうやらスープでも作っているらしい。
こうやって司祭様と世間話をするのは何度目だろうか。司祭様の
「ただ、最近は鉱山が休業する日がありましてな。それが気がかりではありますが……」
「話は聞いてます」
「この町は鉱山の町。多くの住人が鉱山に関連する職に
「鉱山が停止する理由って、なんでしょうか?」
「さて……。このように町の
そう言って司祭様は遠くを見た。
「大教会……」
「あちらは国の上層部とも関わりが深いのですよ」
「あの……そもそも大教会とこのステラ教会ってどんな違いがあるんですか?」
聞いていいのか悪いのか分からなくて今まで遠慮してたけど、名前が出てきたので思い切って聞いてみた。
「違いなどありませんよ。本来はね」
「本来は?」
「我らは同じくテスレイティア様を信じ祈りを捧げる者。かつては私もあの教会におりました。しかし彼らは国からの
なんとなく、それ以上は突っ込んだ話が出来ないような雰囲気になり、司祭様に礼を言い教会を後にした。
「う~ん……。まぁ、なんだろうな。この町にも色々とあるんだろうね」
「キュ?」
「大人の事情ってモノがあるってことさ」
これだけ大きな町だし、簡単には語れない様々な事情があるんだろう。
僕なんかが口を出してどうこうなる話でもないし、難しいよね。
なんて考えながら冒険者ギルドを目指す。
今日の仕事、廃坑の調査依頼の
冒険者ギルドの中に入ると、夕方だからか人が多く混雑していて、冒険者ギルドと教会に行く順番を間違えたかと少し
「六号坑道、異常なしでした」
「あっ、ルークさん、調度良いタイミングです。実は至急、大事なお話があるのですが、これからお時間、大丈夫ですか? 大丈夫ですよね? ね?」
「えっ? まぁ別に時間は大丈夫ではありますけど……」
「ありがとうございます! それではこちらにお願いします」
「え? 分かりました」
受付嬢が別の女性に窓口業務を
えっ? こっちのスタッフエリア? ちょっと
そして部屋の奥にある扉の前に連れてこられた。
「こちらです」
受付嬢はその扉をコンコンとノックする。
「入れ」
「失礼します」
受付嬢が入室するのに続いて僕も部屋に入る。
そこは
「ルークさんをお連れしました」
「そうか。ご苦労だった」
受付嬢は執務机の男とそれだけ会話すると僕を残してさっさと部屋から出ていってしまう。
そしてバタンと扉が閉められた。
いや、ちょっと、なにか説明をですね……。
「悪いな、来てもらって。とりあえずそこに座ってくれ」
「えっ? はい……」
執務机の男に言われるがままにソファーに座る。
向かい側には二人の少女が座っていて、目が合ったので軽く
しかしこの二人はどこかで──
「俺はこのソルマールの冒険者ギルドのギルドマスターをしているフービオだ」
ギルドマスター……まぁギルドの奥にある部屋だし、立派な机だし、受付嬢の態度もアレだし、そうなんだろうと思ったけど。
フービオと名乗った男──ギルドマスターは執務机のイスから立ち上がり、一人がけのソファーに座り、言葉を続ける。
「今回、呼んだのは他でもない。実はお前に特別な依頼をしたいと思ってな」
「特別な依頼……」
「依頼
エレナ? 確かどこかで……。
確か……えっと……あそこでもないし……。
と、考えていき、目の前の少女を見て思いつく。
「あっ! 例の
エレナが小さく息を
ヤバい! 失言だったか……。
「……お前もアレを見てたのか。……まぁそれなら話が早いか」
ギルドマスターは

「このエレナには魔法の才能がある。光属性も持っている。だが回復魔法が上手く使えない。それもあって婚約破棄なんて──いや、それは大した問題じゃないが。とにかくエレナが自信を持てるようなんとか回復魔法だけでも使えるようにしてやりたい。出来るか?」
エレナはソファーで下を向いて小さくなってしまっている。
「いや、出来るかと聞かれても、僕もどうやって回復魔法を使えているのかよく分からないですし……」
ぶっちゃけこの世界の魔法の理論とか体系とかもよく分かっていないし、僕が魔法を使えているのもあの例の白い場所で魔法を
人に教えるとか、そんなことが出来る気があまりしない。
「そもそもですけど、どうして僕なんです? 他にも回復魔法使いはいますよね? ギルドマスターならもっと高ランクの回復魔法使いとの
少し気になっていることを聞いてみた。
「勿論、伝手はある。だが回復魔法を使ってもらうぐらいなら可能でも教師となると話は別だ。教師だと
「……評価していただけるのは嬉しいのですが、僕はまだこの町に来たばかりですよ?」
まだこの町に来て日が浅い僕がここまで信用された理由が見えてこない。
「回復依頼などの仕事を
「なるほど……」
「それに、その若さでBランクを
「いや、別にそんな特別なことはしてないですけど……」
なんか、変に過大評価されてない?
