朝、ゆっくりと目を開けると窓から日差しが射し込んでいた。真っ白なレースのカーテンが風に靡いていて、その様子をただぼんやりと眺める。そして思った。ここはどこだっけ?
「起きたか」
「!」
まだ寝ぼけていた頭が瞬時に覚醒する。頭上で聞こえた大好きな人の声ですぐに思い出したのだ。ここが私とギルさんの新居で、今は初めてこの家で過ごした日の翌朝だということを。おかげで朝一から顔が真っ赤になってしまう。
だ、だって! 目覚めた瞬間に大好きな人の顔があって耳元で声が聞こえるなんてやばいでしょ! いや、それ自体は初めてのことではないけども! ……新婚初日の朝だから、こうなってしまうんだよ。いや照れている場合ではない。挨拶をしなきゃ!
「お、おはよう……あれ? ギルさん、ちゃんと寝た?」
チラッとやや上の方に視線を向けると、ギルさんが身体をこちらに向けて横になっていた。その姿は私が寝る直前に見た最後の体勢とほとんど変わらない。まさかとは思うけど一晩中こうして寝顔を見られていたのではないかと疑ってしまう。
そんな私の眼差しを受け、ギルさんは気まずそうに視線を泳がせた。
「……少しは」
「少しぃ?」
これは、ほとんど寝ていないということで間違いないだろう。目を鋭くしてギルさんを睨むも、相変わらずギルさんは目を逸らしたままだ。
もーっ! 恥ずかしいから寝顔をずっと見るのはやめてって言ったのにぃ! ポカポカとギルさんの胸を叩いたけれど、ギルさんから返ってくるのはくっくっと喉の奥で笑う声と心の
プクっと頬を膨らませていた私だけど、あまりにも優しい黒い瞳と目が合ってしまったら何も言えなくなってしまう。番という繋がりのおかげで、ギルさんの私への想いが次から次へと、もうとめどなく流れ込んでくるから。うぅ、私の心へのダイレクトアタック……! しかも朝からこんなに甘い眼差しで見つめられたら!
心臓がバクバクと鳴る。ああ、ダメダメ。昨晩のことを思い出したらますます動けなくなるから! 必死で平静を装いながら目を逸らすと、またしてもフッと小さく笑われてしまったから私の心情など筒抜けなのだろう。
私の気持ちもギルさんに流れ込んでいるのはわかっていたけど! それでも察して! ギルさんだって私が何にも喋らずに顔を真っ赤にしたままだと困るでしょっ! ……いや、困らない。この人は喜ぶだけだ。くっ!
しかし、注意はしなければならない。ギルさんは完璧超人だからこそ、休むという行為を
「こほん。でも、ダメだよ? ちゃんと休まないと。昨日は結婚式だったし、これまで仕事に準備に忙しかったでしょ?」
でも恥ずかしい気持ちはどうしようもないので、プイッとギルさんに背を向けての注意になってしまった。だって、なんだか顔を見られないんだもん。しかし、そんなことを許すギルさんではなかった。
「そうだな。だが」
途中で言葉を切ったギルさんはグイッと私の身体を引き寄せ、耳元に口を寄せてきた。
「メグとこうしていられることで、すでに十分すぎるほど休ませてもらっている」
ひえぇぇぇ! 恥ずかしいから後ろを向いたというのに、バックハグで密着されながら耳元で囁かれたら結果的に同じなんですけどぉ!?
「メグの方こそ大丈夫か。その……疲れが残ってないか?」
「ハイ……大丈夫デス」
ギルさんの囁き声は私に良く効く。なんたる耳へのご
はぁ、やばい。みんなに祝福された最高な結婚式の後、新居に初めて二人で泊まって。これからは毎日こうしてこの家に住むんだって感動しながらベッドに入って。……たくさん、抱き締め合って。それで朝、目覚めても大好きな人がすぐ側にいて。体調を心配してくれて、優しく触れて囁いてくれて……。
し、幸せすぎる。これって現実だよね? なんだか、思い出したらものすごく転げ回りたい気持ちになるし、今更ながらに緊張してきたんだけど! ギルさんと一緒に眠るのはこれが初めてではないけれど、昨夜は……特別だったから。
「……今更、何をそこまで緊張しているんだ」
お言葉ですがギルさん。私はたぶん、いつまでたっても緊張すると思うのでそこは諦めてください。
「ギルさんがイケメンすぎるのが悪いと思いますっ!」
「なんだそれは……」
大体、どうしてギルさんはそんなに冷静なわけ? 私だけなのかな、緊張しているのは。なんだか悔しくて振り返らずにそう主張すると、ギルさんは私を抱き締める力を少し強めた。ふわりと感じるギルさんの体温にホゥッと息を吐く。
はぁ、敵わない。拗ねてしまう気持ちも、恥ずかしくて仕方ない気持ちも全て押しのけて、くっついていられるのが幸せだって気持ちが上回るから。
腕の中でゴソゴソと振り返り、ギルさんと向かい合う。それから私もギュッと抱きついた。胸元に顔を埋めると、より一層ギルさんの匂いがする。なんだか変態みたいだけど気にしてはならない。
「でも。朝からこうして二人でのんびり出来るのって、贅沢っ」
「ああ……そうだな」
それもこれも、今日から五日間は二人とも仕事がお休みだからこそ!
