※本書き下ろしの内容には本編のネタバレを含みます。


「かっ、かわいいーっ!」

オルトゥスのホール中にサウラさんの叫び声が響いた。まさかこんなに感動するとは思っていなかったから、俺は思わずビクッと肩を揺らしてしまう。

「この写真はどうしたのよ、リヒト!」

しかも続けてものすごい勢いで問い詰めてくるものだから、一歩後ろに後退ってしまった。めてたわ。オルトゥスでのメグの愛されっぷりを。

いや、愛されまくっているのはわかってたけど、認識が甘かったんだと思う。まさか幼い頃のメグの写真でここまで大喜びするとはね。……まぁ、確かにめちゃくちゃ可愛いけどさ。

そう、この特級ギルドオルトゥスの統括とうかつであるサウラさんをここまで叫ばせた原因は、俺が持ってきたアルバムにあった。

「いやぁ、魔王様……ザハリアーシュ様の執務室を片付けてたら出てきたんすよ。しっかりアルバムにまとめて専用の本棚まであって」

俺ですら見つけた時は小さな声で「おぉ」って声が出ちゃったもんね。そのまま、小一時間ほど写真に見入ってクロンに注意されたっけ。でも結局、クロンもその後ずっと写真を見入っていたのには笑ったな。

だが、それも仕方のないことだ。写真に残っていたザハリアーシュ様はどれもこれも生き生きしていて、生前のことを思い出さずにはいられなかったんだから。

写真が撮られた場所は、主に魔王城。城下町で撮っているのもあった。まだ少年だった頃の俺やロニーの写真もあったし、子ども園の子どもたちと遊ぶメグの写真なんてのもある。でも一番多いのはザハリアーシュ様とメグのツーショット。改めて見ると本当に美形親娘おやこだと思ったね。もはや芸術作品と言っても過言じゃない。

「なるほどねー。でもこれは魔王様だけじゃなく、メグちゃんのことが大好きな人ならみんなやるわよ。はっ! ということは頭領も持っている可能性があるわね。探さなきゃ!」

ユージンさんか。うん、やってそう。そんな素振りを一切見せてないけど密かに集めてそうだ。

「探せば出て来るかもですね。ちなみに、映像の記録もたくさんありましたよ。そっちは魔王城内部の情報があふれてるんで、持ってきてないんですけど」

「動く幼いメグちゃん!? っくぅ! 見たい! 絶対に頭領のところから見つけ出してみせるわ!」

俺の言葉にサウラさんのテンションはさらに上がってしまったようだ。メラメラと燃えている。オルトゥスの会議室にある大型スクリーンで鑑賞したいわ、だなんて言ってるし。

オルトゥス総出の大騒ぎにならないといいけど。部外者の俺は見て見ぬフリをしておこう。

「ああっ、カメラという魔道具が出来ていて本当に良かったと改めて思うわね! 頭領の残した最も大きな功績だと思うわ!」

いや、もっとすごいことたくさんしてたでしょ、というツッコミが喉から飛び出しそうだったが、どうにか耐えた。ユージンさん、哀れな。

「でも、なぜここに持ってきてくれたの? メグちゃんの成長記録だけじゃなくて、魔王様もたくさん映っているのに」

「ああ、それは」

もっともな質問に、俺はまだアルバムに収まっていなかった分の写真を取り出してテーブルにサッと広げてみせた。

「これは、ザハリアーシュ様とメグの親子の記録だと思ったんで。メグが持っているべきかなって」

それに、まだ魔王城に似たような構図の写真がたくさんあったし。一応、今日持ってきた分は全て確認済みで、外に出しても問題ないものだし。

そう言って笑うと、サウラさんの顔が引きつった。たぶん、魔王城にあとどれだけ大量の写真があるのかと思ったんだろうな。そりゃもうたくさんですよ。たくさん。その意味も込めてさらにニッコリと笑ってみせた。

「そういうことなら何も気にすることなく渡せるわね。メグちゃんだって遠慮なく受け取ってくれるでしょう!」

さすがサウラさん。すぐに気を取り直して話題をぶった切ってくれた。そのままペラペラと写真を見始めている。切り替えの早い人だよなぁ。

「あら? この写真……」

ふと、サウラさんは一枚の写真に目を止めて不思議そうな顔を浮かべた。視線の先を辿たどると、涙をボロボロ流して大泣きしているメグと、ものすごく笑顔のザハリアーシュ様のツーショットを見ているようだ。