いや、でも確かに今の僕の歳でBランクの選考に入るレベルとなると普通に
「それにだ。報酬の方もちゃんと考えてある。成功すれば
「推薦状とは?」
「Bランクに上がるためのだ。ないんだろ?」
「ないですけど……。ってどこから推薦状を貰えるんです?」
「それは──」
ギルドマスターの目が一瞬、エレナの方を向いた。
「それなりに
「そうですか」
それで大体どこからの推薦状なのか推測は出来た。
そしてエレナの身分的なところも大体の想像が出来てきた。というか、あんな大々的に破棄される婚約がある時点でそこそこの身分があるとは思ってたけども。
「ちなみに、推薦状があるのとないのとで、どんな違いがあるんです?」
「そりゃあ信用度がまったく違うからな。Bランクになるまでの時間も格段に短縮されるだろうぜ」
「なるほど」
それは
「で、やってくれるよな?」
「それは──」
◆ ◆ ◆
「よろしく、お願いします……」
エレナの小さな声を聞き、僕も「よろしく」と返した。
今はギルドの裏手にある訓練場に僕とエレナとマリーサというもう一人の少女の三人で移動してきている。
結局、依頼は受けることにした。断りにくかったのもあるけど、一番はメリットも大きかったからだ。
エレナを観察する。
彼女は今の僕より年下であろう見た目で、小柄で、学校の制服らしきローブを着ている。
僕の視線を感じたのか、彼女は少し
マリーサは僕と同じぐらいの身長で、歳も同じぐらいに見える。服はエレナと同じだけど腰から
「それで、僕は君をどう呼べば──」
エレナの隣の女性、マリーサの目が怖いので
「──もとい、お呼びすればいいですか?」
「……普通に『エレナ』とお呼びください」
「ではエレナ──」
またマリーサの目がキツくなる。
ちょっと怖いよ!
「──さんについて、少し聞いてもいいかな?」
「勿論です、先生」
先生、と呼ばれて少し
「まず、エレナさんは魔法が使えるんだよね?」
「はい」
「どの魔法を覚えてるのか、聞いてもいい?」
「光源とライトボール……それにヒールです」
「……ちょっと待って、ヒールは使えるの?」
あれ? 確か依頼内容は『回復魔法が使えないから使えるようにしてくれ』とかそんな話じゃなかったっけ?
「覚えてます、けど、上手く使えなくて……」
「少し見せてもらってもいい?」
「はい。光よ、
エレナの手の中に弱々しい小さな光が生まれ、一瞬で消えていった。
「やっぱり……ダメです」
「エレナ、大丈夫、大丈夫」
目に
回復魔法を覚えているけど上手く使えない……そんなことがあるのか……。
いや、オリハルコンの指輪を使って魔法を覚えた時は僕も似たようなことになったけど、それとはまた少し違う気もする。
「じゃあ、他の魔法も使ってもらえます?」
「はい。光よ、
エレナの手の中に光の玉が出現する。
これは僕が使う魔法と大して変わらない。
「光よ、我が敵を
次にエレナが発動したライトボールも、僕のと同じように発動し訓練場の端にある石壁に
「それも普通に使えるんだ」
「はい」
「ヒールだけが使えない……」
「はい……」
エレナの声が小さくなった。
腕を組み
回復魔法だけが使えない。他の魔法は普通に発動する。つまり、同じ光属性でも魔法によって違いがある?
う~ん……。
「そもそもの話だけど、回復魔法が使えないと、その……問題ってあるのかな? 学校で必要になる……とか? 自信をつける、ってことなら別に他のことでも──」
「なにを言っている?」
マリーサが一歩こちらに進み出て口を開いた。
「光属性が
「それは知ってるけど……」
「ならば貴重な光属性持ちが回復魔法に特化するよう期待されることも知っているだろう」
「えっ……」
つまり、光属性持ちは回復魔法が使えないと評価されないとか?
