本番にはいないのに打ち上げには参加する人の話



「今日は厄やく日びなのか?」

 そう言いながら町に向かって走り出す。

 スタンピードがあったのか? いや、それならもっとそこらに爪つめ痕あとを残しているはず。

 なら、どこかの軍が攻せめてきたとか? もしくは大型モンスター?

 しかし遠くから見る限り、こちら側からは壁かべや門が破は壊かいされているような様子は確かく認にん出来ない。

 まったく意味が分からないまま雪道を駆かけ抜ぬけ、ようやく門のところに到とう着ちやくして荒あらい息を整えるために下を向き、そして顔を上げたら中年女性が門の外で掃はき掃そう除じをしていた。

「……」

 そこにはいつもと変わらない光景が……いや、いつもなら門のところに兵士がいたし、わざわざおばさんが門の外を掃除しに来るなんてなかった気がするぞ。

 おかしいけど、おかしいようにも見えない。不思議な感覚で脳がバグりそうになる。

 門の方に近づいておばさんに話を聞こうとした。

「すみません。今戻もどったんですけど、なにがあったんですか?」

「ん? あぁ、もう終わったよ。今は広場で打ち上げでもしてるんじゃないかねぇ」

 それだけ言うとおばさんは掃除へと戻っていった。

 もう終わった、とはどういうことだろう。今日はなにかイベントでもあったっけ? 収しゆう穫かく祭さい……は終わったし、冬だし雪まつりとか? いや、煙けむりが出てたから花火大会かも! それとも時期を考えると新年会とか? ……いやいやいや、僕ぼくだけ新年会に呼ばれずに仕事で飛ばされてたとかイヤすぎるんだけど……。

「とりあえず冒ぼう険けん者しやギルドに行くか……」

 よく分からないまま門を抜けて町に入る。

 町は人の姿が少なく、なんだか店の片付けとか壊こわれた壁なんかを修理をしている人が多い。

 朝、出かける時に見た町より全体的に荒あれている気がする。

 これは! もしかして!

「牛追い祭りか!」

 ……いやいや、この周辺に牛系モンスターが出るなんて聞いたことないし、それはないな。

 だとすると……。

「トマト祭り的な?」

 う~ん……そこまで汚よごれてないからこれも違ちがうだろう。

 まぁでも、だんじり祭まつりとか御おん柱ばしら祭さいとかみたいな奇祭がこの世界では普ふ通つうに行われている可能性も否定出来ないんだよね。僕にもまだまだ理解出来ていない風習なんかは普通にまだあるだろうしさ。

 色々と考えながら町の中心部に歩いていくと、段々と賑にぎやかな声が聞こえてくるようになった。そして広場に近くなると、多くの人々が通りに繰くり出していて、楽しそうにカップに注がれた酒を呷あおっているのを目にするようになってきた。

 よく見ると多くの人の服はボロボロになっていたり、怪け我がをして血が滲にじんでいたり、包帯を巻いている人も少なくない。

 しかし彼かれらの顔は晴れやかで、実に楽しそうだった。

 これは、もしかして!

「そうか! 喧けん嘩か祭りか!」

 キュピーンと閃ひらめいて手を叩たたく。

 確か日本にも素す手でで殴なぐり合う奇祭があったはず。それならこの異世界に似たような祭りがあってもおかしくないぞ!

 あまりに完かん璧ぺき過ぎて冴さえまくる名推理に気分を良くしながら冒険者ギルドに入り、受付に完かん了りよう報告した。

「調査完了です。内部にモンスターがいましたが、成り行きで討とう伐ばつしておきました」

「それはご苦労様です」

 例のモンスターの報告について色々と考えた結果、とりあえず『内部にいたモンスターを討伐した』という事実だけを報告することにしたのだ。

 しかし今日は冒険者ギルド内もやけに賑やかで、いつも以上に人が多く、筋きん骨こつ隆りゆう々りゆうなむさっ苦しさに溢あふれているんだよね。

 受付嬢じように聞いてみる。

「今日は賑やかですね。なにかお祭りでもあったんですか?」

 これでさっきの名推理の答え合わせをしようとしたのだけど、聞いた瞬しゆん間かん、受付嬢がピクリと止まって驚おどろいた顔をした。

「えっ? もしかして、ルークさんはさっき帰ってこられたのですか?」

「えぇ、勿もち論ろんそうですよ」

 受付嬢は難しい顔をして、少し考えるような素そ振ぶりを見せた。

 僕の名推理は誰だれにも言っていないのに、そんなに驚かれてるのが意味不明すぎるんだけど?

