ヒスイはなんとも言えない顔でそれを眺める。少なくともヒスイは、自分がパーティの仲間のために心を砕き、迫りくる脅威をねのけた後で、当の本人に「余計なことするな」とキレられたら顔面をぶんなぐる自信がある。

それが本気で余計な真似だったのなら、自らにも落ち度はあるだろう。だが話を聞くに、ジル自身が支配者からの魔法を撥ねのけられるという確証はなかったのだ。

リゼルは自分が勝手に動いたのだと言うが、ならば礼を言う言わないは自由だとしても、その行いに文句までつけるのはどうかと思う。そして、それをリゼルが当然のように受け入れているのもどうかと思う。

「じゃあ今は喧嘩中?」

「いえ、それとなく機嫌をとってます」

「なんで?」

「喧嘩は前にしたので」

不思議な返答がきた。

「……その喧嘩、どうなったの?」

「落ち着くまで時間を置いて、何事もなく仲直りしました」

大人の対応だ。

だがそれで解決するのなら、なぜ今回はそうならないのかとも思う。

つまりは、ジルがそれで許す気はないということなのだろう。ただリゼルがジルに内緒で国に喧嘩を売った、だけでは説明できない何かが他にあるのかもしれない。

何かが気に入らず、リゼルに機嫌をとらせている。

「我儘なら、サルス相手に無理を通した俺のほうがよっぽどだと思いますけど」

「リゼル君はやること大きすぎて、我儘で済ませていいか分かんないんだよね」

「当日も老練家三名に甘えさせてもらいましたし」

「誰?」

「宿のおじいさま、インサイさん、インサイさんと旧知の商人の方です」

「何それえげつない」

「イレヴンにも言われました」

「だと思うよ」

「お爺さまは冒険者としての説得力が段違いですね、憧れます」

「分かる、ああなりたいよね。あと意外とばあさまもさ、現役の時は──」

二人の会話はそのまま、宿の老夫婦トークへと流れていった。


しかし翌朝、ヒスイは一人で冒険者ギルドを訪れていた。

「なんでリゼル君に怒ってるの?」

「……」

目の前のジルはわずかに眉間のしわを深めている。

怪訝けげんに思っているのか、鬱陶しく思っているのか、その両方か。

まさかのSランクと冒険者最強の邂逅かいこうに、すわ喧嘩かと周りの冒険者たちに緊張が走る。

「あ、別にリゼル君から何か頼まれてる訳じゃないから」

あっさりと告げる。

冒険者にとって、自分のところのパーティメンバーが云々うんぬん、というのはありきたりな話題の一つ。ヒスイが先日聞いた話も、言ってしまえば会話の流れで出ただけであり、相談といった意図はまったくなかっただろう。

だからこそ、気になったことを尋ねることに他意はない。

「ならほっとけ」

そして、それを拒否するのも相手の自由だった。

面倒そうに立ち去ろうとしたジルだが、その行く手を阻む者がいた。

「俺も聞いときたいなァ」

最高にたちの悪そうな顔をしたイレヴンだった。

ヒスイがギルドを訪れた際にはいなかったので、今来たばかりなのだろう。

ヒスイにとっては、パーティを組んでおきながら個別にギルドを訪れるなど、まったく理解できない行動であった。だが、援護は素直に有難ありがたいので追い返すのはやめておく。

「悪乗りすんじゃねぇよ」

「ニィサン相手に悪乗りできるチャンスなんて逃すワケねぇじゃん」

それがたとえ、いかにも「弱みをゲットしたい」という顔をした相手であってもだ。

どう見ても良好とは言い難い二人に、よくぞリゼルはこんなの二人をまとめられるものだと感心してしまう。ヒスイも自ら望んで、とは言い難いが、それでも納得してパーティのアタマを張っている身だ。

見習うべきところがあるな、と素直に思う。

「それで、リゼル君に怒ってる理由だけど」

「……」

かばってもらったんじゃないの?」

足を止め、嫌そうな顔をしているジルの一瞥いちべつもヒスイは気にしない。

冒険者最強を前に、何があっても対処が可能とうぬぼれている訳ではない。

相手が、自身の話に付き合うのが正しいのだと勘違いしている訳でもない。

ただ、リゼルから「ジルはしゃべるのを面倒くさがるんですよね」と聞いているだけだ。その結果が一匹狼の〝一刀〟という揶揄やゆなのかと、ヒスイはその話を聞いた時に頰の裏側をんで笑いを耐えた。