いや、今までそれなりに冒険者をやってきたけど、そこまであからさまな雰囲気はなかったはず。ということは、それは学校の中だけの話か、この国独特の考え方なのか、もしかすると貴族とか身分の高い人らの中だけの傾向なのか……。
とりあえず、エレナには回復魔法がどうしても必要らしいということは間違いないらしい。
これはちょっと想像以上に責任重大かもしれないぞ。失敗は出来ないな……。
◆ ◆ ◆
「ふ~」
宿屋の部屋に戻ってベッドに突っ
この町に来た
「これはこれで幸せなこと……なのかなぁ?」
「キュ?」
不思議そうな顔をしているシオンをワシャワシャとする。
まぁ、暇な人生よりはマシだよね。
「しかし、回復魔法か」
まさか人に回復魔法を教えることになるなんて……。
それは考えてなかった。
いきなり教えろって言われてもね……。
「あっ! そういえば、専門家がいるじゃない! やっぱり
ということで翌日。
「おはようございます」
「おはようございます。今日は朝からお祈りですかな?」
「それもあるのですが、司祭様にお聞きしたいことがありまして。実は僕も光属性持ちなんですが、回復魔法の
「ふむ」
とりあえずエレナのことは話さないでおいた。
「そうですな。まず心から神に祈りを捧げることです」
「はい」
それは、まぁそういう話は出てくるだろうと想像はしていた。
「心を乱さず、ただ無心で祈るのです。雑念……外部の雑音に心を乱されてはなりませんぞ」
教会の外から「フンッ! フンッ!」と冒険者の
朝からご苦労なことだ。
「……コレですか」
「……まぁそうです。コレにも心を乱されてはなりません。心を鍛え、祈りを捧げるのです。さすればテスレイティア様は必ずお
「心を鍛える……」
「祈りが届けば、おのずと回復魔法も強くなっていくのです」
教会で祈った後、司祭様にお礼を言い、教会を後にする。
「祈り、か」
腕を組み、考える。
まぁ、この世界だけでなく宗教ってそういう感じなのは多いよね。祈りには
でも、この世界だと魔法が存在していたり、
神に祈りを捧げることそのものが重要なのか。それとも心を鍛えることが重要なのか……。
「心……いや、待てよ」
魔法袋の中からメモの束を引っ張り出してきて、この世界に来た初期に書いたメモを探す。
「あった! えっと、MNDは『精神に関する適性。魔力、精神力、魔法
この世界に来る前、例の白い場所で見た能力値の説明。その『MND』の
「もしかして、MNDが低いから回復魔法が上手く使えない、とか?」
あるんじゃないか? これ。
MNDはつまり『精神』であるはず。精神が弱いから回復魔法の威力が上がらない。
エレナのことを思い浮かべてみる。
まだ彼女と出会って間もないけど、いつもオドオドしているし、隣のマリーサの腕や
次にPIEの
「PIEは『信心に関する適性。各種耐性、魔法成功率、補助魔法などに影響』ね」
こちらには回復魔法についての
つまりPIE──
となると、回復魔法に重要なのはMNDであって、祈りを捧げること自体はあまり関係がない。
「だとすると、精神を鍛えれば回復魔法が上手くなる?」
そんな単純な話なんだろうか?
いや、仮にそうだったとして、どうやって彼女の精神を鍛えればいいのだろうか。
色々と考えながら冒険者ギルドに行き、回復依頼がないか確認した後、宿屋に戻る。
「今日はえらく早いじゃねぇか」
「ちょっと部屋で考え事でもしようかと思いましてね」
「おぉ、いっちょまえに学者のようなことを言うじゃねぇか」
「……学者より大変かもしれないことを考えるんですよ」
「お、おう」
受付のブライドンさんに軽く
荷物やシオンをベッドの上に置き、ベッドの上であぐらをかいた。
現状、他に方法も思いつかないし、この仮説を元に少し考えてみよう。
「とりあえず、精神統一からかな?」
うちの道場含め大体の武術の道場では精神統一の時間がある。
それで精神を整えてから
精神統一で心が鍛えられるのかは分からないけど、心の安定を得るための一つの方法であることは間違いないはずだ。
「とりあえず、僕が知ってる方法を色々と試していって、良さそうなのを彼女にもやってもらうか」
まずは精神統一からちょっと自分で試してみよう。
目を閉じ、手をお
大きく息を吸い込み、吐き出すと同時に頭の中の雑念も吐き出していく。
また大きく息を吸い込み、吐き出す。もう一度、大きく息を吸い込み、吐き出す。
深呼吸を続けながらリラックスしていく。そして周囲の雑音が薄れてきて精神が研ぎ
地球では感じたことのないこの感覚にはまだ慣れない。慣れないからか、意識がそちらに引っ張られていく。
なんとなく、丹田の中で魔力をゆっくりと回転させようとしてみる。すると魔力が不規則に不安定にゆっくりと回転を始めた。それに圧力を加え、自分の思うように回転させてみようと試みる。すると、油まみれの手でボールを
それを修正するようにまた圧力を加えてみる。失敗。もう一度。失敗──
「キュ」
「ん?」
いつの間にかシオンが膝の上にいて、
「ん~? あっ! もうお昼の時間?」
「キュ」
集中している間にそこそこ長い時間が
……って、なんだか体内魔力と
◆ ◆ ◆
昼食後、今日は時間もあることだしリゼを呼んで遊ぶことにした。
たまには息抜きの日があってもいいしね。
「わが呼び声に応え、道を示せ《サモンフェアリー》」
いつものように光の立体魔法
「こんにちは!」
「やあ!」
「キュ!」
「シオーン!」
来て早々、リゼとシオンが部屋の中で追いかけっこしている。
暫くそれを
「それは新たなる世界。開け次元の扉《ホーリーディメンション》」
ホーリーディメンションを部屋の壁に向けて発動させ、光の扉を出現させる。
「リゼ、ちょっとこれを見てほしいんだけど」
「なに?」
ホーリーディメンション内にリゼを呼び、
それはオランの種から出た芽。実験は順調に続いていて、井戸水、魔法の水、聖水の三つの水で育てているオランは順調に育っていて、どれも指の先ぐらいの大きさまで育ってきている。
「ほら、ここまで大きくなったよ」
「くさ?」
「オランの芽だね」
「ん~。どうしてこんなに小さいの?」
リゼは少し不思議そうに首を
どうしてか? と聞かれて一瞬、答えに困る。
「……う~ん、まだ種を
「そうなんだ?」
リゼはまだ不思議そうに腕を組んで首を傾げている。
なんだ? 今のこの状況になにかおかしな部分でもあるのか? と、考えてみるけど
するとリゼがおかしなことを言い始める。
「あっ! お薬、使った?」
「えっ? 薬?」
薬? なんだそれ? いや、待てよ……農業で薬……。そうか! 農薬だな! 果物は虫でダメになることが多いと聞くし、やっぱり農薬で虫対策しなきゃマズいよね!
