閑話 おにぎり
ラウラがフィロメナの家に滞在するようになってしばらくたったある日のこと。
ラウラが姫であるにもかかわらず料理ができるという特技を知ったシゲルは、慣れた様子で夕食の準備をしている彼女を見ながら、ふと何かを思いついた様子で言った。
「ああ、そっか。ラウラたちがいるんだったら、折角だからあれでも作ってみるか」
「あれ、ですか?」
首を傾げながら疑問の表情になるラウラに、シゲルは一度だけ
「うん。準備……はともかくとして、一手間かかるから避けていたんだけれど、ラウラがいるんだったらおかずの用意は任せられるからね」
「おかず……ということは、お米かパンに何かされるのですか?」
「そういうこと。──あとは、できてからのお楽しみということで」
後半は少しだけ
「そういうことでしたら楽しみにしておきます」
「あ~、何かそう言われると期待が重くなる気がする……けれど、まあ、楽しみにしておいて」
シゲルがそう言うと、ラウラは短く「ハイ」と答えるのであった。
おかずの用意をラウラに任せたシゲルは、家の台所から離れてアマテラス号に向かった。
折角なので何を作るのかラウラたちにも隠しておきたかったのと、火の数を確保するためにアマテラス号にある調理場を使うことにしたのだ。
アマテラス号の調理場に着いたシゲルは、まず大小二つの
そして、その中にいつもよりも少し多めに研いだ米を分けて入れた。
「お米を二つ炊くの?」
ここで、シゲルの作業を見守っていたリグが、肩にノーラを乗せながらそう聞いてきた。
いつもは一つの大きな鍋で炊いているので、疑問に思ったのだ。
「うん、そう。これがあったからわざわざこっちに来たんだよね」
シゲルはそう答えながら小さい鍋に醬油を適量垂らした。
「──うん。大体こんなもんかな? 自分で作るのは初めてだけれど……まあ、何とかなるか」
この世界には計量カップなんて便利な物はないので、全て目分量になってしまう。
そのため最初はどうしても勘になってしまうのだが、こればかりはどうしようもない。
シゲルは、上手くいくことを願って、二つの鍋を火にかけるのであった。
『はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いても
そんな
「お~。できている、できているな。……匂いは上出来。あとは味──」
そう言って小さい鍋の方から炊き上がったお米を自作したヘラで混ぜながら、最後にぱくりと一口分だけ味見をしてみた。
「──うん。
そう自画自賛したシゲルは、何度か頷きつつもう片方の大きい鍋も開けて炊き上がった米をかき混ぜ始めた。
これでお米は炊き上がったのだが、シゲルがやりたかったのは、醬油味が付いた米を炊くことだけではない。
それならわざわざ二つの鍋に分けて炊いたりはしなかっただろう。
きちんと米が炊き上がっていることを確認したシゲルは、まず醬油味を付けていない米からおにぎりを作り始めた。
そして次に、作ったおにぎりの半分を、米を炊いている間に用意した味噌を付けてフライパンの上で少しだけ焦げ目が付くまで焼き上げた。
そう。これで、味噌にぎりの出来上がりである。
残りの半分は白米のまま塩を付けて、いわゆる塩にぎりを作る。
そして最後に、醬油味のついた米を同じように三角おにぎりにして目的のものは完成である。
「よし。できた!」
それに、海苔が無い方が、味が比べられて初めて食べる者にとっては楽しめるはずである。
しっかりと人数分以上のおにぎりを作り終えたシゲルは、女性陣がどんな反応をするのか楽しみで、完成したおにぎりを見て思わずニヤリと笑みを浮かべるのであった。
◇◇◇
大皿に並べられた三種類のおにぎりを見た女性陣は、不思議そうな顔をしていた。
「これがおにぎりって言うんだけれど……そうか。フィロメナたちも初めてだったね」
味噌や醬油は勿論、海苔が無かったのでシゲル自身もあまりおにぎりにしたいという気にはならなかったのだ。
それに、異世界にお米があるということが
「いつまでも眺めていても仕方ないから、食べ始めようか」
シゲルがそう呼び掛けると、女性陣は
テーブルにはすでにラウラとビアンナが作ったおかずが並べられている。
シゲルは、そのうちの一品に口を付けてから、まずは醬油にぎりに手を伸ばしてパクリと食べた。
「うん。
そのシゲルの言葉が引き金になったのか、女性陣もそれぞれ気になっていたおにぎりに手を伸ばした。
そして、最初に味噌にぎりを食べたフィロメナは、
「な、なんだ、これは? 味噌が塗ってあるのか!?」
「あ、こっちは醬油の味がする」
フィロメナに続いて、今度はミカエラが目を丸くしながら言った。
「こちらは何もついて……いえ、塩が振ってあるのでしょうか」
「そうみたいね。少しだけしょっぱさがあるわ」
ラウラの感想に、同じように塩にぎりを食べていたマリーナが続いた。
「全員正解。それぞれ味噌、醬油、塩で味付けしてあるおにぎりだね。──あ。ちなみに、おにぎりというのは、炊いたお米をこんな風に三角とか丸くして作る料理のことね」
今回は三角にぎりにしたが、
シゲルはどのおにぎりも好きなので、形にこだわりはないのだ。
シゲルが作った三種のおにぎりは非常に好評で、作ったものは全て無くなってしまった。
無くなったことを残念がるフィロメナたちに、シゲルはいつもよりも多くのお米を使っていることを話して、また驚かれることとなる。
そして、おにぎりにすると食が進むという魔物に取りつかれることとなったフィロメナたちは、また機会があれば作るようにとシゲルにおねだりをすることになるのであった。