 えっ? もしかして本当に僕抜きで新年会してたパターン? それで気まずくなってる感じ? いやいやいや……。えっ? 噓うそでしょ?

 などと内心で冷や汗あせをかいていると、受付嬢が言葉を選ぶように喋しやべり始めた。

「あの、説明が難しいのですが、簡単に説明するなら──革命が起きました」

「……えっ? 革命って、あの革命ですか?」

「えぇ、その革命ですね」

 意味が分からなすぎて頭の中が『?』で埋うまっていく。

「いや、まったく意味が分からないのですが。では、この騒さわぎは?」

「ソルマズ王家打だ倒とうと聖女エレナ様を祝福する祝しゆく宴えんですよ!」

「……は?」

 頭の中の『?』がどんどん増えていく。

 ソルマズ家の打倒? エレナ? えっ? エレナ?

 どこに、なにが、どうして、それが関係するんだ?

 なにがなんだか余計にさっぱり分からなくなってきた……。

 そうして僕だけが取り残された世界で宴うたげは勝手に続いていった。

 僕が『桃もも栗くり三年柿かき八年だけど妖よう精せいの薬を使えばほぼ一瞬』であることを思い出して唸うなったのは暫しばらく後のことであった。


◆    ◆    ◆



真の黒幕



「こうなることは分かっていたはずだ」

 大理石で作られた豪ごう華かな部屋。その中に散らばるかつて兵や貴族だったモノ。

 そして壁にもたれかかるように血の海に沈しずむ男。

 その男に剣けんを向けながらサリオール伯はく爵しやくは静かに語りかけた。

 彼の声は怒いかりを含ふくんでいるようで、悲しみに溢れているようで、やるせなさが滲んでいるようで、様々な感情に満ちている。

「それでも、こうする……しかなかったのですよ……」

 男は力なく。絞しぼり出すようにそう言った。

 誰の目から見ても男の命が尽つきようとしていることは明白であった。

「こんなことが、お前の望んだことなのか? こんなことが……」

 語りかけるサリオール伯爵の声は震ふるえている。

「この国は腐くさり切っていた……他に方法は、なかった……」

 男は巧たくみに王族や貴族、官かん僚りようまでもそそのかし、煽あおり、操あやつり、彼らに悪あく辣らつな行動を取るように仕向け、国内に火種が燻くすぶるように仕向けていった。そしてそれが雪で他国から攻められにくい冬の時期に上う手まく爆ばく発はつするように誘ゆう導どうしていたのだ。