つまり、ただ声をかけるだけならば鬱陶しがられるだけなのだろう。

何にせよ、売ってもない喧嘩を買うような血気盛んな冒険者でないだけ話しやすかった。

「そうそう、リーダー頑張ったのに」

「知らねぇよ」

「ジャッジの爺さんにあおられて、慣れねぇ悪役ムーブまでしてたのに」

「止めろよ」

「あれはあれで俺面白かったし」

イレヴンに悪びれる様子は少しもない。

分かりやすく下品な悪役を演じるならともかく、そうでないのなら許容できるのだろう。

気持ちは分からないでもないとヒスイも内心でうなずきながら、自らもジルへの尋問に加わる。

「君のために国まで相手取ったんでしょ?」

「らしいな」

「まぁ、パーティに黙って国に喧嘩売ったリゼル君もリゼル君だけど」

「そこは気にしてねぇよ」

返答は、ひどくあっさりとしていた。

本当に、この点については問題視していないのだろう。それはそれでどうかと思うが。

「あいつにとっちゃ依頼受けるよか気楽だろ」

「国を相手取るのが?」

すごいこと言うなと、ヒスイは思わず突っ込んだ。

隣では、どうやらいろいろと心当たりがあったらしいイレヴンが半笑いになっている。

「リーダー、依頼は俺らに結構しっかり相談すんのに……」

「リゼル君もいいリーダーだよね」

ヒスイはひとまず頷いておいた。

なんか違う、という目で見られたが気にしない。ヒスイも大概マイペースだった。

「そこまで分かってて何が許せないの?」

「あ?」

話を聞いてもいまいち核心がつかめないなと、ヒスイが更に問い詰める。

だがそれには、ここまで聞いても分からないのかと言いたげなしかめっ面が返ってきた。

そしてついに、ジルから堂々とした回答が寄越よこされる。

「俺が望んでねぇ」

悪びれもせず言いきったジルに、ヒスイはリゼルへと深い同情を抱いた。

何が一番の同情ポイントかと言えば、ふと横を見て目にしたイレヴンが、ニヤニヤしながらこちらも「至極納得」という顔で頷いていたところだった。リゼルの気苦労がしのばれる。

いや、リゼルのことなので両者に楽しく付き合っているのだろうが。

「じゃあ操られたほうがマシだったってこと?」

「それはあいつが嫌がる」

「リゼル君? でもそれでリゼル君が動くのも嫌なんだ?」

「やんならもっと上手くやれっつってんだよ」

「上手くって例えば?」

「知らねぇ」

言うに事欠いてこれだ。

リゼルが嫌なことを許容しろと言うつもりはない。だが自分が嫌がることをリゼルがするのは気に入らない。挙句の果てに、なんの根拠もなく「もっと上手くやれ」と言い切ってみせる。

これも冒険者最強と名高い一刀ゆえの傲慢ごうまん、と言えるのだろうか。ジルは基本的に自らの力を他者に振りかざすことはなく、孤高であったがゆえに、それらの片鱗へんりんを見せることもなかったように思える。

それが、自分の意見は疑問も挟まずめ、と言わんばかりだ。

「これ、君のパーティメンバーだけど」

「別に変なこと言ってねぇじゃん」

駄目押しのようにイレヴンにも同意されてしまった。

「まぁ、ニィサンはリーダーに甘やかされまくってっからなァ」

「てめぇに言われたくねぇよ」

「俺はいい子にしてんじゃん」

「この前似たような理由でキレただろうが」

「あれはリーダーがわりィし」

こんな理不尽なキレ方を既にされていたのか、とヒスイは宿の方角を眺める。

今のような早朝、ジルとイレヴンと行動を共にしていないのなら、恐らくリゼルはまだ宿で夢の中だ。夢の中では健やかであれ、と願ってしまうのも仕方のないことだろう。

それにしても、似たような理由というのが全く想像できなかった。

なにせジルを怒らせた原因というのが、国の上層部に対し、国を代表する魔法使いである異形いぎょうの支配者へのクレームを入れたからだという。もとい、それらをジルに黙って行ったからだった。

