エピローグ これから
アマテラス号のメンテナンスを終えたシゲルたちは、その後半月ほどを掛けて残り三つの国を訪問した。
ほかにもまだ行く予定はあるのだが、とりあえずは一区切りということで、現在はフィロメナの家に落ち着いている。
超古代文明についての各国への報告は、これまでの国が落ち着くまで
それぞれの国の対応によって、話の広まり方も変わってくるはずなので、その様子を見ようということになったのだ。
さらに、
そしてシゲルはというと、次の目的地へ向かう前に『精霊の宿屋』の調整を行っていた。
まず、今までずっと変えることのなかった小さな小屋を、きっちりとした家に作り換えた。
といっても、精霊たちしか使う者がいないので、さほど大きな物を建てたわけではない。
さらに、以前から考察していた、建物を建てると精霊が喜ぶのかということを試すためにも、ほかに二つほど追加した。
それらの建物は、当然ながらラグとリグの意見を参考にして建てている。
「──本当に一軒家で良かったの?」
一応ラグが言った通りに建てたのだが、シゲルは再度確認するように聞いた。
「はい。いずれは集合住宅を建てても良いとは思いますが、今はそれで十分です」
ラグの答えに、シゲルはそうかと
そもそも精霊は、家に住むわけではないので、一軒家か集合住宅かはさほど重要ではない。
それよりも、契約精霊たちの管理のしやすさから一軒家を選んだのだ。
さらに、それらの建物を建てる際にシゲルが気付いていなかったことをラグから指摘されていた。
「それにしても、建物を管理するのに精霊の数が必要になるのを、すっかり忘れていたよ」
自然の物であれば、ある程度放置でも大丈夫なのだが、人工物となると精霊にとっては特別な手間をかけなければならないため、余分な手が必要になる。
三軒程度であれば、今まで通りに一体の精霊で朽ちないように管理ができるが、それ以上となるとさすがに難しくなってくる。
もしこれ以上建物を増やすことを考えるのであれば、『精霊の宿屋』を管理する精霊を増やして対応していくしかない。
ただ、それをすると今度は探索をする精霊が減ってしまうので、これまでの効率が落ちてしまうのだ。
効率を落とさずに建物の数を増やしていくには、方法は一つしかない。
「一つ聞くけれど、契約精霊は増やしてもいいのかな?」
少し遠慮するようにそう聞いて来たシゲルに、ラグは
「むしろ『精霊の宿屋』を管理する手が増えれば、訪問してくる精霊が増えることも考えられます。できれば、そうしていただけるとありがたいです」
ラグの答えを聞いたシゲルは「そうなんだ」と
シゲルとしてはそういうことは最初から教えてもらえるといいのだけれどと思わなくもないが、そもそもラグもリグもシゲルが聞かない限りは余計なことは言ってきたりしない。
『精霊の宿屋』に限らず、基本的にシゲルのすることを尊重しているのである。
自由奔放に見えるリグでさえそうなのだから、ラグが自ら言い出すことはほとんどないのである。
これまでの付き合い(?)で、十分にそのことを理解しているシゲルは、ラグに文句を言うでもなく契約精霊をどうするかを考えていた。
契約精霊の数が増えればシゲルの管理が大変になるが、余裕はできる。
そうとなれば、ここで契約精霊を増やさないという選択肢は無いにも等しい。
少しだけ考えていたシゲルは、言葉を待っていたラグに向かって言った。
「それじゃあ、また候補を連れて来てもらっていいかな?」
「分かりました。今度も一体だけですか?」
「そうだね。そのほうが良いと思う」
あまり一気に契約精霊を増やしても、シゲルが管理するのが難しくなる。
精霊たちの能力は、作業量にも密接に関係してくるので、適当な指示はできないのだ。
とはいえ、この後建物を増やすことを考えれば、もっと契約精霊の数を増やす必要も出てくるだろう。
その辺りのことは、今後の課題としてシゲルがきちんと考えなくてはならない。
希望する精霊を集めてきますと言って姿を消したラグを見送ったシゲルは、続いて精霊たちのステータスを確認することにした。