 全すべては彼の計算通りだった。一つを除いて。

「だとしても。どうしてコット村を襲おそった? 何な故ぜあいつを、スコットを殺した?」

「計算外でした……。まさかスコットがあんなに抵てい抗こうするなんて……。抵抗しなければ、あそこまでの被ひ害がいはなかった……」

 サリオール伯爵、コット村の村長スコット、そしてこの男。三人はその昔、王立学院で学友だった。

 一いつ緒しよに笑い、遊び、語り、時には悲しみも共有した仲間。しかしその三人も、一人は死に、もう一人の命もすぐに消えようとしていた。

「お前が逝いったら私はどうなる! 私を置いていく気か?」

「貴方あなたには……大勢の仲間がいるではないですか……」

 それは自分にはなかったモノだと男は思った。

 男は言葉を続ける。

「それに私は……あちらで……スコットに、詫わびなければ……」

 そう言いながら男は血を吐はいた。

「おいっ!」

 堪たまらず剣を投げ捨て、サリオール伯爵は男に駆け寄る。

 男の顔は青白く、もはや時間が残されてないことは明白だった。

 男はその青白い手で、信じられないような力でサリオール伯爵の手を握にぎり、最後の力を振ふり絞るように言葉を発する。

「王に……なれ……」

 その言葉がサリオール伯爵の心に突つき刺ささる。

 男の手から力が抜けていく。体からも力が抜けていく。

 そして魂たましいさえも抜けていく。

 サリオール伯爵は男の体を地面に横たえ、静かに神に祈いのった。

 その男は確かに大罪を犯おかしたが、それでも、友としては祈ってやりたかった。

 サリオール伯爵は立ち上がり、前を向く。

「安らかに眠ねむれ、内ない務む卿きよう殿どの……いや、我わが友オザンよ」

 静かにその言葉だけを残し、サリオール伯爵は部屋を後にする。

 国のためにも、民のためにも、そして友のためにも、立ち止まることは許されないのだから。


◆    ◆    ◆



伝説の聖女の冒険



 その昔、ステラという女が王都ソルマールにあるスラムに生まれ落ちた。

 スラムでの生活は過か酷こくで、その日に食べるモノにも事欠く有様だったが。そんなある日、ステラはツルハシを担かついで鉱山に向かおうとして一つのキノコを発見した。

「なんだこれ? 食えっかな?」

 そう言い終わるやいなや、ステラはノータイムでそのキノコを口に放ほうり込こみ、ムシャムシャと咀そ嚼しやくする。

 食えそうなモノは誰かに取られる前に口に入れるという、スラムで彼かの女じよが得た生きるための知ち恵えだった。

「うん、悪くないな!」

 しかし数分後、ステラの体に異変が起こる。

「……頭がクラクラするぞ」

 少しのフラつきと思考がどんどんネガティブになる精神効果。そのキノコは毒キノコだったのだ。

 しかしステラは動じない。

「まぁ、でも食える食える! クラクラするからクラクラ茸だけと名付けよう!」

 ステラはクラクラ茸の毒ですら撥はね返す鋼はがねの肉体と精神を持ち合わせていたのだ。

 そうしてクラクラ茸を栽さい培ばいしたり鉱山を掘ほり返したりイエティを退治しながら月日は流れ、気が付けばステラは立派な冒険者になっていた。

 冒険者ギルドの中、モシャモシャと肉を食べていたステラに冒険者が話しかける。

「おう、ステラ、仲間がちっとやらかしちまってな。治してやってくれや」

「いいぞ。銀貨五枚な!」

「司祭でもねぇのにちゃんと金は取りやがる。しっかりしてやがるぜ!」

「おいおい、教会なんかより良心的だろ?」

「ちげぇねぇな! アレに比べたらお前が聖女様に見えてくるぜ!」

 ステラはいつの間にか、どこからともなく回復魔ま法ほうを覚えてきて、暇ひまな時に冒険者などの怪我を治す副業をしていたのだ。

 そして回復魔法が使えるようになった頃ころからステラは周囲から驚かれる程ほどツイていた。

「はっはー! また成功だぞ!」

 ステラは嬉うれしさのあまり武器を掲かかげながら謎なぞのポーズを取る。

 何故かステラが武器強化をするとほぼ確実に成功するのだ。他の冒険者からしたら意味が分からない。

「一〇連続成功……バカな……」

「もしかして、あのポーズに秘密があるのでは?」

「俺おれも真ま似ねしてみるか……」

 力こぶを作ったり体を捻ひねってみたり脚あしに力を入れてみたり。筋骨隆々の男達たちがやればサマになるが、華きや奢しやな少女であるステラがやるとちょっと変だった。

 そうしてソルマールでは武器強化の前に変なポーズをキメるのが伝統になったのだが、それはまた後の世の話。

 そんなことがありつつもソルマールで平和に暮らしていたステラだが、ある日、彼女に危機が訪おとずれた。

「なんだって! イエティが群れで襲ってきたって?」

「山の奥おくから出てこないイエティがどうしてこんな場所に……」

 なんと、イエティの大群が町に攻め込んで来たのだという。

 他の冒険者がうろたえている中、ステラは立ち上がる。

「ふざけやがってイエティめ! どんだけ倒たおしてもまともな金にならないクセに私の住んでる町を襲うなんて! ぶっ潰つぶしてやる!」

 そう言ってステラは冒険者ギルドから飛び出し、ユニコーンに乗って駆け抜けていった。

 そしてその日、町の周辺に巣くっていたイエティは絶ぜつ滅めつした。

 聖女ステラの伝説はこうして始まったのである。