まさか、これと全く同じ規模のいざこざが直近ちょっきんであったとは考えづらい。

「似たような理由って?」

ヒスイは素直に聞いてみた。

「俺が嫌がる方法でサルスの爆発回避した」

「は?」

いろいろな意味で理解ができなかった。

「あれだって爆発してたらてめぇ死んでんだぞ」

「知らね、俺はハブられたほうがヤだった」

「てめぇは機嫌とらせといて俺をつつくんじゃねぇっつってんだよ」

「それはそれじゃん」

「どれだよ」

「ニィサンはそういうんじゃないじゃん」

「あ?」

「俺は駄々こねても可愛いもんだし」

「あいつがチクられたくねぇヤツにチクっといて何言ってんだ」

「許してる癖に機嫌とらせてるニィサンのがタチ悪いと思いまーす」

「最悪の手ぇ使ったてめぇよりマシだろ」

ヒスイは、イレヴンとは反対隣を向いてみた。

そこにはクァトがいた。いつの間にかギルドを訪れ、見知った顔が集まっているのを見つけ、なんとなくのこのこと近寄ってみたのが運の尽きだったようだ。

二人の会話に何かを思っているのか、遠い目をして立ち尽くしている。

「君さ」

「ん」

声をかければ、身構えることなく応じられた。

ヒスイはクァトのことを以前から認識している。どうやらリゼルと仲がいいらしいという点、そのくせ何故かパーティを組んでいないという点、にもかかわらず度々一緒に依頼に向かうという点、更には低ランクながら相当な実力を持っているだろう点などが目についたからだ。

だが、真っすぐに見返してくる鈍色にびいろの瞳は、初対面の相手を見るようだった。

低ランク帯の冒険者が、Sランクの冒険者を見る目ではない。それに少しばかり気分を良くしながら、真っすぐにこちらを見つめてくる相手へと問いかける。

「君もこんな感じなの?」

「ち、違う……」

必死の否定に、ジルたちが会話を止めて無言でクァトを見ていた。

「リゼル君と仲いいんでしょ?」

「仲は、んん、いい」

「リゼル君こういう、取り扱い注意みたいなの好きみたいだし」

「お前、仲良くない?」

「仲いいよ。ああ、そうか、でも僕はこんなじゃないし」

「俺も、こんなじゃない」

「ふぅん」

ヒスイはそれだけを告げ、実は気になっていたことを聞いてみた。

「その喋り方、なんでって聞いていい?」

「出身が、すごく秘境」

「あ、成程なるほど

大した理由もない質問には、この上なく納得のできる返答があった。


あの後、ジルとイレヴンは何とも言えないような顔をして散っていった。

ヒスイはギルドで依頼を眺めながら、なんとも意外なジルとイレヴンの姿が見られたなと、今更ながら新鮮に思えてきた。何故今になってかというと、先程まではリゼルへの同情が先立っていたので。

あの二人の、ああいった一面が見られたのも、リゼルの影響なのは間違いないだろう。

見られていいものだったのかとは思うも、あれらは特定の相手にしか向けられず、その特定の相手ことリゼルが、それを良しとしているのだから問題はないはずだ。恐らく。

「何、受ける?」

ふいに、隣から声をかけられた。

先程からの流れで、自然と一緒に依頼ボードを眺めているクァトだ。

「なんで?」

「え」

問い返せば、予想外の返答を食らったとばかりに目を丸くする姿があった。

ならば、ただの雑談のつもりだったのだろう。なんとなく気になった、その程度だ。

「別に、今日受けるつもりはないけど」

「ふぅん」

「君は?」

「俺は、受ける。んん、受けたい」

クァトの鈍色の瞳は、悩むようにあちこちの依頼用紙を泳いでいた。

より条件の良い依頼を探している、という訳ではないのだろう。優柔不断というタイプでもなさそうだ。ならば、受けたい依頼がないということでもない。

それは外食に喜ぶ子供が、メニュー表のあらゆる料理に目移りしている姿にも似ていた。

「(ああ)」

ヒスイは納得と共に、密かに頰を緩ませた。

クァトはまだ、冒険者として駆け出しなのだろう。ヒスイにも覚えがある。

ヒスイは冒険者自体に憧れた訳ではないが(そもそも冒険者に憧れを持つ者など少数派だが)、それでも確かに望んでギルド入りしたのだ。自身を救い上げてくれた、今は引退してしまった、けれどヒスイにとってはいつまでも「リーダー」と「姉さん」である二人を追いかけて。