「ねぇ。メグちゃんがこんなに泣いていたら、あの魔王様は大慌てするはずなのに……なんでこんなに嬉しそうなの? それが不思議で思わず目に留まっちゃったわ」

なるほど。確かに当時のことを知らない人からすれば不思議に見えるかもしれないな。

「ああ、その時のことは俺も覚えてますよ。っつーか、その写真は俺が撮ったんで」

「えっ! そうなの? ねぇ、じゃあどうしてこんな状況になっているのか教えてくれない?」

どうやら俺の軽率な一言はサウラさんの興味を惹いてしまったらしい。しまったな。この時のことは俺的にちょっと話しづらいんだけど。

「し、仕事はいいんすか、サウラさん……」

「後でいくらでも取り戻せるわよ。それに、そんなこと聞かされたら気になって仕事に集中できないわ!」

いやそりゃ、サウラさんなら少しくらい大丈夫だろうけど。ただ、受付の奥で忙しく働いている人たちがソワソワしているのが居たたまれない。でもこの状態のサウラさんを相手に断れる人がいるだろうか?

「というわけで、聞かせてちょうだーい?」

俺には無理だ……! 身長差のせいで上目遣いになったこのキラキラな眼差しに勝てる気がしない。

「わ、わかりました。でも、別に面白い話じゃないっすよ?」

「それは私が判断するから。ほら、はやく、はやく!」

最後の抵抗もサラッと流されてしまった。仕方ない、腹をくくろう。こうなったらさっさと話してしまった方がいい。観念した俺は、当時を思い出しながら語り始めた。


あれは、俺が魔王城での生活にまだ慣れ切ってない頃だった。突然、魔王様に呼び出された俺はかなり緊張しながら執務室に向かったんだ。

当時の俺にとって、まだ魔王様は本当に畏怖いふすべき存在で。というか、まだどんな人かってのを測りかねていたんだよな。メグに対してはめちゃくちゃ親馬鹿だってのは知ってたけど、メグのいない場であの人がどんな様子なのかわからなかったから。

だって魔王だぞ? 転移者である俺にとってはただでさえ未知の存在だったし、怖い想像ばっかりしてたからさ。

「メグを呼んでパーティー、ですか……?」

「うむ。人間の大陸から無事に帰って来たであろう? 何かしてやりたいと考えていた時に、オルトゥスで歓迎会を開いたことがあるとユージンに聞いたのを思い出したのだ。その時のメグは嬉しくて泣いてしまうほどだったと」

だから、神妙な面持ちでそう言われた時にはすぐに理解出来なくて、つい聞き返してしまった。魔王様の近くで呆れたようにため息をいていたクロンの姿も印象に残ってる。

うらやましすぎるっ! 我も、可愛い娘を感動で泣かせてみたいぞ!!

いや、これどう反応するのが正解なの? ってかなり戸惑った。ロニーとかメグを相手にした時みたいにツッコミを入れそうになったけど、相手は魔王様だし? そんな葛藤かっとうからか何も言葉を返せずにいたんだ。

でも、魔王様はどこまでも真剣な様子で俺に意見を求めるように見つめてくるから、しどろもどろになりながら答えたんだ。

「いや、何も泣かせなくても……あー、でも。うん、わかります、けど」

否定的な意見から入ったことで魔王様の目がうるむ。それがわかった俺はすぐ、フォローになっていないフォローにシフトチェンジした。俺は空気が読めるんだ。

クロンが今度は呆れたような目を俺に向けてきたけど、仕方ねーじゃん! 俺は居候の身だし、主人の望む意見を言うべきだって思ったんだよ、その時は!

