「みんな、ありがとう……! お祝いしてくれてすごく嬉しいよ!」

そうして我が精霊たちにお祝いされた後、次から次へと精霊の光が集まってきた。みんなが祝福するように私の周りを飛び回り、すぐにその場を去って行く。そうしたらまた違う精霊たちがやってきて同じようにしていくのだ。

じ、事前に精霊たちにお願いしておいてよかったよ……! ちゃんと順番にお祝いに来て、すぐその場を去ってくれるからこの程度で済んでいるんだと思う。それでもかなりの数だけど。あ、目がチカチカしてきた。たぶん今日は一日中、こんな感じで精霊たちが入れ代わり立ち代わりでお祝いに来てくれるんだろうなぁ。自然魔術の使い手が見たら顔が引きつるかもしれない。私もつい苦笑を浮かべてしまう。

とても嬉しい。嬉しいよ? 実感がじわじわと湧いてきたし、成人したんだなぁって浸りたいところではある。しかーし! しかしだ!

今日は目覚める前から情報量が多くない!? 素直に喜びたいのに夢のことが気になりすぎるんですけどぉ!

ただ一つだけハッキリとわかるのは、今の私が一番にしなければならないのは夢の考察ではないということだ。スゥと息を吸って、大きな声で叫ぶ。

「ギルさぁんっ!!

唯一のつがいであるギルさんの名前を。だって、成人したら真っ先に知らせるって決めていたから。

でも、なんかもう色々ありすぎてややパニックになってしまった感はある。声がちょっと焦っていたかもしれない。あと、無駄に大声を上げてしまった自覚もあった。

だからかな? 名前を呼んだ数秒後、ギルさんは影移動ですぐに私の部屋に来てくれた。めちゃくちゃ速い。

「メグっ! どうし、た……」

焦ったような顔で私の近くに来てくれたギルさんに、申し訳なさが込み上げる。あ、ごめんなさい。心配させちゃった。

その心配を解消するべく、私はギルさんに向かって両手を伸ばす。そしてそのままベッドの上に立ち上がってギュウッと首筋に抱きついた。

「成人した! 今! 私、成人したよ! 大人になれたよ、ギルさんっ!」

「っ!」

興奮気味にそう告げると、ギルさんはハッと息をんだ後、やや躊躇ためらいがちに抱き締め返してくれた。温かな体温をじんわりと感じて、ますます幸福感に包まれる。

「……おめでとう、メグ。真っ先に呼んでくれたんだな」

「うん。だって約束だったもんね」

首に回していた腕をゆるめ、ギルさんの顔を見る。優しくて愛おしい黒い目が私を見上げて微笑んでいた。一緒になって喜んでくれているのがわかって余計に嬉しくなっちゃう。

やっと、同じ立場になれた。やっとギルさんと同じ大人になれたのだ。幸せすぎてどうしよう!

「だが。いくら大人になったからといって、さすがに情熱的すぎるな」

「え?」

ふと、ギルさんが困ったように笑う。情熱的……? その意味がわからなくて数秒ほど首をかしげる。だけどすぐに気付いた。あ、わ、わ……! わ、私、今は寝起きで、つまりまだ寝間着のままで。

白いネグリジェ一枚だけで、ギルさんに抱きついていたみたい……?

「あ、わ、あわわ……」

「部屋の外で待っている。身支度を整えてこい」

一気に顔が火照ほてって、もはや言葉が何も出て来なくなっていた。ギルさんもようやく私を離して、ゆっくりと下がる。恐る恐る見たその顔は赤くなっていて、私に出来るだけ目を向けないようにらしているのがわかった。

「……次に寝室に呼ばれた時は、俺も何をするかわからないからな?」

「ひぇぇ……」

部屋を出る直前、少しだけこちらに顔を向けたギルさんはそう言い捨てて出て行った。

な、何をするかわからないって。えーっと。えっと。……さ、さすがにここで疑問符を浮かべるほど馬鹿じゃない。もう、私は大人なのだから。ぽすん、とベッドの上に座り込んで、そっと自分の唇に指を当てる。

「ここも、解禁、なのかな……?」

勝手に想像して、自爆する。枕に顔をうずめて足をジタバタさせてしまった。ごめんなさい、ギルさん。もうしばらく、外に出られそうにないです……!

そうはいっても、ギルさんは外で待っていると言った。いくらずかしくてもさっさと身支度を済ませて出なければならない。

まったく、大人になったというのに最初から子どもみたいな迂闊うかつさを見せてしまった。もう二度と、寝間着で人前には出ないようにしないと。子どもじゃないんだから。そう、子どもじゃないんだからね!