二人との冒険はいつでも楽しかったが、それでも駆け出し時代のことはよく覚えている。

やること成すこと全てが新鮮で、自分が知る世界とはまったく違った経験に心躍らされた。

目の前のことに必死で、死に物狂いだった。楽しいことと同じくらい、苦しいこともたくさんあったが、思い返せば目がくらむほどの鮮烈な思い出ばかりが今も胸をつく。

その経験の最中に、今のクァトはいるのだろう。

ヒスイには、経験を重ねた冒険者には、もう戻れないあの鮮やかな日々にいる。

「上位が新人をパーティに入れるの、こういうのもあるのかも」

「?」

「ううん、なんでも」

何か言ったかと振り返ったクァトに、ヒスイは常の、少し不貞腐ふてくされたような顔で首を振る。

「新人狩りにもお綺麗きれいな理由があるのかも、とか考えただけ」

「しんじんがり」

「有能な新人を自分たちのパーティに入れること」

物騒な単語に戦慄わななくクァトに、ヒスイは説明を付け足してやる。

上位ランクは、そもそもパーティとして安定しているので、そうそうあることではない。

だがメンバーが増えて減ってを繰り返すパーティも、決して珍しくはないのだ。その途中で、自分たちに足りない戦力を補おうと将来有望な駆け出しを迎え入れることもある。

「有能?」

「うん」

「どういう、有能? 実力?」

「ああ、そういうこと。流石さすがに最初っから上位中位の実力は求めないよ」

「ふぅん」

「そんな駆け出し滅多めったにいないから。君は例外」

「え」

例外とは、そう目を丸くするクァトにヒスイも眉を寄せる。

まさか己の実力に無自覚なのだろうか。いや、サルスで何度か他のパーティに同行する姿を見ている。他者と比較する機会がまったくない、という訳でもないだろうに。

そしてヒスイは、とある穏やかな微笑みを思い出した。

「……君に、一番最初に戦い方教えたのって」

「あの、黒い……冒険者最強、一刀、んん、ジル?」

「ああ……」

いろいろと納得した。

「でも、ちゃんと戦った、最初は、赤い獣人、あいつ」

「なんか刺々とげとげしくない?」

「目、潰された、るし、わなめる、性格が悪い」

「へぇ……」

なんか物騒だな、とヒスイは思ったが頷くだけで終わらせた。

目を潰し潰された両者が、よく一緒に行動できるなと思わないでもない。

リゼルのフォローがよほど上手く機能しているのか、それともイレヴンとクァト両者の気質が一般的なものとズレているのか。両方ありそうだなと、ヒスイは根拠のない自信をもって結論づける。

「実力と、違う、有能?」

「うん」

続きを流され、話を戻した。

「その時の実力じゃなくて、こいつ伸びるなっていう将来性っていうのかな」

「それ、分かる?」

「少しはね。大抵、昔の自分に似てるってだけだけど」

だがそれを、冒険者として大成している上位冒険者が言うのだ。

そもそも冒険者というのは、誰に教育を受けてなるものでもない。身もふたもない言い方をすれば、気合と根性と負けん気で成り上がるしかない職もどきでしかない。

ならば、気質が似ているというだけで一つの説得力にはなる。

「まぁ駆け出しとはいえ冒険者だし、素直に従順に経験者から教わろうなんていう人間もいないしね。気質が似すぎて大喧嘩、ご破算に、なんてこともかなり多いらしいけど」

「違うほうが、いい?」

「君たちがそうじゃない? リゼル君たち、互いに違いすぎて衝突起きないでしょ」

「あ、んん、そう」

クァトは一瞬だけ何かを考え、深く頷いた。

とはいえ先程、そんなソロプレイヤーたちの似通った点を目の当たりにしたのだが。

あそこがズレると、パーティすら組めなくなりそうなのでそれでいいのかもしれない。

「お前の、パーティは?」

「うちはほどほどだと思うけど。君たちほど極端に違くないし、険悪になるほどに似てもいないし。ああ、でも利害関係でつるんでるほうかな。プライベートではつるまないし」

もちろん宿では同室だし、普通に仲はいいが、冒険者活動に関していえばそうだろう。

パーティの共通認識として、冒険者活動は金を稼ぐための手段だと見なしている。

もちろん依頼料だけで依頼を選ぶ訳ではないし、依頼が長期にわたろうがまったく気にならない。どんな遊びよりも冒険者活動をすることに魅力を感じるので、趣味を仕事にしていると言い換えてもいいかもしれない。