そう、実はいわゆる新婚旅行期間みたいな休暇をもらっちゃったんだよね。お父さんの教えを嫌というほど叩き込まれたサウラさんによる、半ば強制の提案である。提案なのに強制とはこれいかに。
ちなみに、五日だなんて休みすぎでは? という私たちの意見はスルーされました。こうなったらもう、ありがたく休暇をいただくしかないでしょ? 笑顔のサウラさんには誰も逆らえないのだ……。
「それより、今日は何をしたい?」
「んー、そうだなぁ」
で、実を言うとこの五日間の予定は未定である。いやぁ、事件の後始末や結婚式の準備でとにかく忙しくて……。どこかに出かけたいとか旅行に行きたいとはとても思えなかったというか。
「とりあえず今日はのんびり過ごして、残りのお休みに何をするか決めない?」
「ああ、そうするか」
なにも、絶対に旅行しなければならないわけではないのだ。これまで慌ただしかったんだから、何にもしないでのんびりするだけの休暇があっても良いではないか。きっと、それだけでも幸せだし、楽しいし、満足出来る自信があるもんね!
こうして、私とギルさんの新婚旅行ならぬ新婚休暇はゆるっと始まったのである。
ベッドの上でゴロゴロしているのが心地好すぎて、結局私たちが起き上がったのはかなり遅い時間になってしまった。朝食には遅く、昼食には早いという微妙な時間。というわけで、のんびりとブランチを
だって、本当になかなか起き上がれなくって! ギルさんの腕の中って、本当に安心するんだもん。たぶん、一日中あのままでも全く問題ないってくらい。ギルさんも全然離してくれないし。これはとても意外だった。あのギルさんがダラダラするなんて、誰も想像出来ないだろうなぁ。
でも、人としてダメになりそうだったのでお腹が空いたことを理由に無理矢理抜け出すことに成功したのだ。いやぁ、これから毎日こんな調子じゃ、仕事に遅刻しないか心配だな。さすがに仕事の日はギルさんもすぐに離してくれると思いたい。
「新居でもこうしてチオ姉のご飯が食べられるのはありがたいよね」
「そうだな」
ダイニングテーブルに並んだ豪華な朝食を前に、二人でほのぼのと他愛のない会話を繰り広げる。美味しいご飯、窓から射し込む柔らかな日差し、新居の香り、大好きな人。こんなにも幸せでいいのだろうか? いいのであるーっ!
いずれは私がちゃんと料理を振舞いたいとも思うのだけど、いかんせんあまり料理が上手というわけではない。下手ってわけでもないけど……いつもプロの料理を食べているからか、微妙だなって思っちゃうというか。サンドイッチやおにぎりくらいしか、私の手作りが食卓に上がらなかったらどうしよう? そうだとしても、ギルさんは気にしないだろうけど。
……でも、新婚生活において旦那様に手料理を振舞うということには憧れがあるので、いつかチャレンジしたい。
「食べ終わったら、少しこの周囲を散策してみるか? まだちゃんと見ていないだろう」
「ん! 賛成!」
そうでした、まずはそれがあったね! 実は、新居の内部は何度も見させてもらっていたんだけど周囲はまだちゃんと見ていないのだ。転移の魔術陣が刻まれたドアで移動していたから、外に何があるかは話でしか聞いていないんだよね。便利さの
ちなみに、ご近所さんへの挨拶などは必要ない。なぜなら、周囲に他の家が立っていないから!