とにかく何か言った方がいいと考えた俺は、当たりさわりのない提案を告げた。

「じゃあ、やっぱりサプライズにしたらいいんじゃないですかね?」

「む、二番せんじになるのではないか?」

「こういうのって、定番でもあるんですよ。メグなら二度目だろうが三度目だろうが喜ぶと思います」

俺の言葉にふむ、と腕を組んだ魔王様はしばし何やら考え込んだ後にチラッとクロンの方を見た。

「クロンだったらどうだ?」

「私は注目されるのが苦手ですので」

「そなたはそうであるな……リヒトはどうだ?」

「お、俺っすか?」

こちらに話が振られるとは思ってなかった俺は慌てて答えた。

「俺は……そういうの、経験がないんでわかんないんすけど。でも、自分のために何かをしてもらえたら嬉しいと思います」

「そうか! そうであろう! ならば精一杯の気持ちを込めて準備をしようぞ!」

俺の答えは答えになっていなかった気がするけど、どうやらそれで魔王様はやる気を出したようだった。

いいのか、こんな答えで。そうは思ったけど、無邪気に笑う魔王様を見て、俺はようやく肩の力を抜いたんだ。この人は意外と、親しみやすい人なんだってことがわかったから。

俺は、見た目で判断していたんだ。魔王様はとんでもなく美形だから、逆に怖くて。そうやって無意識に壁を作っていたのは俺の方だったんだってこの時に気付いたんだ。

自分から魔王城に残るって決めたくせに、主人を怖がるなんて嫌なヤツだよな。優しい人だってことはわかっていたのにさ。俺は臆病だった。

この時に知れて良かったって思ってる。それから俺にとって魔王様が誰よりも信頼出来る、そして尊敬出来る人になっていったから。

「早速だがリヒト、サプライズパーティーをするにあたって、お前にも準備を手伝ってもらうぞ」

「は、はい。何をすればいいですか?」

「アイデアを出してほしいのだ。リヒトはメグのたましいと……同郷なのだろう? 故郷の味や遊びなどがあれば教えてもらいたいのだ」

確かに俺は日本人で、メグも生まれ変わる前は日本人だ。けど、いくら同じ日本人と言えど好みはまったく違ったりするから難しいな。遊びだって、メグが何を好きだったかまでわからないし。

俺がうーんと悩んでいると、魔王様はフッと優しく微笑んだ。

「あまり難しく考えなくともよい。リヒトが好きなもので構わぬのだ。自分の好きなものを用意した、といってもメグは喜ぶであろう?」

メグへのサプライズなんだからそれはどうだろう、と思いかけたけど……メグなら確かに喜びそうだよな。あいつ、自分のことより人のことで喜ぶから。

実際、ここでメグの好みについてあれこれ悩んでいたって直接聞くでもしない限り答えなんかでない。俺の好みで、かつメグが好きそうなものを考えてみようかな。

「必要なものがあればクロンに言うといい。ユージンが各地であらゆる故郷のものを探したからな。大抵のものは揃うと思うぞ」

「本当ですか!? わ、わかりました」

ユージンさんも俺と同じで日本から転移してきた人だ。そっか、すでに色々見つけていたんだなぁ。それほど日本のものが恋しかったのかな。

俺も恋しくはあったけど探そうとまでは思ったことがなかったからすごいと思う。ユージンさんだって、生きるので精一杯だっただろうに。

けど、そうなると俄然がぜんやる気が出てくる。というかワクワクしてきたかも。メグのことは二の次でほしい物を再現したくなりそう。いやいや、メグに喜んでもらうことを第一に考えるけど!

そんなわけで、俺は意気揚々ようようと懐かしい料理や遊びを考え始めた。いくつか候補を出して、再現出来そうなものを選ぶのはなかなか難しかったけど、クロンが手伝ってくれたから意外とすぐに決められた。いやー、楽しかったなぁ。何より、当時は片思いしていたクロンが一緒だった、ってところがな!


いよいよ、メグが魔王城に来る日がやって来た。結局、俺が用意したのはビンゴゲームと鍋料理だ。いやぁ、パーティーに鍋って地味かなとは思ったんだけど、色んな味の鍋を複数用意してあるから楽しめるかなと思って。魔王様も二つ返事でオッケー出してくれたしな!