そう、仕事だ。胸を張れるような職ではないが、性には酷く合っている。

よって、えてヒスイの仲間たちの関係を言うのなら「気の合う同僚」だろうか。

「リーダーと姉さんは別だったけど」

「誰?」

「同じパーティを組んでた二人。もう引退してる」

「ふぅん」

さして興味をかれなかったのか、返ってきたのは相槌あいづちひとつだけだった。

確かに他パーティの、今はいない冒険者なんて興味ないかと、ヒスイも気にせず口を開く。

「君は勧誘なかったの?」

「なかった」

「意外な気もするけど」

「依頼、一緒に受けたい時、驚かれる」

「なんで?」

「『お前、助教授さんはいいっつってんのか!?』って」

他者の台詞せりふを真似る時のみ、やけに発音が流暢りゅうちょうだった。

面白いなと思いつつ、酷く納得する。確かに、他の冒険者が驚くのも無理はないだろう。

ヒスイとていまだに、何故クァトがリゼルたちと組んでいないのか理解できない。

「ソロ希望とかじゃないんだ」

「ソロも、楽しい。組むのも、楽しい」

「僕ソロやったことないんだよね」

「S、なのに?」

ヒスイは、ふと言葉を切った。

「知ってたんだ?」

「何を?」

「僕がSだってこと」

「聞いた」

誰からだろうか。誰からでも、特に驚きはないが。

それこそ他の冒険者に聞いたのかもしれない。今のサルスにはSランクがいる、緑髪の弓使いがそうだ、なんて聞けばヒスイがそうだと結びつけるのは容易だろう。

恐らくリゼルではない。彼が紹介するなら「ヒスイさんですよ」のひと言で済みそうだからだ。

意外に思ったのは、Sランクが相手だと知りながらこうして雑談に興じていることだった。

「?」

何か駄目だったかと、不思議そうな眼がこちらを見ている。

「今日、依頼受けるなら組もうか。暇だし」

「組む」

なんてことなさそうに即答された。

ヒスイの提案にざわついた周囲のことなど、微塵みじんも疑問に思っていないようだった。

ヒスイは思わず笑う。目の前の男から、とある冒険者の面影を強く感じたからだ。

「君がリゼル君のパーティだって勘違いされるの、よく分かるよ」

「え」

初めて戦い方を教えたのが一刀ならば、冒険者という存在を教えたのはリゼルなのだろう。

クァトの憧れた冒険者観は、きっとリゼルが持っているのと同種のものだ。

それすなわち一刀……と、言いきっていいのかはヒスイには分からないが。リゼルはヒスイに対しても、冒険者への憧れ(というより妙なロマン)というものをのぞかせることがある。

「何受ける?」

「んん、討伐とうばつ、迷宮?」

「弓と連携とったことある?」

「ない」

「じゃあ流石に無理かな。迷宮内だと特に立ち回り難しいし、僕が」

「なら、これ」

クァトが手に取ったのは、Dランクの【緑色ハイエナの群れの討伐】だった。

街道に現れた群れを討伐するというものだ。無難で分かりやすく、地雷である心配も少ない。

ヒスイが了承を返せば、クァトは意気揚々と依頼カウンターへと向かっていった。

「(そういえば、得物持ってないな)」

拳一筋なのだろうかと、ヒスイは暇つぶしのようにそんなことを考えていた。


結局のところ、リゼルの身内が一筋縄でいくような相手であるはずなく。

さてどう依頼を達成するか、という段階で全身から刃物を覗かせてみせたクァトに、ヒスイは若干引いた。ヒスイは群島に行ったことがないので、戦奴隷ソードダンサーの存在などまったく知らなかったからだ。

だが、伊達だてにあらゆる経験を積んだSランクではない。更には「迷宮だから仕方ない」という法則にどっぷりと染まった冒険者特有の、なるようになれという適応力の高さに物を言わせた結果───、

「牙が通らないならちょうどいいや。おとりやってくれる?」

!?

即座に最適解を弾きだしてみせた。

いくら殲滅せんめつ力に長けた戦奴隷といえども、獣型の魔物を相手に走力で勝てるはずはない。よって獲物の群れを一匹残らず誘い出し、全力で街道を走るクァトは、追いつかれる度に鋭い牙に噛みつかれる羽目となる。痛くはないくせに「痛っ」と言ってしまうくらいの衝撃はあるらしい。

一方ヒスイはそれを眺め、一匹ずつ丁寧に緑色ハイエナを射抜いていった。


尚、依頼料の分配についてだが。

「僕が仕留めたから報酬多めでいい?」

「お、俺のほうが頑張った……!」

厳正な話し合いのもと折半せっぱんとなった。

たとえ相手の頑張りを認めていようが、とりあえず多め多めに報酬を主張するのが冒険者の常だ。正直ヒスイにとっては、クァト程度の交渉力などでもないが、駆け出し相手だからと手心を加えてやった結果だった。