……いやいやいや、果物に農薬の使用をオススメする
……なにか他に薬ってあったっけ? なにか……薬……。
「あっ!」
思い付き、魔法袋の中をガサゴソと
「前にリゼに貰った薬! 確かにあった!」
そう。以前、シオンを助けた時にリゼからお礼として貰ったアイテム『謎のお薬』だ。
「それ!」
「キュ!」
リゼがビシッと指差し、よく理解出来てないはずのシオンも前脚でビシッと差した。
どちらも凄く得意げな顔だ。
「……で、これがなんなの?」
「それを、ここに使うんだよ!」
リゼが皿を指差しながら言う。
「この皿の中に入れたらいいの? それで、入れたらどうなるの?」
「ぶわっ! となるんだよ!」
リゼは空中で
「……つまり、これを入れた水で育てると、もっと大きくなるってこと?」
「そう!」
「キュ!」
そんなこと、あるのか? そんなの完全に物理法則を無視して──いや、そもそも魔法がある世界だしな……考えるだけ
「どれぐらい入れたらいいのかな?」
「ちょっとだけね。たーっくさん使ったら大変だよ!」
「キュ」
シオンがうんうん
まぁとにかく、
瓶の中から少し
とりあえず一
残りの皿にも同じようにお薬をたらし、少し待ってみる。
「……変わらないね」
「そんなすぐには変わらないよ!」
「キュ!」
いや、シオンは本当に理解してるの……。まぁともかく、そんなに
そして翌日。朝起きて、なんとなく気になってホーリーディメンションを使う。
「それは新たなる世界。開け次元の扉《ホーリーディメンション》」
光の扉の扉が現れ、中からいつものホーリーディメンションの部屋が──現れなかった。
「なんだこりゃ!」
思わず
隣の部屋から「朝からうるせぇぞ!」と
「すみません!」
と
そこにあるのは、緑。
三つのお皿を置いていた場所を中心に緑の葉っぱがワサワサと床を
恐る恐るその中の一つの葉っぱをつまみ上げてみる。
葉には細い
「そうか……」
状況から考えて、リゼが言ったように昨日入れた薬のおかげでオランの芽が急生長した。でも皿の中に入れただけで土なんてないから自重を支える根を張れず、
「まさかこんなに急生長するとは思ってなかったし、どうしよう……。まったく考えてなかったな……」
リゼの謎の薬で大きく育ったのはいいとして、これからどうすればいいのか考えていく。
確か発芽ぐらいまでは種の中の栄養素だけでも育つから水耕
となると
「よしっ! 植木鉢と、土を探しに行こう!」
「キュ!」
そうして町に
あまりこういったモノは家を持たないことが多い普通の冒険者は買わないことが多いので今まで出来るだけ買わないようにはしていたけど、今はそうも言ってられない。早く植え
そうしてスコップを
「さて、どっちに向かおうか」
この周辺は岩が
そして今の季節は雪がそこらに小さく山になっていて、まとまった土を探すのが余計に難しそうだ。
とりあえず町の東側に適当に歩きながら土を探し、出てきたホーンラビットをスコップで
そうして暫く歩いてようやく見付けた土
「う~ん、ちょっとぬかるんでるな」
今は雪が降っては昼間の太陽で解け、それが夜に
「土を焼くか」
焼けば水分を飛ばせるし、土中の
昔、母が部屋の中で観葉植物を育てようとして適当に裏の林から採取してきた土を使ったおかげで大変なことになったことがあった。暖かくなってくると土中から謎の虫が
あの時は観葉植物を育ててるのか害虫を育ててるのか分からなくなったよね……。
「思い出したくない嫌な記憶を思い出しちゃったよ……」
頭を軽く
こういう使い方をしたくないけど、他に方法がないので仕方がない。
そうして周囲から適当な大きさの石を拾い集めてきて
これも周辺に燃やせるような木がないから仕方がない。
そんなこんなで苦労しながらも土を手に入れ、三つの植木鉢に土を盛った。
後はオランの
「ここなら、誰かに見られることもないか。それは新たなる世界。開け次元の扉《ホーリーディメンション》」
目の前の空間に光の扉が現れた。
ホーリーディメンションの中に入り、三つの皿それぞれから一番生育が良さそうな苗木を一つ選び、それを植木鉢に植え、残りの苗木を土溜まりの方に捨てる。ここまで大きくなってしまうとこれ以上ホーリーディメンション内で全ての苗木を育てきることは不可能だろうしさ。
無理にこの本数をホーリーディメンション内で育てたらジャングルになっちゃうからね。