実を言うと、俺が食べたかったってのもある。鍋の豆腐とかすげぇ好きなんだよな。この世界に来てからは鍋というよりスープばっかりだったし。しかも、土鍋があったんだぜ? さすがはユージンさんって思ったね。

それと、ビンゴゲームはみんなで楽しめるものって考えたらすぐに思いついた。ちなみに、景品は魔王様が用意してくれるらしい。

何が用意されてるのかまったく予想がつかない。魔王様って真面目におかしなものを用意しそうだし、そう見せかけてちゃんとしたものを用意している可能性もあるから。ま、それもまた楽しみの一つってことで、メグも喜ぶんじゃねーかなって。

「リヒト!」

「おぉ、メグ! それにロニーも来てくれたのか」

「ん。僕も、来てくれって言われたから」

魔王城の入り口で待っていると、影鷲かげわし姿のギルに運ばれてメグとロニーがやって来た。あのかごに乗ってる姿ってシュールだよな……。いや、めっちゃ便利なんだけど。

それからの俺の仕事は、メグをパーティー会場に案内することだった。そして、いつでもメグの写真を記録として撮っておけるようにと魔王様からカメラの魔道具を預かっていた。

内心でうまくいくかドキドキしながら、メグとロニーとギルの三人を案内した。

しっかし、相変わらずメグは小さくてかわいかったな。こういう妹がいたらいいなって思っていたから、実を言うとメグが俺を本当の兄みたいにしたってくれるのはすげぇ嬉しかった。

「ね、リヒト。その……父様に何かあったの?」

「え?」

脳内でこの後の予定を考えている時、メグはものすごく不安そうに声をかけてきた。振り返ると、表情も暗い。一緒に来ていたロニーやギルも険しい顔になっていて、俺は疑問符が浮かびっぱなしだった。

「急に呼び出されたから……来てくれればわかるってそれしか教えてくれないし、何かあったのかなって」

メグのその言葉で俺は事情を察した。魔王様、めちゃくちゃ誤解されてます……! 俺は引きつりそうになる顔をどうにか取りつくろうのに必死だった。

「ねぇ、リヒト。何があったの?」

ウルウルした目で見上げてくるメグの破壊力は特にやばかった。あまりにもかわいそうで本当のことを言いそうになったね。

けどここでバラしてしまったら、これまでの準備が水の泡だ。俺ははがねの精神でギリギリ耐え、とにかく一緒に行こうとメグの手を引いた。ギルの不機嫌オーラが俺の背中に突き刺さってマジで怖かったし、ロニーの半眼も地味に効いた。

メグが泣きそうになっているのは俺のせいじゃないのに! いや、確かにサプライズを勧めはしたけど!

でもそんな苦行はほんの数分ほど。すぐに会場に着いたからな。この空気を一秒でも早くどうにかしたかった俺は、一切の躊躇ちゅうちょもなく扉を開けた。

「メグ、待っておったぞ!」

「わぁっ! えっ、な、何?」

魔王様が両手を広げてメグを出迎え、クロンが無表情でフラワーシャワーを降らせている。魔術によってゆっくりと舞う色とりどりの花びらがめちゃくちゃ綺麗で、俺も一緒になって見惚みとれてしまった。

「メグ様、ようこそ魔王城へ!」

続けて、魔王城で働く人たちが一斉にメグに声をかける。そこでようやく、メグはサプライズパーティーだということに気付いたようだった。

「も、もう、そういうことぉ!?

すでに涙声になっているメグに苦笑がれる。魔王様は泣かせたいと言っていたけれど、この泣かせ方は違うと思うからなんとも言えない気持ちだ。

チラッと目を向けるとロニーやギルも苦笑している。たぶん、瞬時に色々と察してくれたんだろうな。

「メグ? どうしてそんなに悲しそうなのだ!?