「お、お待たせしました」

きちんと身支度を整えて部屋を出ると、ギルさんは廊下でちゃんと待っていてくれた。さっきの恥ずかしさを引きずっている私を見て、ギルさんはフッと小さく声を出して笑う。ぐぬぬ。この状況では何を言っても裏目に出る気がしたので黙ったままホールに向かった。

なにはともあれ、他のみんなにも成人したことを報告しないとね。本当なら次はお父さんに伝えたいところなんだけど、今日は少し外に出るって言っていたから。なので、まずサウラさんの下へと向かっている。

「め、メグ……? なんかすっごい精霊が集まってきてなぁい?」

「アスカ!」

その道中、背後からものすごく驚いたような声が聞こえてきた。振り向くと、やや顔が引きつっている。自然魔術の使い手なら気付くよねぇ。この尋常じんじょうじゃない数の精霊に。私も苦笑を浮かべることしか出来ない。

「これはもしかして、メグ?」

「え、えへへ、そうなんです」

アスカのとなりに立つシュリエさんは気付いたようだ。そりゃあ経験者だもんね! だからこそ、驚きというよりは喜びの反応を見せてくれたのがなんだかくすぐったい。

「今日が記念日ということですね? メグ、成人おめでとうございます」

「えっ! メグ、成人したの!?

シュリエさんが国宝級の微笑みを浮かべてお祝いを述べてくれ、それに驚いたアスカの声がホール中に響き渡る。おかげでその場にいた皆さんに私が成人したことが知れ渡ることとなった。報告するつもりだったし、手間がはぶけたけどちょっと恥ずかしい。

「だからこんなに精霊が集まってたんだねー! わー、わー、メグ、おめでとう!」

「あ、ありがとう」

真っ直ぐお祝いの言葉を言われるのもやっぱり照れちゃう。もちろんすごく嬉しいけど!

「それで、どうでしたか? みんなに聞いて回っていたでしょう? 成人がわかった瞬間はどんな感じだったかと」

シュリエさんに言われてまたしても恥ずかしさが込み上げてくる。でも、みんなに聞いておいて自分は内緒ってわけにはいかないよね。ちゃんと教えるつもりではあったけども。

その質問の答えはアスカやギルさんも気になるらしく、黙ってこちらを見てくる。あ、あんまり注目しないでっ。

「えっと。すごい幸福感に包まれて、身体から光の花びらが出てきました。たぶん、私にしか見えないヤツですけど」

「光の花びら? それはまた幻想的だねー。でもメグって感じー!」

私っぽい、というアスカの言葉に、その場にいた人たちが揃って同意を示した。そ、そうかな? 幻想的でほのぼのとした光景だなーとは思ったけど。普段ボヤッとしている私なので、確かに私らしいと言えなくもない。

他には何かなかったの? とアスカに聞かれて、ふと夢のことを思い出す。あれってもしかして、成人したことと何か関係があったのかな? そう思って。

だから、忘れていたんだ。夢の中の青年が、誰にも伝えてはいけないと言っていたことを。

「そういえば、不思議な夢を視たの。予知夢とも違う気がするんだけど。夢の中で声が……」

そこまで言ったところで、急にパァンッと乾いた音がギルド中に鳴り響いた。何が起きたのかわからなくて、呆然としてしまう。

ただ、その音が鳴った瞬間、目の前に小さな魔術陣が現れたのがわかった。なに、これ……?

「危ないって、言ったでしょう。気を付けて。彼が、気付いてしまった」

気付いた時には、真っ白な世界に立っていた。夢で会ったあの美青年が、心配そうにこちらを見ている。

ご、ごめんなさい。成人して浮かれていたから忘れていたの。もう絶対に言おうとしないよ。

「そうだね、これから気を付けて。でも、彼が気付いた。君と僕の繋がりに。器の争奪戦が始まってしまう」

器? 争奪戦? よくわからないよ。何かを知っているのなら、教えてほしい。

「君は監視されているから。また、夢の中で。今はこれ以上を教えられない」

監視? 誰に? ……もしかして、あの声? 目の前の青年が小さくうなずいたのがわかった。

「あの人を頼るといい。思い出して。僕らのことを知っている人がいるはずだ」

あの、人……? 色々と、わからないことだらけではある。でも、きっとこれは大事なアドバイス。

「わかった。ありがとう。誰かはわからないけれど、貴方を信じてみる」

薄れゆく白い世界で、青年はとても悲しそうに笑った。

「────メグっ!!