まず、スイとサクラだが、残念ながらまだ上級精霊にはなっていなかった。
ラグたちの時のように、大きくなっているところを見ていないので分かっていたことだが、それでもやはり残念ではある。
「うーん。やっぱり理由が分からないともやもやするな」
上級精霊にするには、数の限界があるのかとか、ほかに精霊の数を増やせばいいのかとか、いろいろ考えてみる必要があるかも知れない。
考えたくはないが、これまで大精霊からもらってきた三つのアイテムが関係しているかも知れないとさえ考え始めている。
必ずしも大精霊から物をもらえるはずがないので、できればそんなことは考えたくはない。
──ないのだが、それが条件になっている場合は、どうにかしなければならない。
最悪、三体の初期精霊が、精霊にとっての特別なアイテムを作れるようになるまで待つしかないということもありえる。
生産スキルが伸びているラグやサクラは、シゲルには何に使っているのか分からない物まで作りだしているので、いずれはそうした物も作れるようになるかもしれない。
とはいえ、まだまだ先が長そうな道のりが待っているはずだ。
できれば、そこまで待たなければならないということは避けて欲しいというのが、シゲルの本音ではある。
スイやサクラのランクアップはともかくとして、ほかの四体の精霊は順調に成長している。
初期精霊の三体は上級精霊のFランクで、ノーラは中級精霊のAランクまで伸びていた。
ノーラの伸びが、ほかの精霊たちよりも早い気がするが、これは以前にリグから話を聞いて理由が判明している。
その理由とは、上級精霊であるラグたちがいるために、効率よく技術を伸ばすことができているからということだった。
ただ、これでノーラも中級精霊のAランクになってしまったので、スイやサクラと同じように成長が止まってしまう可能性がある。
これであっさりとノーラだけがランクアップしてしまうと、それはそれでまた意味が分からなくなってしまうのだが、こればかりはその時になってみないと分からない。
できればそんなややこしいことにはなってほしくないと思いつつ、シゲルは『精霊の宿屋』を閉じるのであった。
そして、ラグが新しい契約精霊候補を連れてきたのは、翌日の午前中だった。
ポンポト山に行くまではまだ時間があり、ゆっくり選んでいいとシゲルが伝えていたので、ラグたちもじっくり探したようである。
今回ラグが連れてきた精霊たちは全部で五体だった。
その中には、以前連れてきていた精霊も交じっている。
期待するような視線を向けられる中、シゲルが選んだのは一体の獣(猫)型の精霊だった。
なぜ以前も来てくれた精霊を選ばずに、その精霊を選んだかといえば、可愛かったからというだけではなく、火系統の精霊だったためである。
これで土水火風木の五系統が
シゲルがその精霊を選ぶとほかの四体はがっかりするような顔になっていたので、シゲルとしても心苦しかったが、やはり一気に増やすわけにはいかない。
『精霊の宿屋』の管理のためには多くの契約精霊がいたほうが良いと分かっていても、今はまだ実験段階なので、そんなに簡単に増やすわけにはいかないのだ。
契約精霊を増やしすぎたとしても、契約を解除することは可能なのだが、これだけ懐いてくれている精霊を簡単に解雇(?)するような真似はしたくないのである。
とにかく、新しく入った精霊をアグニと名付けたシゲルは、早速そのステータスを見てみることにした。
「おー、火炎なんてスキルは、初めて見たね」
「はい。その魔法が使えるために、選びましたから」
シゲルの言葉を拾ったラグが、頷きながらそう言ってきた。
ラグにとっての精霊選びの基準は、シゲルの役に立てるかどうかだ。
それを考えれば、戦闘で使える火炎スキルを持っているアグニが最適だったのだ。
新しい精霊が加わって、全部で七体になった契約精霊を見て、ミカエラは遠いところを見るような目つきになっていたが、ほかの者たちはさすがシゲルといつも通りの対応をしていた。