メグの様子に気付いた魔王様が、慌てて駆け寄ってメグを抱き上げた。さすがにこの泣き顔が感動からではないということには気付いたようだ。

「だ、だって、急に呼び出すから、何かあったのかと思って心配、して……」

「す、すまぬ。まさかそこまで心配させてしまうとは思わなかったのだ。メグは優しい娘であるな」

「うぅ、でも良かったよぉ、なんともなくてぇ」

魔王様に抱き上げられながらポロポロ泣きだしたメグに、狼狽うろたえる魔王様。予想外の反応だったよなぁ。もう少し、呼び出し方を考えた方が良かった。

フォローした方がいいかな、とオロオロしていた時、魔王様が優しい声でメグに語りかけた。

「本当にすまぬ。我はただ、メグが無事に人間の大陸から帰って来たことが嬉しくてな。何かしてやりたいと思ったのだ」

「父様……」

「メグに喜んでもらいたくて内緒にしていたのだ。楽しんでもらえたら嬉しいのだが」

そこまで聞かされて、泣き止まないメグではない。あいつは優しいからな。自分のために用意してくれたこの場を台無しにするようなことはしないだろう。

案の定、メグはすぐにごしごしと袖で涙をいてニッコリ笑った。

「うん。嬉しいよ! ありがとう、父様!」

ようやく親子が笑顔になって、俺もやっと肩の力が抜けた。せっかくのパーティーだからな。ここから挽回ばんかいしたい。そう思って改めて会場の中ほどまで案内しようとした時だった。

「さぁ、主役たちは前の方に来るのだ! リヒト、そしてロナウドもな!」

「……へ?」

「え、僕も?」

魔王様が、思いもよらないことを言い出したんだ。俺はもちろん、ロニーもポカンとしてたな。

意味がわからず立ち止まっていた俺たちの下へ、魔王様がメグを抱き上げたまま歩み寄ってくる。

「言ったであろう? 人間の大陸から無事に帰って来たのが嬉しいと。何かしてやりたいと」

「それ、って……」

つまり、魔王様は最初からメグだけではなく、俺やロニーのためにこの場を用意したいと思ってくれていたってことだ。

魔王様はイタズラが成功した子どものように嬉しそうに笑い、さらに言葉を続ける。

「それに、魔王城へ来てくれたリヒトにこそ、歓迎会を開くべきであろう?」

ああ、だから魔王様は俺に好きな食べ物や遊びを考えてくれと言ったのか。俺の好きなものでいいと。

そこでようやく、真にサプライズを仕掛けられたのは俺だったのだと気付いて、なんていうか……こう、込み上げてくるものがあった。

「父様、カッコ良すぎるよぉ! リヒトのためにこの場を用意してくれたんだよね? うぅっ、嬉しいよぉ!」

「えっ、ここで感動して泣くのか? メグは本当に優しくて良い子であるなぁ!」

や、マジでなんでお前が泣くんだよ、メグ。俺以上に喜んでさぁ。それがまた俺の感情を揺さぶってくるものだから、本当に困った。だって、ここで泣くのはすげぇカッコ悪いじゃん。

だから俺はそれを誤魔化ごまかすために、預かっていたカメラを魔王様とメグに向けた。レンズ越しに映るメグは号泣していて、魔王様はめちゃくちゃ嬉しそうに笑ってた。

この写真は、そうして撮られたものなのだ。


「やだ、メグちゃんったら本当に良い子! リヒトのために自分が泣いちゃうなんて!」

「お人好しすぎますよね。俺も笑っちゃいましたよ」

当然、俺がうっかり泣きそうになってしまったことは伏せて、サウラさんに話して聞かせた。だって、そんな恥ずかしいことまで暴露は出来ないじゃん。しかし、サウラさんは鋭かった。