「っ!」

白い世界から戻ったみたいだ。私はギルさんの腕に抱かれているようだった。倒れた、のかな? アスカや、ホールにいた人たちが周囲に集まって心配そうに顔をのぞき込んでいるのが見えた。

「わ、たし、どれくらい気を失ってた……?」

「メグ、良かった……そうだな、数十秒ほどだ」

数十秒。そこまでのタイムラグはなかったみたいだね。ホッと安心したのもつかの間、喉元にチリッとした痛みを感じて顔をゆがめる。それを見逃すギルさんではなかった。首を押さえた私の手をそっと取り、見せてみろとえり元を少し開けた。

「こ、れは」

ギルさんが目を見開いている。何があったんだろう?

「魔術陣……? なんで? メグにこんなのなかったよね!?

どうやら、痛んだ喉元には魔術陣が刻まれているらしい。心当たりは……ある。白い世界を視る前に現れたあれじゃないかな。

たぶんだけど、私がもう夢の中の彼らのことを話せないようにわかりやすく刻まれたのだと思う。私が話しさえしなければ害はない。そのことがなんとなくわかった。

「メグ、体調に変化はないか? これが何かわかるか!?

「落ち着きなさい、ギル。魔術陣だから、そうね……誰か! ラーシュを呼んできてちょうだい!」

ギルさんの焦りがすごく伝わってきた。そうだよね、心配させてしまっているよね。本当にごめんなさい。駆け付けてくれたサウラさんが冷静に専門家を呼んでくれるのがありがたかった。

「大丈夫だよ、ギルさん。この魔術陣は……とりあえず、危険はないと思うから」

「わかるのか」

それ以上は何も言えなくて、黙り込んでしまう。うぅ、説明が出来ないのは心苦しいな。

「と、とりあえず、ラーシュさんが来るまで待って? 身体は大丈夫。ちゃんと元気だから!」

抱きかかえてくれているギルさんの腕にソッと手をかけ、ゆっくりと立ち上がって元気なのをアピール。だけど、そりゃあ心配するよね。急に倒れて魔術陣が喉に刻まれて。逆の立場だったら私も取り乱していると思うし。

はぁ、つくづく魔術陣にはいい思い出がない。どうしても困ったようにため息をいてしまうのは仕方のないことだった。

「とにかく、まずは医務室に行くのはいかがです? ラーシュにもそこに来てもらうように伝えましょう」

「それがいいよ、メグ。確かに元気そうには見えるけど……てもらって何もなかったならそれでいいんだからさ!」

シュリエさんとアスカに提案され、私はゆっくりと頷いた。どのみち、あまり人には言えないことでもある。騒ぎを聞いて色んな人が集まってきたし、ここはホールで人通りも多い。邪魔になっちゃうしね。

「うん、そうする。なんか、ごめんなさい……」

せっかく成人してみんながお祝いを言ってくれていたのに。急にこんなことになってすごく悔しい。あの夢の内容をしっかり覚えておけば、少なくとも倒れることはなかったのに。迂闊すぎる。私の馬鹿!

「メグは悪くない。謝ることはなにもない」

「そうだよ! メグだって倒れたくて倒れたわけじゃないでしょ! 謝るの、禁止ーっ!」

うぅ、ギルさんもアスカも優しい……! ただ、今回のは明らかに私のミス! ただそれも言うことは出来ないので一人で反省します。

「メグの性格上、気にしてしまうのでしょうね。けれど、誰も責めたりしませんよ。心配はしますが。そのくらいはさせてくださいね」

シュリエさんにもそんな言葉をかけられてしまっては、悲しい顔なんてしていちゃダメだよね。みんながこんなにも元気づけようとしてくれているんだから。

「……はい。じゃあ、ありがとうございます、だね!」

「そーそー! メグはそうでないと、ね!」

それに実際、みんながはげましてくれたおかげで元気が出た! いつまでもここで立ち止まっているわけにもいかないし、移動しないと。

お祝いは改めて盛大にするから、というシュリエさんとアスカに見送られながら、私はギルさんとともに医務室へと向かう。集まっていた人たちにも、笑顔で大丈夫だと伝えてひとまずはそれぞれ仕事に戻ってもらうことにした。みなさん心配顔のままだったけど。

ですよね! 本当にご心配おかけしてごめんなさいっ! 私ってどうしてこうもトラブルを呼んでしまうのだろうか。心苦しくて仕方ないよ!