……どうしてそんな
もちろん、オルトゥスのある町からは出ていないよ! 歩いて通うことだって十分出来る距離ではある。坂道も多いし、時間はかかるけど。運動不足を感じたら徒歩で出勤しようと考えています。町の中を突っ切る形になるから、徒歩通勤も楽しそうだし! 寄り道は増えそうだけど。
あとは確か、お散歩するのにちょうどいい小さな森が近くにあって、家を出た場所には広い野原が広がっているんだよね。周囲には何もないけど、少し小高い丘の上にあるから町を見下ろすことも出来る。つまりとても良い眺めなのだ! まだちゃんと見てないけど! 情報だけはあるのです!
それを直接見て回るのが今日の予定だね! 私は朝食のクロワッサンサンドをサクッと頰張りながら、楽しみな気持ちで胸を膨らませた。
片付けも終えたところで、早速散策のために家を出る私たち。こうして二人揃って家を出るっていうのもなんだか新鮮でいいなぁ。うへへ、新婚だからたくさん
「鍵は必要ない。オルトゥスと同じで、魔力認証がないと入れない仕組みになっているからな」
家のドアを閉めながら、ギルさんが当たり前といった調子でそんなことを言う。もはや私は呆れるしかないわけで。
「……わかってはいたけど、セキュリティーには一切妥協しないんだね」
「当然だろう」
見た目はこんなに素朴な一軒家なのに。我が家は人や動物はもちろん、虫の一匹だって侵入を許さない堅固な造りになっているようだ。それどころか、認識阻害の魔術もかけられているので普通の人では見付けられないだろう。
そこまでする? という気持ちでいっぱいだが、その点については全てをギルさんに任せる約束をしてしまっているので……。私に言えるのは「ありがとう」の一言のみなのである。ほら、満足そうに笑ってる。かっこいい。
安全なのはいいことだ! 今の私は前のように魔力でごり押しが出来ないから、ギルさんが心配するのもわかるしね。
それはそれとして! 今は散策、散策ぅ! と、その前に。
「ギルさん! そのぉ……て、手を、繋いでも、い?」
たとえ家の周囲の散策だけとはいえ、これもデートと言えなくもない、よね? それに、せっかくだもん。手を繋いで歩きたい。でもちょっと気恥ずかしさがあるので声がだんだん尻すぼみになってしまった。許して。
「断るわけがないだろう」
そう言ってくれるのはわかってた。それに、すごく嬉しそうに微笑んでくれるのも。その顔を見るといつだって胸がキュウッとなる。差し伸べてくれた手に自分の手を重ねると、ギルさんは優しく握り込んでくれた。
「まずは家の周りを見て、それから森の方に行くか」
「う、うん!」
サワサワと風が草木を揺らす。赤くなった顔に、今はこの涼しい風が気持ちいい。ああ、幸せだなぁ。
玄関先はグレーの石が敷き詰められた小道になっている。その両サイドにはすでにお花が植わっていて、今はまだ芽が出たばかり。毎年同じ季節に一斉に咲くというので今から楽しみにしている。家を建てる時に、ここだけは先に植えてもらったんだ! その他は手付かずだけど。
小道を通り過ぎると、今度はだだっ広い庭に出る。好きなようにしていいと言われている手付かずスペースだ。あまりにも広いから、あれこれと妄想が
「あ、この辺りにたくさんお花を植えたいな。シズクちゃんとリョクくんが過ごしやすいスペースにしたい! それで、テーブルとイスを置いてお茶しながら精霊たちを眺めるの」
「ああ。それなら明日は庭に置くものを注文しに行くか」
「わ、賛成っ! あっ、あっちには
「メグは精霊が基準なんだな?」
私がノリノリで妄想を口にするのを聞いて、ギルさんがクスッと笑う。それはもちろん、みんなのことが大好きだからね!
他にも、避雷針を付けてライちゃん専用スポットを作ってみたり、ショーちゃんが喜びそうな場所も作ってあげたいなー。他にも、契約した精霊たちのための
「精霊たちが楽しそうだと、私も楽しいもん!」
「なら、俺も協力しよう。この休暇は、そういった場所作りに費やしてもいいな」
わぁ、それは素敵! 実際、休みが終わったら二人揃っての休暇は少なくなるし、今のうちに具体的な庭づくりをするのは大正解かもしれない。
なんだかテンションが上がってきた。そのせいで私はつい、あの場所には可愛いオブジェを置いてみたいだとか、この辺りは花の咲かない植物を植えたいだとか好き勝手に話し続けてしまった。だって! ギルさんってば聞き上手なんだもん!