◆ ◆ ◆
翌日、ホーリーディメンション内の三本の苗木にそれぞれお薬入りの三種類の水をやってから宿を出た。
昨日は朝に一気に生長してたのでビックリしたけど、今日はそこまで大きな生長はなかった。生長が
「おっと」
雪が解けたり凍ったりを繰り返したのか、地面が
大通りを歩きながら通り沿いの店を確認していく。
ここ数日で
冒険者ギルドの扉を開けて中に入る。
いつものように受付で回復依頼を確認し、それから酒場の方に向かう。
と、カウンター席で飲んでいるニックさんを見付けた。
「おはようございます」
「よう。元気にやってるか」
「えぇ、変わりないですよ」
なんていう言葉をかわしながら僕もカウンター席に座る。
「最近、ギルドマスターに
「まぁ……そうなるんですかね?」
良い仕事を振ってもらってはいるから、そういう認識になるのだろうか? まぁ、儲からない仕事もやってるから個人的には微妙な気分だけど。
「冬は
「自己鍛錬って、どんなことをするんです?」
「剣の
確かに雪で地面が滑りやすくて走り込みなんて出来ないだろうし、そもそも寒いと外に出て訓練とかする気にはならないか。
「だから一流冒険者の中には冬場は完全に休みにして春からの準備に
「武具を作るって、どこで作ってもらえるんです?」
「なんだ、
「お願いします!」
そんな感じでニックさんから色々と話を聞き、他の冒険者からも情報収集したりして軽く昼飯をつまみ、昼過ぎに冒険者ギルドの受付に向かう。
今日はエレナとの二回目の授業だ。
「すみません、例の依頼の件で」
「あぁ、はい。どうぞ」
「今日は上の会議室を使いたいんですけど、大丈夫ですか?」
「問題ないですよ」
「では、そちらで待っていますので」
「分かりました。先方がお着き
それだけ簡単に用件を伝えると階段を上って二階の会議室に入る。
イスに座り、シオンをフードから出して膝の上に置く。
「……エレナさんが来るまで、まだまだ時間かかるかもな」
シオンを
目を閉じ、大きく深呼吸し、呼吸をゆっくりとしたペースに変えていき、頭を無にする。
階下の冒険者の騒ぎ声。酒場から漏れた酒の
その魔力の大本である丹田の魔力の玉に
丹田の魔力がゆっくりと不規則に回転していくが、自分の思うように回転させようとするとヌルッと弾かれてしまう。
色々と試行
これになんの意味があるのか分からないし、それ以前に有益なのか無害なのか有害なのかすら分からないけど、暇な時に目の前にボールがあったら拾って触ってしまうように、ただ
これは冬場の暇な時期にしかやらなかったことかもね。
この世界に来てからは毎日のように冒険者活動でなにかをしてたし、常にやることがあったから
冬の間は暇な時間も多いし体作りや武術の再確認など色々としてみてもいいかもしれないな。
そんなことを考えていると、扉がコンコンとノックされエレナとマリーサが入ってきた。
「先生、今日もよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「キュ」
「あら……その子は?」
フードの中から出てきて挨拶したシオンが気になったのか、エレナが反応する。
「この子はシオン。僕の──まぁ相棒みたいなものです。
「いいのですか?」
「この子が嫌がらなければ」
シオンを抱き上げてエレナに渡してみる。
シオンは大人しく抱かれ、エレナの腕の中で丸くなった。
エレナは暫くシオンを
「今日は精神統一をしてみようと思います」
「精神統一……ですか?」
「そうです。まず目を閉じて──」
一通り精神統一のやり方を説明し、エレナに実際にやってもらう。
「目を閉じて。大きく息を吸って、吐いて。息を吸って、吐いて。頭の中から雑念を追い出して、気持ちを落ち着けて」
「はい」
エレナは目を閉じ、
正直なところ、彼女はビックリするぐらい本当に素直な人だと思う。
長い金色の
一分、二分と時間が流れるが、彼女は微動だにせず、精神統一を続ける。
と、
「ルーク
その言葉を「静かに」と言いながら手で制す。
エレナがピクリと反応し、手を動かそうとした。
「エレナさんは続けて。周囲の雑音に耳を傾けないように」
今度は目でマリーサを制し、シオンを撫でた。
エレナは元の姿勢に戻り、また精神統一を続ける。
それから
「あっ……」
その音でエレナが目を開けてしまう。
そろそろ良い時間だろうか?