しかし、モダモダしていても仕方ない。それに、なんとなく予感がするのだ。この問題さえ乗り越えれば、全てが解決するって。もちろんただの勘でしかない。けどこういうのって当たるんだよね。

「医務室に向かおう」

「うん」

ギルさんがそっと背に手を当ててくれたので、そのまま二人で歩き出した。道中、喉に軽く手を当てる。指先からわずかに自分の物ではない魔力を感じるから、本当にここに魔術陣があるのだろう。うぅ、人体の急所に魔術陣があるっていうのは落ち着かないよー!

だけど、私を害するような類ではないことは確かだ。ただ、何も言えなくなるだけ。そして言おうとした時はさっきみたいに少しの間だけ意識が飛ぶ。

でもそのくらいなら大丈夫だって安心は出来ない。だって「器の争奪戦が始まる」だなんて物騒なことを言われたし。無視は出来ない、というかヒシヒシと危険だって予感もするから。

あーっ、でも! わかっているのに伝えられないこのもどかしさ! いやいや落ち着け私。オルトゥスの優秀な頭脳でもあるラーシュさんなら、きっと解き明かしてくれると信じている。私はただ大人しく出来る限りのことをしよう。


「ふむ。身体に問題はなさそうだね」

「そうか」

医務室でルド医師せんせいに魔術で検査してもらった結果はこの通り、何も異常はないとのことだった。ギルさんが安心したように大きくため息を吐く。ごめんね、心配させて。ごめんね、伝えられなくて。

「そんなに申し訳なさそうにするな」

ギルさんにそっとほほを指の背ででられる。うん、そうだよね。でもやっぱりごめんって思っちゃうよ。困ったように微笑み返すと、今度はぽんぽんと優しく頭を撫でられた。

「メ、メグさんがっ、た、大変って……!」

「ラーシュさん!」

そこへ、医務室に飛び込むように息を切らせて、ラーシュさんがやってきた。その後ろから、マキちゃんも心配そうに覗き込んでいる。邪魔になると思ったのか、マキちゃんは医務室の扉の前で待機しているけど。もう、優しいな。

元気であることをアピールするためにマキちゃんにニッコリ笑うと、ホッとしたようにマキちゃんも笑ってくれた。大人になってもマキちゃんの笑顔のいやし力は健在だね!

ラーシュさんに、ギルさんとルド医師が色々と説明してくれている。二人の話は的確で、短く要点をとらえているのでとてもわかりやすい。すごい。私がしゃべれなくてもなんの問題もないですね?

「じゃ、じゃあす、少しま、魔術陣を、み、見せてくれるかい?」

「はい。お願いします」

襟元を少しだけ開いてラーシュさんに向き直る。時々、少し触るね、と声をかけられながらジッと待った。普段おっとりとしているラーシュさんの目がとても真剣で鋭くて、なんだか緊張しちゃうな。

「な、なるほど……め、メグさんは、は、話したくても話すことがで、出来ないんだね? き、危害を加えられることは、な、ない」

「!」

ものの数十秒ほど見ただけで、ラーシュさんはそう言い当ててきた。言いたくても言えないっていうのはみんなが察してくれたことだけど、危害はないってことまでこんな一瞬でわかっちゃうなんて。

「こ、肯定もひ、否定もし、しなくていいよ。な、何が引っかかるか、わ、わからないから」

さらに、私への配慮も完璧にしてくれた。これもすごい。迂闊に返事をするとなんとなくだけどやばいな、っていう感覚はあったから。

ただ私はすぐに顔に出る女。この場にいるお三方は私の顔を見ただけでラーシュさんの言ったことが正解だと察してくれた。なんとも微妙な心境です。

「つまりメグは何かを知っているが、それを話そうとすると魔術が発動するのか」

「そ、そう。け、結構じょ、条件がき、厳しいみたい。つ、伝えようとするだけでい、意識を奪う」

そう! そうなんですよー! 短時間意識を失うだけで危険はないの! 三人は再び私の顔を見てきた。ぐぬぬ、とうめいている私を見て揃って頷かれるのはなんだか居たたまれない。今だけは顔にすぐ出る性質が役に立っているのだろうけど。

「解除は出来ないのか」

「……む、難しい、というかた、たぶんふ、不可能だね。ぎ、ギルさんならわ、わかるだろう?」

ラーシュさんの言葉に、ギルさんがさらに眉根を寄せた。

その通り、これは解除出来ないと思う。術者にしか解けない強力なものだ。恐らくこの魔大陸でもっとも魔力を持つ私でも無理。私の技術が足りないとかそういうレベルの話でもないのだ。