「はっ! ねぇ、ギルさんは? こういう場所があったらいいなとか、ない? なんだか私ばっかり言ってる気がする。下手するとこの庭が全部私好みで埋め尽くされちゃうよ……」
「俺はそもそも、影の中がパーソナルスペースだからな。メグの幸せが、俺にとっても幸せになる。だから気にするな」
も、もうっ、この人はそういうことをサラッと言うっ! ええい、いつまでもここで照れて終わるだけの私じゃないんだぞー!
「私はっ、ギルさんにとっても居心地の
「……そうか」
ギルさんは軽く目を丸くした後、すぐに余裕の笑みを浮かべた。なかなかギルさんを照れさせることは出来ないらしい。大人の余裕かなぁ。悔しい。
「だが、オルトゥスの俺の部屋を見たことがあるだろう?」
そう言われてふと思い出す。本当に必要最低限の家具しか置いていない殺風景なあの部屋を。……確かに? むしろ、あまり物を置きたくないのかな? ミニマリスト?
「本当にこだわりがないんだ。だから、メグの好きなようにしてくれ。それが、俺にとっても好きな空間になる」
サラリと指先で私の髪を
「わかった。なら、ギルさんのことを考えながらお庭づくりするから、期待しててね!」
「ああ」
私が両手で拳を作って宣言すると、ギルさんはとても嬉しそうに返事をしてくれた。
庭づくりの妄想でひとしきり楽しんだ後、私たちは庭を抜けて近くの森へと向かった。森と言っても適度に陽の光が射す人の手が入った森なのでとても明るい。それでも、木があるおかげで日陰も多いから吹く風は涼しかった。
『ご主人様ー! ショーちゃんたち、森で遊びたいのよー!』
『リョクがもう行っちゃったよっ!』
『ここはリョクにとっては楽園だから仕方ないんだぞ』
ショーちゃんとフウちゃん、そしてホムラくんがわいわいと声をかけてきた。
もう、そんなこと聞かなくても好きに遊んできていいのに。わざわざ確認してくれるのがすっごくかわいいんだから、うちの子は! リョクくんは先に行っちゃったみたいだけど。
でも、テンションの上がる場所だと他の子も同じようにフラッと行っちゃうんだよね。そこも含めてうちの子たちはかわいい!
「たくさん遊んでおいで! 楽しいことがあったら、後で教えてね」
『もっちろんなのよーっ!』
私がみんなに声をかけると、精霊たちはそれぞれいってきまーすと元気な声を残して森の奥の方へと消えていった。
「精霊たちも喜んでいるようだな」
「うん。ここが気に入ったみたい。もっと気に入るように頑張っちゃうぞー!」
あれだけ喜んでくれると、庭もつくり
さらに森の中を進むと、少し開けた場所に出てきた。なんだかとても素敵なスペースだったので、シートを敷いてその上に座り、軽いお茶の時間を過ごすことに。ブランチを食べた後だから、お菓子は少しだけね。でも外で食べる焼き菓子は格別なお味……!
「森の中でティータイムか。森というと野営ばかりだから新鮮だな」
「ふふ、遠征の多いギルさんはそうだよね」
森の中に行くなんて、基本は任務の時だもん。常に気を張ってなきゃいけないから、今みたいにのんびりするなんて滅多にないのはわかる。
せっかくなのでとことんのんびりしようということで、お茶の時間を過ごした後は少しだけゴロンと横になってみた。見上げた空は周囲に木々があるからか、いつもと違って清々しさが増して見える。私がご機嫌でそう告げると、ギルさんも隣に寝転んでくれた。
「……ねぇ、ギルさん」
空を見上げながらだったら、話しにくいことも言える気がした。ギルさんもまた、仰向けになったまま小さく返事をしてくれる。
「結婚したばっかりでこんな話をするのもどうかとは思うんだけど。いや、結婚したばかりだからこそした方が良いのかな……」
なんとも締まらない前置きを挟み、私はそのまま話し続けた。
「私って、どう足掻いてもギルさんよりもずーっと長生きをするでしょ? いつか、ギルさんは私を置いて逝くじゃない」
「……」
やはりと言うべきか、ギルさんは何も言わずに黙り込んでしまった。いやぁ、私だって幸せの絶頂である新婚初日にする話か? とは思うよ。でも、いつかは話さなきゃいけないことだ。後回しにして話すタイミングがわからなくなった、なんてことにはなりたくないもん。伝えておきたいことは、すぐに伝えるべきなのだ。
「それはすっごく悲しいだろうし、きっと何日も、何年も、ずーっと引きずると思うよ? でも今日は、別にそれを伝えたいってわけじゃなくて……」