「精神統一はこれで終わりにしましょうか。次は訓練場でやるので移動しましょう」
そう言いながら立ち上がり扉に向かう。
と、マリーサがまた同じ質問をしてきた。
「それでルーク殿、この精神統一とやらにはどんな意味があるのです?」
……まぁ、そういう質問をされる気がしたけど、ぶっちゃけそれを聞かれると本当に困る。
僕が持ってる様々な情報から考えて、MNDが回復魔法に大きな影響を与えているのは間違いないけど、MNDは精神のことっぽいから精神を鍛えれば回復魔法が使えるようになるんじゃないかというのは推測だし、精神統一をすれば精神が鍛えられるだろうというのも推測だ。つまり推測に推測を重ねた状態。
まず、そもそものMNDの存在についてから説明出来ない時点でマトモな説明なんて出来ないんだけどね……。
なので説明するとなると少々
「これは僕がやっている修練方法です。続ければ効果はあると思いますよ」
「……そうですか」
完全には
まぁこちらとしても、やれることをやれるようにするしかないわけで色々と仕方がないんですよね。
二人を連れて訓練場に行き、エレナに練習用の
「あの……これで、どうすればいいのでしょうか?」
「あの人形を思いっきり叩いてみてください」
訓練場の端にある標的のカカシを指差しながら言った。
次のメニューは武術の修行だ。健全なる精神は健全なる
「わかりまし──」
「ちょっと待ってくれ。ルーク殿、これにはどんな意味があるのです?」
すぐに動こうとするエレナを止め、マリーサがそう聞いてきた。
「これは僕がやっている修練方法です。続ければ効果はあると──」
「いや、ちょっと待て。精神統一とやらはともかく、剣を振ることと回復魔法にどんな関係があるのだ?」
マリーサの腰を見ると使い込まれたショートソードがあった。
あっ、うん……こっちに関しては専門家なんだよね。そりゃごもっともな疑問か……。でも、納得してもらうしかないんだよなぁ。
「……ギルドマスターが言っていたように僕の修練方法の一端をエレナさんに体験してもらうしかないんです。これで納得出来ないなら残念ですけど、この依頼はなかったことにしてもらうしかないですね」
「……」
少しの
なにかを考えているような顔のマリーサ。
その沈黙を破ったのはエレナだった。
「……マリーサ、私、なんでもやってみたい」
エレナのその言葉にマリーサも「エレナがそう言うなら……」と引き下がった。
……マリーサも悪い子ではないんだろうけど、過保護なところがあるのかもしれない。
まぁ、エレナを見てる感じ、過保護になってしまうのも分からないでもない。なんというか
「ええぇ~い!」
トコトコと走っていったエレナがかわいらしい気合いと共に木剣を振り下ろし、カカシがポカッと軽い音をたてた。
そして振り向いたエレナが「やりました!」と叫んだ。
「かわいいな……」
「そうだろう、そうだろう」
マリーサがうんうんと頷いている。
どうしてお前がそんなに得意げなんだ? というツッコミは入れないでおく。
まぁ、色々とありつつ、とりあえずはなんとかやっていけそうかな?
◆ ◆ ◆
翌日。朝から冒険者ギルドに顔を出す。
が、いつものように掲示板を確認しようとするも、掲示板の周辺にはいつも以上の人だかりが出来ていて近づけない。
近くにいた顔
「なにかあったんですか?」
「あぁ、どうやら鉱山の
「募集人数の
「さあな……。俺も聞いたことねぇよ」
なにかあったのだろうか?
受付に行き、回復依頼の確認ついでに聞いてみる。
「これ、どうなってるんです?」
「私共も完全には把握しておりません。ただ、鉱山労働者の募集が減っていることは間違いないようですね」
「そうですか……」
ギルド側も状況を把握してない? いや、把握していても一人の冒険者にペラペラ話すことでもないのか。これがモンスターの情報とかなら話は別だろうけど。
逆に言うと、問題の原因は冒険者ギルドが
恐らく冒険者ギルドは冒険者と依頼者の
それも地域によってまちまちだし、ギルドマスターによっても方針が違いそうだし、状況によっても変わるっぽいけどね。
まぁとにかく、これ以上ここではどうにも出来なそうだ。
「ルークさん。また廃坑の調査をお願いしたいのですが、大丈夫ですか?」
「あぁ、はい。行きます」
調査依頼を受けることにして、冒険者ギルドを出て町の壁を目指して歩く。
しかし調査依頼に行く前にニックさんに紹介してもらった
お手製の簡易地図を見ながら大通りから
「すみません」
扉を開けて中を見ると、正面にカウンターがあり、そこで若い男の店員がカウンターに
どうやらこの店は鍛冶場と店が
周囲を見回してみると、一面の壁に様々な武器や防具が
「すみません。ちょっといいですか? お~い!」
「んん……あぁん?」
「店内の武具、見てもいいですか?」
「あ~……あぁ、好きにしてくれ」
店員に確認を取ってから店内の武具を見ていく。
剣に
その中の一本の槍を手に取り、軽く振ってみた。
「いいね」
手に
そろそろメインで使える
でも、鉄の槍だと刃こぼれや
となると、もっと良い素材を使った武器がいいし、ホーリーディメンション内にはアルッポのダンジョンで倒したドラゴンゾンビの骨があるけど……。
「まだここでは怖いんだよね」