それで納得されるのも何か違うような気がしたシゲルだったが、現にあっさりと契約できてしまった以上は、何も反論することができなかった。
◇◇◇
アグニという火の精霊と契約したことによって、『精霊の宿屋』には五つの属性が揃った。
このことにより『精霊の宿屋』の調整は、さらにバランス良くできるようになった。
ただし、シゲルがそのことを実感できるのは、もう少し経ってからのことになる。
というのも、現状『精霊の宿屋』が入手できている精霊力は、初期の頃から比べてもかなり増えてきていて、頭打ちになる様子もなかった。
属性が増えればそれだけ精霊が訪問して来るということは想像できてはいたが、実際の効果としてはシゲルの頭の中で結びついてはいなかったのである。
結果としてアグニを加えた『精霊の宿屋』には、そこまで変わるのかと目に見えて分かるほどに火の精霊の訪問が増えることとなった。

勿論、アグニと契約しただけではなく、火の精霊たちが好むようなものを『精霊の宿屋』の中に配置していったこともその理由としてはあるだろう。
ただし、火の精霊が好むものをただ配置していくだけではなく、アグニが頑張って調整を行うことで、さらに精霊にとって住み心地がいい場所になっていることは紛れもない事実である。
そのことを知ったシゲルは、新しく加わったアグニは勿論、ほかの精霊たちにも改めて感謝を示したのであった。
アグニが加わったことにより『精霊の宿屋』が順調に発展している一方で、シゲルたちは次の目的地であるポンポト山について真剣に話し合いをしていた。
より細かく言うと、シゲルを除いた女性陣が真剣になっていた。
というのも、シゲルはそのポンポト山がどういう場所にあるかということを知らなかったために、女性陣とは違った認識を持っていたのである。
「────と、いうことは、ポンポト山は魔族の領域にあるってことなんだ?」
「そういうことだな」
シゲルの言葉に、フィロメナが困ったような表情になりながら小さく頷いた。
今シゲルの目の前で女性陣が全員似たような顔になっている理由は、今シゲルの言ったたった一言がすべての答えであった。
魔族の領域というのは、その名の通り魔族たちが住んでいる場所になる。
いくらフィロメナが勇者と呼ばれる存在であっても、そうそう簡単に乗り込んで行けるような場所ではないのだ。
「山での探索は勿論、もし途中で見つかったりしたらそもそも山に向かうこと自体不可能になってしまうわ」
ミカエラがそう言うと、マリーナも重々しい感じで頷いた。
「そうね。一度見つかってしまえば、再チャレンジはもっと難しくなると思うわ」
マリーナがそう言うと、フィロメナも同調するように頷いた。
空飛ぶ船という普通ではあり得ない方法で魔族の領域へと侵入できるのは、マリーナが言ったとおり魔族に見つかるまでということになる。
一度見つかってしまえば、何らかの対処方法を取ってくるというのが魔族なのだ。
現状、いくら魔族とはいえ、大精霊に守られているアマテラス号に何かできるとは思えないが、船だけが領域に入ることができても意味がない。
シゲルたちの目的は、あくまでも超古代文明遺跡の調査なのだ。
この後、シゲルたちは色々な角度から話し合いを行い、最終的にはポンポト山の調査を行うことを決定する。
魔族の領域への危険性は勿論理解しているが、それよりも大精霊が勧めてきた場所へ行かないのはあり得ないだろうという意識が強く働いたのは言うまでもない。
勿論それだけではなく、人にとってはほとんど未知の領域での調査は、今後の活動においても重要な意味がある。
さらにシゲルの持つ『精霊の宿屋』にとっては、魔族の領域での採取により新しい素材を入手できる可能性もある。
『精霊の宿屋』で使える素材が多くなれば、それだけ箱庭の成長を促すための選択肢が増えるはずである。
そうすれば、シゲルと契約している精霊たちもまた、能力が伸びる可能性が高くなる。
そして、シゲルたちは十分に準備を整えたところで魔族の領域へと向かうのであった。
そのことが、自分たちのさらなる成長を促すことになるだろうと信じた上で。