コロンと横を向き、ギルさんを見上げる。気付いたギルさんもまた、私に身体を向けてそっと腰に手を回してくれた。
静かな森の中、二人きりで横になる私たち。なんだか神聖な気もして、不思議な感覚だ。
「ギルさんがいなくなったら、私は寂しくてどうにかなっちゃうと思うんだ。もちろん我慢するけど、いつかは我慢の限界がくると思うの。でね? ギルさんが前に言ってくれたことがあるんだけど。覚えてるかな……」
どのことか、とは聞かなかった。私のスパダリなギルさんはそれだけで察してくれたし、当然のように覚えてくれていた。
「生まれ変わって、メグに会いに行くって話か」
「ふふっ、さすがだね。そう、それ!」
この世に転生というものがあると、私はよく知っている。でも、私のように前の人生を覚えていることは
それは、ギルさんも。生まれ変わることは間違いないけど、記憶はなくなる。また一から人生が始まるのだ。
でも。それでも。
「魂が覚えているよね。私もギルさんも、何も覚えてなかったとしても、お互いを見つける自信があるでしょ?」
「そうだな」
根拠のない自信とはこのことである。だけどギルさんも迷うことなく即答してくれたのがすごく嬉しかった。
「話が戻るけど。私はギルさんよりもずっと長く生きる。だから、今の私が生きている間に、ギルさんの生まれ変わりに会える可能性もあるんじゃないかって思って」
「それは……そうかもしれないな」
ギルさんは希少な亜人だから普通の亜人よりも長く生きる。でも、私たちにはただでさえ年齢差があるのだ。二人で一緒にいられる時間はあと三百年ほどしかないのである。「しか」と言ってしまう辺り、感覚がマヒしているけどそれは置いておいて。
ここまでつらつらと話し続けて、つまり私が何を言いたいかというと。
「だからね? あの。もし生まれ変わりのギルさんと出会ったら、私……その人と、浮気してもいい?」
私は生涯、ギルさんしか愛さない。それはギルさんも同じだ。だからこそ、かな。ギルさんの生まれ変わりに出会ったら、また恋に落ちると思うんだよね。だって、魂が貴方を求めてしまうんだもん。
お互いに生まれ変わった者同士だったら気付くのに時間がかかるかもしれないけど、少なくとも今の私がギルさんの生まれ変わりと出会ったら一目でわかる。
お父さんは、お母さんの生まれ変わりであるマキちゃんに出会っても恋には落ちなかった。お父さんは人間だから番という繋がりがなかったし、すっごく年が離れていたからね。そういうこともあるのだろう。でも、私はきっとギルさんの生まれ変わりに出会ったら、たとえ幼い子どもだったとしても恋しくて、恋しくて、たまらなくなると思う。
でも私の愛する人は目の前にいるギルナンディオさん、ただ一人だから……これは、浮気になるのでは? と少し思っちゃったわけで。
「……今、人生で最も複雑な心境に
片手で目元を覆ったギルさんは、暫く葛藤するように黙りこんでしまった。困らせたようである。ご、ごめんなさい。でも、今のうちに聞いておきたいと思ったんだもん!
数十秒後、たくさん考えて答えを出してくれたのか、ギルさんはとても小さな声で「そうしてくれ」と言った。
それがなんだかとても愛おしくて、私はガバッとギルさんの上から抱き着いた。
大好き。大好き。大好き。そんな気持ちをいっぱい込めて。それが伝わったのかもしれない、ギルさんは耳まで真っ赤になってしまった。
だけど、私はすっごく安心したんだ。だってこの約束があれば、もう別れは怖くないもん。とっても辛いだろうし、たくさん悲しむだろうけど、次に会えるのを待っていられる。
「大好き」
気付けば、言葉にも出していた。
「今までも、これからも、来世だってずっと大好き」
森の中という開放感からか、どうやら私は大胆になっているようだ。赤くなったギルさんを見下ろしていると、愛おしさが膨れ上がっていく。不思議だなぁ。大好きな気持ちに際限がないや。毎日、毎秒大好きが更新されている気がする。
だからだろうか。自然な流れで顔を近付けて、私からギルさんにキスを落とした。それは触れるだけの軽いキスだったけど、気持ちが溢れすぎて胸が締め付けられる思いがした。
ギルさんは目を丸くして驚き、さらに顔を赤く染めた。それがまた愛おしい。緊張で心臓が爆発寸前だったけど、私は満足である!