アルッポのダンジョンにドラゴンゾンビが出たことは恐らくすぐに知れ渡る。僕が回収した素材の残りは誰かが持ち帰っただろうし、それがどう使われたか売られたかは知らないけど彼ら以外のルートからドラゴンゾンビ素材が持ち込まれたら、そりゃ気付かれる可能性が高いはず。特にこんなアルッポとは人の行き来が多くて経済的にも
「仕方がないか」
槍を元に戻し、別の槍を摑む。
並んでいる槍にもいくつかタイプがあって、短い物から長い物、
が、やっぱり僕は真っ直ぐなタイプが使いやすく感じる。家での修練で使ってた木の槍がストレートだったからかもしれない。
しかし、色々と展示品を見てきたけど、良い形はあるけど僕が求めているような良い素材製のモノがない。
店員に話しかける。
「ミスリル製とかの槍って置いてないんですか?」
「ミスリル製なんか作り置きはねぇぞ。高い武具は使用者に合わせて作らなきゃ無駄が多すぎるからな。注文するのか?」
「そう……ですね。お願いします」
「ちょっと待ってろ」
店員は後ろの扉を開け、そこから「親方! 注文です!」と叫んだ。
暫くすると奥から中年男性が現れる。
「注文だって? なにを作るんだ?」
「槍が欲しいです」
「素材は? どんな槍にするんだ?」
そう聞かれ、
「ロックトータスを
「無茶を言うな! そんなモン、オリハルコン製の槍でも貫けねぇだろ。それがしたいなら
「えっ? オリハルコン製でも無理なんですか?」
「いや、俺もオリハルコンなんざ触ったことはねぇけどよ。いくらオリハルコンつっても結局はただの金属だろ? 槍にすればそりゃ硬いだろうし
う~ん……。なんかこう、ファンタジー的な凄い素材で作った武器ならなんとなく岩でも鉄でも
「まぁ属性武器とか魔法武器、アーティファクトならロックトータスぐらい貫ける武器もあるだろうぜ。俺は専門外だけどな」
やっぱり最終的にはアーティファクトを探し求めるしかないのかな。
ん? いや、待てよ。
「そういやさっき、自らの技量でなんとかしろって言ってましたけど、実際にロックトータスを貫けるような人っているんですか?」
「あぁ……いるんじゃねぇの。そんな話は聞くしな。すげぇ冒険者が大地を叩き割ったとか、どっかの国の騎士団長が鋼鉄の門をぶった斬ったとかよ。そういう奴らならロックトータスでも真っ二つなんだろうぜ」
「実際に見たことはないんですか?」
「おいおい、俺はここで
まぁそうか。こんな店の中で武器を本気で振り回すなんてないか。
しかし、なんとなく分かってきたのは、この世界でも物理武器でロックトータスを貫いたり鋼鉄の門を斬り飛ばしたりするのは
思えばAランク冒険者のゴルドさんの本気の戦いをチラッと見たけど鉄の鎧ぐらいは叩き斬っていたイメージだし、それぐらいの存在になると可能になるのだろうか。
「で、どうすんだ?」
「作ります! 丈夫で魔力の通りが良い槍を」
とりあえず今は槍が欲しい。斬れ味が良くて
「長さはこれぐらいで、穂先はこんな感じ」
「なるほど、じゃあ
自分の理想とする槍のイメージを親方に伝えていき、親方からもフィードバックを貰ってイメージを修正していった。
そして大体の形が決まった頃、親方が別の話をし始めた。
「ところでお前さんが持ってるその棒、ちょっと見せてくれねぇか?」
「これですか?」
手に持ってるミスリル合金カジェルを親方に渡すと、彼はそれをゆっくりと確かめていった。
「
「分かるんですか?」
「ミスリルはアンデッドに効果が高い。打撃武器もアンデッド向きだ。だがこの金属量を必要とする武器にミスリルを使おうとするとかなり高くなっちまう。普通はこんな武器は作らねぇよ。あるとしたらアンデッドダンジョンがあったアルッポしか考えられねぇな」
「なるほど」
やっぱり希少価値の高いミスリルを棒状にすると剣や槍なんかより多くの量を必要とするし、
「これ、いくらしたんだ?」
「確か……金貨一〇〇枚だったような」
「おいおい安すぎだろ……それじゃ赤字だぜ」
「あぁ、確か売れ残ってて、それで値引きしてくれたんじゃないですかね」
「よくやるな……」
親方からミスリル合金カジェルを返してもらう。
「それで、槍はいつ出来るんです?」
「そうだな……。ここ数日は仕事も入ってねぇから暇だしよ、
「じゃあ数日後に様子を見に来ますね。これは手付金の金貨三〇枚です。残りの七〇枚は完成後に」
「あぁ、良いモノ作ってやるよ」
「期待してます」
鍛冶屋を出て調査依頼に向かう。
来た道を戻り、門に向かい歩きながら周囲の店なんかを確認していく。
「開いてる店、減ってきたな」
大通りでも以前より看板が外されている店が目立つようになってきた。
最初この町に来た頃、大通りには人が
空を見上げると雪がパラパラと舞い降りてきた。
寒くなってきたから閉店してるのだろうか。
「まぁ、冬はそんなもんか」
気持ちを切り替え門を出て廃坑を目指す。
今日は以前にも確認した四号坑道だ。確かクラクラ茸が生えている場所だったはず。
解けてみぞれになった雪をシャリシャリ踏み
そんな道を暫く歩いていると
「これは……早めに帰らないと危ないかも」
やっぱり防水性能は現代日本の靴より弱いし仕方がないけど、下手をすると
少し急ぎながら目当ての廃坑に入り、サクサクと中を確認していく。
廃坑調査は既に何度も経験しているし、この廃坑は前に調査した場所だから問題なく進んでいく──が、廃坑の奥、マギロケーションに反応を感じた。