絶対的な差があるってわかる。これだけは誰にも解除出来ないんだって本能でわかってしまう。それに気付かないギルさんではないはずだ。

「このような複雑な術式は見たことがない。一体誰がこれを……?」

ルド医師もまじまじと魔術陣を観察しながら呟いた。誰が、か。

「メグは心当たりがあるのか」

「……い、言え、ない」

ギルさんに聞かれてもこれしか答えられないことが辛い。しょんぼりと肩を落としていると、ギルさんの方が謝ってきた。

「すまない、メグ。大丈夫だ。言わなくていい」

心当たりならもちろんある。夢の中の青年っていうだけじゃなく、その青年の心当たりも。

あり得ないって私の常識が否定している。でも、実際に夢渡りの術者である私の夢に入り込んで会話をし、こうして魔術も仕掛けることが出来ているんだよ? そんなことが出来るなんて、同じ夢渡りの術者しか考えられない。それも、私よりもずっと腕のいい術者ということになる。思い当たる人なんて一人しかいない。と同時に、あり得ないって。

だって、遥か昔に存在した始まりのハイエルフの一人が今も存在しているなんて、信じられる……? けれど、それしか考えられない。私の常識なんて今は忘れてしまわないと。

夢の中の青年はたぶん、始まりのハイエルフであり、初代魔王だ。うん。今はそう結論付けて考えることにしよう。

そういえば彼は「僕らのことを知っている人」に頼れ、って言った。僕らというのはたぶん、彼自身とあの声の主の二人。これだけじゃ誰のことを指すのかわからないからなんとも言えないんだけど……あの声の主にも、実は少しだけ覚えがある。夢を視た時は何がなんだかわからなかったけど。

あの声の主は、きっと暴走した魔力の声だ。一度暴走しかけた時に、何度となく苦しめられたからどこか懐かしさを感じたんだと思う。

魔王の力を受け継いだ時、膨大ぼうだいな魔力が意思を持って暴走する。その意思を持った魔力の声なんじゃないかって。

でもなぁ……彼が「僕ら」と言った意味がまだわからないんだよね。その意思を持った魔力とも知り合いなのかな? 魔力と知り合いっていうのも変な話なんだけど。

ああ、もう。誰にも何も相談が出来ないっていうのは辛いな。一人で調べなきゃいけないのかな。そう思った時、ふとあることを思い出した。

『お前は、誰だ』

『……え』

『……誰かに相談することが不可能になったら、ここへ来い』

数年前、ストレス発散のためにハイエルフのさとで魔力をぶっ放した時の会話。

あの時、シェルさんが確かにそう言っていた。まるで、今の状況を見越していたみたいな発言だよね……。青年が言っていた人も、もしかしてシェルさんのことなのかな。

そう、そうだよ。あの時すでに、シェルさんは私ではない誰かを見ていたんだ。

あれ? だとするともしかして、あの夢の青年と声の主は私の夢の中に突然現れたのではなくて。ずっと、私の中にいた……?

ゾワリと鳥肌が立つ。非現実的だと思う。けど、そう考えるのがしっくりくる。あの声が意思を持った魔力だというのなら、その説も間違いじゃないよね。そうなると青年がなぜいるのかっていうのがまたわからなくなるんだけど。

「……私、調べてくる」

しばらく黙り込んでいた私が呟いたのを聞いて、三人が私の方を見た。ここがん張りどころだ。私はギュッと自分の腕を握った。

「確証はまだないけど、気になることがあって……今は、そんな些細ささいな勘も馬鹿に出来ない気がするの」

私の決意はみんなにちゃんと伝わったと思う。ルド医師もラーシュさんも、どこか心配そうではあるけど小さく微笑んでくれたから。そして、ギルさんも。

「……わかった」

ギルさんはそう言って、椅子に座る私の前にひざをついて目を合わせた。そのまま私の両手を取って柔らかく微笑む。

「なら、帰ってきてから成人の儀だな」

「ギルさん……」

そうだ。今日は私が成人した日。本当はお祝いムードだけを味わう日だったはずなのだ。ひっきりなしにやってきている精霊たちも、途中からすごく心配そうなのが伝わってくるし、なんだか申し訳ないことしちゃったな。

帰ってからの約束。それは私をとても勇気付けてくれる。精霊たちも、帰ってから改めてお礼を言わせてもらえるかな?

「しっかりお祝いしないといけないな」

「じゅ、準備をし、しないとですね!」

ルド医師とラーシュさんもそんなふうに言ってくれている。二人とも私がなんとかするって疑ってないみたいで、なんだかくすぐったかった。

「……はい! 楽しみにしてますね!」

よし、これはますます頑張がんばらないと。甘えてばかりいられない。ちゃんと自分で動かなきゃ。だって私は今日、成人したのだから。