「とかなんとか言ってぇ、リヒトも感動して泣いたりしたんじゃないのぉ?」

「そっ、そんなわけないじゃないっすか! そりゃあ嬉しいとは思いましたけどっ!」

「えー? 怪しいわねぇ?」

手強い。でも絶対に認めないからな。

「あ、ほら。これとこれ、あとこの辺の写真もそのパーティーの時のものっすよ」

「あら、本当。この手に持っているカードはビンゴゲームね? オルトゥスでもやったことがあるわ!」

これ以上突っ込まれるとさすがにボロが出そうだと思った俺は、慌てて話題を変えた。メグの写真のおかげでサウラさんはすぐにそちらに視線を移す。ホッ。

「とにかく、写真はメグに渡しておいてください。俺はそろそろ行きますから、サウラさんも仕事に戻ってくださいよ?」

「オッケーオッケー! まっかせなさーい!」

写真から目を逸らさず、ヒラヒラと手を振りながら言われたけど……本当に大丈夫かな? 大丈夫だろうけどいまいち不安になる対応だ。ま、いっか。サウラさんだし。

とにかく、今日のここでの仕事は終わった。オルトゥスの外に出てから転移で魔王城に帰るかと歩を進めた時、後ろから声がかけられた。

「リヒト」

「おぉ、ロニーじゃん。まだ旅立ってなかったのか?」

「ん。まだ少し約束があって」

メグとギルの結婚式があるからと一時的に帰って来ていたロニー。どれだけ久しぶりであっても、会えばまるで昨日も会っていたかのように自然に話せるのが不思議だ。ロニーも、俺にとっては兄弟みたいなもんだからな。俺の弟で、メグとは三兄弟だ。

「メグがね、新居に招待してくれるっていうから。その後、また旅に出るよ」

「へぇ、新居に! ……俺は招待されてねーんだけど?」

「あー、確か、ギルさんが招待してもいい人を、厳選してる、とか」

「出たよ、ギルのヤツ。独占欲のかたまりめ。ってかなんで俺はダメなんだよ、納得出来ねぇ! 俺にはクロンというつがいがいるってのに、なんでだ!」

「それをいったら、番のいるオーウェンさんも、禁止されているみたいだし。たぶん、人柄?」

「余計に納得出来ねぇ!!

納得は出来ないが、実のところ理解はしている。俺がメグと魂を分け合っているから、ギルはそれが気に入らないんだ。魂の繋がりは番と同じだからな。自分だけじゃないのが嫌なんだろう。要するに嫉妬しっとだ嫉妬。くそーっ。

「リヒトは、素直じゃない、から。そういう部分が、ダメなのかもね」

「はぁ? 素直だし! 言いたいこと我慢しないし!」

珍しくロニーがニヤニヤ笑いながらからんでくる。くっ、なぜかロニーを前にすると俺も子どもみたいになっちまうんだよな。それもやっぱ、兄弟だからなのかもしれないけど、俺の方が年上で兄なのに、悔しい気持ちになる。

「リヒトは素直じゃないよ。特に人からの好意は、嬉しい癖に隠そうとするじゃない。……魔王城での歓迎パーティーの時みたいに」

「なっ、おま、えっ……!」

耳元でこそっとささやかれた言葉に、思わず動揺してしまう。ま、まさか、ロニー。あの時の俺の様子に気付いて……?

「ああ、素直じゃないのは、違うのかな。リヒトは、照れ屋なんだよね?」

ニコニコしながらそう言われ、俺は言葉を失ってパクパクと口を開け閉めするヤツになってしまう。顔に熱が集まり、もはやパニックだ。

「大丈夫。誰にも、言わないよ。兄の名誉は、守ってあげる」

「ろ、ロニー……! お前ってヤツはぁ!」

ポンと肩に手を置かれ、俺はロニーにガシッとしがみついた。

やっぱ敵わねーや。ロニーって、実は俺ら三人の中で最強だよなってつくづく思う。メグもロニーの言うことには素直に従っちまうしさ。なんつーか、穏やかなのに逆らえないんだよな。良いヤツ過ぎて。

「その代わり、新居のお祝い、何がいいか一緒に考えて?」

「……ちゃっかりしてんなぁ」

こういう部分もあるから、ロニーは優しいだけの男じゃないんだよ。ほんと、さすがはオルトゥスの一員だな。

まぁロニーが悩むのもわかる。すでに結婚祝いを贈ってるし、かといって新居にお邪魔するのに手ぶらってわけにもいかなくて困っていたんだろうな。

「無難に、食べ物がいいんじゃねーかな。あ、せっかくだから俺とロニー二人からのお祝いってことにしちゃだめか?」

「もちろん、いいよ。うーん、食べ物か。何に、しよう?」

何か食べ物、といっても確かに難しいよなぁ。メグは甘いものが好きだけど、ギルは好きじゃないし。意外と好みが違うんだよな、あの二人。

どうやら魔王城に戻るまでもう少し時間がかかりそうだ。でもせっかくだし、弟と二人で久しぶりにのんびり話をするのもいいかもしれない。

ロニーをランチに誘い、俺たちは手土産に頭を悩ませつつ、兄弟の時間を楽しむことにした。