「……人、か」
この洞窟はクラクラ茸が生えているため採取しに来る人がいる──というか前回はジョンのパーティに会ったし、今回も人と会っても別におかしくはないのだけど。
「一人だけってのが少し気になるんだよね」
比較的、町から近い場所だとはいえ外にある廃坑だし、ここのクラクラ茸を口にしなきゃ食っていけないようなレベル帯の人が一人で来るのは危険だ。普通はモンスターと
「……どうするかな」
気配を消して近づくか、堂々と近づくか……。
こういった時は、こっそり近づくという
「まぁ、今回は気配を消しながら近づいてみるか。これもあるし──闇よ」
光源を消して闇のローブの効果を発動した。
暗闇の中、身体が周囲の闇と同化していく感覚があり、気配も薄くなった気がする。
アルッポのダンジョンのボスだったリッチが装備していたこの闇のローブは高性能で、闇の中で効果を発動すると姿だけでなく音なんかもかなりカットしてくれる。その効果はリッチとの戦いの中で実感済みだ。
ただ、明るい場所では効果が薄れるようで、昼間だと効果があまりない。
マギロケーションを3Dレーダーのように使いながら慎重に人の気配の方に歩を進める。
完全に気配を消せるわけではないので音を出来るだけ出さないようにする。
暫く進むと曲がり角の奥からぼんやり光が見えてきた。
ミスリル合金カジェルを握り直し、ゆっくりと近づいて曲がり角から顔だけ出して
「……」
そこにいたのは、人。黒いローブを纏い、地面に
それを暫く観察。
その人物は地面に大量に生えているクラクラ茸を採取し、品質を確認しているのか角度を変えて眺めたりした後、
クラクラ茸を採取しに来た人らしい。どうやらボッチ説が正解だったか──と安心しかけた時、その人物が顔をこちらに少し傾け、その顔に張り付いている白い仮面が見えた。
光に照らされた白い仮面が能面のように暗闇に浮かび上がる。
なんだ? 仮面? どうしてそんなモノをする必要がある?
普通に考えると正体を
もっとよくその人物を観察してみる。
よく見ると、その人物の着ている黒いローブは破れもなくキレイだし、黒い手袋なんかもしている。どうもスラムの住人には見えない。
「……」
さて、どうするか。
かと言ってあの人とここで
それはそれで良くない感じがするし……。
そうこう考えている内に仮面の男は別の場所に歩いていった。
◆ ◆ ◆
「すみません、依頼の報告なんですけど」
「調査依頼ですね。どうでしたか?」
「そのことで、ちょっといいですか?」
「……わかりました」
受付嬢は後ろにいた別の職員に受付を任せると、カウンターから出てきて二階の会議室に僕を案内した。
「なにか問題でも?」
「問題、というほどの話でもないのですが、廃坑内で怪しい人物を見まして……」
「怪しい人物、ですか?」
彼女に洞窟内で見たことを
勿論、闇のローブとかのことは
「確かに、それは少し怪しいですね……。で、その人物とは接触しましたか?」
「いえ、気付かれてないと思います」
「それでいいと思います。これは調査依頼ですからね」
元々の約束として、対処出来そうなモンスターなんかは
受付嬢は手元の紙に色々と書き込んだ後、イスから立ち上がる。
「分かりました。これは上に報告しておきます。状況によってはまたご
「分かりました」
冒険者ギルドを出て空を見上げた。
太陽はまだ高い位置にあり、日が
「そうだ、教会に行こう」
あの廃坑にあんな変な人がいるとなると、クラクラ茸を目当てにあそこに出入りするジョンや孤児院の子らが少し心配だ。念のために忠告だけはしておいた方がいいかも。
そう考え教会に向かった。
そして雪が降る中、当たり前のように半裸でフンッフンッ鼻息荒い連中を気にしないように通り抜け、教会に入って司祭様に声をかける。
「こんにちは」
「おぉ、今日もお祈りですかな?」
「はい」
いつものようにお祈りを済ませ、銀貨を数枚、寄付。
「いつもありがとうございます」
「ところで、クラクラ茸が採れる廃坑のことなんですが──」
と、廃坑で見た
「ふむ……不審者ですか」
司祭様は少し考え込むような
「その不審者に、仮面とローブ以外に変わった部分はありましたか?」
「変わった部分ですか?」
「そうです。例えば
思い出してみるけど不審者は全身がローブで覆われていて他の持ち物は確認出来ていない。
「いえ、全てローブで隠れていたので見てません」
「それではランプはどうですか? 廃坑の中なら明かりが必要なはずですから、あったはずです。
「明かり……」
そう言われてみればそうだ。もう一度よく思い出してみる。
確か不審者は地面に屈みながら作業をしていて、その手元を照らした明かりは──
「あぁ、確か
「光源の魔法ですか……。ランプではなかったのですね」
司祭様は少し考えた後「分かりました」と続けた。
少し気になったので聞いてみる。
「明かりがランプだと、なにかあるのですか?」
「ふむ、そうですな。例えば形や装飾などで持ち主の身分が大体推測出来ますし、モノによっては職人を特定することも可能でしょうな。紋章なんかが入っていれば、どこの家の人間かが分かるかもしれませんぞ」
なるほど……。
「凄い推理力ですね……」
「ほっほ……長く生きておれば色々とあるのですよ」
そう言って司祭様は軽く微笑んだのだった。
